嫌な思い出はなかなか忘れられない 前編
上陸に成功した先鋒部隊達。
彼らは、装備のチェックを行った後、四つの指定された班に分かれ行動を開始。
B班として動く事に成ったシルフィは、ネロと共に、指定ポイントを目指す。
装甲車に搭乗し、歩兵数名と、同人数のアンドロイド兵と共に移動。
他のビークルは、多脚型の戦車一両、ルプスとコンドルの一機ずつを支給された。
シルフィは装甲車の銃座に座り、偵察を行っている。
「シルフィ、敵の布陣は解るか?」
「えっと……ゴブリン、ハーピー、オーク、みんな、あの機械っぽい装備着けてる」
「そうか、数はどれほどだ?」
「……見た感じだと、ゴブリン三十四、ハーピー二十六、オーク十二」
千里眼のおかげで、シルフィは目の前に広がる市街地全体を見渡せる。
町並みは、シルフィも見慣れた木組みと石畳でできた物。
因みに、ジャックの向かったポイントは、木造の多い町。
ラベルクの向かったのは、所謂高層ビルの立ち並ぶ町だ。
比較的見慣れた町に群がる魔物達。
近代兵器で武装していなければ、かなり親しみが有る。
「(何時もは食材とか、アイテムの素材みたいな感じだけど、あんな事されてると、何か可哀そう)」
機械化されている魔物達。
解析の結果、彼らは洗脳によって、強制的に戦わされている事が判明した。
それだけならいいが、武装はかなり酷い。
右手のライフル、左手のシールド、全身の鎧。
これら全て、身体強化効果のある金属フレームに繋がっている。
そのフレームは、骨にボルトを直接打ち付けられ、固定されているようだ。
ラベルク曰く、こうすると、操作のラグを最小限にできるとの事だった。
「……はぁ」
「如何かしたか?」
「あ、ごめんなさい、ちょっと、魔物達がかわいそうで」
「かわいそう、か、今は、そう言った感情は捨てた方が良い、お前だって、狩りをするとき、イチイチ生殺与奪を気にしたりしないだろ」
「う、そうだよね」
ネロの発言に、シルフィは言い返せなくなる。
今は戦争中、相手に同情している場合ではない。
いつもと同じだ。
仲間と一緒に、魔物を倒す。
それだけの事。
「ところで、他に何か特徴的な物は有るか?我々の一番の目的は、町の制圧ではなく、後続の道を開ける事にある」
「あ、そうだった」
ネロの言葉に、シルフィは最優先任務を思いだす。
今この島は、高濃度のエーテルに包まれている。
それだけでも厄介だが、ジャミングもされているようだ。
その影響で、宇宙にいる本隊への連絡を、満足に行えない状態。
今下手に増援を呼べば、まだ残っている対空砲の攻撃にさらされる。
無用な犠牲を出す事になるのは、承知できない。
「えっと……あ、何体か屋根に上ってる、両手に、何か大きい武器持ってるし、背中に何か背負ってる」
「巨大な武器、恐らく、対空砲の類か、背部は、エネルギー供給用の装備か、あるいは通信妨害装置、というところか」
シルフィの報告をもとに、ネロも双眼鏡を覗き、敵を認識し、思考を巡らせる。
現在の戦力は、二個分隊程度しかない。
下手に攻撃をしかければ、増援部隊を呼ばれて壊滅しかねない。
しかも、相手は機械仕掛けの敵。
心理攻撃や、催涙弾なども通じない以上は、このまま奇襲による殲滅を続行するしかない。
「よし、各機に通達、このまま直進せよ、我々には土地勘が無い、正面からの攻撃を行う、優先目標は、背部に大型のバックパック背負う個体だ、恐らく、通信妨害を行う個体と推測される」
装甲車内の無線を使い、ネロは部隊へ指示を下す。
無線の内容を聞いた隊員達は、より引き締まった表情へ変わり、武器の準備を開始。
シルフィは、銃座の席を正規の隊員と変わり、車内へ戻る。
「コンドル2、ハヤブサ隊と共に先行!敵の気をそらせ!」
「了解!先行する!」
ネロの指示により、コンドル2はハヤブサ隊三名と共に先行していく。
町の上空へと移動し、コンドル2は、地上にいる魔物をサーチ。
装備するエーテル・ライフルを構え、上空から射撃を開始。
共に先行したハヤブサ隊も、装備のエーテル・ライフルを使用し、狙い撃つ。
「こっちに気付いた!」
「散開しろ!地上部隊が町に入れればいい!」
「鳥やろう共もでてきたぞ!」
上空の部隊の存在に気付いた魔物達は、上空へ射撃を開始。
それに伴い、ハーピー達も飛翔し、コンドル2達へと接近。
空中の部隊達は、飛来してくるハーピーを中心に狙い、次々撃ち落としていく。
対空砲火を避けつつ、空中の敵を撃破する。
危険にも程が有るが、彼らも伊達に死線を潜り抜けてきた訳ではない。
「はは!動きが単純すぎるぜ!」
「戦友の仇だ!容赦しないぞ!」
上陸時に相手取った時は、射撃の難しい状況であったが、今の状況は、通常の戦闘でしかない。
ハヤブサの性能の恩恵により、重力下であっても、縦横無尽の動きを可能としている。
おかげで、ハーピー達は勿論、地上の魔物達も、彼らを捉える事に難航している。
「ブヲオオ!!」
オークたちには、両手にガトリング砲と、両肩の対空砲を装備している。
ガトリング砲は、純粋なエーテル兵器。
両肩の対空砲は、エーテル技術を用いていても、実弾を使用している。
火薬ではなく、圧縮したエーテルを使用し、砲弾を打ちだす。
そのおかげで、対空砲は、サイズに似合わず、長距離の砲撃を可能としている。
上空の部隊に対し、オークたちは雄叫びを上げながら砲撃を行う。
だが、それは命取りとなる。
「こっちがお留守だぜ!」
「ッ!?」
オークの身体は、二つに引き裂かれる。
到着した地上部隊、ルプスの使用するバスターソードによって、両断されたのだ。
着用するアーマーは、ソードの質量によって砕かれ、体は容易く切断された。
「よし、サーバル隊、ゴブリンを中心に排除!タンクとルプス2は、オークを狙え!」
装甲車から降りたネロは、巨大な斧を携え、サーバル隊と共にゴブリンを相手取る。
多脚戦車と装甲車は、機関砲や主砲によって、歩兵部隊の支援を開始。
「オッシャァ!覚悟しやがれよ!」
地上戦闘用に調整されたエーテル・ギア、サーバル。
腰部には、ハヤブサの物と違い、地上戦闘用にカスタムされた物を使用し、装甲も強化されている。
射撃装備は、エーテル・ライフル。
接近戦装備は、種類が安定しておらず、各々が好きな武器を携行している。
背後からのアンドロイド兵の射撃支援により、安心して接近していく。
「ウオラァ!」
「ヌン!!」
ホバー走行による高速移動。
そこから生まれる運動エネルギーを利用し、ゴブリンを一撃でほうむる。
だが、体格差の有るオーク相手には、十分距離を取りつつ、ライフルで牽制。
歩兵に気を取られた所で、戦車砲によって貫かれる。
「レールガンの味は如何だ!?豚野郎!」
「今日はポークソテーにでもするか!?」
元々、血の気の荒い戦車部隊。
口を悪くしながら、搭載されているレールガンを打ち出す。
その威力は、シルフィのストレリチアには及ばない。
それでも、目標を貫くには十分すぎる火力を持っている。
「次はどいつだ!」
意気揚々と、敵を排除していくB班。
だが、機械化しているゴブリン達の長所は、しぶとさでもある。
倒したつもりでも、また動き出してくる事も稀にあった。
「へ!今回は楽勝だな!」
「おい!そいつ頭潰れてないぞ!」
「え、ヌお!?」
サーバル隊の一人は、完全に油断していたところを、殺しきれていなかったゴブリンに襲われる。
現在の魔物達は、機械化の影響により、生命力が上がっている。
頭を完全に潰さなければ、たとえ上半身だけに成ろうと、襲い掛かってくる程だ。
完全に不意打ちを受け、食いつかれそうになってしまう。
「……あれ、て、怖!」
「ギャギギギ!!」
だが、襲われる寸前で、一枚の板により、ゴブリンの攻撃は阻まれる。
それでも、隊員に食い掛かるので、軽い恐怖を覚えた。
驚いて腰を抜かす彼の代わりに、ゴブリンの頭に攻撃が打ち込まれる。
「……弓矢、はぁ、助かったぜ!」
立ち上がると、少し高めの建物に居るシルフィへと、グッドサインを送る。
シルフィは、後方へとさげ、全体の把握と、狙撃を頼んである。
ストレリチアのおかげで、更に長距離の精密狙撃を可能としているだけあり、狙いは正確だ。
ついでに、プロテクト・ドローンによって、歩兵たちを守る事も役目だ。
「……良かった、当たって」
狙撃に成功したシルフィは、少し気を緩める。
何しろ、隣には護衛として、高機動型のアンドロイド兵を付けられているのだ。
モデルは、リリィと最初に有った日に戦った物と同じ。
「(ヤバい、思ったらダメだけど、トラウマが……)」
何しろ、シルフィは一度、彼らに殺されかけている。
今は味方とはいえ、先入観のせいで、謎の恐怖心を抱いていた。
失礼だと思って、ずっと考えずにいたが、銃口を向けられないかと、ヒヤヒヤしてしまう。
しかも、何の因果かと思える事が起こり、ちょっと変な気分にも成ってしまう。
「グギャギャギャ!」
「ゴブリン」
シルフィの狙撃位地に上がって来たゴブリンは、二人よりも早く射撃を開始。
銃弾が来る前に、シルフィはアンドロイド兵を下げ、ドローンで防御する。
全ての銃弾を弾いた事を確認し、シルフィはドローンを解放。
背後のアンドロイド兵と共に、射撃を行い、ゴブリンを蜂の巣にする。
「……」
この光景に、シルフィは軽いデジャブを覚え、過去を思い出す。
リリィと初めて出会ったあの日。
「ゴメン、リリィ、居たわ、銃撃してくるゴブリン」
何とも奇妙な気分に成った。




