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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
142/343

決意と真実と何か 後編

 シルフィが元気を取り戻した翌日。

 エーラの研究室にて、不穏な空気が漂っていた。


「……」

「……」

「おい、この空気何とかならんのか?」

「知らね」

「知らねで済むか!元はと言えばお主が!!」


 ジャックの言いつけ通り、エーラの研究室に集まった葵達。

 集合から三十分後、シルフィとジャックの間の空気がとてつもなく重く成っていた。

 藤子の言う通り、エーラのせいでこうなってしまった。


 三十分前


「おーいエーラ、約束通り連れて来たぞ」

「う」


 そう言い、ジャックはエーラの研究室の扉を蹴り飛ばして開ける。

 その瞬間、後ろに居た藤子は嫌な表情を浮かべる。


「如何した?」

「あ、いや、すまぬ……ジャックとやら、何じゃ?この臭いは、洗っていない犬みたいな匂いがするぞ」

「……すまん、多分エーラのせいだ」


 狐の獣人である藤子は、シルフィやジャックでも感じ取れない悪臭を感じ取っていた。

 彼女の言う、洗っていない犬の臭い。

 そのキーワードを聞いただけで、ジャックは犯人がエーラである事を察した。

 申し訳ない気持ちになりながら、ジャックは研究室内に転がっているエーラを発見。

 バルチャーのアップデート作業前よりも、酷い状態と成っている。


「……えっと、この人?エーラさんって」

「ああ」

「ただの不摂生な人じゃなくて?」

「そう」


 見つけたエーラは、尻尾の毛並みは酷いのは勿論、着ている服も、ジャックの記憶が正しければ三日前と同じ物だ。

 近づいて解ったが、確かに野犬みたいな臭いがする。

 シルフィの言う通り、完全に不摂生な人である。

 そんなエーラをジャックは担ぎ上げる。


「すまん、適当にゆっくりしていてくれ、コイツ洗ってくるから」

「お、お手伝いしましょうか?」

「いや、大丈夫だ、その辺に有る奴弄らないで居てくれれば、それで良い、待ってる間、此れでも食っててくれ」

「わ、分かりました」


 ヘレルスのご厚意を断ったジャックは、エーラを雑に扱いながら研究室を飛び出す。

 その時ちょっと悪そうな顔をしていたのを、シルフィ一向は見ない事にした。

 とりあえず、ジャックの用意した茶菓子類を堪能しながら待とうとしたが、瞬時にジャックは戻って来る。


「あ、マジで触んなよ!下手したら死ぬと思え!」

「わ、わかった」

「解ったよな!?フリじゃないからな!お前らの事心配して言ってんだぞ!」

「し、心配性なんやな」

「特にそこのダーエル!ふざけて爆散しても知らんからな!!」

「だ、ダーエル?」

「(爆散って、一体なんの研究してんの?)」


 色々な疑問はさておき、ジャックがエーラを連れて戻って来るまで、シルフィ一行は待機する。

 その後、綺麗になり、服も取り換えたエーラを連れて、ジャックは戻ってきた。


「ふぅ、三日ぶりにサッパリした」

「マジで三日も風呂入っていないうえに、服まで変えて無かった」

「いや~研究してたら熱入ってな、三轍して、さっきばったり寝落ちしちまった」

「うっさい、やっぱ妹との付き合いは考えさせてもらうわ、アイツだってそれほど家事出来る訳じゃないし」

「てめぇ……その家族バカぶり直さないと、いずれ生まれる孫がエライ事に成るぞ」

「うるせぇ、さっさとこいつ等呼んだ訳を……今なんつった?」


 白銀に輝くエーラを連れ帰ったジャックは、エーラの言葉に引っ掛かる。

 割と普通の発言にも聞こえなくも無いが、ジャックにとっては違和感しかない。

 そもそも、ジャックは異性を恋愛対象には見ない。

 七美も、ジャックの妹だけあって、似たような思考を持っている。

 オマケに、姉妹の持つ事情も考慮すると、ジャックと七美、この両者に孫は愚か、子息すら作る気は無い。

 そして、エーラと七美、この両者も身ごもっている訳ではない。

 ジャックの言う通り、エーラは研究欲むき出しの表情を浮かべながら、説明を始める。


「孫だ、ガイノイドとエルフの間にどんな奴が生まれるか、個人的にメッチャ楽しみだ」

「……おい、それって」


 エーラの言葉を聞いたジャックは、ゆっくりとシルフィの方を向く。

 その視線の先には、聞いていた言葉の意味をなんとなく察したシルフィが居る。

 葵達からしてみれば、何のことだかさっぱり解らない事であるが、二人は察してしまう。

 だが、ジャックは現実の逃避を始めてしまう。


「いやいや、いやいやいやっ!ちょっと待て、確かに俺はジェニーとも関係は有ったが、其処までは」

「……お前、何で七美の奴が私の方に来たのか、考えてもみろ、お前、ジェニーの奴と仲良くなってから、アイツに構ってやったか?」

「……いや、確かに何回かマジで交わった事有るけど、いや、そんな事で、あ、でもあの時の一発が……」

「ちょっと、ジャック、あの時って何?一発って何!?」

「やめておけ、シルフィ、親にそんな事聞くもんじゃないぞ」

「……」

「……」


 このエーラの発言で、ジャックとシルフィは完全に固まる。

 勿論、葵達もジャックとシルフィの関係を察し、驚愕した顔を浮かべる。

 しかも、エーラのカミングアウトは、普通に世間話をする感覚で言っていたので、その辺も驚く事に成った。


 時は戻り、現在。

 エーラのカミングアウトのせいで、ジャックとシルフィの激重空気が完成してしまった。


「と、まぁ、あの親子は置いておいて、お前らをジャックに連れてこさせた理由だが」

「ちょっと待て、色々驚き過ぎて入って来ないかもしんねぇから、先ず説明してもらって良いか?」

「あ、あの、シルフィさんと、ジャックさんって一体どんな関係で……」

「さっきも言ったが、親子だ」

「ちょい待ち、確か、ジェニーって、女の人……」

「何だ、この世界その辺の知識無いのか?」


 エーラの発言の意味を理解しきれない四人は、物凄い剣幕でエーラに説明を求め出す。

 シルフィの唯一の肉親は、ジェニーという女性である事は、此処のスタッフとの触れ合いで承知してはいた。

 その筈が、どう見ても女性にしか見えないジャックとの間に、生まれたのか、気に成らないわけがない。

 解説を始めるべく、着席し、端末を起動したエーラは、ほとんど砂糖湯と化している紅茶を傾け、説明を始める。

 ホロスクリーンで映し出された色々な物に驚く暇は無く、四人は説明を聞き始める。

 因みに、この世界に着いてから、ジャック経由で言語を学んだため、しっかり異世界の言葉を話せる。


「ふむ、分かりやすい例えとして、この二体、サキュバスとインキュバスが居るだろ」

「うむ、先ず目の前にその二体の人形みたいな物が出てきた事にツッコミたいが、これ以上は関わる事を止めよう」

「えっと、ヘルスだっけ?そこの聖職者ちゃん」

「ヘレルスです」

「おっとすまん、アンタなら知ってるだろ、この二体の特性」

「え、ええ、基本的に私達のような聖職者は、その二体の討伐を任される事が多いので」


 サキュバスとインキュバス、総じて淫魔などと呼ばれるこの二種の魔物。

 戦闘力は低いが、この二種類は、催眠等の魔法に長けているという共通が見られる。

 対抗するには、光属性の浄化系の魔法が必須となる。

 特に、この世界の聖職者は、光魔法の浄化・治癒能力を極める為の修行を行っている。

 なので、ヘレルスのような聖職者は、戦う事に成る事が多い。


「なら、此奴らがどうやって繁殖しているか、言ってみてくれ」

「え、そ、それは……」

「確か、その淫魔共が交わるのだろう?」

「あ、ありがとうございます、藤子さん」


 エーラの質問に答えようにも、顔を真っ赤にして硬直してしまったヘレルスの代わりに、藤子が答えた。

 サキュバスとインキュバス、同種でるが、名前によって雌雄を分けられている。

 その答えに、エーラは頷くが、実は不正解である事を伝える。


「私らの世界でも、それが以前までの定説だった、だが、最近の研究で、この二体は別種だと判明した」

「え、本当ですか?」

「ああ、イモリとヤモリみたいなもんだ、名前と見た目は似てるが、違う種類ってやつ」

「その判断で有ってるのか?」

「ま、それはそれとして、此奴ら、雌雄の生殖器官をもっているように見えて、実はこれ、生殖器官じゃなくて、単純にドレイン用の器官って事が解ってな」

「な、成程」


 エーラの説明に、ヘレルスはまた顔を赤くし、他三人は納得する。

 全く顔色を変えないエーラに、謎の強者感を覚えながら、四人は説明を聞く。


「それで、人間の体に酷似しておきながら、どうやって生殖しているのか、それは同個体同士のエーテル、いや、魔力による物だ」

「ま、魔力?」

「そうだ、此奴は私ら人型種族にも言えるが、相思相愛の奴ら同士が交われば、互いの魔力がこねくり回って、結果子供ができる、つまり同様の原理を使えば、私ら人間でも、同性同士で子供ができる、というのが、この作品内での設定だ」

「作品?」

「そこは触れなくていい」


 エーラの少し引っ掛かる説明に、四人は少し困惑しながらも、説明を受け入れる。

 というか、受け入れないといけない気がした。

 色々と気になる部分は有るが、これ以上聞くと、常識の全てが覆されそうになるので、話を進める事にした。


「わ、分かりやすい説明をありがとうございます、所で、私達に頼みとは……」

「あ、そうだったな、一先ずアンタらには、以前戦ったレッドクラウンの対処方法、そして、今までシルフィが戦ってきた魔物の詳しい生体、まぁ、とにかく、この世界における魔物の戦い方、そして武器の技術に関する情報が欲しい」

「そ、そうか、で、あの二人はどうなるんだ?」

「ああ、おいジャック、そろそろソイツ連れて行ってやれよ、戻って来るまではこっちで色々やっとくから」

「りょ」


 エーラの言葉に従い、ジャックはシルフィと共に研究室を出る。

 とりあえずジャックは、シルフィを連れて、今日の講習を頼んでおいた隊員の元へと連れて行く。


「……」

「……」


 その道中でも、二人の間と重たい空気が漂い続ける。

 シルフィからしてみれば、自分の心臓を破壊したり、滅多切りにしてきたような人間を親とは認めたくなかった。

 ジャックも、子供を作る気何て毛頭なかったというのに、いつの間にかシルフィという子供を持っていた事を、できれば認めたくは無かった。


「と、とりあえず、まぁ、何だ、お前に剣技教えるのは俺じゃないから、安心しろ」

「それはそれで良かったよ、気まずくて集中できなかっただろうし」

「……」

「……」


 普段は喋る事は嫌いでないジャックであるが、今回ばかりは流石に言葉が出てこないで居た。

 ジャックの肉親と言えば、妹の七美位。

 両親とは一度も会った事無ければ、顔も知らない。

 なので、親子というのは、どう接すれば良いのか、解らずにいる。


「……コーヒーキャンディー食うか?」

「今は良い」

「コーヒーショコラ、食う?」

「いや、そもそも緊張で喉通らないから」

「コーヒー牛乳、飲む?」

「の、喉は乾いてない、ていうかそのコーヒーの推しは何!?」

「好きなだけだ」


 ジャックのコーヒー推しに驚きながらも、シルフィは少しジャックから距離を取ってしまう。

 今まで敵としてしか認識していなかったジャックを、今すぐに親と認識しろ。

 そんな事を簡単に受け入れられるような柔軟性は、シルフィには無い。

 シルフィにとっての家族は、ジェニー、ルシーラ、そして、リリィだけ。

 いきなり本当の家族が現れた何て、受け入れるにも時間がかかる。


「(私の、血の繋がったもう一人の家族……認めるには時間がかかりそう……家族)」


 家族について考えたシルフィの脳裏を、とある人物が過ぎる。

 この基地で、まるで母親のように接してくれた人物。


「ね、ねぇ、まだ時間ある?」

「ん?まぁ、幾らか話しとかあるから、後三十分くらいは」

「……一つ、頼んで良い?」

「何だ?可能ならいいぜ」


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