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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
146/343

連なる愛 前編

 ラベルクとのお茶会の翌日。

 シルフィは訓練に戻り、ネロとの訓練に勤しんでいた。

 最初は触れる事も叶わなかった彼の動きに、徐々に対応できるように成って来た。

 だが、昨日ラベルクから聞いた話が頭の中でグルグルと回り、集中できずにいた。

 休憩の際に、シルフィはネロへと疑問を打ち明ける。


「その、ネロさんは、ジャックの事、どれくらい知ってるの?」

「大尉か?……どうか、フム」


 長年ジャックの元で戦い続けて来た歴戦の勇士、ネロ。

 軍人であるが故か、上官であるジャックのプライベートは、其処まで気にしたことは無い。

 ようやく会えた家族なのだから、せめて自分の知っている限りの事を、シルフィに伝える。


「我々とはまた違う世界から来た、という事と、かつては思い人も居たという事位か」

「そう、ですか」

「後は、いい加減少女趣味を何とかしてほしいと、皆から常々思われている」

「それ、皆知ってる感じなの?」


 他にも色々質問したシルフィだったが、結局何も解らずじまい。

 その後も、シルフィは色々な隊員に、ジャックの事を聞いてみる事にした。


 ――――――


 次に訪ねたのは、ウィルソン。


「え?大尉?なんや急に」

「いや、ちょっと気になって」

「まぁ、ワイも付き合いは長いけんど、あの人、あんま自分の事喋らへんのよ、ただ、ワイに色々言うわりに、ロリコン治す気あらへんのは、ちぃと気になるわな」

「や、やっぱり、そうなんだ」

「それよかシルフィ、この前、ようやくクレハと真面に喋れたんやけど、あの子の好きな食べ物とか知らへん?あ、ちょっ!ちょい待ちって!!」


 途中からおかしな話になりそうだったので、シルフィはすぐに退散した。


 ――――――


 その次に訊ねたのは、ハーフエルフのドレイク。

 彼はこの部隊でも、かなりの古株、何か知らないかと少し期待した。


「すまないが、私の方もそれほど詳しくは無い」

「そ、そうなんだ」

「彼ら二人の言うように、あの人は自らを語らず、そして、異世界の人間である、それ以上を知る者はほとんどいない、そして、皆思うのは、ロリコンとシスコンを治してほしい、という事だ」


 だが、結局の所、彼もほとんど解らないという答えが返ってきた。

 他にも様々な場所で、シルフィはジャックについて聞きまわり続けた。

 訓練の合間を見つけては、糧食班、戦闘班、整備班と、関係の深そうな所を中心に聞き回ってみた。


 ――――――


 何となくジャックの事を聞き回り数日。

 基地の屋上で、シルフィは月明りを浴びながら収穫の無さにため息をつく。


「……色々聞いてみたけど、誰一人真面に解って無いじゃん」


 色々とまとめた手帳を眺め、収集できた情報を纏める。

 基本はリリィの言っていたように、レズでロリコンの変態という事は間違いない。

 だが、最近はロリだけでなく、スレンダーな女性にも興味を示し始めている模様。


 後、整備班の面々からの評価はかなり低い。

 戦車の砲身を鷲掴みにして、ラケットのようにして殴る。

 ちょっとした操作でライフルを潰す、引きちぎる、叩き折る。

 等と、支給品は大体スクラップに成って帰って来るので、評判が悪い。


「(武器の扱いが雑過ぎて、整備班からは破壊神とか呼ばれて、割と毛嫌いされている、で、糧食班からは)」


 糧食班の長である正昭と仲がいいので、班のメンバーとは、それなりに交流が有る。

 というか、本人もかなり料理が好きらしいので、割と打ち解けているらしい。

 彼ら曰く、基本ゲテ物でもなんでも食べるタイプ。

 だが、週に一回以上は、醤油味か味噌味を摂取したがるらしい。


「(……正直どうでも良いか、でも、戦闘班の面々からは、やっぱり英雄っぽい扱いされてるみたい)」


 ジャックのアドバイスのおかげで生き残れた、短所をある程度克服できた。

 と言った具合に、色々と高評価を貰っている。

 ただし、運は果てしなく弱いらしく、カードゲームでは負けの確率が圧倒的に高いとか。


「(気さくで割と皆に好かれてる感じか、ま、これだけ調べても、どんな人かと聞かれて出て来るのが、ロリコンの変態……でも、なんだかんだ、愛されてるみたい……変態って言うのは、何処も変わらないけど)」


 色々纏めても、結局行き着いたのは、変態という部分に、シルフィはちょっとショックを受ける。

 つい忘れそうに成るが、ジャックは、今まで何処に居るのかと思っていた母親。

 一番信頼における存在である父、ジェニーの惚れた人物は、一体どんな人なのかと思ったら、この始末だ。


「(……よし、こうなったらこの目でちょっと見てみよう)」


 このまま考えていた所で、何もならないと考えたシルフィは、いっその事ジャックを観察してみる事にした。

 方法は至って単純、超視力を応用した能力、千里眼だ。

 教官三人のサポートの末に、何とか習得にいたった新しい能力。

 この部隊の中で、五感の一部が鋭いのは、今の所ジャックとシルフィだけ。

 考えてもみれば、この付近を回って、ジャックのように五感が鋭いのは、ロゼ位な物だった。

 相当レアな能力らしいので、もっと有効に活用できるようにと、能力を伸ばしてくれた。


「(……千里眼、マナの反射を利用して、遠くや内部を見る能力、普通の濃度だとあまり見えないけど、この施設内程度なら……)」


 ジャックのプライベート。

 見てみたいようで見て見たくない気持ち、その両者が共存している。

 なので、ちょっと躊躇してしまうが、意を決し、能力を使用した。


「(えーい、ままよ、千里眼!)」


 目を見開いたシルフィは、基地の内部を探り始める。

 千里眼は目を開いている間しか使用できないので、思わず瞬きしてしまうと、強制的に目の前の光景に成ってしまう。

 なので、使える時間は割と短い。


「(確か、基本的にあの研究所に……あれ?居ない?)」


 心当たりを色々探してみても、全く持ってジャックの姿は無かった。

 トイレ、食堂、格納庫、何度か瞬きしたが、その何処にも見当たらなかった。

 必死に探していると、シルフィの視界は真っ暗に成ってしまう。


「だーれだ?」

「え?」


 聞き慣れた声が、シルフィの耳に入り込む。

 誰だと聞かれた瞬間に、探し人であるジャックという事が解った。


「……じ、ジャック、何時の間に」

「最近俺の事探ってるなぁ~と思ったら、千里眼で覗きとは、お母さんそんな子に育てた覚え、有りませんよ~」

「アンタに育てられた覚え無いんだけど」


 シルフィは、引き離したジャックから聞いた言葉に、少し引っ掛かりを覚える。

 ツッコミを入れたと同時に、シルフィはその意味を考えだす。


「(あれ?そう言えば私、ご飯食べる以外でコイツとすれ違ってない……)」


 などと言う事を、シルフィが考えた途端、ジャックは目の前で謎のポーズを取る。

 正直言って格好悪い謎ポーズだが、急にそんなポーズを取られたシルフィは、少し驚く。


「生憎だな、俺は基地内の内定調査もやっている、何か後ろ暗い奴は、必ず何等かの方法で連絡を取る、その音を俺は拾っているのさ」

「……え、それって」

「ある程度なら、基地の会話は聞こえんの、もちろんお前が俺の事探っているのも聞こえてたし、今千里眼使った事も解る」

「……聞き耳は解るけど、何で千里眼使ったの解ったの?」

「何言ってんだ、俺はスレイヤーだぜ、同じような能力持った奴と戦う事位何度も有る、防ぎ方位解るぜ」

「答えになって無い」

「ま、単純にエーテルの反射の外、所謂死角に入っただけだ」

「これが経験の差」


 シルフィがジャックを捉えられなかった理由。

 それは、ジャックがシルフィの死角に入っていたのだ。

 今のシルフィのレベルでは、死角になる部分は多く、聴覚で視覚を判別できるジャックには、通用しない。

 技術を上げれば、ジャックの事を視認できるように成るだろうが、今はまだ無理だ。

 経験の差を見せつけられ、シルフィよりジャックとの差を思い知らされる。


「ま、それはそれとして、俺に何の用だ?お母さんの過去、知りたくなっちゃった?」

「うるさい、ていうか、アンタ何で既に母親面してんの?」

「いやぁ、お姉ちゃん呼びと迷ったが、そう呼ばれるのも悪くないなと」

「死んでも呼ばないから」

「う~、お母さん悲しい」


 何ともテンションの高いジャックを前に、シルフィは少し引き気味に成る。

 とはいえ、ジャックの事を親として見られない事には変わりなくとも、過去は気になる。

 あまり他人の過去を詮索する物ではないが、リリィ達とも違う世界の話。

 興味が無いと言ったらウソになる。


「……でも、ちょっとアンタの過去、知りたくなったのは事実だけど」

「……いいぜ、酷い事した詫びだ、ちょっとだけ話してやるよ」

「え、良いの?」

「ああ、ちょっとだけな」


 少し意外。

 そんな感想を抱いたシルフィに、ジャックは缶コーヒーを渡す。

 其処まで長い話ではないが、飲み物位有った方が良いだろう。

 缶コーヒーを受け取ったシルフィは、ミーアから教わった手順を思い出しながら、缶を開けた。


「(あ、この前のコーヒーより甘い)」

「さて、何処から話そうかね」

「……とりあえず、その、本当に元いた世界で、何してたの?」

「ほう、まぁ良いか、あっちに居た頃は、ただのJKだったよ」

「じぇ~け~?」

「ま、ようするに、ちょっとチャラ目の普通の女の子」


 聞きなれないJKという言葉に、シルフィは首をかしげる。

 そんなシルフィの為に、少し間違った説明を施す。

 だが、ちょっと可愛らしく言ったのが間違いだったのか、少し距離を置かれてしまう。


「……何だよ、その反応」

「いや、その仕草で女の子って自称する母親って、なんか」

「……たく、まぁいい、とりあえず、普通のJKだったのはつかの間、後は世界滅ぶまで軍人」

「急だね」

「まぁな、急だった、世界が滅びに向かったのはな」

「……辛いようなら、無理に話さなくても」

「いや、運命の出会いも有ったし、それほど問題じゃなかった」

「え」


 シルフィは見た。

 何時も性的にヒットするような子を見つければ、性欲だけの表情を浮かべていたジャック。

 そんな人間が、運命の出会いという言葉を発した途端、なんとも乙女な表情を浮かべた。

 一緒に居た時間は少ないが、初めてジャックを女性だと認識できた。


五十嵐いがらし (れん)、それが、俺の運命の子だった」

「五十嵐、連」

「ああ、あの子と会ったのは、そう、あの廃墟だったな、十歳程度のあの可愛い女の子、見た瞬間、雷に打たれたような気持になった」

「……そ、そうなんだ」


 乙女の顔を維持しながら話を続けるジャックを見て、シルフィは目を丸くしてしまう。

 此処まで女性らしいジャックを見るのは、今後二度と無いかもしれない。

 というか、金輪際無いだろう。


「そ、それで、その子は……」

「……死んだよ、俺の目の前で、それで、俺は元凶を作ったヴィルへルミネへの憎悪が、生きる意味となった」

「でも、その人って、もう」

「ああ、殺した、俺がこの手で、確かに首を切断して、頭はこの手で潰し、体は完全に焼いた、全部しっかりと立ち会って確認してな」

「……それでも、貴女はまだ戦うの?」


 復讐を終えたジャック。

 もう生きる意味を無くしているというのに、未だにイキイキとしている。

 それに、戦いに嫌気が刺した、という事も無い様だ。

 そんなジャックを見て、今は何のために戦っているのか、気になってしまった。

 以前、目的の為ならば、どんな事でもやる。

 そして、その目的とは快楽の為。

 そんな事を聞いたが、今と成ってはただのアオリ文句の類だ。


「一体、何のために?なんの理由が有って、人を殺すの?快楽以上の理由が有るの?」

「ああ……俺の目的は、戦争の根絶、二度と俺みたいな奴や、ジェニーみたいな悲しい存在を生まない為にもな」

「……ジャック」

「……それに、今と成っては、生きる理由何て幾らでもある、妹の七美、部隊の連中、そして、お前もな」

「……」

「話は終わりだ」

「え」


 シルフィの肩をそっと叩いたジャックは、基地の中へと戻ろうとしていく。

 ジャックの戦う理由、それを聞いたシルフィは、なんとも複雑な気分に成ってしまう。

 リリィを助ける為、リリィの力に成りたい、そんな小さな理由で戦ってきた自分が、なんとも恥ずかしく成ってしまう。

 正直、ジャックの行いは、咎められなければ成らない事だろう。

 だが、そんな大きな目標の為に動くジャックが親であるという事実に、シルフィは誇らしさを覚えてしまった。


「あ、そうだ、折角だから教えてやる、俺の本当の名前」

「え、紅蓮、じゃないの?」

「それはこっちに来た時の名前だ、元居た世界での名前、特別に教えてやる」

「貴女の、本当の名前?」

五十嵐いがらし 紅華こうか、他の連中には、ヒミツだぜ」

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