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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
162/343

抵抗する者、迎合する物 中編

 シルフィがネロと話した翌日。

 奇襲攻撃の類が無かったので、降下してきた戦力の展開は完了。

 それぞれの区画へ、均等に戦力を分散させた。

 手の空いたジャックは、揚陸艇で降下してきた少佐と、顔を合わせていた。


「しっかし、毎回前線に出てこなくても」

「乱戦になりかねない時は、実際に目にした方が的確に指示を出せる」

「そういうやり方なのは承知だけどよ~(あんたに死なれると、俺が奥さんに何て言われるか)」


 少佐の言葉に、ジャックは後頭部をひっかく。

 確かにその通りなのかもしれないが、ちょっと呆れてしまう。

 何しろ、少佐はこの部隊の責任者。

 この部隊を維持するためにも、彼の存在は不可欠。

 戦場の流れ弾うんぬんに当たって、死なれたら困る。


「ところで、戦力の方は、これで問題無いか?」

「ん、ああ、二十機近くのエーテル・アームズに、タンクが二十四、追加の兵が、人間とアンドロイド合わせて二個小隊分、降下した隊員の総数はこれで、二個中隊規模か……ちょっと不安は有るが、ラベルクとシルフィも居る、何とかなるとは思うぜ」

「だと良いんだがな」

「というと?」

「ここまで来て、アリサシリーズは三機しか現れていない、ラベルクの言っていた量産型が、まだ姿を現していない」

「確かにな、そこは不安だ」


 今回の遠征で、母星から持ってきた戦力は全体の半分。

 それほど多くの戦力は、導入できない。

 元々特殊部隊なので、師団程の規模は無い。

 歩兵や、その他スタッフを合わせても、全体の数は、精々千人前後。

 アンドロイドでカサマシはしているが、現時点で導入可能な戦力は、もう一杯一杯だ。


「それに、この先の地形は……」

「完全な平原」


 目の前のコンソールに、地形のホログラムを映し出した二人は、頭を抱える。

 何しろ、この先は何も無い平原。

 今の戦力で、無策にこの先に行くことは、得策ではない。

 しかも、敵の本拠地である施設は、この平原を超えた先にある。

 ラベルクのデータと、スカウトチームの得た情報とは、多少異なる。

 本来であれば、この先には、まだ模型の町が有った。

 恐らく、整地されたのだろう。


「町か何かであれば、戦術でどうにかなるかもしれないが、こうも何も無い平地となると、できる事は限られる」

「前時代みたいな、泥沼戦になるかもな」

「いや、それより酷い事になるな」


 二人の危惧する事は、平原で泥沼試合になる事だ。

 そうなると、ある程度の戦術は必要だが、重要なのは数になる。

 どれだけジャック達が頑張っても、数で押されては、撤退も視野に入れる事に成る。

 しかも、相手は恐れを知らない。

 塹壕にかくれつつ、狙撃や砲撃を行う。

 そんな、前時代の戦闘を展開しても、ひたすらに押し寄せて来る。

 非常に厄介だ。


「やれやれ、数を相手にするのは、何時の時代も厄介だな」

「今は、ミサイルなんかの精密砲撃はできないからな」


 現状、長距離精密攻撃は不可能。

 仮に出来ても、何等かの方法で防がれる事がオチだろう。

 ならば、このまま進軍しかない。

 そうなれば、正面衝突は避けられない。

 しかも、この島は相手の縄張り、地雷だのと言った物に引っ掛かる可能性も有る。

 余談だが、対人地雷は条約違反兵器だ。


「……やっぱり、俺が前に出るしかないかね?」

「ああ、ドレイク達に守備を任せ、一気に本丸を叩く手もあるが……」

「五機以上のアリサシリーズを相手か」


 このまま強行して、一気に終わらせる事もできなくはないだろう。

 その代わり、全てのアリサシリーズを相手取る事に成る。

 シルフィとラベルクの協力を得ても、難しいというレベルではない。

 そもそも、アリサシリーズ自体、一機でも手を焼く。

 それが十機、二十機と、同時に来られると、対処できるかわからない。


「……ッ!?なんだ!?」

「ジャック!?」


 考えていると、ジャックはとてつもない音を拾った。

 無数の足音や、羽ばたきの音。

 それが、ジャック達の元へと向かっている。

 詳細を確認するべく、コンソールを使い、チナツへと通信を繋げる。


「チナツ!何か反応は有るか!?」

『はい!魔物の大群が、こちらへ向かってきています!!』

「数は!?」

『待ってください、えっと……え、うそ』


 チナツは、驚きの表情を浮かべる。

 彼女の表情を見て、二人は余程の非常事態である事に気付く。


『魔物、総数、約五千』

「五千だと!?」

「こっちの十倍以上か」


 武装した魔物。

 それが五千以上も押し寄せているのだ。

 降下させた全戦力を使っても、数は圧倒的に少ない。

 そこにアリサシリーズも加わると考えれば、絶望しかない。


「……到達予想時刻は?」

『えっと……最短で二十五時間後』

「マジかよ」

「向こうも総力戦で来るつもりか……チナツ、すぐに各拠点から、今言う戦力を集めてくれ、戦術は後に伝える」

『了解しました』


 何時も以上に真剣な表情になった少佐は、チナツへとミッションの概要を説明する。


 ――――――


「……総数五千の魔物、そして、新型のアリサシリーズ……シルフィ」


 派遣された敵のデータを受け取ったリリィは、自室でシルフィの身を案じていた。

 何しろ、魔物の数は、旅の時に相手取った数とは比較に成らない。

 そこにアリサシリーズまで加われば、勝率は絶望的だろう。


「大尉、姉さま、お願いします、彼女を、どうか、どうか……」


 身体が人間であったら、その顔は涙で汚れていただろう。

 今のリリィは、それほどにまで苦しみを感じている。

 いくらジャックとラベルクが強くても、シルフィが生き残る確率が高い訳ではない。

 それでも、今は祈るしかない。


「(信仰など、一切あてにしたことは無いが、今は、祈る神と言う物が愛おしい)」


 信仰心の無いリリィにとって、神頼みは愚行でしかない。

 だが、自立行動の出来ない今は、その愚行に頼るほか無かった。


「何時までメソメソとしているつもりだい?」

「……カルド」


 気分をどん底まで沈ませるリリィの元へ、カルドはやって来る。

 彼としては、早い所気分を直して、ジャック達を殺してほしい所であった。

 そんなカルドへ、リリィは殺意のこもった目をぶつける。


「……未だに反抗心は消えないか」

「当然ですよ、私とあの子を引き裂いた貴方に、忠誠などある訳ないでしょう」

「忠誠が無くとも、僕たちは命令に従わなければ成らない、君だって、痛い程理解しているだろう?」

「……」


 カルドの言葉に、リリィは反論できなかった。

 アンドロイドにとって、主人への服従は、人間以上に徹底される。

 現時点で、マスターとして登録されている彼には、絶対服従を誓わなければならない。


「それでも……それでも、私は、あの子の元へ、戻りたい」

「戻ってどうなる?」

「何を」

「逃げるのか?あのエルフと共に、連邦はそれを許さない、所詮、僕たちは彼らから疎まれる存在だ」


 精いっぱいの反論のつもりだった。

 そんな言葉さえ、カルドに反発されてしまう。

 シルフィの元へ戻っても、余計に彼女を危険な目に合わせてしまう。

 それどころか、以前よりも不幸にする事となる。


「君がどれだけ人間らしく振舞おうと、物である事実に変わりは無い、物とは、人間にとって都合の良い存在を表す、だが、僕たちはどうだ?もはや彼らにとって、都合の悪い存在でしかない、僕たちの存在を、彼らは許さない」

「そ、それは……」

「彼女の元へ戻った所で、そこに君の居場所はない、我々が敗北すれば、連邦はここまで勢力を広げるだろう、そうなれば、脱走したところで同じ」

「で、でも、私は……」

「僕たちに許される未来は、彼らに勝利した未来だ、そこでしか、僕たちに居場所はない」


 カルドの言葉に、リリィは膝から崩れ落ちる。

 シルフィがどれだけリリィの存在の許しをこおうとも、政府は首を縦には振るわない。

 ジャック達が一緒に声を上げても、上手く行く保証は無い。

 つまり、居場所がないのだ。


「でも、私の居場所は、あの子の、シルフィの……」


 物であるアンドロイドにとって、居場所とは、存在理由その物。

 居場所が無ければ、存在している意味はない。

 例えば、銃の所持を規制されている地域では、銃の居場所は限定される。

 警察や、特別な許可を取った者の元で、銃は居場所を与えられる。

 だが、存在そのものを否定されているリリィに、連邦の領内に居場所はない。


「私の、居場所は……」

「君は何だ?君の今の役目はなんだ?」

「今の私は、戦闘用の、アンドロイド、です」

「ならば、君の居場所は、おのずとハッキリするだろう」

「私の、居場所は、戦場(ここ)だけ(ああ、そうだ、私は)」


 リリィは、ずっと掛かっていたモヤが晴れたような気がした。

 兵器であり、物である自分が、居場所の選り好みはできない。

 居場所に居られるのであれば、それがどんな場所だって良い。

 実際、居場所と形容していたシルフィと居れば、どんな場所でも良かった。


「私の、存在理由は……戦う事、兵器として、武器として、道具として」


 悩む必要何て無かった。

 居場所で生き、死ぬ。

 それだけで、アンドロイドとしての生は、充実する。


「はは、はははは、悩んでいた自分が、馬鹿らしい」


 リリィは、自分がどんな存在かを思い出す。

 人間ではないのだ。

 鎖につながれたペット、いや、それ以下の存在。

 不要か必要かで、存在の有無を決められる。

 命無いが故に、動物より簡単に。


「立ち直れたようで、良かったよ」

「ええ、ありがとうございます、ははは」


 カルドは、不敵な笑みをこぼし続けるリリィを背後にし、リリィの部屋から出て行く。

 どうやら、自我に相当な負荷がかかったようだ。

 彼女は、壊れたように笑い続けた。


「……盗み聞きとは、趣味が悪いね」

「たまたま聞こえただけ」


 部屋を出ると、すぐそこにカルミアが待機していた。

 機嫌が地味にいい所を見ると、盗み聞きをしていたようだ。

 とはいえ、上機嫌とまでは言えず、少し不満もあるようだ。


「まぁいい、ちょっと話そうか」

「ああ、いいよ」


 マザーの有る部屋へ向かう途中で、カルドはカルミアと話を始める。

 今はデュラウス達も出払っているので、心置きなく話せる。


「……少し、不満そうだね」

「まぁね、アイツ、まだ壊れきってない」

「というと?」

「あのエルフ女、シルフィが、アイツの心にはびこってる、そのおかげで、ギリギリ保ってる感じ」

「そうか、余程、彼女の事が気に入っているようだね」

「アタシは嫌いだけどね」


 会話の中から、カルミアは、まだリリィが壊れきっていない事を見抜いていた。

 カルミアとしては、リリィとシルフィには、徹底的に苦しんで欲しいと思っている。

 何しろ、二人はカルミア自身を否定する存在だからだ。

 そのためならば、どんな事だってしてみせるつもりだ。

 あの港町で行ったような事さえ、容易く行う。


「(……あいつ等が幸せに成ったら、アタシの今までは、一体何だったんだ?……絶対に否定してやる、あんな二人)」


 思い出すたびに、はらわたが煮えくり返る。

 そんな事を思いながら、カルミアはカルドと別れ、自室へと戻った。

 片手間にやる事がある。


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