殺す者、従う物 中編
ドレイク達が戦闘を繰り広げている頃。
ラベルクとイベリスは、お互いに隙を伺い合っていた。
だが、ラベルクとしては、そんな事よりも、気になる事が有りすぎた。
「……しかし、幾らエーテル貯蔵量を上げる為とは言え、そのように破廉恥な義体は、マスターへの侮辱と捉えますよ」
「あら、わたくしにとっては、ヒューリーの思惑など、蚊帳の外の事、それに、年がら年中メイド服のお姉さまには、言われたくありませんわ」
二人共笑顔を浮かべているが、その目は決して笑っていない。
と言うか、二人が人間だったら、青筋の一つや二つ浮かべていたところだ。
一応は清楚感を大事にしている身同士として、戦い以外は極力笑みを絶やさない。
そんな二人でも、自分の容姿やこだわりをいじられるのは、我慢ならないらしい。
「メイドとして、有るべき姿をしているのみでございます、貴女も、その無意味にだらしのないお体にせずとも、エーテル・ギア、あるいは、そちらの砲に、エーテル・ドライヴをセットするなり、色々有ったでしょうに」
「有るべき姿?オタクの夢見るコスチュームで着飾っておきながら、そのような発言をするとは、貴女の方が余程破廉恥なのでは?それに、わたくしは単純に、エーテル貯蔵量を上げ、相手の装甲を破壊する事も視野にいれているのですよ、決して、無意味でなくてよ」
今にでも、殴り合いに発展しそうな雰囲気。
ラベルクは、バスターソードの刃を丁寧に磨きだしている。
イベリスも、メイスの柄を握り潰しそうに成っている。
そんな中でも、ラベルクは、イベリスの発言で、聞き捨て成らない部分が有った。
「おやおや、随分、決して、を強調しておりますね、何か、裏のご事情でもおありで?」
「ッ、ですから、無意味でないことを強調したかったのですよ」
「今、完全に挙動が不審でしたよ」
「で~す~か~ら~、物理攻撃能力を上げる為でしてよ!!」
「おや~?もっと怪しいですね~」
イベリスの挙動不審を見たラベルクは、絶対にいいカードを手に入れたと、確信した。
どう考えても、イベリスには何か有る。
そう思っただけで、何時になくいい笑みを浮かべてしまう。
「そう言えば、私の義妹たるシルフィ様も、何やら大きくて柔らかい物がお好みだとか」
「如何してシルフィの名前が出て来るのですか!!?」
「おや?照れ隠しでしょうか?」
「軽蔑ですわ!」
「おやおや、そのような表情を成されても、説得力は無くてよ、ツンデレお嬢様」
「……」
シルフィの名前を出した途端、イベリスの言動はあからさまな物になった。
いくらいじっても、ブレなかったお嬢様表情は、完全にブレだしてしまった。
仕草に至っては、清楚感の欠片も無い。
だが、ラベルクの調子に乗ったあだ名は、逆にイベリスの逆鱗に触れてしまう。
「そうでしたか、では此方からも言わせていただきますわよ、おばあさん」
「……」
「……」
この一言で、お互いの堪忍袋の緒が切れる。
「死ねぇぇ!!」
「死ねぇぇ!!」
初手で、二人の重装備がぶつかり合う。
もう清楚の【せ】の字も無い。
ラベルクは、できればドレイク達の援護を行いたかったが、イベリスの戦闘力は予想以上に高い。
大盾に大型メイスと、超重量装備でありながら、ラベルクの動きに引けを取らない。
「流石103型、破廉恥な姿と成っても、それほどの性能を出せるとは、流石はマスターです」
「そちらこそ、旧式だというのに、今のわたくしに追従する性能とは、恐れ入りましたわ」
無駄口を叩き終えた二人は、戦闘を再開。
イベリスの操るメイスと、ラベルクのバスターソードはぶつかり合う。
瞬間的に敵を粉砕する事を前提とした、イベリスのメイス。
対して、ラベルクのバスターソードは、頑丈なだけで、ただの大剣。
パワーだけでは、ラベルクに勝ち目はない。
「パワーだけを上げた所で!」
ラベルクは、イベリスのメイスをかいくぐりつつ、懐へと入る。
姿勢を低くし、イベリスの腹部を狙う。
「ッ!」
だが、瞬時に反応したイベリスは、バックステップで回避。
その隙に、ラベルクは肩部の二連装機銃で牽制。
盾によって防御するイベリスへ向け、ランチャーによる砲撃を繰りだす。
一般歩兵にも支給されるランチャー。
ラベルク向けに改良を加えられていても、イベリスの盾を破壊する火力は無かった。
「流石に頑丈ですね」
「ええ、折角お姉さまが相手なのですから、お返しして差し上げますわ!」
そう言うと、イベリスは盾をラベルクに向ける。
すると、盾は展開し、中から砲門が出現。
瞬時にどうなるか把握したラベルクは、空中へ退避。
「逃がしませんわ!!」
逃げたラベルクへ向けて、イベリスは砲撃を行う。
先の砲撃ほど、威力は無いが、今の装備では防ぎきれないような威力。
幸い、弾速は遅く、ラベルクは空中で回避。
「ならば」
イベリスは、ラベルクを追って、空中へと飛び上がる。
シールドのキャノンで、ラベルクを狙いつつ接近。
ラベルクをメイスの射程内に捉え、一気に振り抜く。
「しまっ!」
「背面からであれば!」
ラベルクは、寸前の所でメイスをかわし、イベリスの背面へと回り込む。
バスターソードを、イベリスのスラスター目掛け、一気につき出す。
その時だった。
「な!?」
「想定内ですわ」
背面にマウントされていたイベリスのバズーカ。
その砲門は、ラベルクへ向けられ、低出力の砲撃を繰りだされる。
サブアームを介し、砲撃を行ったのだ。
この攻撃は、流石に予想外であったラベルクは、砲撃をバスターソードで受け止める。
「ッ!」
受け止めた砲撃は、低出力だというのに、ラベルクを吹き飛ばす。
その砲撃で、完全に姿勢を崩したラベルクへ向けて、イベリスは攻撃を続ける。
シールドのキャノン砲による追撃。
ラベルクは、バスターソードを盾代わりに受け止め続けながら、地面へ叩きつけられる。
「……信じられませんわ、まさか、この攻撃に耐えきるとは」
イベリスは、空中からラベルクの状態をスキャン。
使用しているバスターソードは、かなりの損傷を受けている。
だが、本体はあまりダメージを受けていない。
「(あの剣、何と言う強度、シールドキャノンは、バズーカ程火力は有りませんが、それでも、相応に火力はありますわ)」
少し見くびっていたイベリスは、メイスをしまう。
代わりに、背中のバズーカを取りだし、狙いを定める。
義体のダメージは僅かであっても、衝撃で動きはかんまんと成っている。
その内に、エーテルをチャージ。
「今度こそ、終わりですわ!」
地上のラベルクへ向けて、バズーカによる砲撃を放つ。
町へ放ったものより、火力は劣るが、シールドキャノンよりも、各段に威力は上。
着弾した砲撃は、地面へクレーターを形成する。
「……」
爆炎の舞う中で、イベリスは様子をうかがう。
慎重に索敵をおこない、ラベルクの安否を確認。
「居ない?まさか!」
ラベルクの姿を確認できなかったイベリスは、瞬時に後方へ下がる。
それと同時に、保持していたバズーカは両断される。
「ッ!?オーバー・ドライヴ・システム!」
「ええ、その通りです!」
イベリスのバズーカを切断したのは、オーバー・ドライヴを使用したラベルク。
砲撃を超スピードで回避し、イベリスへ奇襲を行ったのだ。
それを見たイベリスは、再度メイスを装備する。
「ならばこちらも!!」
メイスを構え直し、オーバー・ドライヴを使用。
全体はピンク色に発光し、ラベルクと高速戦闘を開始する。
大型兵器特有のかんまんさは無くなり、更に早い動きの戦いが始まる。
「流石ですわお姉さま!そのような急造品で、わたくしと張り合うとは!」
「機体の性能だけで、戦力の差は決まりません!!」
一撃の破壊力に長ける武器同士のぶつかり合い。
互いの一撃が交差しあうたびに、強烈な金属音が響き渡る。
なにより、ラベルクは自らの言葉を証明するかのように、イベリスに肉薄する。
ラベルクは、ただ単にヒューリーの元で給仕をしていたわけでは無い。
多くの戦場で、ジャック達との闘いを繰り広げて来た。
そのノウハウを用いて、性能的には上であるイベリスを押し始める。
「ッ!?(何故ですの?わたくしが、おされている?)」
「(103型とて、ロールアウトしたばかり、経験ではこちらが上!!)」
押されていくイベリスに向けて、ラベルクは渾身の一撃を繰りだす。
イベリスは、とっさに盾をつき出す。
重々しい金属音が響き渡り、イベリスの盾にヒビが入る。
「そんな!」
「これで!!」
衝撃で吹き飛んだイベリスへ向けて、ラベルクは砲撃を行う。
今度は最大出力によって攻撃を行った。
段違いの威力を叩き出した砲撃によって、イベリスの盾は今度こそ破壊される。
「キャアア!!」
「斬り捨て、御免!!」
ラベルクは、バスターソードを大きく振り上げる。
姿勢を崩すイベリスに、反撃を行う余裕はない。
刃はイベリスへと迫る。
「ッ!!?」
バスターソードは、イベリスの右腕を切断。
重装甲のエーテル・ギアに加え、イベリスの身体その物。
これらを一気に切り裂く。
「これで、終わりです……ッ!!?」
ラベルクが二の太刀を繰りだそうとした時。
彼女の身体は、爆炎に包まれる。
「何ですの?友軍機?」
ラベルクは爆炎に包まれた事で、動きを阻まれてしまう。
イベリスは、その隙にラベルクから距離を取る。
それと同時に、救援に来た友軍を確認する。
「あれは……お気の毒ですわね」
イベリスの危機を救ったのは、複数機のエーテル・アームズ。
左肩からの出血を止めながら、イベリスは後退する。
流石に、もう戦える状態ではない。
「逃がしてしまいましたか……ですが、これで中尉達の援護へ回れますね」
イベリスを逃がしてしまったラベルクは、地上から接近してくるエーテル・アームズに狙いをつける。
彼らの援護の為に、魔物も複数混ざっている。
オーバー・ドライヴを解除し、バスターソードを構える。
「申し訳ありませんが、排除させていただきます」
地上に降り立ったラベルクは、迫りくる魔物と、エーテル・アームズを一気に斬る。
攻撃の際、ふとした疑問も浮かんだ。
だが、今は目の前の任務を遂行するべく、戦いを続けた。
援護に来た部隊は、一個小隊程度の規模。
ラベルクにとっては、少ない方だ。
「……(しかし、このエーテル・アームズ、パイロットは一体)」
殲滅の完了と共に、ラベルクは疑問に引っ張られる。
襲い掛かって来た機体は、ナーダの使用する物。
アンドロイドや魔物が、動かせない訳ではないが、戦っている時に疑問が生まれた。
何しろ、動きに人間に近いものを感じた。
機械によって操られる魔物。
アンドロイドの操縦、そのどちらでもない。
「少し、失礼いたしますね」
気になったラベルクは、コックピットのハッチをこじ開ける。
その中を見たラベルクは、目を見開いてしまう。
「こ、これは」
思わずハッチを閉じたラベルクは、カルド達の居る本拠の方角を睨みつける。
「これが、貴方の言う平和と言う物なのですか?カルド」
ラベルクが目にしたのは人間。
それも、この基地に勤めていたスタッフ達だ。
彼らは、四肢を切断されたうえで、エーテル・アームズの操縦系に、直接接続されていたのだ。
意識をアンドロイドのAIと繋げた状態で。




