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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
158/343

雷鳴 前編

 ジャックとラベルクの戦いが、繰り広げている頃。

 シルフィとネロの担当区域にて。


「左側面に回り込まれてるっス!」

『了解!こっちで対処する!』

『ルプス3!援護するぞ!!』


 この戦域でも、揚陸艇を守る事をメインとした戦術で、魔物を相手していた。

 オペレーターは、四姉妹の一人、チアキ。

 彼女のサポートを受けつつ、迫りくる魔物達を撃退する。

 だが、戦況は芳しくない。

 何しろ、初手からかなりの痛手をこうむった。


「(マズイ、初手であのデュラウスとかいうアンドロイドに、ルプス4は壊滅、タンクも半数を失ったっス)」


 補給作業中、デュラウスは魔物達を差し置いて、高速で突撃してきた。

 そのせいで、ルプス三機を失い、タンクも落とされた。

 ネロとシルフィが対処に当たる事で、難を逃れても、戦力は大きく下がっている。


「(揚陸艇の装備を使っても、対処しきれるか解らないっスね)」


 チアキの不安を更に掻き立てるかのように、増援は次々とやって来る。

 しかも、敵エーテル・アームズも、この戦域へと派遣されてきた辺りで、問題は加速する。


「敵の増援だ!何としてでも食い止めるぞ!」

「クッソ~、家が邪魔で狙いにくい!」

「だったら家ごとぶっ飛ばせ!どうせ無人だ!!」

「それはマズイだろ、いろいろ」


 ――――――


「おらオッサン!!シルフィがダウンしてんだから、しっかりと相手してくれよな!!」

「言われずとも、こちらはそのつもりだ!!」


 デュラウスは、新しいメインウエポンである、大型のランスを使う。

 一撃離脱の高速戦闘に目覚め、この武器を選択した。

 エーテル・ギアも、高速で戦闘を行えるようにカスタムされている。

 対して、ネロは大型の斧を使い、デュラウスに肉薄する。

 正にパワーとパワーのぶつかり合い。


「(ええい、まさか彼女があそこまで耐性が無かったとは)」


 デュラウスの重量級の攻撃を前に、ネロは必死に食らいつく。

 そんな中、奥で苦しんでいるシルフィの状況を思い出す。

 デュラウスの先制攻撃で、数人が死んだ辺りで、既に気分を害していた。

 明らかに前線で戦える状態でなかったので、周辺の狙撃を依頼。

 だが、エーテル・アームズの増援が来た辺りで、突然発狂。

 狙撃さえ行えない状態と成ってしまったのだ。


「よそを気にしている場合かよ!」

「クソ(今は気にしている場合ではないか)」


 シルフィを気にするネロへ、デュラウスは容赦なく攻撃を続ける。

 元より、ジャックでさえ手を焼くような個体の姉妹機。

 彼女よりも戦闘力の劣るネロからすれば、厄介な相手だ。


 ――――――


「あ、う」


 ネロが劣勢となる中で、シルフィは頭を押さえながら苦しむ。

 屋上で狙撃をしていたら、急に気分を悪くしてしまった。

 屋根の上へと昇って来た魔物は、何とか迎撃できても、大型の魔物を相手取れる状態ではない。


「ジャック、アイツが言っていた事って、これなんだ」


 降下時に、兵士が死んだ際に感じた物。

 その気持ちの悪さ、それよりも酷い物が、今は襲っている。

 デュラウスにやられた兵士達は、ランスで貫かれ、爆破で焼かれた痛み。

 その時、兵士達の見た物を、シルフィも見る羽目になった。

 他者の苦しみも、大気のエーテルを介して、自分へ伝わって来る。

 そして、敵のエーテル・アームズが来てから、更に気分を悪くした。


「あのロボット、もしかして、生きてる人が入ってる?しかも、苦しい状態で」


 痛み、苦しみ。

 ただ乗っているだけで、パイロットたちは苦しんでいる。

 ルプス等に乗っている人達は、ぬぐい切れない恐怖と緊張を感じていた。

 彼らとは明らかに違う感覚を持っている。


「……苦しい、でも、ネロさんの苦しみに比べれば」


 だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 それに、こういった事を覚悟で、この場所に来た筈。

 そうして自分に喝を入れる。

 同時に、アイテムボックスから、一本の注射器を取りだす。


「(エーラさん、ゴメン、やっぱり、使わせてもらうね)」


 数日前の事。

 シルフィは、エーラから、とあるアイテムを貰った。


『それは?』

『……鬼人拳法で発生する痛み、精神感応による悪影響を緩和する働きを持った薬だ』

『そんなの有ったんだ』


 エーラの説明を聞いたシルフィは、そんな便利な物が有るのなら、もっと早く渡してほしかった。

 そんな事を思いながら、シルフィは注射器を受け取る。

 だが、エーラはそれを推奨しなかった。


『劇薬だ、多用すればどんな副作用を出すかわからん、体質によるからな』


 真剣な顔で言ってくるエーラだが、シルフィは首を縦に振った。


『それ位で、リリィを助けられるなら、それで良いよ』

『……忠告はしたからな、私も、叔母としては、お前に無理はしてほしくない』

『エーラさんって、まだ親族じゃないよね?』

『そうなる予定だ』


 途中からへんな話になった事は置いておき、シルフィは首筋に注射を打つ。

 注入された薬は、シルフィの体内を巡り、脳神経に作用をほどこす。


「ッ!!?」


 視界は少し揺らぎ、全身が一瞬だけ硬直する。

 鼓動は早まり、呼吸も荒くなる。

 身体の芯から興奮するような気分になり、今まで感じていた苦しみは、嘘のように無くなる。


「確かに、結構ヤバい奴だね」


 薬の感想を述べながら、ストレリチアを攻撃特化型へと変える。

 エーラに頼んで、新たに制作してもらった専用の弾頭を挿入し、魔力をチャージ。

 ごっそりと魔力を抜かれ、脱力感を覚える。

 そのまま、シルフィは屋根の上からデュラウスを見下ろす。


「(デュラウス、結構変わったな~)」


 初めて会った時と、大分違う彼女の容姿に少し戸惑う。

 だが、今の彼女は敵。

 容赦している場合ではないと、シルフィはストレリチアを向ける。


「ネロさん!」

「ッ!?」


 ネロに注意喚起をしたシルフィは、デュラウスへ照準を合わせる。

 シルフィの意図に気付いたネロは、デュラウスから距離を取る。

 その事を確認すると、シルフィは引き金を引いた。


「へ、受け止めてやんよ!!」


 空気を切り裂き、デュラウスへと向かう弾頭。

 デュラウスは、大型のランスを構え、弾頭を受け止める。

 その威力は、彼女の想像を少し超えていた。

 タイラントを貫き、そのままはるか遠くのジャックの腹部を貫く。

 そんな威力をもっていた物に、エーラが手を加えたのだ。

 威力は更に向上しており、ネロがどんなに打っても、壊れなかったランスは損傷。

 ランスには、弾頭が深々と突き刺さっている。


「シルフィ、よくやった!!」

「ちょ、ま!」


 戸惑うデュラウスへと、ネロは攻撃を仕掛ける。

 狙ったのは、ランスに突き刺さるレールガン弾頭。

 まるで釘を打つように、弾頭は更に突き刺さり、ネロの斧は、ランス本体を捉える。

 それによって、ランスは破損。


「ごめんなさい、遅れちゃって」

「いや、今ので帳消しになった、むしろ礼を言わせてくれ」

「そいつは生き残ってからにしな」


 屋根から降りたシルフィは、ガーベラを抜きながら、ネロの隣に立つ。

 ランスを破壊したところで、デュラウスを無力化できた訳ではない。

 何しろ、彼女のランスは、あくまでも火力を持つ為。

 腰の刀が、それを物語っている。


「そんじゃ、本番と行くか」


 ランスを捨てたデュラウスは、腰の太刀に手を伸ばす。

 エーテルを流し込みながら、刀身を抜き放つ。

 彼女の抜き放つ太刀に、シルフィとネロは身構える。

 刀身を流れるエーテルは、赤く発光。

 同時に、彼女の身体、太刀の刀身。

 そこから赤い電流が流れだす。


「……太刀か」

「そうさ、小振りな奴は、俺の趣味じゃないんでね」

「(リリィと逆、でも、大きい刀を使うなら、隙が生まれやすいのは間違いない、けど)」

「おっと、大振りだから隙が生じやすいと思うなよ」

「え、それってどういう」


 太刀を構えながら、デュラウスは不敵にほほ笑む。

 まるで、新しい技を見せたいというような表情だ。


「桜我流剣術」

「な」

「ッ!?」


 デュラウスの発言に、シルフィは驚く。

 その横で、ネロは何が起こるかを察する。


「ッ!ネロさ」

「雷鳴討ち!!」


 後ろの方へ投げ飛ばされたシルフィは、ネロとデュラウスの方を見る。

 最初に目に一瞬映ったのは、赤い閃光。

 その次の一瞬に、デュラウスの一撃を受け止めるネロ。

 次の瞬間、硬直する二人を目撃する。


「あっ!」


 シルフィが尻餅をつくと同時に、落雷のような音が響き渡る。

 音の正体は、デュラウスの踏み込みと、振るった太刀の空を斬る音。

 この二つである事は、すぐに気づいた。

 この事態に、シルフィは目を丸めてしまう。


「(見えなかった)」


 デュラウスの動き、シルフィにはそれが見えなかった。

 彼女の斬撃は、音を置き去りにしたのだ。

 だが、ネロは反応した。

 彼女の動きが見えた、と言うよりは、勘で防ぎ止めたのだろう。


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