雷鳴 後編
各地での戦闘終了後。
三馬鹿は、戦場から離脱し、合流していた。
イベリスとヘリアンは、先に合流し、イベリスの修復作業を開始する。
「くっつける」
「お願いします」
合流ポイントに置かれていた補給物資を使い、ヘリアンはイベリスを修復。
腕部を大きく切断されたので、丁度いいサイズの腕を制作し、取り付けた。
本来、こういった整備は必要ないが、自然修復を待っていると、時間がかかる。
なので、今回はスペアを用いて、修復を行った。
「ありがとうございます、これで何とか戦えますわ」
「気を付けて欲しい、ラベルクは旧タイプでも、私達より、戦闘力は上」
「ええ、見くびっていましたわ」
「それと、そこに代えの装備が有る」
ヘリアンの指さした方には、三人の使用する装備の予備が置かれている。
デュラウスに先んじて、二人は改めて装備を整えだす。
イベリスは、先ほどと同じ物を。
ヘリアンは、コンセプト通りにスナイパーライフルを持ち出す。
「(うん、良い状態)」
「あら?何か近づいて……」
スナイパーライフルの点検を行うヘリアンの横で、イベリスは何かの接近を感知。
その言葉を聞いたヘリアンは、急いで索敵を開始。
だが、反応が友軍機で有る事を確認すると、すぐに武装を解除。
「ウワアアア!!」
「デュラウス……」
「い、一体どうしたの!?」
「うるさい!うるさい!うるさい!!」
顔を両手で覆いながら、全力疾走してきたデュラウスは、合流してすぐに地面に突撃。
地面でゴロゴロと転がり、恥ずかしさを全力で誤魔化している。
「如何した?そんな求愛したら、鋭いカウンター返された、みたいな感じに成って」
「てめぇ!見てやがったのか!!?」
「見てない、殺したいほど、愛してる、何て言った後、好きだよって言われて、カウンターされた場面なんて、見てない」
「ガッツリ見てんだろが!むっつりクソ女!!」
「むっつりじゃない」
「(愛してる?何の話ですの?)」
ヘリアンの言葉に、デュラウスは食い掛る。
尚、ヘリアンは見ていないと言っているが、思いっきり見ていた。
シルフィに告白し、動揺する様を見ようとした結果、逆にカウンターをくらってしまった。
一先ず、彼女の名誉を守るためにも、イベリスには話してはいない。
「そもそも、何であのタイミング?」
「別に良いだろ、恰好つけてもよぉ」
「あの、何のお話でして?」
「別に、単純にデュラウスが、シルフィにこくは」
「アアアアア!!!」
「(告白?今、告白と言いかけまして?)」
特に何の情報も無いイベリスからしてみれば、何の話か解らず、置いて行かれてしまっていた。
そんな彼女に、情報を開示しようとするヘリアンだったが、デュラウスはすぐに止めた。
だが、こくは、と言いかけたせいで、イベリスは何の話をしていたか察してしまう。
「デュラウス」
「な、何だよ」
「あんな女の何処が良くって?」
「ダアア!うっせんだよ!てめぇまで!!」
シルフィに告白。
この事に関して、イベリスは否定的だった。
何しろ、イベリスは内心、シルフィの事を嫌っている。
半ばとばっちりで、廃棄されたイベリスの人間嫌いは深刻。
特に、シルフィのように都合の良い人間は、嫌悪の対象でもあった。
「まぁそれはそれとして、告白を否定するとは、意外とヘタレですわね」
「やーい、ヘタレ女~」
「うっせぇ!!つーかヘリアン!てめぇどんだけガキっぽいおちょくり方してんだ!?」
イベリスの放った悪口に便乗したヘリアンだったが、かなり子供っぽい物。
語彙力は有る方だと思っていたデュラウスにとって、少し以外な印象をうける。
しかし、ヘリアンとしては、少し腑に落ちなかったらしい。
「……えっと、へ、ヘタレ~、あ、あんぽんた~ん」
「下手か!?口喧嘩下手か!?」
「今どき、あんぽんたん何て言う方、初めて見ましたわ」
ヘリアンの口喧嘩下手という、どうでも良い事が発覚。
だが、そこに目を付けたデュラウスは、これ幸いと反撃に転ずる。
それに、ヘリアンには前々から気になる部分が有った。
「つーか、ヘリアン、てめぇ実は嫉妬してんじゃねぇの?俺に先超されてよ~」
「……別に」
「そーかそーかぁ、羨ましいか~」
「うるさい」
「プ、ククク、お姉ちゃんに先超されたのが、そんなに悔しいか~」
「だから、先に告白されたからって、別に気にしてない、それに、私はあの子と友人になりたいだけ、恋人になりたいわけじゃない」
ヘリアンの反論に、デュラウスはにやける。
そんなデュラウスの反応を見て、ヘリアンは、はっと成る。
悔しい事に、ヘリアンは墓穴を掘ってしまった。
「何?俺別に告白の事だなんて言ってないけど、俺が先にシルフィと戦って、嫉妬してんじゃねぇか?って聞いてるだけだぜ~」
「……」
「ちょ!ヘリアン!」
完全に小馬鹿にしてくるデュラウスへ、ヘリアンはナイフを向ける。
目がマジなので、イベリスはヘリアンを抑え込む。
「ステイ!ステイですわ!って、貴女意外と出力高いですわね!!」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロス」
「怖!無表情なのがなおさら怖!!」
襲い掛かろうとしてくるヘリアンを見て、デュラウスは完全に腰を抜かす。
何しろ、無表情でコロスと連呼しているのだ。
しかも、手にはナイフ、体格もヘリアンの方が高いので、余計に怖く感じる。
ヘリアンを抑え込むイベリスも、意外と高いヘリアンの義体出力に、手を焼いてしまう。
何とかヘリアンの気を紛らわせようと、デュラウスは思考を巡らせ、ダメ元で手もとに有った物をヘリアンに向ける。
「ほ、ほら、ヘリアン!補給物資の中にようかん有ったぞ!」
「そんな物で機嫌獲れる訳有りませんわ!!」
デュラウスの奇行に、イベリスは思わずツッコミを入れてしまう。
正直、デュラウス自身も、何故こんな事をしたのか解らなかった。
ただ手元に有ったものを向けただけだ。
そして、ようかんをつき出されたヘリアンは、イベリスの手から逃れる。
「あ、ちょ、悪かったって!!」
デュラウスは、思わず身構える。
だが、何時まで待っても、ヘリアンの凶刃は、デュラウスに来ることは無かった。
恐る恐る、ヘリアンの方を向くと、そこには座り込んでいる彼女の姿が有った。
「ようかん、おいしい」
「(え~)」
「(え~)」
完全に和みながらようかんを食べるヘリアンに、二人は呆気にとられる。
さっきまで完全にサイコキラーの如く、無表情で襲い掛かっていたヘリアン。
それが今や、縁側でくつろぐ老人の如く表情で、ようかんを食べている。
感情の起伏が激しいとか、そんな感じではない。
「い、以外だな、アイツ、ようかん好きなのか」
「わ、分かっていて渡したのではなくて?」
「いや、完全に偶然」
「悪運、お強いのですね」
「そうでもねぇよ」
心なしか、二人の目には、ヘリアンの周りだけ、日向ぼっこに最適な日の縁側に見えてしまう。
そんな風に思えてしまう程、ヘリアンは美味しそうにようかんを食べていた。
「……とりあえず、新しいランス、使わせてもらうか」
「わ、わたくしも、装備のスペアを」
ヘリアンの事は、とりあえず放っておき、二人は装備を整えだす。
何とも美味しそうにようかんを食べるヘリアンを他所に。
「おいし」
――――――
その頃。
カルドとカルミアは、とある部屋へと足を運んでいた。
「経過は如何だい?」
「ばっちり、もう動かせるよ」
二人の入った部屋。
そこの電灯をつけた瞬間、二人の目には、複数のアンドロイド機体が目に留まる。
綺麗に並び、マネキンのように直立不動を崩さない彼女達。
それを見て、カルドは少し微笑む。
「AS-104『アキレア』三十機ロールアウトしたよ」
「上出来だよ、カルミア、流石と言った具合だ」
アキレア達は、前々からカルミアが設計していた量産機。
アリサシリーズの流れをくみ、リリィや、この島での戦闘データを反映させたモデルだ。
カルミア達のように、豊かな感情は持ち合わせていない。
単純に、戦う為だけのアンドロイド。
それが彼女達だ。
「装備はそろってるかい?」
「当然、量産用にデチューンした奴を生産、主兵装はエーテル・ハルバード、副兵装は、高周波ブレード」
「エーテル・ギア」
「名称は『セリス』、汎用性、拡張性に優れた奴にカスタムしておいた」
今の彼女達の装備を、カルミアは次々説明する。
彼女達には、特定の外観と言う物はない。
マネキンのように無個性な義体。
その上に、スーツとエーテル・ギア、ヘルメットを装着している。
全て同じ外観の為、見分けは胸部の番号位だ。
もしくは、それぞれに割り振られた識別信号。
「さて、威力偵察はここまで、此処からは、本当の戦争だよ、ストレンジャーズ」




