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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
148/343

連なる愛 後編

 ストレリチアの受け渡しから二か月後。

 シルフィは、いつも以上に訓練に精を出し、何とかジャックと少佐からのお許しが出た。

 そして、今日は選抜された隊員達とブリーフィングを行う日である。

 会議室にて、少佐の演説を終えた後、ジャックの口から、様々な真実を語られる。


「今回の作戦を遂行するにあたり、幾つかおさらいするべく、この場を借りて、これまでの事を君達に伝える」


 何時も着崩している軍服は、キッチリと着用し、何時になく真剣な顔をするジャックは、今回の作戦における情報の開示を行う。

 作戦には、仇敵であるラベルクも参加する。

 なので、今回ばかりは、彼女は味方であるという理解を求める事も、目的の一つだ


「ラベルクがこちらへ寝返り、協力関係となってくれていた事実は、君達も知るところだろう、そして俺は、ロスターというエージェントとして、彼女に協力していた……ナーダ達が、この世界へ逃れる半年前からの話だ」


 この発表に、室内は騒然とする。

 アリサシリーズとの闘いは、もう三年前からという時間が経過している。

 部隊の中には、これまでのアリサシリーズによって、家族や友人を殺されている。

 そんな相手と、部隊長が協力していた。

 本来であれば、軍法会議に掛けられてもおかしくは無い。


「だが、此れだけは胸に刻んで欲しい、俺達は、戦争の無い世界を目指し、今日まで戦ってきた、それは、ヒューリーもまた同じ事、ナーダ時代は、強制されて彼女達を作っていたが、俺との協力を期に、彼は進んでシリーズの最新機を制作してくれた、全ては、俺達の勝利の為だ」


 ジャックは、ヒューリーが協力的だった事を信じて欲しかった。

 今までの信用が有っても、今の隊員たちからの信用は、大きく落ちている。

 それ故に、理解は難しい事だ。

 だが、解って欲しく思う。

 ヒューリーと共に目指した未来のために。


「だが、予定外の事態が起こった、それは、過去にヒューリーが制作したAIの謀反、それにより、本来計画に無かった新型のアリサシリーズが制作され、俺とヒューリー達が描いた計画は、大きな加筆と修正を余儀なくされた、だが、結果はこの通り……所詮は敵にしてやられた、奴らの計画については、本人より聞いて欲しい」


 演説を終えたジャックは、ラベルクの口より、彼らの行おうとしている計画を語らせる。

 だが、彼女の姿を見た途端、敵意をむき出しにする者が大勢見受けられる。

 やはり、彼女の過去の行いが、起因と成っているのだろう。

 彼らにとっては、三か月前まで敵だった存在だ。

 簡単に気を許す筈無い。


「ご紹介に与かりました、AS-Iラベルクです」


 一礼と共に、ラベルクは皆の目の前に出て来る。

 何時もの礼儀正しさを前面に押し出した立ち居振る舞い。

 だが、彼らにとっては、敵側の存在である事に変わりは無い。

 そんな空気を気にすることなく、ラベルクは解説を進める。


「結論から申しますと、彼らの目的は人類を管理下に置く事に有ります」


 ラベルクの言葉に、隊員達はざわつく。

 反旗を翻したAIが、人間達に牙をむく、そんな映画みたいな事が現実となっているのだ。

 敵の言葉であるが、マザーと呼ばれる量子コンピューターの存在を知る彼らにとって、それは真実であってもおかしくない。


「皆さまもご存じの通り、我々はマザーと呼ばれる量子コンピューターを保持しております、それによって、大規模なサイバーテロを実行、通信、情報、交通、この全てを掌握し、混乱する連邦に対し、武力制圧を慣行いたします、貴方方の排除が完了した後に」


 ラベルクの口より説明を受けた隊員たちは、より一層強い眼光をラベルクへと向ける。

 まるで、今の発言をラベルク本人の犯行声明文のように受け取っているようにも見える。

 だが、そんな中でただ一人は、難しい顔を浮かべながら、彼女の言葉を受け取っていた。


「ラベルク君、一つ良いかね?」

「はい、少佐殿」

「何故今すぐ、サイバー攻撃を行わない?何か理由が有るのか?」


 疑心の空気が募る中で、少佐だけはラベルクの言葉を受け取り、冷静に物事を考えていた。

 そんな少佐に感謝しながら、ラベルクはその質問に答える。


「はい、先ず、マザーは元々、貴方方ストレンジャーズへ譲渡予定でした、その為にも、マザーは未完成状態を維持する必要が有りました、ですので、マザーは現在も未完成状態です」

「それは、何故かね?」

「私とリリィの中に、完成させる為の最後のキーを保有しているのです、それを手に入れない限り、彼らは計画を実行できません」

「であれば、君が行く理由は何かね?それだと、彼らの計画を助長する事に成る」

「彼らの何よりの目的は、貴方方の排除に有ります、故に、私が捕獲されたとしても、貴方方が勝利すれば、彼らの計画は破綻いたします」

「そうか」


 少佐は、ラベルクより手渡された資料を基に、思考を巡らせていく。

 この資料は、全部隊に配布されている物。

 本拠地の座標、敵の戦力、規模、他にも様々な事を記してある。

 だが、本拠地の座標は正確に記されていても、戦力面においては、ほとんど不明慮だ。

 何しろ、現時点でも敵の戦力は増加傾向にある。

 今こうして居る間にも、敵は戦力を拡張し続けている。

 そして、これ以上の戦力増大を許す前に、相手を叩く必要がある。


「ラベルク、君は下がっていい、後は私がやる」

「承知しました」


 一礼したラベルクは、少佐と変わり、後ろへと下がって行く。

 そして、ラベルクと交代した少佐は、見える限り、隊員達の表情を伺う。

 ラベルクの発言で、更にアンドロイド達への負の感情が募ってしまっている。


「君達の感情も解る、このように、映画のような状況に成ってしまった事、そう簡単には受け入れる事はできないだろう、しかし、此れは我々への挑戦状でもある、ならば、我々が受けない理由は無い、いや、詭弁はもういいだろう、君達に作戦指示を伝える」


 少佐は、作戦プランを部隊に伝えるべく、背後のモニターに情報を開示。

 ミッションプランを説明された隊員達は、難色を浮かべながらも、その作戦を耳にする。

 当然、小声で愚痴を呟く者もいる。

 そんな愚痴さえも、ジャックの耳は捉えていた。


「以上で、作戦概要の説明を終了する、では、所定通り、選抜されたメンバーは、宇宙へ上がってくれ……ジャック?」

「悪い」


 少佐の作戦概要の説明が終了した後、ジャックは隊員たちの前に出る。

 その目は、今回の作戦に不満を持つ者達を睨みつける様と成っている。


「ある種、この作戦は、今まで敵であった連中の尻ぬぐいだ、当然、俺の責任でもある、だが、お前たちが行かないというのであれば、俺一人でも行く、テメェのケツぐらい、テメェで拭けって奴だ、だが、俺がしくじれば、俺達が今まで積み上げてきた物が、全て第三者の介入で破壊される事でもある、俺達の集った理由を、今一度考えてくれ、俺達の戦う覚悟と決意を」


 ジャックの言葉に、隊員たちは息をのむ。

 そもそも、この部隊創設の理由は、世界から戦争を無くす事を目的としている。

 だが、今や上層部の思惑によって、ただ反政府勢力を鎮圧する部隊に成り下がってしまっている。

 何時か訪れる平和を夢見て、彼らは戦いを続けた。

 失った恋人、家族、友人、身体、自分たちのように、理不尽な暴力で奪わせないためにも。

 その為ならば、たとえどんな形であっても、戦う覚悟と決意で、ここまできたのだ。

 例えどんなに落ちぶれた立場に成ろうとも、どんな形であっても、此処に集っている人間の目的は、一つだ。


「大尉」

「何だ?」

「私は、戦争で家族を、この右手を失いました、故に、新たな戦争の火種を撒く事は、我慢なりません、たとえ、敵側の失態を拭う事に成ろうとも」


 一人の兵士が立ち上がり、敬礼をしながら、自身の戦う理由を語る。

 そして、その一人の兵士に続き、次々と隊員たちは立ち上がり、敬礼をする。

 そんな彼らを、ジャックは見つめる。

 昔から知る顔ぶれは、もう三分の一も居ない。

 ほとんどが新たに編成されてきた連中だ。

 また、彼らに死にに行こうと言わなければならない。

 だが、その覚悟のうえで、こうして戦場に立っているのだ。

 たとえ、失ったモノが帰ってこなくとも。

 覚悟の眼差しを向ける隊員達を前に、少佐はジャックの横に立つ。


「少佐?」

「私からも言わせて欲しい」

「ああ」

「……恐らく、此れが、連邦軍所属、ストレンジャーズの最大最後の戦いとなる、諸君らの健闘を祈る、以上だ」


 ――――――


 ブリーフィングの後。

 宇宙へ上がる前に、ジャックはシルフィに呼び止められていた。


「ねぇ、ジャック」

「何だ?」

「ありがとう、私も先発隊に入れてくれて」

「気にするな、お前にも、つけなきゃいけないケジメってのが有んだろ、ただし、邪魔はするな」

「わかった……」


 今回の作戦内容を聞いたシルフィは、改めてジャックに礼を述べた。

 何しろ、先鋒部隊が島に降下したあと、増援として後続部隊が送られる事に成っている。

 シルフィを連れて来る位のであれば、後続に配置すればいいだけだ。

 なのに、ジャックと少佐は、シルフィを先鋒部隊として、最初から配置している。

 その事には感謝しかなかった。


「……でも、何で?私なんかを、連れて行ってくれるの?」

「おいおい、この前の威勢はどこ行った?何を今更」

「私には、貴女程の覚悟は無いし、大きな目標も無い、自分の小ささが、嫌に成るよ」


 うつむくシルフィは、今の心情をジャックに打ち明ける。

 教官三人や、他の部隊員たち。

 彼らとふれあい、シルフィは自分の小ささを思い知る事となった。

 このストレンジャーズという部隊の人達は、みんな相応の覚悟と決意を持っている。

 そんな中で、自分だけはただエゴの為に行く事が、とてもやるせない気に成ってしまう。


「……シルフィ」

「な、慰めならいいよ、どうせ、私は自分のエゴでしか動けないんだから」

「バカチンが!!」

「痛ったっ!!」


 下を向くシルフィに対し、ジャックは刀を納刀したまま頭を殴る。

 しかも割と本気で殴ったため、抜いていたらシルフィの身体は二つに成っていたところだ。

 そんな勢いで殴ったのだ、鞘に納められたままでも十分痛い。


「何が自分のエゴでしか動けないだ!んなもん当たり前だ!エゴに小さいもデカいも有るか!」

「いや、ゴメン!ちょっとゴメン!説教途中だけどちょっとゴメン!説教の威力じゃないんだけど!殴ってから良い事言う流れ何だろうけど!これ説教の威力じゃない!!」

「うるせぇ!エゴに優劣つけてるようなテメェにはこれ位がお似合いじゃわ!」

「う、で、でも私、本当に個人的な感情で来てるだけだし……」


 殴られた部分から血を流しながら、シルフィはジャックへ反論するが、ジャックの耳には届かない。

 此処まで怒っているジャックは初めて見るので、流石にツッコミさえ忘れてしまう。


「感情なんて、どんなに理由つけても、個人的な物だ、此処に居る連中は、その個人的な物が一致した、それだけだ」

「でも」

「エゴを恥じるな、それは、信念を貫く事から、目をそむけるだけだ」

「目を、そむける」

「そうだ、信念もエゴも、似たような物だ、アイツを助けるんだろ?だったらお前が最初に言ったように、殴ってでも連れ戻せ、その為に進め、お前が、正しいと信じた道を」


 真剣な目で放たれる言葉に、シルフィは言葉を失ってしまう。

 敵として見て来た筈の彼女が、今や親であり、頼れる仲間。

 それ故に、励まそうとしてくれている。

 ここ暫くは、ジャックを見直してしまう事は多かった。

 そして今は、ジェニーが彼女に好意を持った理由を知ってしまった。


「(意外と、アンタが親で、良かったのかな?)」

「ところで……」

「ん?何?」

「俺、今メッチャ親っぽい事言ったよな!?」

「お願いだからこの前みたいに素直に尊敬させて」


 やっぱり、見直す事を見直した方が良さそうだった。


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