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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
157/343

殺す者、従う物 後編

 イベリスとの闘いの後。

 ラベルクは、ドレイク達の元へと戻り、援護を開始。

 初手に戦力を失い、少々劣勢気味だったこともあり、ラベルクの参戦は、有難い物だった。


 ――――――


 その頃、ジャック達の担当区域にて。

 この区域に降下した部隊も、揚陸艇の防衛を中心に、魔物の撃退を行う。

 その際、ジャックはヘリアンの相手をしていた事も有り、ウィルソンの指揮の元、戦闘が続いている。

 そんな戦闘の続く戦場の上空。

 ハヤブサ隊は、地上部隊の支援に向かわせた。

 ハーピーとヘリアンの相手は、ジャック一人で行っていた。


「へ、随分えげつねぇ兵器用意したな!!」

「考案したのは、私じゃない、カルドとカルミア」


 二人の空中戦が繰り広げられる中。

 地上では、ラベルクの方で確認されたエーテル・アームズも、増援として来ていた。

 パイロットは、機械によって生かされた植物人間状態。

 それでも、意識は存在している。

 そのせいで、機体の破壊と同時に、死者の意識は、ジャックの耳へと届いていた。


「(やりづれぇな、つっても、サイコ・デバイスを外せば、ドローンの操作に遅延が出て来る)」


 ジャックからしてみれば、地上での戦闘は、かつてない程騒がしい。

 まるで演習場のように、バカスカと銃砲の放たれる音。

 とてつもない音の中で、死者の嘆きの声が響く。

 サイコ・デバイスを外せば、この騒がしさはある程度緩和される。

 それでも、どんぐりの背比べ程度の違いしかない。

 だったら、戦闘で少しでも有利に成る方を選ぶ。


「(この女、俺に対抗できる兵装ばかり)」

「(アイツの戦術、やっぱり真似してみるもの、おかげで戦いやすい)」


 今回ヘリアンの用意した銃は、エーテル式のショットガンと、散弾を打ち出すランチャー。

 散弾砲は、対戦車榴弾と比べて威力は低い。

 どちらかと言えば、対人ように用いられる兵器だ。

 だが、ショットガンよりも広範囲に弾丸をばらまける。

 撃ちだされる弾丸は、アダマント合金の弾。

 しかも、爆破するようにも、仕込んである。


「(……流石ジャック、やっぱりしり込みは、していられない)」


 爆破する弾丸を、広範囲にばらまく。

 これによって、ドローンの操作を阻害。

 加えて、ジャックの人間ソナーも阻害しつつ、ジャックを精神的に消耗させる。

 こんな騒がしい中であっても、ちゃんと戦えるジャックに、ヘリアンは感心した。

 やはり、もう手加減しようという気にはなれなかった。


「(カートリッジも、これで最後)」


 散弾砲最後のカートリッジを付け替え、全ての砲弾を撃ちだす。

 そして、前髪で隠れている右目を露出させ、持ってきた銃火器をオミット。

 コンバットナイフを引き抜き、ジャックへと接近。


「クソ!音がぶれやがる(この感じ、成程、誘いに乗ってやる!)」


 爆炎の中、立て続けに起こる小さな爆発。

 ただの大きな爆発であれば、僅かな音の違いから、敵を認識できる。

 しかし、このようにランダムに音を出されると、音を拾いづらくなる。

 煙幕によって、視界も奪われながらも、ジャックはヘリアンへと接近。


「やっぱりな!!」

「これで」

「ッ!?早!」


 ナイフを構えるヘリアンを前に、ジャックは刀で攻撃を開始。

 だが、ジャックの動きは予測されていたようで、ヘリアンは刀を回避。

 ナイフでジャックの右目を貫く。

 ヘリアンはそのまま、ナイフを引き抜き、間髪入れずに首へと刃を突き立てる。


「コンノ!!」

「チ!」


 ジャックはナイフが首にたどり着く前に、ライフルによって受け止める。

 エーテルの充填されていたライフルは爆散。

 お互いに間合いを取り、ジャックは刀にまとわせていた炎を、ヘリアンへと繰り出す。


「無駄」


 ジャックの斬撃を、ヘリアンは斬り落とす。

 その隙に、ジャックは目を回復。

 刀を構え、ヘリアンを睨みつける。


「おいおい、お前射撃特化じゃねぇのかよ?」

「単純に、射撃が上手いだけ、でも、ナイフファイトの方も好き」

「そうか、だったら俺の動きについて来れるか!?」

「当然」


 ジャックとヘリアンは、お互いにオーバー・ドライヴを発動。

 空中戦は、更なる高速戦闘が繰り広げられる。

 ヘリアンの機体コンセプトは、射撃特化である筈。

 だというのに、コンセプトを完全に無視しているかのように、ジャック相手に肉薄する。

 その戦闘は、近くに居たハーピーを、もろとも切り裂くほどの物。


「(成程、大口を叩くだけある、それに……)」

「(流石……そんな長物で、私に追いつく何て)」


 空中での斬り合いを続け、二人は魔物の群がるポイントへ落ちる。

 二人の戦いに巻き込まれた魔物達は、一瞬で細切れになる。

 そして、互いに睨みを利かせる。


「(コイツ、強い)」


 再び向き合ったジャックは、ヘリアンの強さを再認識する。

 沿岸での戦いは、明らかに威力偵察としか思えない。

 正直な所、今のヘリアンの力は、基地で戦った時のシルフィとリリィを凌駕している。

 特に、右目をさらした辺りから、急に動きが良くなった。


「(……あの目、シルフィみたいに、超視力を疑似的に再現しているのか?)」


 何となく、ジャックはヘリアンの右目の正体を仮定する。

 そうなると、右目の露出で、収集する情報量を大幅に上げている。

 という事に成る。

 解らないのは、そんな物が有るというのに、何故今使ったのか。


「(……試してみるか)」

「(目つきが変わった)」


 ヘリアンのようなタイプは、行動にある程度の理由を持つ。

 彼女が中二病キャラで、キャラ付けの為にやっている。

 と言う物でなければ、必ず理由は有る。

 その理由を確かめるべく、構えを取ったジャックを見て、ヘリアンは警戒を強めた。


「桜我流剣術・爆道斬!」


 大声と共に、炎をまとう刀を、地面へと叩きつける。

 すると、地面から多くの火柱が出現。

 データ通りの攻撃が来た事に、ヘリアンは謎の失望を覚えつつ、上空へ回避。


「(データ通りだけど、スレイヤーの事だから、何か仕掛けて来る)」

「烈火尖刃!!」

「やっぱり」

「プラス、炎鬼牢!!」

「ッ!?」


 炎を全身にまといながら、ジャックは突進してくる。

 だが、ヘリアンの間合いに入る直前、ジャックは急停止。

 周辺に炎の斬撃をまき散らす。

 更に、ジャックの攻撃は止まない。


「翔炎・散華!!」

「急に何だ!?」


 今度は、翔炎の散弾バージョン。

 前方へ向けて、多数の斬撃を繰りだす。

 ジャックの行動に疑問を抱きながらも、ヘリアンは斬撃をかき消す。

 だが、その直後に、ジャックの攻撃の理由は判明する。


「ダラッシャアアアア!!」

「(何時の間に!?)」


 ジャックの繰り出す、無数の炎の斬撃。

 それらに気を取られていたヘリアンは、ジャック渾身の蹴りを受ける。

 直撃を受けたヘリアンは、魔物達を下じきに、地面へ叩きつけられる。


「(……成程)」


 炎の斬撃による飽和攻撃。

 これが、ジャックの狙いだった。

 ヘリアンの右目は、複数の対象を同時に認識できる。

 多数の標的をマークしつつ、最適な標的を狙い撃つ。

 それを逆手に取られた。


「(多数の目標を認識できても、こっちの演算が間に合わなければ、反応は遅れる)」


 ジャックが大量の斬撃を繰りだしたのは、ヘリアンの演算の限界まで、標的を増やす為。

 ただでさえ、ストレンジャーズや魔物達のはびこっている戦場。

 そこへ大量の斬撃。

 右目は、視界に収めた全ての標的の動きを演算する。

 気分としては、満腹寸前の所に、焼き肉を放り込まれたような物。

 と言うか、単純に処理落ちしただけ。


「(やっぱり、この目は外す?いや、でも、これ取ると、接近戦に支障が出て来る)」


 目を普段隠しているのは、余計な演算をして、変に処理落ちしては、色々支障が出るから。

 その部分に付け込まれてしまった。

 しかし、この目は、応用すれば、接近戦に非常に有効な物になる。

 普通の視覚センサーよりも、詳細に相手の動きを分析できる。

 仕方ないので、ヘリアンは非常手段の実行を考えた。


「(……こう言うのは、デュラウスの専門、だと思ってたし、あまり、やりたくない、でも)」


 だが、ここでの負けは、デュラウスの真似をするより屈辱だ。

 クッションに成り、肉片となった魔物を蹴り飛ばしながら、ヘリアンはジャックを見る。


「(一気に突っ込む!!)」


 ただひたすらに正面から挑む。

 それが、ヘリアンとった方法。

 ジャックに余計な小細工をされる前に、勝負をつける。


「へ、最初からそうしやがれ!!」

「うるさい」


 そこからは、もはや敵味方の区別はない。

 ジャックの味方である筈の部隊も。

 ヘリアンの味方である筈の魔物も。

 二人の戦いに巻き込まれてしまう。

 ストレンジャーズたちは、何か嫌な予感を感じ取り、一時退避。

 だが、あたかも、将棋の歩、チェスのポールの如く、前進しか許されない魔物達。

 二人のバトルへ、自ら身を投じる羽目になる。


「さぁ、後どれだけ持つかな!!?」

「その前に片付ける」


 この状況は、ヘリアンにとって非常に悪い。

 何しろ、魔物はヘリアン達の命令には従わない。

 しかも、オーバー・ドライヴの限界時間は、もう間近に迫っている。

 何時も冷静なヘリアンでも、流石に焦ってしまう。


「(でも、流石に、もう……ッ!)」


 ジャックの斬撃を受け止め続けるヘリアン。

 一瞬の脱力感を覚えながら、ジャックの重い一撃に吹き飛ぶ。


「……しまった」


 着地には成功するが、同時にオーバー・ドライヴも終了。

 エーテルをほとんど使い果たし、走る位しかできなくなった。

 しかも、周辺にはジャックのドローン。

 近くに隠れていた隊員の銃口を向けられている。


「王手だな」

「……詰み将棋」


 今の状態で、一斉砲火をくらえば、ヘリアンでもただでは済まない。

 だが、この状況を想定していなかったヘリアンではない。


「でも、これで、さようなら」

「てめ!」


 そう言ったヘリアンが取りだしたのは、大量のグレネード。

 といっても、炸裂する物ではない。

 閃光とスモークの両者を、大量につないだ物を、アイテムボックスから取り出した。

 周囲から銃撃を浴びるが、全てのピンは、同時に抜かれる。

 銃撃はグレネードに阻まれ、起爆を許す。

 大量に発生した煙幕に、大音量の音と、強烈な光。

 それらによって、完全にヘリアンを逃してしまった。


「クソ、また逃がしたか……まぁいい、おい、被害はどうなっている!!?」


 ヘリアンを逃したことに、軽い悔しさを覚えるが、今は部隊の安否だ。

 ドレイクの方は、もう少しで終わりそうだ。

 イベリスというアリサシリーズを退いた時点で、あっちの勝ちは確定。

 だが、一番不安なのは、シルフィとネロだ。


「(さっきから雷の音が鳴ってやがる、天気なんかじゃない、あの音は……相性を考えて、ネロに任せたが、ドレイクを行かせるべきだったか?)」


 先ほどの戦いに紛れて、聞き飽きる位聞いた音が耳に流れ込んでいた。

 周辺の戦況を知る為に、あえて中央の戦地を選んだ。

 とはいえ、思った以上に苛烈な戦況。

 おいそれと、増援を回せる状況ではない。

 それでも、心配な事に変わりは無い。


「ウィル!」

「はいな!」

「ネロの方へ行ってくれ、劣勢だ」

「ホンマか、んじゃ、行ってくるわ!」


 心配なので、ウィルソンに応援を頼む。

 性格に問題は有っても、彼もかなりの実力者。

 彼に行かせれば、問題はない。


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