連なる愛 中編
シルフィとジャックが二人で話した次の日。
エーラ達に預けていたストレリチアの修復が終了したので、シルフィは研究所へと足を運ぶ。
ジャックと共に部屋へと入り、研究室の一角に置かれているのを、シルフィは発見する。
「うわ~、ピカピカ、何か色々増えてるけど」
「ああ、幾らかアップグレードして、背部にはハヤブサにも着けてあるフレキシブル・スラスターを搭載して、機動性を三割増し位にしておいた」
改修の終えたストレリチアを目撃したシルフィは、一際目に着く背部のスラスターを見つける。
それは、空中機動作戦を主目的としている量産機、ハヤブサと同型のスラスターだ。
バルチャーの背部ウイング型スラスターをベースに、一般人でも扱えるように、出力とサイズを絞った物だ。
「でも、何で連邦の装備が、リリィの作った鎧に着けられるの?」
「単純さ、ネオ・アダマントで作られた物なら、自由に規格を弄れるから、割と簡単に取り付けられるのさ、ま、どっちも元々ユニバーサル規格だから、そんな小難しい事しなくても大丈夫だけどな」
「効率化って奴?」
「そう言う事だ」
ジャックの話に頷くシルフィは、改修されたストレリチアの背部に、ポッコリと何かが取り付けられているのを見つける。
以前まではこんな物は無かったはずだ。
「あれ?これは何?」
「あ、そいつは、今は空だが、出撃時はそこにエーテル・ドライヴを入れる」
「え、何で?」
「出力の向上と、継戦能力の確保が目的だ、ドライヴが有れば、お前の魔力が底をついても、ある程度は戦い続けられる」
「成程、でも、リリィから聞いたけど、エーテル・ドライヴって、作るの大変なんでしょ?」
「まぁな、リリィやラベルクに着けられるような物は、俺らでもどう作るのか解らんから、もっと簡単に作れる奴、いわゆる、量産型エーテル・ドライヴだな」
ジャック言う量産型のエーテル・ドライヴ。
これは、リリィとラベルクの持つ物とは、少し異なる。
エーテル・ドライヴは、両者共に内蔵されている魔石を燃料として、魔力を生成する。
性能面では、両者に大差はそれほどないが、一番の違いは、稼働時間。
リリィ達の物は、ほぼ永久と呼べるほどの時間である事に対し、量産型は持って三日程度だ。
「量産型、話には聞いてたけど」
「量産型っつったら、お前確か前に、聞いた事無い名前、三人くらい言ってたな」
「ん、ああ、ヘリアンと、イベリスと、デュラウスだね」
「誰だ?そいつら」
「えっと、AS―103―05とか言っていたから、リリィの妹達だね」
「しれっとヤベェ事言うなよ……」
シルフィの言う名前の正体。
それを聞いた途端、ジャックは少し嫌な顔をする。
ラベルクやヒューリーから聞いていた103型の義体。
それは現在、全部で五機存在している事は聞いている。
五機の内の三機は、どうなっているのか解らなかったが、既にロールアウトされているのだろう。
「えっと、やっぱりヤバい?」
「ヤベェに決まってんだろ、その三人、もしかしなくても、リリィと同じ戦闘能力持ってんだろ」
「……確かに、ヤバいね」
ジャックの言葉で、ようやく事の重大さに気付く。
リリィと同じ戦闘能力を持った少女が、少なくとも三人も追加されている。
それはつまり、リリィ四人を相手にする事でもあるのだ。
継続戦闘能力を上げたのも、リリィ達との長期戦を予見しての事。
リリィ一人でも、大群を相手にする事と同じ筈。
であれば、人間一人の魔力なんてすぐに底をつく。
「おいおい、戻って来たと思ったら、随分重い空気だな」
「恐らく、まだ親子関係である事に、抵抗があるのでは?」
ジャック達が話していると、ちょっと外に出ていたエーラと共に、ラベルクが研究所へと入って来る。
二人共、アタッシュケースの乗った台車を押している。
「お、エーラか」
「ああ、如何した?まだ親子関係でギクシャクしてんのか?」
「いや、そっちは解決したよ、今は親子ラブラブで一緒に寝てんだからな」
「ウソつかないでくんない……まぁ、ちょっと見直したのは、本当だけど」
「シルフィ」
「あ」
ジャックの嘘にツッコミを入れた後、余計な事を呟いたせいで、ジャックはおもむろにシルフィへと近寄る。
しかも、何処か艶の有る感じだ。
ジャックの地獄耳の事を忘れていた事に、強い後悔を覚えたシルフィは、ジャックの両目を潰す。
「馴れ馴れしくするのはまだ先!!」
「イダ!」
容赦なく目を潰されたジャックは、床を転がりながら悶絶してしまう。
そんなジャックを無視し、エーラとラベルクは、持ってきたアタッシュケースを並べだす。
「エーラさん、それは?」
「ああ、お前らように持ってきた武器さ、まぁ強制はしないから、気に入った奴は持って行ってくれって感じだ」
「へー」
シルフィは、エーラとラベルクの持ってきた装備品を検めだす。
ブレードやバスターソード、斧、マチェットにメイスに盾、時代錯誤もいい所だ。
一応、中身は最新の技術が使われた物であるが、銃でドンパチやるような文明を持つ軍の装備とは思えない。
とはいえ、射撃武器は必ずしも役に立たない訳でもないらしく、近接武器の横にとりあえず置いてある。
しかし、矢の類が見当たらない。
「なんか気になる物有るか?」
「えっと、私、ガーベラとストレリチアが有るから、その、矢ってある?」
「矢か、まぁ使う奴が少ないから今は無いが、後で申請しておこう」
「ありがとう」
エーラの言葉で、シルフィは少し安心する。
やはり銃よりは、使いなれている弓矢の方が、自分には合っている。
ストレリチアのボウガンも、扱いやすいが、やっぱり弓は、弓として使いたい。
「エーラ様、せん越ながら、例の物を」
「あ、そうだった、お前のストレリチア、確かドローン搭載が前提だったな」
「え、もしかして、それも新しい奴作ったの?」
「ああ、お前とジャックには、しっかり働いてもらう必要があるからな、突貫品じゃなくて、しっかりと吟味しておいたぜ」
「あ、ありがとう」
得意げにドローンの入ったケースを渡して来るが、シルフィは苦笑してしまう。
リリィ助ける為とは言え、いずれ起きる戦争では、かなり頼りされる事に成っている。
何しろ、経験は浅いとはいえ、その気に成ればジャックと同等の戦闘能力を発揮できる。
そうなれば、前線で戦う事位は有る。
以前までの襲撃よりも、遥かに大変な事に成るかもしれない。
気を少し落としながらも、シルフィはケースを開け、中身を取りだす。
「……ちょっと長くなった?」
「まぁ、普通はそう見えるだろうが、実はこれ、二個繋がっててな、それぞれ分離して使えるし、連結した状態でも使える、まぁ状況に合わせて使い分けてくれ」
「へ~(確かに、よく見るとつなぎ目が有る)」
「それと、やっぱ計十六は多いだろうから、ちょっと減らしといたが、性能は従来品よりも上げてある、いうなれば、プロテクト・ドローンⅡ!」
シルフィは、エーラから渡された新しいドローンを目の当たりにする。
ベースは、リリィの制作したプロテクト・ドローンだろうが、表面は少し丸みを帯びている。
新しく制作されたドローン五つを、シルフィは受け取った。
合計十機、リリィと一緒に戦っている時に感じた最適な数だ。
「あ、でもこれ、何処に着ければ」
「腰と肩にマウントラッチを付けておいたから、其処に取り付けると良い」
「あ、本当だ、了解」
「……そう言うのもいいが、コイツも持って行けよ」
「これって」
ドローンのマウントラッチを見つけたシルフィに、ジャックはヘッドフォンを見せつける。
それは、シルフィも見覚えのある装備、サイコ・デバイス。
ドローンの操作性を上げ、相手の思考をより容易くキャッチできるように成る物だ。
だが、以前ジャックが付けていた物と、少し形状は事なっている。
「サイコ・デバイスだっけ?」
「そうだ、それと、他にも機能を拡張してある」
「拡張?」
「ああ、あいつ等、ブレイン・ジャマーってのを開発したらしくてな、そいつの対抗兵器、ブレイン・ジャマー・キャンセラーだ」
「レッドクラウン解析の片手間に、私が作った」
「片手間で作れるんだ」
エーラの発言に驚きながらも、シルフィはジャックからデバイスを受け取ろうとする。
だが、シルフィがデバイスを握っても、ジャックは放そうとはしなかった。
何故かと思い、シルフィはジャックの目をしっかりと見る。
その目は、何時になく真剣な物で、何かを訴えかけている。
「良いか?こいつが最後の警告だ、俺達にとって、戦場は地獄以上の場所だ、それでも、本当に来るのか?」
「……今更だよ、此処までしてもらって、引けるわけ無いでしょ」
「そうか、だが、覚悟はしておけ、俺がこれだけシリアスに成るって事は、マジでヤバい事でもある」
「忠告、ありがとう……それに、その顔も止してよ、らしくない」
シルフィのお礼を聞いたジャックは、自分が少し同情するような顔を浮かべている事に気付く。
確かに、自分でもらしくない事だ、と思い、すぐに何時ものポジティブ風の顔付きに戻す。
そんなジャックを見たシルフィは、エーラの指導を受けながら、サイコ・デバイスとドローンをストレリチアに取り付ける。
「よし、コイツで、ストレリチアは万全だな」
「なんか、四割方原型留めてない気がする」
「そうだな、なら、ストレリチア・レギネ、付け加えておくか」
「レギネ、良いかも……」
ジャックの提案によって、多少長く成ってしまうが、シルフィは少し気に居る。
それと同時に、シルフィはストレリチアに手を当てる。
生まれ変わった鎧は、リリィの設計を踏襲しながらも、射撃と接近のどちらにも対応できるように成っている。
今後は、支給品のエーテル・ギアではなく、こちらで訓練をする事に成る。
当然、実戦でも使用する。
これを使い、リリィと戦う事に成る。
こんな事、考えるような事が有っても、本気にしたりはしない。
だが、今はそうなる未来しか見えない、ならば、どんな事をしてでも、リリィに勝たなければならない。
「ねぇ、エーラさん、一つお願いして良い?」
「何だ?」
「ストレリチアには、悪鬼羅刹を使用した時、私の体に最低限の負荷しかかからないように、リミッターが設けられてるから、それを、外してほしいの」
「え……良いのか!?」
シルフィが頼んだのは、リミッターの解除。
リミッターを設けた事で、確かに体の負荷は減ったが、その分力も落ちている。
だからこそ、リリィや他のアリサシリーズと戦う事を見越して、シルフィはリミッターの解除を申し出た。
「良いも悪いも無いよ、本当の戦争に成るなら、できる事は全部やる」
「そうか!ならとびっきりの物にしてやる!……グヘヘ~、いっその事、ジャックの奴をワンパンできる位強化されるようにいじくって~」
「バカ野郎」
「痛だ!!」
必要以上の改造を施そうとしているエーラの事を、ジャックは力ずくで止める。
何しろ、彼女の事だから、割と本気でそんな改造をしかねない。
そんな事をすれば、間違いなくシルフィは死ぬ。
そうなれば、仮にリリィを取り戻せても、ストレンジャーズは皆殺しにされる事だろう。
「あ、ありがとう」
二人のやり取りに苦笑しながらも、シルフィはお礼の言葉を述べる。
リミッターの解除、それはシルフィにとっても、覚悟の表れでもある。
今リリィがどれ程苦しんでいるのか、それを考えれば、自分の身体がはじける位、どうという事は無い。




