殺す者、従う物 前編
イベリスの砲撃により、ドレイクの指揮する部隊は、痛手をこうむる事となった。
だが、ドレイクは何とか部隊の収拾をつける。
そのおかげで、危うい状態である事に変わり無くとも、応戦を開始する。
「ルプス隊!揚陸艇の防御を固めつつ、敵の進行を食い止める!サーバル5・6!そのまま牽制しつつ下がれ!」
ドレイクの支持の元、ルプス隊は大型のシールドを構え、揚陸艇を囲う。
周囲を固めつつ、装備のロケットランチャーで、後退してくるサーバル隊の援護を行う。
一方から迫る大群。
この状況であっても、何とか対処できる方法が有る。
何しろ、ここをどれだけ壊しても、降格も賠償も無いのだ。
「……まだだ、まだ、ギリギリまで引き寄せろ」
後退してくるサーバル隊。
彼らは、後ろに下がりつつ、装備のライフル等によって牽制。
搭載されているホバーユニットのおかげで、速度は出せている。
だが、相手は重装備でありながら、その強靭な脚力で、自動車並みに早く走れる。
ルプス隊の後方支援が有っても、追いつかれるのも時間の問題。
そんな相手達であるが、指定のポイントを、サーバル隊が通り過ぎる。
「発破!!」|
その瞬間、ドレイクは目を見開き、部下に指示を下す。
魔物達の両サイドに並ぶビルへ向けて、砲撃を開始。
自重を支えられなくなったビルは、一気に崩れ落ちる。
爆音と共に、ビル群は、崩れ落ちる轟音を響かせながら、魔物達を押しつぶす。
「よっしゃあ!」
「はは!見たか化け物共!!」
「図に乗るな!これ位で終わる戦いではない!!」
瓦礫の下敷きになる魔物達を見て、一瞬だけ安堵する隊員達を、ドレイクは一蹴。
全員の前に立ち、高周波ブレードを抜いたドレイクは、瓦礫を睨みつける。
彼の予感は当たり、瓦礫から強力な魔物達のみ、這い上がって来る。
それだけではない、ビルの倒壊から逃れた魔物達も、続々と瓦礫を踏みこえて来る。
「……タンク、近づいてくる魔物は、手あたり次第砲撃しろ!ルプス5とサーバル5は、防御陣形を維持し、揚陸艇を守れ!残りは私と共に進め!」
『ウオオオオ!!』
ドレイクがブレードを掲げると、他の隊員達も、それに同調する。
相手は理性無く攻めて来るデク。
もう作戦無しに、正面から戦う他ない。
本来であれば、こんな方法は得策とは言えない。
だが、彼らもストレンジャーズとして、数々の死線を潜り抜けて来た。
「ゲームの勇者にでも成った気分だぜ!!」
「コイツはゲームじゃねぇ!マジの殺し合いだ!気を抜くな!!」
「散るな!必ず二人以上で行動しろ!!」
隊員達の持つ武器。
ブレード、大剣、メイス、斧と言った原始的な物。
それら全て、隊員一人一人の技量に依存する武器。
エーテル・ギアを着用していなければ、本当に中世の戦争に近い。
「ルプス隊!頼りにしているぞ!!」
「おう!デカいのは任せておけ!!」
そう言い、ルプスは保持しているバトルアックスを構え、先行する。
この作戦では、ルプスは三機ずつの編成。
先ほど一機やられ、残りは五機。
その内三機は前線へ出ており、一機だけ更に前へと出る。
狙うのは、同様に斧を構えるミノタウロス。
情報によれば、着用しているアーマーは、重層型のエーテル・アームズと同等。
だが、その下の皮膚は、更に固いという。
「チェオラアアア!」
「グヲオオ!」
同格の巨体を持つ二人。
両者の攻撃は交差する。
ルプスのパイロットは、交通事故にでも遭ったかのような衝撃を、身体に受ける。
スーツを着用していても、こういった衝撃にだけは慣れない。
「ッ!このぉ!!」
ミノタウロスの装甲に、斧の刃が突き立てられる。
人工筋肉の出力、斧の高周波。
これらの恩恵をもってしても、ミノタウロスの装甲をはだけさせる事で精いっぱいだ。
「ウソだろ!?マジで硬てぇ!!」
「打ち砕けないなら!!」
「ッ!?」
よろけるミノタウロスに対し、もう一機のルプスが接近するのを確認。
彼の攻撃を確かな物とするべく、先行したルプスは道を開ける。
「コイツで、如何だっ!!?」
もう一機のルプスが装備するのは槍。
本来は装甲の隙間を狙い、弱点を突く武器。
だが、今回はホバー移動の推力を利用し、質量兵器として使用した。
そのおかげで、ミノタウロスの胸部は貫かれる。
「た、助かったぜ」
「こいつ等の強度は予想以上だ、一撃一撃に手を抜くな!」
「了解!!」
ミノタウロスから槍を抜き、ルプス隊は、引き続きミノタウロス級の大型の敵を相手取る。
そして、その足元では、小型の魔物達を相手に、サーバル隊が泥沼の戦いを繰り広げる。
今回派遣されてきたのは、ゴブリンの上位種、ホブゴブリン。
先ほどまでのゴブリンとは比較に成らない戦闘力を持つ。
他にも、コボルトやスケルトンと言った魔物もいる。
いずれも、近代装備によって武装する。
「現実で戦うと、気味の悪い連中だ!」
「しかも銃何か持ちやがって、セオリー無視してんじゃねぇぞ!!」
ミノタウロスと比べ、比較的弱い方であるが、近代兵装のせいで、異質にも程が有る。
だが、おかげで、見慣れた敵ともとれる。
そのおかげもあり、サーバル隊は何とか交戦する。
しかし、何より危険なのは、その数。
数は十倍以上。
体力的な疲れよりも、精神的に疲れる危険性が有る。
――――――
「味方に当てるな!化け物だけを狙え!」
「まさか、こんな泥沼試合になるとはな!」
「無駄口を叩くな!少しでも気を抜けば、揚陸艇を破壊されるぞ!」
次々と迫りくる魔物達。
その対処に当たる前方の部隊。
彼らの戦いを遠くから眺めつつ、狙撃によって支援を行う。
彼らの守る大型揚陸艇は、遠方に居る部隊との通信、周辺の情報収集を行える。
しかも、まだ中には大量の備蓄物資が有る。
破壊されれば、それらも失う事となる。
故に、何としてでも守らなければならないのだ。
『揚陸艇から地上部隊へ』
「何だ!?こっちは忙しい!手短に頼む!」
『上空の部隊より伝達、敵の増援を確認しました、多方向からの攻撃に注意してください』
無線による通達を行ったのは、揚陸艇に乗る一機のアンドロイド。
チハルの姉妹機、チフユ。
彼女は主に、ドレイクのオペレーターとして、任務に参加している。
現在は、この町で活動する部隊全員のオペレーターの役割を担っている。
「まだ来るか」
『敵の位置をマーク、ディスプレイに表示します』
「……クソ、倍以上の数だ」
チフユの手で、守備隊とドレイクに、増援の位置を伝えられる。
上空でハーピーとの戦闘を行う、コンドル達が認識した物。
前方の道路は勿論、その左右の道からも、次々魔物がやって来る。
「揚陸艇!そっちの状況はどうだ!?」
『迎撃準備完了、地上部隊、空中部隊の支援を開始します』
「ありがたい」
チフユの言葉と共に、揚陸艇の各部位から、アンドロイド兵や、エーテル・アームズが出現。
ロケットランチャーや、スナイパーライフルと言った、遠距離武器を主に持つ。
他にも、揚陸艇に搭載される兵装も起動、迫りくる魔物達に照準を合わせる。
降下したばかりという事も有り、たった今迎撃態勢が整ったところだ。
「各員、多方向から来る魔物に対し、制圧射撃を行え!火力を惜しむな!!」
「了解!」
再度陣形を組み直し、地上部隊は増援としてやってきた魔物達へ、射撃を開始。
揚陸艇に搭載される兵器は、高火力な物が多い。
大口径のレールガン、ミサイル、バルカン砲等。
前線司令部として運用するべく、ほとんど動く要塞と言えるような武装だ。
以前ジャック達が使用した物と違い、エーテル・ドライヴを複数搭載。
その恩恵で、強力な砲撃を惜しみなく行える。
「まるで演習だぜ!こんなにバカスカ撃てるなんてな!!」
「全くだ!目を瞑っても当たるぜ!!」
「気を抜くな!アイツらは恐怖を感じない!撃つのを止めれば、一瞬で飲み込まれるぞ!」
揚陸艇からの砲撃支援。
コストを度外視した、兵器の運用方。
これらを持って、魔物の大群へエーテル弾や弾丸を打ち込む。
だが、進行を先送りにするのみで、効果的な攻撃とは言えない。
「何が演習だ!これじゃゾンビ映画のモブキャラみたいになんぞ!!」
「怯むな!アイツらを市街地に送られたら、途方もない被害が出るぞ!」
「被害どころか、町が無くなる!!」
前方の部隊も、増援の魔物達を相手する。
三方向から襲い掛かる魔物の大群。
小隊規模の歩兵に、エーテル・アームズと、タンクが少し加わった程度の戦力。
数的にいって、あまりにも差が有りすぎる。
二方向の敵を抑えられても、もう一方はおろそかに成っている。
「マズイ、押されてるぞ!」
「歩兵は下がれ!俺達がやる!」
遂に防衛線を突破した魔物を相手するべく、ルプス隊は前へでる。
近接装備に切り替えたルプス隊は、魔物へと迫る。
接近戦を行おうとした時、後方部隊は、謎の雨に打たれる。
「な、何だ?」
「天気雨か?」
等という話が有った途端。
彼らに襲い掛かってきた魔物達は、突如発生した風と水に襲われる。
暴風と水でできた刃。
それらに襲われた魔物達は、一瞬にして討伐される。
「無事か?」
「ちゅ、中尉」
「こっちから来る奴らは、私がやる、お前たちは向こうの奴らの支援にまわれ」
「りょ、了解」
新たな支持を下したドレイクは、高周波ブレードを握り直す。
すると、ブレードに風と水がまとわりつき始める。
そして、ドレイクは一気に前方へと踏み出し、魔物の群れへと突っ込む。
同時に、水と風の刃が同時に吹き荒れた。
ドレイクは、一瞬にして大半の魔物を殲滅した。
「桜我流剣術・晴嵐」
この光景を見て、隊員達は思い出した。
今のドレイクは、ジャックに迫る戦闘能力を持っているという事を。




