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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
145/343

サウナ入った時って妙な対抗意識が芽生える 後編

 シルフィが訓練を開始して、一か月が過ぎようとしていた。

 流石に疲れが見え始めていたので、ラベルクの計らいで、今日はしっかりと休む事にした。

 と言っても、休みというのは口実で、少佐がもう一度面と向かって話したいので、部屋でお茶会をする事に成った。

 というのが、本音である。


「えっと、ラベルクさん、このセットは、一体……」

「こちらはアフタヌーンティーのセットになります、こう言った物は、好まれませんか?」

「あ、いや、その、オシャレ過ぎて、如何したらいいのか」


 ラベルクがシルフィの為に用意したのは、やたらとオシャレなティーセット類。

 アンティーク物のカップやポット、此れだけならばまだ解る。

 三段に積み上げられたお皿、所謂アフタヌーンティーのセットまで用意されている。

 しかも、しっかりとラベルクお手製のサンドイッチ、スコーン、ケーキも置かれている。

 そして、少佐もまた、ちゃっかりと座り、ラベルクの入れた紅茶の香りを堪能している。

 因みに、チハルは隅でマネキンと化している。


「ほ~、中々の腕だ、これもヒューリーがプログラムしたのか?」

「いえ、七美様からのご教授になります、少佐殿の教え方も、とてもお上手であると、お褒めに成られておりました」

「そ、そうか、わざわざセットと茶葉を任せたカイが有る」

「(私、今戦闘服何だけど、良いの?)」


 熟練の動きを見せ、せっせと紅茶の準備をするラベルク。

 正に芸術とも呼べる動きは、シルフィの目を奪う。

 少佐もまた、その動きに感服し、紅茶の出来には、思わず表情筋を和らげる。

 だが、あまりにオシャレ過ぎるので、戦闘服のままのシルフィは、場違い感を拭えずにいた。


「ところでシルフィ君、此処での生活は慣れたかね?」

「え、ああ、はい、此処の人たち、ちょっと変わってるけど、優しいので」

「そうか、君の親である准尉、いや、ジェニー君の子息である事も起因しているのかもしれないな、彼女も、それなりに人望の有るエルフだった」

「あ、ありがとうございます……その、父は、此処でどのような働きを?」

「色々さ、元々、強化人間だった事も有って、優秀で、良い働きをしていた、ジャックも、一目置いていたしな」


 少佐の言葉に、シルフィは感涙を覚える。

 里の人間からは、シルフィ同様、無能として蔑まれていたジェニー。

 此処では、名実ともに優秀な働きをしていたと、しっかりと確かな評価を受けている。

 きっと、人を沢山殺しただろうし、悪い事もしていた筈。

 でも、故郷では、ちゃんと正当な評価を受けていた。

 その事を嬉しく思うシルフィであったが、そんな彼女を見て、少佐は当初の質問をするか悩んでしまう。

 だが、色々と重要な事なので、失礼を承知で尋ねる。


「ところで、休暇の所済まないが、ジェニーは、その」

「……殺されました、私の故郷に住む、里の連中に」

「そ、そうか、済まない」


 シルフィは、辛い思いをしながらも、ジェニーの最期を語る。

 話しているだけで、胸が張り裂けそうに成ってしまうが、涙を流しながら、シルフィは全てを話した。

 そんなシルフィの涙を、ラベルクはぬぐい取る。


「……悪い事を聞いてしまったね、申し訳ない」

「お辛かったですね」

「ご、ゴメン」

「(だが、ジャックが聞いたら、何をしでかすか)」


 ちょっとした不安を孕みながらも、少佐は紅茶を傾ける。

 唯一の肉親であるジェニーを理不尽に殺された悔しさ。

 それは簡単に拭える事ではない。

 シルフィに同情していると、少佐の部屋の扉が勢いよく蹴り飛ばされる。


「フンッス!」

「のわ!?な、なんだジャックか」

「た、大尉、如何かなされましたか?」

「……なぁ、少佐よぉ~、ここのエルフって……殺しても罪に成らねぇよなぁ?」

「ヤッベ」


 少佐の部屋に入ってきたジャックは、無表情ながらも、目からハイライトを無くし、完全に殺意をむき出しにしている。

 大方、エーラの手伝いをしている時に、シルフィの話題が耳に入ってしまったのだろう。

 他者の死を嘆く事は出来なくても、気に入らない出来事にキレる事はできるので、エルフ達へ殺意むき出しだ。

 だが、既にその里は滅びているので、ジャックの怒りはあまり意味がない。


「あ、そうだ少佐、ちょっと爆撃機にナパームガン積みして、試験飛行してきて良いか?此処の大気でどんな動きできんのか試したい」

「貴様何する気だ!?いや、聞かなくても解るが許可できるか!!」

「あ、許可っとったんで、ちょっと整備班に口きいてくるわ」

「止めろ!貴様だと本当にやりかねん!ラベルク、チハルも止めるの手伝え!」

「は、はい!!」

「了解」


 ハイライトオフのまま、部屋を出て行こうとするジャックを三人がかりで止めに入る。

 考えるまでも無く、ジャックはナパームを使って、森を壊滅させる気でいる。

 ジャック一人の力でも十分できるが、恐らく移動手段も兼ねているのだろう。

 そんな事を考える少佐であるが、今は馬鹿者の行動を止める事に専念する。


「離せ!シルフィの言う連中、全員火あぶりにしてやんよ!!」

「ええい!今行った所で仇討にもならなんだろうに!今は落ち着け!」

「うるせぇ!そもそもエルフの森なんざ焼いてなんぼじゃボケが!!」


 等と意味不明な供述をするジャックであった。

 その後、駆け付けたネロやドレイクの協力で、ジャックをドラム缶に押し込み、硫酸風呂に漬けて大人しくさせた。


 ―――――――


「はぁ、アイツの凶行を抑えるのも一苦労だ」

「というか、アイツ大丈夫なの?なんか、凄い苦しんでた上に、溶けてたけど」

「大丈夫だ、死にはしない」

「そ、そうなんだ」


 落ち着きを取り戻したシルフィは、硫酸で溶かされるジャックを目撃。

 それでも平静な少佐に少し引きながらも、用意された紅茶を傾ける。


「すまないな、君の故郷を焼き払おう何て野蛮な事を言うなんてな」

「あ、大丈夫です、リリィと行動している時にさんざんやったネタなので」

「し、シルフィ君、それは、ブラックジョーク、という事にしておくよ」

「え、貴方たちの世界だと、物語の初めに、エルフの森を全焼させる行事が有るんでしょ?」

「(あの子一体何を吹き込んだの!?)」

「目を覚ませシルフィ君!」


 すっかり変な常識を植え付けられてしまっているシルフィを、少佐達は何とか引き戻す。

 五分程かけ、何とかリリィ達のかけた暗示を解くと、少佐は自分の茶器を片付ける。


「……さ、さて、私は別の場所で仕事が有る、是非紅茶を味わって、今日までの疲れを癒してくれ」

「え、あ、はい(行っちゃった)」


 何とかシルフィを連れ戻せた少佐は、チハルを連れて、別の施設へと移動するべく、部屋を出て行く。

 ラベルクと共に取り残されたシルフィは、なんとも言えない空気に包まれてしまう。

 何しろ、ラベルクは会ったばかりのリリィ程ではないにせよ、基本無表情。

 しかもリリィの姉、つまり将来はシルフィの姉となる人物(の予定)。

 存在だけで、どうしても圧迫感を覚えてしまう。


「え、えっと、ラベルクさん、良かったら、一緒に如何?」

「いえ、私はこれで、それに、アンドロイドに食事は不要でございます」

「あ~、その、一人でこうしても落ち着かないからさ、あ、良かったら昔のリリィの事教えてよ、考えてみたら、リリィ視点の話しか聞いてないから」

「……左様でございますか、では、お言葉に甘えましょう」


 そう言い、ラベルクはシルフィの前に座り、会話を始める。

 内容は勿論、シルフィの所望通り、昔のリリィについて。

 今まで知る事の出来なかった三人称でのリリィの姿が明るみに成る。


「へ~、リリィって意外と甘えん坊だったんだ」

「はい、毎日のように、姉さま、姉さまと、とても可愛らしく」

「なんか解るな~、ルシーラちゃんも、良くお姉ちゃん、お姉ちゃんって、可愛いよね~」


 何とも微笑ましい限りの会話。

 そんな会話は、復活したジャックの耳にも入っており、部屋の扉の前で、しっかりと聞いていた。

 すぐそこには、勝手に抜け出したジャックを捕まえるべく、エーラと随行させたアンドロイド兵が居る。


「……」

「(うわ、何かすげぇ羨ましそうな顔してる)」


 聞き耳を立てるジャックは、二人の話を羨ましそうに聞いている。

 何しろ、七美からはお姉ちゃんなんて、数えるくらいしか呼ばれていないのだ。

 しかも、最近は姉離れが深刻で、夜に甘えてすらくれなくなってしまったのだ。

 我慢できなくなったジャックは、再度部屋の扉を蹴破る。


「ウワ!何!?」

「あら大尉、如何なされたのですか?」

「お、俺の七美だってできるんだ!!」

「何を!?」

「おい、それ別のジャックだ、それにやめておけ、お前と七美じゃ、微笑ましさがゼロだ」

「う、ウルセェ!そんなに言うなら聞かせてやるよ!俺と七美の姉妹愛をな!!」


 シルフィとラベルクの話の対抗として出した話題。

 それは、とてもセリフとして表記できない程卑猥な物。

 とても姉妹とは思えない肉体関係の数々は、微笑ましさ何て無い。

 ただひたすらに、シルフィ達に不快感を与える物だった。

 ラベルクも、ジャックと七美の関係をある程度把握していたが、それほどとは思わなかったので、少し引いてしまう。


「せーばい」

「オッフ!」


 流石に聞くに堪えかねたエーラは、ジャックの首に薬品を撃ちこみ、気絶させた。

 泡を吹いて倒れるジャックを、アンドロイド兵に担がせたエーラは、二人に一礼し、部屋を後にした。


「(以前、アイツの事で何か考えたけど、思い出すの止そ)」

「ヤレヤレ、あのお方は、相変わらずですね」

「相変わらずなんだ……」


 やはり、親であると認めたくない気持ちが強くなる中で、戦闘時とプライベートでのジャックのギャップに戸惑う。

 常軌を逸した戦闘能力、欠落した倫理観。

 ただの殺戮マシーンとしか思えないような人物は、此処ではただのボケ人間だ。

 そんな彼女が、なぜスレイヤーなどと言う物騒な名を持っているのか。

 どんな過去が有ったのか、少し気に成ってしまう。


「如何かなさいましたか?」

「あ、えっと、アイツ、何で戦っているのかなって」

「親御さんにご興味が?」

「それも有るけど、アイツ見てると、どうしても何か有ったんじゃないかって、思っちゃって」

「……そのご考察は、間違ってはおりません、あの方の過去は、とても壮絶な物ですから」


 シルフィの質問に答えるべく、ラベルクはジャックに関する事を思い出す。

 ヒューリーの元で、アリサシリーズやプラモデルを一緒に制作していた仲。

 それなりには、ジャックの人となりを知っているつもりでは居る。

 とはいえ、ジャックは其処まで自分を語らないタイプ。

 七美や少佐程詳しくは無い。


「……あの方は、住んでいた世界を、愛した人を、全てを、ナーダの、いえ、ヴィルへルミネさんに、奪われてしまったのです」

「ヴィルへルミネ?それに、住んでいた世界って」

「かつて、ナーダはその方の傀儡ともいえる程、彼女の影響は強い物でした、数世紀先の知識と技術を私共にもたらしましたが、その代償ともいえる形で、彼女の元居た世界は、滅んでしまいました」

「そ、それって」

「彼女もまた、私達が来た世界とも、この世界とも、まるで違う世界から来た来訪者です」

「……」


 ラベルクの説明に、シルフィは絶句する。

 リリィや少佐達とは、更に別の世界から来た異世界人。

 それが自分の肉親であると知らされたのだから。


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