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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
143/343

サウナ入った時って妙な対抗意識が芽生える 前編

 シルフィの頼み。

 それは、この基地で世話になったミーアに、追悼をしたいとの事だった。

 ジャックとしては、彼女にも色々と借りが有るので、そのお詫びも兼ねて、シルフィを彼女の元へ連れて行った。

 遺骨は、安置所にて丁重に保管されている。

 前回の戦争で戦死した面々の骨も有るので、ピンポイントで此れという事はできないが、折角なので、シルフィは全員に手を合わせた。

 ミーアに対しては、特に丁寧に感謝を伝えた。


「……私にとって、あの人が初めての母親のように思えた」

「……そうか、やっぱり、血が繋がっていても、俺を親として認めないか」

「……酷い事言うけど、そうかもね」


 手を合わせ終えたシルフィは、最後に戦死した者達に一礼。

 ジャックと共に元々向かっていた場所へと移動を再開する。

 その通路で、シルフィはジャックへ疑問をぶつける。


「ねぇ、何で殺したの?あの人は、ただの医者だったのに」

「……いや、そろそろ話しておいた方が良さそうだな」

「な、何を?」

「訓練が始まる前に話しておこうと思っていたしな」


 訓練を始める前に、ジャックはシルフィに話しておくつもりだった。

 ミーアの死の真実。

 真犯人は、シルフィも良く知る人物、クラウス。

 彼の凶刃によって、彼女は殺された。

 後少し反応が早ければ、救えたかもしれないという事も。


「……それで?自分は悪くないって?」

「いや、結果的に俺が彼女を殺したことに変わりは無い、恨んでくれて構わない」

「……恨むよ、でも、殺しはしない、リリィを助けるためには、アンタの力も必要だからね」

「そうか……だが、覚悟はしておけ、俺達にとって、戦場は常人以上に地獄だ」


 お互いに話し合い、やはりシルフィは、ジャックとの親子関係を認められない事を感じる。

 そもそも、仮にもう一人の親が、ジャックでなくとも、自分とジェニーを捨てるような人を、親と認める気は無かった。


 ――――――


 お互いに気まずい空気を維持しながら、歩く事数分。

 シルフィの指南役という人に出会う。


「お、居た居た、おーいネロ、待たせたな」

「は、大尉殿、準備は万全であります!」

「(この人が私の指南役)」


 ネロ軍曹。

 ストレンジャーズの鬼教官であり、歴戦の戦士の一人である。

 種族はドワーフで、シルフィよりも少し小さい身長でありながら、腕の筋肉は、シルフィの三倍は有る。

 鍛え抜かれた体を持った戦士だ。


「あ、えっと、シルフィです、今日はよろしくお願いします」

「私はネロ、大尉の子息といえ、容赦はせぬぞ」

「おーい、何でお前がその事知ってんだ?」

「早速始めるぞ、付いて来い!」

「は、はい!」

「良い返事だ!」

「おい!俺の質問に対する返事はねぇのかゴラ!」


 等というジャックの言葉は無視した二人は、早速表へと出て行ってしまった。

 取り残されたジャックは、少し唖然としながらも、数分後我に返り、エーラの研究室へと戻って行った。


「……ま、良いか、一から叩きこまれて来い、剣の扱い雑だし」


 ――――――


 基地の外にて、訓練を行う別の部隊達に気を使いながら、二人は位置に着く。


「え、えっと、とりあえず、模擬戦をすればいいの?」

「ああ、実戦だと思って、本気で来い、先ずはお前の実力を知りたい」

「い、良いけど」


 シルフィと向かい合う初老のドワーフ、ネロ。

 確かにシルフィの目から見ても、歴戦の猛者であることは明らか。

 だが、模擬戦の為に持たされた武器、これに問題がある。

 シルフィの手には、ガーベラが握られており、代わりにネロは、模擬戦用の剣と盾。

 どう考えても、ネロの方が危ない。


「い、良いんですか?私、真剣だし、ネロさんは、その、模擬戦用の武器だし」

「フム、お前の不安も解る、だがな」


 強化ブラスチックでできた剣を構えたネロは、目を見開く。


「図に乗るな小娘!!」

「ッ!?」


 ――――――


「……派手にやられたか」

「……うん、ボッコボコにされた」


 昼休憩に差し掛かり、シルフィは昼食を取っていた。

 だが、つい先ほど、ネロにボコボコにされ、少し元気が無かった。

 実戦用の武器と模擬戦用の武器。

 この差を圧倒的に覆され、自分の接近戦能力の低さに、少しショックを受けている。


「ま、ドワーフは大雑把な動きばかりでも、白兵戦は得意だからな」

「得意のレベルじゃなかったよ」


 鬼人拳法によって、身体能力を上げても、シルフィは返り討ちに有った。

 ネロの力士のような体格でありながら、俊敏な動きは、シルフィでも反応は難しかった。

 剣によるスーツ越しでも痛みを覚える打撃で、骨を数本折り。

 盾による重量の有る攻撃を顎に直接受け、顎が外れた。

 今まで死ぬ思いで戦ってきた経験を持っていながら、一本取る事もできなかった。


「というか、前に戦った時思ったけど、お前やっぱり接近戦苦手だろ」

「う、確かにそうだけど」

「それに、剣術も雑だし、動きも読みやすい、フィジカル上げても、今のお前じゃアイツには一本取るのは難しいな」

「へこむ~」


 ジャックの辛口評価にシルフィは、すっかり落ち込んでしまう。

 だが、この程度で落ち込んでいてはと、すぐに立ち直る。

 リリィの元に行くためにも、どんな方法を使ってでも強くならなければならない。

 そう思いながら、シルフィは昼食のチキンステーキを頬張った。


 ――――――


 その日の夜。


「アイツ、一本位取れたか?」

「いえ、残念ながら」

「そうか」


 訓練を終えたネロに、成果を聞いてみると、散々な結果だったとの事だった。

 そもそもシルフィは射撃戦を得意としているだけあって、接近戦はあまり好まない。

 その事を差し引いても、流石に今日一日で一本も取れないというのは、問題がありすぎる。


「ま、とりあえず、アイツの事頼むぜ」

「は」


 お互いに敬礼を交わした二人は、それぞれの部屋へと戻り、明日に備えた。


 ――――――


 シルフィの訓練開始から一週間後。


「……顔すげぇ事に成ってんぞ」

「そりゃねぇ、この一週間一回も勝てないどころか、触れもできなかったしね」


 あれからネロにボコボコにされ続けたシルフィは、心を折りかけていた。

 生きている期間だけで言えば、シルフィの方が上だが、戦闘の方面は、完全にネロの方が高い。

 経験した戦場の数、質、そのどちらもが桁違いである。


「今日は、別の奴の訓練だ、まぁ気分転換だと思って、気楽にやんな」

「気楽にできればね」


 そんな与太話をしながら、二人はエーテル・ギアの格納庫へと足を運んだ。

 そこで待っていたのは、ダークエルフの青年。

 彼はシルフィとジャックの姿を確認するなり、笑顔で手を振って来る。


「お、アンタか!噂のエルフィリアと大尉のセガレっちゅうのは!」

「ウィルソン伍長、ドレイクと俺を除けば一番のエーテル・ギアとエーテル・アームズの使い手だ(何で此奴まで知ってんだよ、何?俺とあいつ等だけが知らないの?)」

「せや、ワイは連邦のエースパイロットで、ジェニーのライバルで、ダークエルフ1の剣術使いのウィルソンや!よろしゅうな!」

「おい、そんな肩書ベラベラ言ってると、弱く見えるぞ」

「そ、そうなんだ(何か濃そうな人来たな~)」

「じゃ、後は頼んだぜ」

「おう、任せときぃ!」


 一つだけ引っ掛かる部分は有ったが、とりあえず無視して、ジャックは研究室へと戻る。

 シルフィの方はウィルソンの案内で、格納庫の奥の方へと進む。

 奥に置いてあったのは、数着のエーテル・ギアだ。


「これは?」

「量産型エーテル・ギア、通称ハヤブサ、高機動戦闘を目的としたエーテル・ギアや」

「へ~」


 ハヤブサは、ウィルソンの言う通り、エーラの開発した量産型のエーテル・ギア。

 人間が装着し、使用する事を目的としており、性能はジャックのバルチャーよりは劣る。

 今日の訓練は、このエーテル・ギアを装着し、空中での接近戦の練度を高める事だ。


 ――――――


 ハヤブサを装備した二人は、空中へ上がった。

 相変わらずシルフィはガーベラ、ウィルソンは訓練用のブレードを持っている。


「さて、時間も押しとるし、早速始めるか」

「う、うん(なんだろう、何かデジャヴ)」


 この後滅茶苦茶ボコボコにされたシルフィだった。


 因みに、訓練中このような会話が有った。


「な、なぁ、シルフィ、あの救出した四人の中の、クレハっちゅう子、アンタ知っとるか?」

「え、まぁ、知り合い以上ではあると思うけど」

「この訓練が終わったらでええから、ちと、紹介してくれへん?」

「え~っと、まぁ、良いけど、何で?」

「遺伝子レベルで一目惚れしてな」

「え~」


 実はウィルソン、葵達の救出任務に当たった時、クレハに一目惚れしていた。

 一先ず、彼女達の世界の言葉を必死に覚えた。

 それでクレハに色々とアタックしては見たが、クレハののほほんとした性格のせいで、のらりくらりと、かわされてしまっていた。

 なので、ある程度は顔見知りのシルフィに、取り繕って貰おうという魂胆だった。


 ――――――


 その日の昼頃。


「で、その会話の後、恨み無しにメタメタにされたと」

「うん」

「しかも、アイツがあの様子か、元々女癖の悪い奴だったが、あそこまで熱心に成るとはな」


 食堂の隅の方で、クレハにアタックしているウィルソンを見て、ジャックは少し驚く。

 一応彼は、行方不明になったジェニーの後釜としての役割を全うできる程優秀な人材。

 未だに伍長止まりなのは、その女癖の悪さだ。

 ジェニーの男嫌いの原因を作ったり、他の女性スタッフに言い寄ったり、色々と手を焼いていた。

 何度営倉に入っても、改善する余地は無く、クレームは留まる事は無かった。

 こういった問題行動のせいで、昇格と降格を繰り返している。

 いい加減懲罰の一つでも必要かと思った矢先、それがぱったりと途絶えたと思ったら、クレハにゾッコンの状態だった。


「恋は盲目、愛は麻薬、だな」

「何それ?」

「俺の中の恋と愛の違いさ、気にすんな」

「わ、分かった」


 ――――――


 その日の夜。


「で、シルフィの方はどうだ?」

「クレハ、まさかワイがこんなにも一人の女性に惹かれるとはな」

「聞けやガングロエルフ」

「イダ!」


 まだクレハの事を考えるウィルソンに、ジャックは一発入れた。

 その後の報告だと、空中での動きには問題無くとも、やはり接近戦に難を示していた。

 とはいえ、十分すぎる飛行能力を持っているので、後は接近戦に慣れてもらうだけだ。


「それはそれとして、あの子、全然振り向いてもくれへん、ワイの何がアカンのや?」

「あ~多分全部だと思うぜ」

「ヒデ~」


 ――――――


 別の日。

 シルフィは揚陸艇でかなりの高高度に上がっていた。


「急に何ぃぃ!!?」

「よし、エルフィリア、此れから叩き落す、荒療治だが、高高度から降りる事に慣れてもらう」

「急に無茶苦茶言わないでよ!」

「良いから早く行け!」


 今日の担当はドレイク。

 ササっと紹介を終えた後、揚陸艇で一緒に高高度に上がっていた。

 今は、シルフィが高い所から降りる事への抵抗を弱める事を目的としている。

 ただし、パラシュートの類は無しのまま、揚陸艇からシルフィを蹴落とした。


「イヤアアアア!此処に来てからロクな目に遭ってないぃぃ!!」


 今日は十回程地面に叩きつけられた。

 一応、今回の作戦では、成層圏の上からの降下となる予定。

 その為、こうしたスカイダイビング以外にも、空挺部隊が行うような訓練も行う事となっている。

 だが、本来であればもっと長い期間の訓練を必要としている。

 3か月という短い期間で、どれだけシルフィが空に適応できるか、勝負の日々であった。


 ――――――


 その頃。

 ジャックはクレハの元へ行き、ウィルソンのセクハラ行為の謝罪を行っていた。


「クレハ、ウィルの奴に変な事されてるって聞いた、此方かも言っておくが、部下の比例を詫びたい」

「あ~、あの人かいな、別にそんな大層な事せんでもウチは構わへんよ」

「いや、それだとこっちのメンツが」

「ウチ、追われるより追いかける恋に憧れとるから、其処以外は良い人やと思うで」

「そ、そうか、なら良いんだが……(此奴の趣味が解らん)」


 以外にも、好印象だった事に、ジャックは驚きを隠せなかった。



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