雷鳴 前編
ジャックとラベルクの戦いが、繰り広げている頃。
シルフィとネロの担当区域にて。
「左側面に回り込まれてるっス!」
『了解!こっちで対処する!』
『ルプス3!援護するぞ!!』
この戦域でも、揚陸艇を守る事をメインとした戦術で、魔物を相手していた。
オペレーターは、四姉妹の一人、チアキ。
彼女のサポートを受けつつ、迫りくる魔物達を撃退する。
だが、戦況は芳しくない。
何しろ、初手からかなりの痛手をこうむった。
「(マズイ、初手であのデュラウスとかいうアンドロイドに、ルプス4は壊滅、タンクも半数を失ったっス)」
補給作業中、デュラウスは魔物達を差し置いて、高速で突撃してきた。
そのせいで、ルプス三機を失い、タンクも落とされた。
ネロとシルフィが対処に当たる事で、難を逃れても、戦力は大きく下がっている。
「(揚陸艇の装備を使っても、対処しきれるか解らないっスね)」
チアキの不安を更に掻き立てるかのように、増援は次々とやって来る。
しかも、敵エーテル・アームズも、この戦域へと派遣されてきた辺りで、問題は加速する。
「敵の増援だ!何としてでも食い止めるぞ!」
「クッソ~、家が邪魔で狙いにくい!」
「だったら家ごとぶっ飛ばせ!どうせ無人だ!!」
「それはマズイだろ、いろいろ」
――――――
「おらオッサン!!シルフィがダウンしてんだから、しっかりと相手してくれよな!!」
「言われずとも、こちらはそのつもりだ!!」
デュラウスは、新しいメインウエポンである、大型のランスを使う。
一撃離脱の高速戦闘に目覚め、この武器を選択した。
エーテル・ギアも、高速で戦闘を行えるようにカスタムされている。
対して、ネロは大型の斧を使い、デュラウスに肉薄する。
正にパワーとパワーのぶつかり合い。
「(ええい、まさか彼女があそこまで耐性が無かったとは)」
デュラウスの重量級の攻撃を前に、ネロは必死に食らいつく。
そんな中、奥で苦しんでいるシルフィの状況を思い出す。
デュラウスの先制攻撃で、数人が死んだ辺りで、既に気分を害していた。
明らかに前線で戦える状態でなかったので、周辺の狙撃を依頼。
だが、エーテル・アームズの増援が来た辺りで、突然発狂。
狙撃さえ行えない状態と成ってしまったのだ。
「よそを気にしている場合かよ!」
「クソ(今は気にしている場合ではないか)」
シルフィを気にするネロへ、デュラウスは容赦なく攻撃を続ける。
元より、ジャックでさえ手を焼くような個体の姉妹機。
彼女よりも戦闘力の劣るネロからすれば、厄介な相手だ。
――――――
「あ、う」
ネロが劣勢となる中で、シルフィは頭を押さえながら苦しむ。
屋上で狙撃をしていたら、急に気分を悪くしてしまった。
屋根の上へと昇って来た魔物は、何とか迎撃できても、大型の魔物を相手取れる状態ではない。
「ジャック、アイツが言っていた事って、これなんだ」
降下時に、兵士が死んだ際に感じた物。
その気持ちの悪さ、それよりも酷い物が、今は襲っている。
デュラウスにやられた兵士達は、ランスで貫かれ、爆破で焼かれた痛み。
その時、兵士達の見た物を、シルフィも見る羽目になった。
他者の苦しみも、大気のエーテルを介して、自分へ伝わって来る。
そして、敵のエーテル・アームズが来てから、更に気分を悪くした。
「あのロボット、もしかして、生きてる人が入ってる?しかも、苦しい状態で」
痛み、苦しみ。
ただ乗っているだけで、パイロットたちは苦しんでいる。
ルプス等に乗っている人達は、ぬぐい切れない恐怖と緊張を感じていた。
彼らとは明らかに違う感覚を持っている。
「……苦しい、でも、ネロさんの苦しみに比べれば」
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
それに、こういった事を覚悟で、この場所に来た筈。
そうして自分に喝を入れる。
同時に、アイテムボックスから、一本の注射器を取りだす。
「(エーラさん、ゴメン、やっぱり、使わせてもらうね)」
数日前の事。
シルフィは、エーラから、とあるアイテムを貰った。
『それは?』
『……鬼人拳法で発生する痛み、精神感応による悪影響を緩和する働きを持った薬だ』
『そんなの有ったんだ』
エーラの説明を聞いたシルフィは、そんな便利な物が有るのなら、もっと早く渡してほしかった。
そんな事を思いながら、シルフィは注射器を受け取る。
だが、エーラはそれを推奨しなかった。
『劇薬だ、多用すればどんな副作用を出すかわからん、体質によるからな』
真剣な顔で言ってくるエーラだが、シルフィは首を縦に振った。
『それ位で、リリィを助けられるなら、それで良いよ』
『……忠告はしたからな、私も、叔母としては、お前に無理はしてほしくない』
『エーラさんって、まだ親族じゃないよね?』
『そうなる予定だ』
途中からへんな話になった事は置いておき、シルフィは首筋に注射を打つ。
注入された薬は、シルフィの体内を巡り、脳神経に作用をほどこす。
「ッ!!?」
視界は少し揺らぎ、全身が一瞬だけ硬直する。
鼓動は早まり、呼吸も荒くなる。
身体の芯から興奮するような気分になり、今まで感じていた苦しみは、嘘のように無くなる。
「確かに、結構ヤバい奴だね」
薬の感想を述べながら、ストレリチアを攻撃特化型へと変える。
エーラに頼んで、新たに制作してもらった専用の弾頭を挿入し、魔力をチャージ。
ごっそりと魔力を抜かれ、脱力感を覚える。
そのまま、シルフィは屋根の上からデュラウスを見下ろす。
「(デュラウス、結構変わったな~)」
初めて会った時と、大分違う彼女の容姿に少し戸惑う。
だが、今の彼女は敵。
容赦している場合ではないと、シルフィはストレリチアを向ける。
「ネロさん!」
「ッ!?」
ネロに注意喚起をしたシルフィは、デュラウスへ照準を合わせる。
シルフィの意図に気付いたネロは、デュラウスから距離を取る。
その事を確認すると、シルフィは引き金を引いた。
「へ、受け止めてやんよ!!」
空気を切り裂き、デュラウスへと向かう弾頭。
デュラウスは、大型のランスを構え、弾頭を受け止める。
その威力は、彼女の想像を少し超えていた。
タイラントを貫き、そのままはるか遠くのジャックの腹部を貫く。
そんな威力をもっていた物に、エーラが手を加えたのだ。
威力は更に向上しており、ネロがどんなに打っても、壊れなかったランスは損傷。
ランスには、弾頭が深々と突き刺さっている。
「シルフィ、よくやった!!」
「ちょ、ま!」
戸惑うデュラウスへと、ネロは攻撃を仕掛ける。
狙ったのは、ランスに突き刺さるレールガン弾頭。
まるで釘を打つように、弾頭は更に突き刺さり、ネロの斧は、ランス本体を捉える。
それによって、ランスは破損。
「ごめんなさい、遅れちゃって」
「いや、今ので帳消しになった、むしろ礼を言わせてくれ」
「そいつは生き残ってからにしな」
屋根から降りたシルフィは、ガーベラを抜きながら、ネロの隣に立つ。
ランスを破壊したところで、デュラウスを無力化できた訳ではない。
何しろ、彼女のランスは、あくまでも火力を持つ為。
腰の刀が、それを物語っている。
「そんじゃ、本番と行くか」
ランスを捨てたデュラウスは、腰の太刀に手を伸ばす。
エーテルを流し込みながら、刀身を抜き放つ。
彼女の抜き放つ太刀に、シルフィとネロは身構える。
刀身を流れるエーテルは、赤く発光。
同時に、彼女の身体、太刀の刀身。
そこから赤い電流が流れだす。
「……太刀か」
「そうさ、小振りな奴は、俺の趣味じゃないんでね」
「(リリィと逆、でも、大きい刀を使うなら、隙が生まれやすいのは間違いない、けど)」
「おっと、大振りだから隙が生じやすいと思うなよ」
「え、それってどういう」
太刀を構えながら、デュラウスは不敵にほほ笑む。
まるで、新しい技を見せたいというような表情だ。
「桜我流剣術」
「な」
「ッ!?」
デュラウスの発言に、シルフィは驚く。
その横で、ネロは何が起こるかを察する。
「ッ!ネロさ」
「雷鳴討ち!!」
後ろの方へ投げ飛ばされたシルフィは、ネロとデュラウスの方を見る。
最初に目に一瞬映ったのは、赤い閃光。
その次の一瞬に、デュラウスの一撃を受け止めるネロ。
次の瞬間、硬直する二人を目撃する。
「あっ!」
シルフィが尻餅をつくと同時に、落雷のような音が響き渡る。
音の正体は、デュラウスの踏み込みと、振るった太刀の空を斬る音。
この二つである事は、すぐに気づいた。
この事態に、シルフィは目を丸めてしまう。
「(見えなかった)」
デュラウスの動き、シルフィにはそれが見えなかった。
彼女の斬撃は、音を置き去りにしたのだ。
だが、ネロは反応した。
彼女の動きが見えた、と言うよりは、勘で防ぎ止めたのだろう。




