嫌な思い出はなかなか忘れられない 中編
シルフィ達が町の制圧を完了した頃。
カルドは、マザーを介し、現在の戦況を把握していた。
ヘリアンの狙撃をかい潜り、上陸に成功。
その後、戦力を分散させ、上空の本隊との連絡手段の構築を開始。
ここまでは想定内だ。
「ふ~む、どうやら、予定通りに進軍してくれているようだね」
ジャックの方は、到着と同時に、ドローンと本人の剣によって、瞬時に制圧を完了。
ラベルクの方も、保持するキャノンによる砲撃、ドレイクの活躍によって、制圧を完了した。
何とも早い進軍だが、驚きはしない。
むしろ、ここまで来てくれなければ、肩透かしもいい所。
「なぁ、何時に成ったら俺らの出番なんだ?」
「いい加減待ちくたびれましたわ」
戦況の把握を行っている所に、デュラウスとイベリスが話しかけてくる。
二人共、かなり落ち着きが無さそうにしている。
現在動員したアリサシリーズは、ヘリアンのみ。
撤退してきた彼女は、ジャックとの再戦に燃えており、銃器をぎんみしている所だ。
「安心していいよ、もうじき彼らの本隊が到着する、君達には、彼らを相手取って」
「おっしゃ!んで、何時だ!今か!?」
「焦らないで、今彼らは陣を形成している所、折角だ、明日にでもしよう」
「ちぇ」
カルドの提案に、ウキウキしていたデュラウスは、少しふてくされる。
何しろ、義体を新調してから、実戦はまだ。
エーテル・ギアも、新しく制作したばかり。
まるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、はしゃいでいた。
なので、彼女としては、もっと早く戦いたいと思う所だった。
「そんじゃ、仕方ねぇから、俺はアブクマの整備でもしてくるわ」
「あ、それも良いけど、誰が何処に攻めに行くか、三人で決めておいて」
「うい~っす」
カルドの言葉に、デュラウスは不愛想でガサツな感じに、ヘリアンの元へ行く。
イベリスと共に、またクソ長い通路を歩く。
人間はもういないので、なんとも寂しい通路と成ってしまっている。
「しかし、あのような態度はいかがな物かと思いますわよ」
「何がだ?」
「彼は仮にもわたくし達のマスター、もう少し敬意を払われては?」
「はぁ、乳だけじゃなくて、態度もデカく成ってないか?お前」
「う、うるさいですわ、こうしなければ、エーテル貯蔵量が、わたくしの思い通りに成らないのですよ」
隣を歩くイベリスを、デュラウスは細めた目で見つめる。
今のイベリスは、義体をカスタムしたことで、身長は他の姉妹の誰よりも高い。
とはいえ、ヘリアンとは、並べないと解らない位の差だ。
それだけでは、彼女の思い通りにいかなかったようだ。
なので、何故か胸部を少し大きめに設計したらしい。
「ま、良いか、さっさとヘリアンの所行こうぜ」
「はい、彼女の事ですから、あそこに居ますわね」
「十中八九そうだろうな」
適当に話ながら進み、ヘリアンのいる可能性の高い場所へと足を運ぶ。
それは、ヘリアンの部屋の近くにある空き部屋。
その地下には(ヘリアンが勝手に作った)地下室が有る。
そこには、ヘリアンが(許可なく、趣味で)制作した銃器を置いてある。
「やっぱりここか」
「ですわね」
思った通り、地下室に通じる扉が開きっぱなし。
二人は、下へと降りていき、大量の銃器を飾ってある部屋にたどり着く。
銃器だけでなく、実弾や色々な装備を制作するための機材もそろっている。
「おーい、ヘリア~ン」
「……」
部屋の中央で、ヘリアンを見つける。
だが、何かブツブツと呟きながら、銃を選んでいる。
二人の存在にも気づいていない。
「あ」
「しばらく無理そうですわね」
ヘリアンは、銃を選ぶとき、何故か自分の世界に入ってしまう。
いつも通りのような無口ならば、特に問題ない。
しかし、今のようにブツブツと呟いている時は、マジで人の話を聞かない。
「バックアップのハンドガン、銃剣仕様は効果的だったけど、やっぱりジャック相手には、威力が不足してる、彼女と戦うなら、銃剣はいらない、そうなると、メインアームが重要……ライフル系今回パス、ランチャーは……当たらなきゃ意味がない、こっちもパス……いや、案外使えるかも、でも、メインはやっぱりショットガン系に成る」
等と独り言をつぶやきながら、ヘリアンはショットガン系の銃を取る。
手に取った複数種のショットガンは、目の前のテーブルに並べられる。
かなりの数を選別され、更にそこから選出を開始する。
「ダブルバレル式、セミート、ポンプアクション、各種エーテル式と実弾式、その他諸々、アイツと戦うなら、やっぱりエーテル系が良い……けど汎用性が有るこっち?でも、重量がかさばる、こっちにするか?いや、扱いやすさ重視のこっち、いや、最終的には接近戦をすることになるか」
「この感じ、なんか身に覚えが」
「奇遇ですわね、わたくしも、何か……」
独り言をつぶやきながら、大量に有る何かを独りで選ぶ。
この様子に、二人は何となく身に覚えを感じる。
とはいえ、もう少しで終わりそうな感じは出ている。
メインの選択が終われば、後はサブアームを十五分以上悩みだす。
その後は、結局は何時もの二丁拳銃に落ち着く。
そういった事は、何度か見てきたので、二人はわかっている。
「あ、あのオッサンが一人で飯食うドラマ」
「あ~、確かにあれですわね」
「……やっぱりこの二丁は外せない、でも、あえてソードオフのダブルバレルを……いや、ショットガンはもういい、やっぱりこっちを……いや……う~ん、私のイオスには、やっぱりこっち……」
「後何分だ?」
「後五分か、十分程ですわ」
「うどんでも作るかな~」
折角なので、カップのうどんと、ヤカン、カセットコンロを用意し始めるデュラウスであった。
しかし、先にヘリアンの銃の選択が終了。
選び終えたショットガンを持ちながら、ヘリアンは二人の存在に気付く。
「……ここで何してる?」
「あ、終わっちまったか」
「貴女もお食べになりますか?」
今まさにお湯を注ごうとしている所を、ヘリアンは目撃。
折角なので、イベリスの提案にのったヘリアンだったが、少し考えてしまう。
二人は、赤いカップうどんを持っている。
しかし、ヘリアンは、緑のソバ派。
「……緑有る?」
「おう、有るぜ」
「じゃぁ、それ」
ヘリアンの好みを知っていたデュラウスは、ヘリアンに緑のソバを渡す。
予め沸かしておいたお湯を注ぎ、数分後。
ちょっとしたおやつ感覚で、三人は麺をすすりだす。
その際に、カルドから言い伝えられていた事の話を始める。
「あ、そう言えば、ヘリアン、お前は、ジャックとシルフィ、ラベルク、この三人の誰と戦いたいんだ?」
「急に何?」
「カルド様のご命令により、明日、わたくし共で三手に分かれた彼女らの襲撃を行います」
「そう、なら、ジャックの方に行かせて欲しい」
ヘリアンの発言に、デュラウスは少し驚く。
てっきり、シルフィの方に行くと言い出すかと思った。
だが、考えてもみれば、リリィを除き、この中でジャックと戦闘経験が有るのは、彼女だけ。
少し、ライバル意識じみた物を覚えたのだろう。
「うし、じゃ俺がシルフィだな」
「お待ちを、わたくしに行かせてもらます?」
「そうか、やっぱりお前もか」
イベリスの発言に、デュラウスは彼女を睨みつける。
何しろ、二人は是非ともシルフィと戦いと考えていた。
二人共個人的な感情とはいえ、二人にはシルフィと戦う理由がある。
出来れば、譲りたくはない所だ。
うどんのツユまで飲み干したデュラウスは、勢いよくカップを置く。
「しかたねぇ、やるか」
「ええ、そうですわね」
お互いに殺気を込め、右手を振り上げる。
相手の手の内を読みつつ、どのように手を打つか、二人の思考は高速で回転する。
そして、二人は掛け声と共に、手を出す。
「最初はグー!!」
という掛け声と共に、普通にジャンケンを始める。
だが、二人の出した手はパー。
そのせいで、お互いに睨み合ってしまう。
横でヘリアンは、目を細めながら観戦する。
「……なぁ、お姉ちゃんは確か、最初はグーって言った筈だが?」
「わたくしの地元では、これはグーですわ」
「見苦しいぜ」
「普通にやって」
ヘリアンの言葉で、二人は改めてジャンケンを再開。
あいこが続くとかではなく、勝負は長引く事に成る。
お互いに負けては、三本勝負、五本勝負と、どんどん勝負回数が増えてしまう。
最終的に百本勝負まで膨れ上がり、デュラウスが勝利した。
その際、喧嘩ざたになりかけ、部屋を荒らされないように、ヘリアンが静止させたのが大きい。
――――――
三バカがジャンケンに明け暮れている頃。
暗い部屋でただ一人、リリィは送られてきたデータに目を通していた。
「……」
「如何したの?辛気臭い顔して」
「貴女には関係有りません」
外で行われている戦闘のデータファイルを読むリリィに、カルミアは話しかける。
その表情は、何処と無くゆかいさを感じる。
だが、今のリリィには、そんな事を気にする余裕はない。
データの中に、シルフィの姿を捉えたのだ。
「……如何して、どうして来たのですか?貴女まで」
「良いじゃん、感動的だね~、昔の恋人同士が再開する、それも、お互いが敵同士に成る戦場で」
「……貴女の歪んだ思考に、付き合う暇は有りません」
「ははは、ま、どうせアンタ等とアタシが戦うのはもっと後、その前に、アタシがケリつけるかもだけどね」
カルミアの言葉に、リリィは軽く舌打ちをする。
どう転ぼうと、シルフィが危険に成る事に変わりは無い。
虎の子として残されている今。
何とももどかしい気持ちになる。
今すぐにでも会いに行きたくても、行く事は許されない。
そして、彼女を殺さなければ成らない。
「如何して、何故こんな事に」




