降下作戦 後編
ジャックは先鋒部隊よりも、一足早く上陸を達成。
海中に仕掛けられていた機雷群を力づくでかい潜り、砲撃を行っていた部隊と対面する。
敵側の戦力は、アリサシリーズのヘリアンと、通常の高機動型アンドロイド四機。
対空砲を破壊し、五機のアンドロイドを引っ張り出したジャックは、戦闘を開始する。
「酔狂なものだ!接近戦でチャンバラやるご時世に、射撃特化とはな!!」
「別に、私が望んだわけじゃない、単純に他の連中より、射撃が上手いだけ」
「そうかよ!」
何時ものように、炎をまとった刀で戦うジャック。
彼女に対し、ヘリアンは大型のエーテル・ガン二丁で戦闘を行う。
エーテル・ガンの下部には、通常のアダマント合金で制作された銃剣を装備しており、接近戦にも対応している。
銃剣による刺突、払い。
それらと同時に、ヘリアンは発砲する。
アニメかゲーム位でしか、見る事の無いような戦い方に、ジャックは思わず笑ってしまう。
「おもしれぇ戦い方だ!俺でもそんな奇抜なやり方しねぇぜ!」
「アタッチメント無しの銃で、殴ったりするアンタに、言われたくない」
「(喋り方、もっさりしてんのが地味に気になる!)」
刃同士のぶつかり合いで生じる火花と共に、射出されたエーテル弾も周囲にまかれる。
他のアンドロイド達は、ヘリアンの邪魔に成らないよう、遠方から銃撃を加える。
むしろ、それは余計な行為。
ジャックの駆るドローンで、簡単に撃破されてしまう。
「(コイツも厄介だが、先鋒部隊の連中の負担も、軽減してやらねぇとな!)」
ヘリアンとの接近戦。
それと同時に、ジャックは次々と出撃するハーピー達を、ドローンによって撃破。
以前の物のように、エーテル・ガンは外付けではなく、装甲で完全に覆っている。
上下の開閉によって、銃口を出現させ、内部の加速器により、威力と弾速を向上させている。
その恩恵により、高速で動くハーピーも、刺突だけでなく、射撃も有効打となる。
「(器用な奴、私と戦いながら、ドローン操作で、ハーピーを落としてる、でも、それは慢心でもある)」
ヘリアンは、ジャックを更に鋭い眼で睨む。
ドローン操作と接近戦の同時展開。
それは簡単な事ではない。
スポーツをしながら、ゲームをプレイしている事と同じ。
神業に近いが、そんな事をすれば、僅かな瞬間に明確な隙を生じさせる事に成る。
「そこ」
「ッ!?」
ジャックのわずかな隙を付き、ヘリアンは腹部へ刺突。
刃はアーマーを貫き、ジャックの腹部を裂く。
更に容赦なく、ヘリアンはゼロ距離から射撃を行う。
遠距離からの効果は薄くとも、ほぼ接着している状態であれば、相応のダメージは受ける。
「アガガガガ!!」
「フン!」
ゼロ距離でエーテル弾を撃ち込まれ、アーマーは損傷。
体にも容赦なく撃ち込まれ、内部を抉られる。
自然に抜けるまで撃ち込まれると、ジャックの顔面にヘリアンの蹴りが炸裂する。
「や、やりやがったな」
「成程、やっぱりこの程度じゃ、ダメなんだ」
蹴りによって吹き飛ばされたジャックは、すぐに持ち直し、傷を再生させる。
同時にアーマーも修復され、すぐに万全の状態となる。
それを見たヘリアンも、俄然やる気を出す。
「……それじゃ、準備運動は、この辺でやめよう」
「賛成、こっからは本気で行くか」
ヘリアンの提案に賛同したジャックは、刀を構え直す。
それを見たヘリアンも、銃をしまい、腰に差してあるナイフに手を当てる。
同時に、右目を覆っている前髪にも、手を置く。
「……」
「……」
二人は硬直する。
互いににらみ合い、隙を伺う。
正に一触即発の空気が流れる中で、ジャックはとある音を拾う。
「来たか」
「こっちも来た」
「チ」
ヘリアンの言葉に、ジャックは舌打ちをする。
彼女の言う通り、島の奥の方からも何かの音が聞こえて来る。
海の方からも、先鋒部隊は接近している事は解るが、早速厄介な事になりそうだ。
そんな警戒をするジャックだが、目の前のヘリアンは武装を解除する。
「それじゃ」
「な、逃げんのかよ!?」
「うん、どうせ、迎撃任務は失敗してる、アイツは、万全のあんた等との、闘いを望んでる、むしろウエルカム」
「あ、待ちやがれ!」
色々と言い残したヘリアンは、島の奥へと飛び去ってしまう。
残されたジャックは、後続の部隊と同時に、迫りくる脅威に対し警戒を強める。
刀をしまい、愛用のハンドガンと、支給されたライフルを構える。
「さて、何が来やがる?」
すると、上空から複数のコンテナが投下。
地面に突き刺さり、コンテナは開放される。
出てきた中身を見て、ジャックは驚く。
「ッ!ゴブリンか!?それにオークまで」
中から出てきたのは、乱雑に詰められたゴブリンとオーク。
しかも全員もれなく機械化済み。
装甲化された表面に、右腕には射撃武器。
左腕には、シールドとブレードの複合兵装を持っている。
そんな連中が、ジャックへ向けて、猛進してくる。
「OK、やってやんよ!!」
迫りくる魔物の群れに、ジャックは制圧射撃を実行。
一人で応戦していると、先鋒部隊はようやく到着。
ジャックを援護するべく、戦闘を開始する。
――――――
十数分後。
到着した先鋒部隊の協力によって、沿岸の制圧に成功。
キャンプを設置し、状況の整理を始める。
「はぁ、死ぬかと思った」
「お疲れさん、まぁこっからが本番だ、頑張ろうや」
その前に、初めての実戦に、お疲れのシルフィを、ジャックはなだめる。
初めての高速移動状態での戦闘、疲れない方がどうかしている。
それに、ヘリアン達の対空砲、ハーピーの襲撃。
そのせいで、コンドル一機とハヤブサ隊三名を喪った。
そう言った部分の気苦労も有る。
なだめ終えたジャックは、敷設されたテントへ入り、状況を確認する。
「しかし、一機だけとはいえ、コンドルを失ったのは痛手ですね」
「ああ、だがこのままの戦力でやるしかない、連中の対空警戒網に穴を開けないとな」
「はい、こちらの沿岸部分だけでなく、この近辺に有る市街地に、対空用の設備がございます」
ジャック、ラベルク、ドレイク。
この三人は、島の全体図を眺め、今後の方針をまとめようとする。
そこで生まれる疑問は、何故この無人島に市街地が複数あるのか。
理由は簡単、様々な地域での訓練を行う為。
それに関しては、ブリーフィングの資料にまとめてあった。
ジャック達は、深堀せずに話を続ける。
「我々の居るポイントはこちら、本隊の誘導を行うには、この三か所を制圧する必要がございます」
「成程、なら、先ずは部隊を四班に分けるか」
「しかし、それでは戦力を分散する事に成りますよ」
「ああ、だが、シルフィの話では、アリサシリーズには、砲撃支援モデルもいる、下手をすれば、一網打尽にされかねない」
「それに、こうする事は敵も予想している筈、増援にアリサシリーズを導入してくる危険性も有る、全員で同じポイントを制圧するとなれば、話に出ていた五機すべてを相手にする可能性も高くなる」
ラベルクの疑問に、ジャックとドレイクはスラスラと答える。
二人にとっては、当たり前の事なのだろう。
そう思えるやり取りに、ラベルクは少し笑みをこぼす。
「先ず、このポイントを制圧するA班、こっちはB班、三つ目にC班、そして、この沿岸警備にD班だな」
「アリサシリーズが来るとすれば、対空警戒網の生きているABC班のポイントか」
「ああ、警戒網の穴を塞ぎに来る可能性が有る」
「そうなると、俺とシルフィ、ラベルクを筆頭に、お前ら三人も連れ出すか、それと、ラベルク、一ついいか?」
「何でしょうか?」
「沿岸の対空砲、あれ、使えそうか?」
ある程度考えがまとまると、ジャックはテントの外にある対空砲を指さす。
ドローンで破壊したとはいえ、そこまで修復には時間はかからない。
だが、セーフティに生体認証の類を使っている場合を考慮すると、使えない可能性も有る。
ラベルクは、ジャックの質問に答えるべく、対空砲をスキャンする。
「……スキャン完了、小破しておりますが、修復後、プログラムを変更いたせば、皆さまにもお使いいただけるかと」
「そいつは良かった、俺達が行っちまうと、戦力が四分の一未満になるからな、少しでも火力を保持しておきたい」
「左様でございますか、では、修復とセッティングは、こちらで致します、大尉と中尉は、皆さまに作戦概要を」
「ああ、頼んだぜ」
――――――
ジャック達が、作戦を纏めている頃。
シルフィは海に向かって、祈りを捧げていた。
「(まさか、もう死んじゃう何て……これが、戦争)」
部隊の面々は、少し苦い顔をする程度だった。
慣れている、というよりは、割り切らなければ、やっていられない。
そんな感じの表情がほとんどだった。
幸い、上陸してすぐの戦闘では、目立った犠牲は無くとも、それなりに被害は出た。
「(負傷者十名、ここの人たちは、回復魔法が使いえないから、治療による自然治癒を待つ事が一般的)」
この事実に、シルフィは自分の無力さを思い知る。
ヘレルスが居れば、少しは違った。
そういう考えが出てきてしまう。
千里眼を覚えられても、まだ天の方は不十分。
回復は行えず、むしろ患者を苦しめる事に成ってしまう。
「(……悩んでちゃダメ!今は私も兵士何だから!)」
両頬を叩き、気合を入れなおしたシルフィは、ジャックの招集命令を耳にする。
遅れてはならないと、急いでみんなと一緒に集合する。




