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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
140/343

決意と真実と何か 前編

 シルフィがジャックへ決意を進言して数分後。

 一先ず壊した扉は応急処置させ、シルフィの方はチナツに任せ、一旦シャワーを浴びてもらう事にした。

 ジャックは、少佐の部屋へ赴き、シルフィの扱いについて、話を始める。


「で、アンタはシルフィを連れて行くつもりだったのか?」

「ああ、だが、それは君も同じ事だろう?」

「まぁな、あんな元気だとは思わなかったけど」

「ま、私も、まさかあんなに成るとは思わなかったが」

「それで、既に俺の部隊に編制済みか(偽装だけど)」


 色々と思う所は有ったが、どうやらシルフィの編成は、既に完了していたようだ。

 とはいえ、正規の入隊ではなく、偽装を施してある。

 恐らく、体内に注入するナノマシンも、同様の処置を施すつもりだろう。


「で、出撃にはどれくらいかかる?訓練は、部下達と何とかする」

「……君の見立て通り、三か月以上はかかる」

「そうか、で、俺はどうすれば良い?」

「君にはまず、シルフィのケアを行ってくれ、訓練の方は、あの三人に任せ、引き続きエーラ君の支援に回ってくれ」

「りょーかい、で、ラベルクの方は如何する?」

「何にしても、先ずは他の隊員からの理解だな」

「だな」


 話を終えたジャックは、少佐の執務室を出る。

 先ずは、心配事が有るので、シルフィの元へと向かう。

 その心配事は、チナツというアンドロイドだ。

 少佐の付き人であるチハルの姉妹機で、ジャックのオペレーター兼付き人だ。

 廃棄寸前だった所を、安く買いたたき、エーラの技術で、違法寸前までの性能を持たせた機体。

 姉妹の中では、最も女子力が高い部分が有り、ファッションの類には目が無い。

 女性スタッフとも、その手の話で盛り上がる事が多い。


「(それで、シルフィが色々とされていないと良いが……)」


 等と、嫌な予感を募らせていると、シャワールームの方から悲鳴が聞こえて来る。


「イヤアアア!!」

「待ってくださいよ~!」

「……やっぱりか」


 声からしても、完全にシルフィとチナツだ。

 やっと到着したシャワールームの入口、其処からシルフィの腕が出て来る。

 そして、数秒程後、物凄い剣幕で、シルフィが顔を出す。


「おーい、大丈夫か?」

「ちょっと!助けて!」

「待ってくださいって!これ絶対シルフィさんに似合いますから!」

「……こらチナツ、嫌がってるだろ」

「うえ~、だって、シルフィさん髪の毛のケアが全然なって無いんですよ!シャンプーしただけで終わってますし!!」

「……とりあえず、トリートメントだけにしておけ」


 ジャックは、全裸のシルフィをシャワールームへ引きずり込もうとするチナツを抑える。

 大方、彼女なりに気を使って、髪のケアのやり方をレクチャーしていたのだろう。

 とりあえず、小難しい事は抜きで終わる様に釘は刺しておいた。


 ――――――


 チナツを抑え込んだ後。

 着替えたシルフィは、ジャックと共に食堂へ向かっていた。

 ジャックの頼み通り、チナツは適当な所で切り上げてはくれた。

 だが、かなり中途半端な所だったので、本人は不満げだった。

 絶食以外のことで、随分と疲れてしまっているシルフィは、進みながらチナツの事を聞き始める。


「は~、ねぇ、アンドロイドって、皆あんな感じなの?」

「あんな感じ?」

「えっと、何か、自分の欲望に素直って言うか」

「ああ、元々プログラムに忠実に従う機械だからな、欲望を抑え込むっていう部分が欠如しやすいんだろ」

「成程」


 どれだけ人間に近い思考回路を持っていたとしても、大元は機械。

 巡ってきた思考に素直になり易いという部分が有る。

 ラベルクを見ても、それは明らかな所が有る。

 シルフィも、ジャックの言葉を聞いて、リリィの言動も少し解ってしまった。


「そう言えば、ラベルクさんは?」

「アイツなら独房さ、元々俺達は敵同士だし、変に動かしていると、イザコザになりかねん」

「そっか」

「ま、安心しろ、手荒な真似はしないさ、ちょっと閉じこもってもらうだけだ」

「解った」

「さて、そういう事よりも先ずは、飯だ、腹が減っては何とやらだしな」


 いじけていたとは言え、シルフィは水さえも拒んでいた。

 生命力は異常なまでに高く成っているおかげで、死にそうな思い出なくても、空腹感は辛い。

 とりあえず今は、水を飲んで気を紛らわせている。


「それはありがとう、三日も何も食べなかったから、お腹空いちゃって」

「自業自得だ」

「あはは」


 適当に話ながら、二人は食堂に到着する。

 既に夕食の時間は過ぎ、他の兵士は皆いなくなっている。

 その筈なのだが、食堂で食事をする影が四つ見られた。

 四人の正体は、二人もよく知る人物たちだった。


「お、シルフィじゃねぇか!随分さっぱりしたな」

「久しぶりやなぁ、まさかこんな形で再開する事になるとは思わんかったわ」

「え、何で……そっか、藤子さん居たもんね」

「何でお前ら此処に?病棟で療養中の筈だろ?」


 その四人は葵達。

 カルミアと戦闘を行ってから、この基地で療養を続けていた。

 思いがけぬ再開に、シルフィ達は喜び始める。

 ジャックとしては、療養中の筈の四人が何でこんな所に居るのか解らなかった。

 とはいえ、葵の腹部は完治しており、他の三人も、それほど悪い状態ではない。

 だからと言って、勝手に出歩いて良い訳ではないが。


「えっと、実は、その、アリサさん、じゃなくて、リリィさんのお姉さんから、お礼をと言われまして」

「え」

「え」


 ヘレルスの言葉に、ジャックとシルフィは一緒に首をかしげる。

 リリィの姉と言えば、ラベルクの事しかない。

 だが、今頃ラベルクは牢の中の筈だ。

 等と思っているとカツカツと足音と共に、少女が一人歩いてくる。


「おや、シルフィ様、立ち直られたのですね」

「何でいんだよ!?」

「何でいるの!?」


 呑気に料理を運んでくるラベルクを見て、ジャックとシルフィは同時にリアクションを取る。

 因みに、彼女の手には、カレーだったり、ソバだったりと、安定しない種類の料理だ。


「お部屋に籠っていても、退屈でして、それに、此方の方々へのお礼も、まだ済んでおりませんし、味気ない病人食より、おいしい物をと思いまして」

「いや、それは解るけど、良いのかよ、正昭の奴、何も言わなかったか?」

「最初は少し仲たがいを致しましたが、やはり料理というのは、人とアンドロイドさえ結びつけるようで、三十分ほどで意気投合いたしまして」

「あの職人気質で、頑固者の正昭がか!?」


 四人の座るテーブルに料理を置いて行くラベルクの口から、にわかに信じ難い言葉が出て来る。

 ジャックの部隊の糧食班の一人、正昭伍長。

 何時かは自分の店を持つ為の資金を集める為、という名目で入隊した人物だ。

 かなりの頑固者でもあり、中々心を許す事も無い。

 ましてや、敵のアンドロイドに心を許すなんて、決してないだろうと思っていた。

 驚くジャックの横で、ラベルクの持ってきた食事を、葵達は存分に楽しみだす。


「いや~感激だな、こんな辺境で、故郷の味にありつけるなんて」

「全くじゃ、それに、良い米を使っておる」

「ホンマやぁ、ちょっと甘めやけど、此処のカレーもおいしいわ~」


 この大陸出身のヘレルス以外は、ラベルクと正昭の用意した食事に歓喜する。

 葵は大盛りの天ザル蕎麦、藤子は寿司、クレハはカレー。

 この辺りでは食べる習慣の無い物ばかりで、故郷を離れてから、口にする機会は無かった。

 そのおかげで、喜びも倍増している。


「そ、そんなに嬉しい物なの?」

「ま、まぁ嬉しいだろうな、俺もよく米やら味噌やら、恋しく成る事が多かったしな」

「へ~」

「さて、お前も座ってろ、飯作って来てやるから、ラベルク、折角だし手伝え」

「はい、可愛い妹の為でしたら、満漢全席でもお作りいたします!」

「え、あ!ちょっと待って!」

「ど、如何かなさいましたか?」


 ラベルクも手伝う。

 それを聞いた途端、シルフィの脳裏を過ぎったのは、リリィの料理。

 未だにあの劇物の苦しみを忘れた事は無い。

 突然のシルフィのリアクションに、一瞬戸惑ったジャックだが、すぐにその理由を理解する。


「……安心しろシルフィ、大方リリィの奴の飯で、地獄を見たんだろうが、此奴の料理は三ツ星レストラン並みだ」

「だ、大丈夫だよね!?できるんだよね!?信じていいんだよね!!?」

「お前意外と苦労してたんだな」


 何とかシルフィをなだめたジャックは、改めてラベルクと一緒に厨房へと入る。

 其処では正昭と、その部下数名がシルフィ用の料理の準備をしていた。

 包丁を丁寧に研ぐ正昭の横で、ジャックも準備を始める。


「どういう風の吹き回しだ?お前がアンドロイドに気を許すなんてな」

「……大尉は、料理を作る時、何を一番に考えますか?」

「……(成程)食ってる奴が、喜んでる姿、だな」


 正昭の言葉を聞いて、ジャックは納得する。

 彼の理屈を言葉にするのであれば、料理には、その人間の内面が出て来る。

 恐らく、厨房に立ったラベルクを見て、何処か共感できた部分が有るのだろう。

 ラベルクは、感情の無いアンドロイドとは違う。

 食べてくれる人の事を第一に考え、料理を作る。

 その姿だけで、正昭は、ラベルクという人物を認めたのだろう。


「今まで、アンドロイドの料理は、いくつも食べてきました、だが、そのどれもが、綺麗すぎた」

「良い事じゃねぇか、綺麗なもん提供すんのも、料理人の務めだろ」

「ええ、ですが、レシピ通りでは、見せかけだけ、自分の思い通りの料理ではなく、相手の思い通りの食事、それを作れる奴を、私は蔑んだりはしません」

「そうか、その言葉、アンドロイド冥利に尽きるだろうな」


 ―――――


 ジャック達がシルフィの食事を用意している中で、シルフィ達は、久しぶりの再会で、会話に花を咲かせていた。


「しかし、見違えてもうたわ、髪まで切っちゃってぇ、失恋でもしたんか?」

「クレハ、妙な事を聞くものではない」

「良いよ藤子さん、フられちゃったの事実何だし」

「やっぱり、藤子さんの話、本当なんですね」

「うん」


 当事者であった藤子から、ある程度の事は聞いていた三人は、少しだけシルフィの事を気にかけていた。

 だが、今のシルフィは聞いていた以上に元気と成っている。

 しかも、髪も切っている辺り、完全に吹っ切れているような気がする。


「で、お前としては、此れから如何するんだ?新しい恋でも探すか?この異世界人共と」

「ははは、そんな事しないよ、だってあの子は、私の心に深く刺さり過ぎたもん」

「そうか、だが、あの者が大人しくこちらの軍門に下るかどうか」

「大丈夫だよ藤子さんそんな時は」

「そんな時は?」

「ぶん殴ってでもこっちに連れ戻すから」


 笑顔のまま、血管が浮き出る程、拳を握り締めるシルフィを見て、四人は思わず引いてしまう。

 とても恋に悩み、頼りない感じに成っていたシルフィと、同一人物とは思えなかった。


「恋愛は人を変えるが、お主程極端な奴は滅多にいないだろうな」

「せやな」

「話の途中で悪いが、一品目できたぞ」

「あ、ありがとう」


 シルフィの変わりように四人が驚いていると、ジャックがコーンスープを持ってくる。

 三日ぶりの食事なので、お腹に溜まる物より、胃腸に負荷のかけにくい物を望んでいたので、丁度良かった。


「ん、おいしい」

「……のう、シルフィ、一つ良いか?」

「ん?何?」

「お主、あのリリィという者や、ラベルクとやら、こ奴らが機械仕掛けの人形だという事、しっておったのか?」

「え、えっとね、リリィがアンドロイドって事は、随分前から知ってたけど、異世界から来たって事は、貴女達と別れた後に知ったの」

「そうか」

「ほれ、二品目の野菜スープ」

「ありがとう」


 色々と話していると、シルフィの前に二品目が運ばれてくる。

 特に何の疑問も持たずに、シルフィはスープを飲み干す。


「ふぅ」

「三日ぶりと聞きましたけど、凄い食欲ですね」

「うん、何かお腹空いて仕方なくて」

「(何か、一品目との間隔が短い気が)」

「ほれ、三品目のポトフ」

「え、うん」


 三品目が運ばれ、それも食べ終える。

 僅か十分程の時間で食べ終えた後、すぐに四品目のシーザーサラダが運ばれる。

 この時点で、シルフィは違和感に気が付く。

 あまり気に留めていなかったが、厨房側が妙に騒がしいのだ。

 しかも、見なかったふりをしたいレベルの量の料理が、次々と出来上がっている。


「……ねぇ、あれ、作ってる人達の分、だよね?」

「あ、ああ、きっとそうじゃろう」

「で、ですよね、あんなに食べきれませんよね」


 だが、三人の予想は裏切られ、目に留まった料理のほとんどが運ばれて来る。

 流石に作りすぎだと思うシルフィは、ウエイトレスも兼任しているジャックを呼び止める。


「な、何?この量」

「人間の大人一週間分のカロリーの料理だが?」

「多すぎだよね!私フードファイターに成ったつもり無いよ!!」

「安心しろ、三日も絶食貫いたんなら、行ける」

「何処に!?」


 この後メッチャ頑張って食べた。


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