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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
147/343

連なる愛 中編

 シルフィとジャックが二人で話した次の日。

 エーラ達に預けていたストレリチアの修復が終了したので、シルフィは研究所へと足を運ぶ。

 ジャックと共に部屋へと入り、研究室の一角に置かれているのを、シルフィは発見する。


「うわ~、ピカピカ、何か色々増えてるけど」

「ああ、幾らかアップグレードして、背部にはハヤブサにも着けてあるフレキシブル・スラスターを搭載して、機動性を三割増し位にしておいた」


 改修の終えたストレリチアを目撃したシルフィは、一際目に着く背部のスラスターを見つける。

 それは、空中機動作戦を主目的としている量産機、ハヤブサと同型のスラスターだ。

 バルチャーの背部ウイング型スラスターをベースに、一般人でも扱えるように、出力とサイズを絞った物だ。


「でも、何で連邦の装備が、リリィの作った鎧に着けられるの?」

「単純さ、ネオ・アダマントで作られた物なら、自由に規格を弄れるから、割と簡単に取り付けられるのさ、ま、どっちも元々ユニバーサル規格だから、そんな小難しい事しなくても大丈夫だけどな」

「効率化って奴?」

「そう言う事だ」


 ジャックの話に頷くシルフィは、改修されたストレリチアの背部に、ポッコリと何かが取り付けられているのを見つける。

 以前まではこんな物は無かったはずだ。


「あれ?これは何?」

「あ、そいつは、今は空だが、出撃時はそこにエーテル・ドライヴを入れる」

「え、何で?」

「出力の向上と、継戦能力の確保が目的だ、ドライヴが有れば、お前の魔力が底をついても、ある程度は戦い続けられる」

「成程、でも、リリィから聞いたけど、エーテル・ドライヴって、作るの大変なんでしょ?」

「まぁな、リリィやラベルクに着けられるような物は、俺らでもどう作るのか解らんから、もっと簡単に作れる奴、いわゆる、量産型エーテル・ドライヴだな」


 ジャック言う量産型のエーテル・ドライヴ。

 これは、リリィとラベルクの持つ物とは、少し異なる。

 エーテル・ドライヴは、両者共に内蔵されている魔石を燃料として、魔力を生成する。

 性能面では、両者に大差はそれほどないが、一番の違いは、稼働時間。

 リリィ達の物は、ほぼ永久と呼べるほどの時間である事に対し、量産型は持って三日程度だ。


「量産型、話には聞いてたけど」

「量産型っつったら、お前確か前に、聞いた事無い名前、三人くらい言ってたな」

「ん、ああ、ヘリアンと、イベリスと、デュラウスだね」

「誰だ?そいつら」

「えっと、AS―103―05とか言っていたから、リリィの妹達だね」

「しれっとヤベェ事言うなよ……」


 シルフィの言う名前の正体。

 それを聞いた途端、ジャックは少し嫌な顔をする。

 ラベルクやヒューリーから聞いていた103型の義体。

 それは現在、全部で五機存在している事は聞いている。

 五機の内の三機は、どうなっているのか解らなかったが、既にロールアウトされているのだろう。


「えっと、やっぱりヤバい?」

「ヤベェに決まってんだろ、その三人、もしかしなくても、リリィと同じ戦闘能力持ってんだろ」

「……確かに、ヤバいね」


 ジャックの言葉で、ようやく事の重大さに気付く。

 リリィと同じ戦闘能力を持った少女が、少なくとも三人も追加されている。

 それはつまり、リリィ四人を相手にする事でもあるのだ。

 継続戦闘能力を上げたのも、リリィ達との長期戦を予見しての事。

 リリィ一人でも、大群を相手にする事と同じ筈。

 であれば、人間一人の魔力なんてすぐに底をつく。


「おいおい、戻って来たと思ったら、随分重い空気だな」

「恐らく、まだ親子関係である事に、抵抗があるのでは?」


 ジャック達が話していると、ちょっと外に出ていたエーラと共に、ラベルクが研究所へと入って来る。

 二人共、アタッシュケースの乗った台車を押している。


「お、エーラか」

「ああ、如何した?まだ親子関係でギクシャクしてんのか?」

「いや、そっちは解決したよ、今は親子ラブラブで一緒に寝てんだからな」

「ウソつかないでくんない……まぁ、ちょっと見直したのは、本当だけど」

「シルフィ」

「あ」


 ジャックの嘘にツッコミを入れた後、余計な事を呟いたせいで、ジャックはおもむろにシルフィへと近寄る。

 しかも、何処か艶の有る感じだ。

 ジャックの地獄耳の事を忘れていた事に、強い後悔を覚えたシルフィは、ジャックの両目を潰す。


「馴れ馴れしくするのはまだ先!!」

「イダ!」


 容赦なく目を潰されたジャックは、床を転がりながら悶絶してしまう。

 そんなジャックを無視し、エーラとラベルクは、持ってきたアタッシュケースを並べだす。


「エーラさん、それは?」

「ああ、お前らように持ってきた武器さ、まぁ強制はしないから、気に入った奴は持って行ってくれって感じだ」

「へー」


 シルフィは、エーラとラベルクの持ってきた装備品を検めだす。

 ブレードやバスターソード、斧、マチェットにメイスに盾、時代錯誤もいい所だ。

 一応、中身は最新の技術が使われた物であるが、銃でドンパチやるような文明を持つ軍の装備とは思えない。

 とはいえ、射撃武器は必ずしも役に立たない訳でもないらしく、近接武器の横にとりあえず置いてある。

 しかし、矢の類が見当たらない。


「なんか気になる物有るか?」

「えっと、私、ガーベラとストレリチアが有るから、その、矢ってある?」

「矢か、まぁ使う奴が少ないから今は無いが、後で申請しておこう」

「ありがとう」


 エーラの言葉で、シルフィは少し安心する。

 やはり銃よりは、使いなれている弓矢の方が、自分には合っている。

 ストレリチアのボウガンも、扱いやすいが、やっぱり弓は、弓として使いたい。


「エーラ様、せん越ながら、例の物を」

「あ、そうだった、お前のストレリチア、確かドローン搭載が前提だったな」

「え、もしかして、それも新しい奴作ったの?」

「ああ、お前とジャックには、しっかり働いてもらう必要があるからな、突貫品じゃなくて、しっかりと吟味しておいたぜ」

「あ、ありがとう」


 得意げにドローンの入ったケースを渡して来るが、シルフィは苦笑してしまう。

 リリィ助ける為とは言え、いずれ起きる戦争では、かなり頼りされる事に成っている。

 何しろ、経験は浅いとはいえ、その気に成ればジャックと同等の戦闘能力を発揮できる。

 そうなれば、前線で戦う事位は有る。

 以前までの襲撃よりも、遥かに大変な事に成るかもしれない。

 気を少し落としながらも、シルフィはケースを開け、中身を取りだす。


「……ちょっと長くなった?」

「まぁ、普通はそう見えるだろうが、実はこれ、二個繋がっててな、それぞれ分離して使えるし、連結した状態でも使える、まぁ状況に合わせて使い分けてくれ」

「へ~(確かに、よく見るとつなぎ目が有る)」

「それと、やっぱ計十六は多いだろうから、ちょっと減らしといたが、性能は従来品よりも上げてある、いうなれば、プロテクト・ドローンⅡ!」


 シルフィは、エーラから渡された新しいドローンを目の当たりにする。

 ベースは、リリィの制作したプロテクト・ドローンだろうが、表面は少し丸みを帯びている。

 新しく制作されたドローン五つを、シルフィは受け取った。

 合計十機、リリィと一緒に戦っている時に感じた最適な数だ。


「あ、でもこれ、何処に着ければ」

「腰と肩にマウントラッチを付けておいたから、其処に取り付けると良い」

「あ、本当だ、了解」

「……そう言うのもいいが、コイツも持って行けよ」

「これって」


 ドローンのマウントラッチを見つけたシルフィに、ジャックはヘッドフォンを見せつける。

 それは、シルフィも見覚えのある装備、サイコ・デバイス。

 ドローンの操作性を上げ、相手の思考をより容易くキャッチできるように成る物だ。

 だが、以前ジャックが付けていた物と、少し形状は事なっている。


「サイコ・デバイスだっけ?」

「そうだ、それと、他にも機能を拡張してある」

「拡張?」

「ああ、あいつ等、ブレイン・ジャマーってのを開発したらしくてな、そいつの対抗兵器、ブレイン・ジャマー・キャンセラーだ」

「レッドクラウン解析の片手間に、私が作った」

「片手間で作れるんだ」


 エーラの発言に驚きながらも、シルフィはジャックからデバイスを受け取ろうとする。

 だが、シルフィがデバイスを握っても、ジャックは放そうとはしなかった。

 何故かと思い、シルフィはジャックの目をしっかりと見る。

 その目は、何時になく真剣な物で、何かを訴えかけている。


「良いか?こいつが最後の警告だ、俺達にとって、戦場は地獄以上の場所だ、それでも、本当に来るのか?」

「……今更だよ、此処までしてもらって、引けるわけ無いでしょ」

「そうか、だが、覚悟はしておけ、俺がこれだけシリアスに成るって事は、マジでヤバい事でもある」

「忠告、ありがとう……それに、その顔も止してよ、らしくない」


 シルフィのお礼を聞いたジャックは、自分が少し同情するような顔を浮かべている事に気付く。

 確かに、自分でもらしくない事だ、と思い、すぐに何時ものポジティブ風の顔付きに戻す。

 そんなジャックを見たシルフィは、エーラの指導を受けながら、サイコ・デバイスとドローンをストレリチアに取り付ける。


「よし、コイツで、ストレリチアは万全だな」

「なんか、四割方原型留めてない気がする」

「そうだな、なら、ストレリチア・レギネ、付け加えておくか」

「レギネ、良いかも……」


 ジャックの提案によって、多少長く成ってしまうが、シルフィは少し気に居る。

 それと同時に、シルフィはストレリチアに手を当てる。

 生まれ変わった鎧は、リリィの設計を踏襲しながらも、射撃と接近のどちらにも対応できるように成っている。

 今後は、支給品のエーテル・ギアではなく、こちらで訓練をする事に成る。

 当然、実戦でも使用する。

 これを使い、リリィと戦う事に成る。

 こんな事、考えるような事が有っても、本気にしたりはしない。

 だが、今はそうなる未来しか見えない、ならば、どんな事をしてでも、リリィに勝たなければならない。


「ねぇ、エーラさん、一つお願いして良い?」

「何だ?」

「ストレリチアには、悪鬼羅刹を使用した時、私の体に最低限の負荷しかかからないように、リミッターが設けられてるから、それを、外してほしいの」

「え……良いのか!?」


 シルフィが頼んだのは、リミッターの解除。

 リミッターを設けた事で、確かに体の負荷は減ったが、その分力も落ちている。

 だからこそ、リリィや他のアリサシリーズと戦う事を見越して、シルフィはリミッターの解除を申し出た。


「良いも悪いも無いよ、本当の戦争に成るなら、できる事は全部やる」

「そうか!ならとびっきりの物にしてやる!……グヘヘ~、いっその事、ジャックの奴をワンパンできる位強化されるようにいじくって~」

「バカ野郎」

「痛だ!!」


 必要以上の改造を施そうとしているエーラの事を、ジャックは力ずくで止める。

 何しろ、彼女の事だから、割と本気でそんな改造をしかねない。

 そんな事をすれば、間違いなくシルフィは死ぬ。

 そうなれば、仮にリリィを取り戻せても、ストレンジャーズは皆殺しにされる事だろう。


「あ、ありがとう」


 二人のやり取りに苦笑しながらも、シルフィはお礼の言葉を述べる。

 リミッターの解除、それはシルフィにとっても、覚悟の表れでもある。

 今リリィがどれ程苦しんでいるのか、それを考えれば、自分の身体がはじける位、どうという事は無い。


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