雷鳴 中編
空軍基地で、ネロから剣術を教わっていた頃。
単純に打ち合いをしていただけでなく、ジャックとリリィの使う剣術を、ネロから教わっていた。
桜我流、ジャック曰く、初代スレイヤーの使用していた流派、との事。
鬼人拳法・悪鬼羅刹の応用技で、向上した力を推力として使用する技の数々。
その目的は、技に型をもたらす事で、威力の底上げ等を行うという物。
「桜我流剣術・炎落とし!」
そんな叫びと共に、シルフィは刀を振り下ろす。
一応は適性を持っている炎。
これを天によって再現し、鈍い銀色の炎を出そうと試みる。
だが、刀から出た炎は、ほんのわずかな物。
振り切る途中で、炎は消えてしまう。
「また、失敗」
「ああ、まだ動きにブレが有る、それから、小手先だけで振っている、足の動きもバラバラだ」
もう何十回と試しているが、一度も成功しない。
これは、射撃などとは違い、下手でも数撃てば当たる理論は通じない。
魔力のちみつな操作、刀の振り方、体の動き。
これらが正しくなければ、炎等は出ず、威力も死んでしまう。
だが、裏を返せば、正しい型であれば、独自の型を編み出す事もできる。
そのうえ、アンドロイドだって使用できる。
「やはり、剣の扱いが雑だな、ジェニーから何を教わった?」
「え、えっと、マチェットの使い方とか、近接格闘術とか」
「それを教わって何故できない」
「なんか、教え方が良く解らなくて」
「……そうだったな」
シルフィの言葉を聞いて、ネロは思い出す。
ジェニーは、覚えるのは早いが、教える事が苦手なタイプ。
基本的に、コツさえ覚えれば、感覚などで上達する。
だが、身体の感覚だけで覚えるので、教える事が苦手なのだ。
なので、訓練時はできていなかったのに、実戦を経験したら、急にできるように成る。
という事は、ちょくちょく有った。
「(何時もなら、言い訳をするな、と言いたい所だが、アイツの教え方は酷い物だったな)」
以前ネロは、何度かジェニーと一緒に教官を行った事も有る。
その時に聞いた、彼女の教え方。
それはとても酷い。
教え方と言うのは、十人十色、基本的に被る事は滅多に無い。
彼女の場合、厳しい教え方ではなく、要点があやふやで、感覚で覚えろ、と言う具合だった。
「……」
「ね、ネロさん?」
「よし!」
「はい!」
「一から剣術を叩きこむ!覚悟しておけ!!」
「は、はい!!」
という事で、ネロからスパルタ教育をほどこされ、いくらかマシにはなった。
――――――
デュラウスの技を見て、シルフィは基地での訓練を思い出していた。
その時に教わったのは、付与する属性に応じて、身体強化の一部が強化されるという事。
ジャックのように、炎であれば、攻撃力。
デュラウスのように、雷であれば、スピード。
つまり、雷を扱うデュラウスにとって、大振り武器のデメリットは、関係ないと言える。
「(いや、今はそんな事どうだっていい、戦場なのに、鬼人拳法使ってなかったせいで、反応が遅れたんだから!)」
シルフィは、自分の行いを反省しつつ立ち上がる。
身体能力の向上は勿論、動体視力の向上を促す。
だが、その間にも、ネロとデュラウスの戦いは続く。
「やっぱすげぇよオッサン!今の技初見殺しなんだぜ!!」
「生憎だったな!その技は既に見切っている!」
「そうか、ならこう言うのは如何だ!?」
斬り合いながら喋るデュラウスは、身体に赤い紫電を走らせる。
脚部の人工筋肉、背面のスラスター。
この二つの負荷を一切無視した出力を叩き出す。
「紫電尖刃!!」
その叫びと共に、デュラウスはネロの視界から消える。
彼の目に映るのは、赤い閃光のみ。
光の出現と共に、雷鳴のようなごう音が響き渡る。
完全に見失ったネロへ、デュラウスは不意打ちを仕掛ける。
「落雷落とし!!」
「やらせない!!」
「なッ!?」
デュラウスの不意打ちを受け止めたのは、シルフィだった。
だが、ほとんど付け焼刃のシルフィの剣。
近接特化のデュラウスには、パワー不足。
「(重いッ!なにこれ!?)」
「よう、久しぶりだな、シルフィ!!」
「うん、あの時はどうも!……うあ!」
つばぜり合いにより、持ちこたえたシルフィだったが、パワーに負けてしまう。
追撃の為に、地面を踏みしめるデュラウス。
それを阻止するべく、ネロは斧を向ける。
「フン!」
「おっと!」
「私を忘れるな!」
「忘れてねぇよ!」
赤い紫電をまとうデュラウスは、ネロの一撃を軽々と受け止めた。
その受けと同時に、デュラウスは再び姿を消す。
魔法によるカモフラージュではなく、スピードによって、視界から消えた。
そんな彼女の動きも、吹き飛ばされていたシルフィは、視界に収めていた。
「そこ!!」
「ッ!?」
「(見えているのか!?あの動きを)」
シルフィは、高速で動くデュラウスの動きを捉えている。
最初は偶然と思っていたネロは、今の動きで確信した。
完全に姿を消しているように動く彼女へ、進路を妨害するように攻撃したのだ。
結果的に、パワー負けしたシルフィは、地面へ叩きつけられてしまう。
「はは、すげぇや、本当に目が良いんだな!」
「まぁね、でも、貴女には負ける」
「そうでもねぇよ、プライド傷つくぜ、スピードにはメッチャ自信有ったのによぉ」
立ち上がるシルフィを見ながら、デュラウスは地面におり立つ。
そして、デュラウスはシルフィの事を再度評価する。
少しプライドを傷つけられたデュラウスであったが、むしろやる気をみなぎらせる。
「殺る価値十分あるぜ」
不敵な笑みを浮かべるデュラウスは、魔物達の方をチラ見する。
いつの間にか、魔物達の方が劣勢となっており、徐々に負けつつある。
その原因は、すぐにわかった。
大鎌を振り回し、手あたり次第に敵を斬りまくっている青年。
「(……ウィルソン、噂通りだな)」
いつの間にか来ていたダークエルフ、ウィルソン。
性格に難は有っても、実力は高い。
「(さて、どうしたもんかね、このままだと負けるな)」
劣勢だからと、撤退する事は、彼女のポリシーに反する事。
だが、魔物達が敗北したら、撤退するように命令されていた。
なので、せめて一言、シルフィに伝えておきたい事を伝えておく。
「なぁ、シルフィ、一つ言っておく」
「な、何?」
全身と太刀に赤い紫電を纏わせるデュラウスは、大きく振りかぶる。
そして、とてもその表情に似合わない事を言い出す。
「……愛してるぜ、殺したいぐらいにな!!」
「え」
急な言葉に、シルフィは思考を停止させてしまう。
そんな彼女へ、デュラウスは勢いよく太刀を振り下ろした。
「雷電塹壕!!」
太刀の向く方へと、赤い雷が連続で放たれる。
雷の通った道は、塹壕のようにくぼみが出来上がった。
ほとんど一瞬と取れる間隔で、雷はシルフィへと到達。
だが、その一瞬の間で、シルフィはドローンを展開。
降り注ぐ雷を、防ぎ止めた。
「ッ!!?」
「良い反応だ」
「いつの間に」
デュラウスの太刀は、シルフィの首を捉えていた。
彼女の意思次第では、このまま首を斬る事も容易な状況。
それでも、デュラウスは、シルフィの驚いた表情をうっとりと見ていた。
「やっぱり愛おしいな~、その表情、殺してやりたい」
「……何で殺すの?」
「は?」
「いや、好きなのに、何で殺すの?」
「何でって、そりゃ~」
「(なんだ?雲行きが怪しくなったぞ)」
デュラウスの言葉に、シルフィは真剣な表情で返す。
正直、シルフィはデュラウスの言葉に、大きな矛盾を抱えた。
好きなのに殺す。
この行動理由は、シルフィには理解できなかった。
「何でって、そりゃ~、ずっと一緒に居られる訳だし」
「え、はく製にするの?私だったら、一緒に居る為に生きていて欲しいんだけど」
「いや、その、それだと、浮気されたりとか、事故とか、病気とかで、何か、不意に死なれると、嫌だって言うか」
「だったら、そうならないように、全力で今を楽しめばいいんじゃないの?それに、私はデュラウスの事、殺したくないよ、好きだから」
「ッ!!」
好きだから。
この言葉は、デュラウスの頭の中で何度もループ再生された。
その瞬間、デュラウスは、顔を真っ赤にし始める。
ように見えるが、そんな表情をしている。
「でも、殺したいと思わないよ、でも、何でデュラウスは、殺したいって思うの?」
「え、えっと、その……は」
「は?」
「恥ずかしい事言わせんじゃないわよぉぉぉ!!」
「あ」
「逃げた!!」
とうとう限界を迎えたデュラウスは、戦場から逃げ出してしまう。
ただ、その時に魔物達は、ほとんど壊滅していたので、逃げる事に成っていただろう。
そんな事はさておき、何故逃げたのか解らないシルフィは、その場で立ち尽くしていた。
「……如何したんだろう」
「……お主、いや、触れぬ方がいいな」
素でデュラウスの言動を理解できていないシルフィを見て、ネロは触れないようにした。




