何事もプラン練っている時が一番楽しい
今回ちょっと長めです
里からの刺客を退けたアリサ一行。
その後は特に何の苦悩も無く、向かっていた町、レンズへと到着する。
目的はアリサが紛失した装備の捜索である。
しかし、此処に来るまで数日間歩き続けては、魔物に襲われてきた。
シルフィの体力的にも、そろそろ限界であった為、宿で休むことに成った。
「(そういえば、レンズって、メガネとかの方なのか、それとも豆の方なのか……まぁ別に良いか)」
変に細かい事を考えながら、先ずは資金確保為に、ギルドへと立ち寄り、討伐した魔物の魔石を売り払い、数日間遊んでいても問題無い位の金額を入手した。
ここまでは、特にトラブルも無く、柄の悪い男に絡まれるなんてことにも、遭遇しなかったのだが。
「ごめんなさいねぇ、もう、一人用の部屋が一つしかなくて」
「そ、そうですか」
魔石を換金してから、探し回ること三時間、休む為の宿が未だに見つかっていないのである。
因みに、現在二人の居る宿は、八件目の宿だ。
ようやく見つかったと思えば、一人部屋しか借りる事ができないというのである。
宿探しで既に陽が傾いてしまったこともあり、仕方なく一人部屋を二人で使う事にした。
一先ず、部屋へと移動すると、荷物を置いたシルフィは、すぐにベッドに座り込んでしまう。
スーツの身体補助があるとはいえ、流石に長時間移動を続けていれば、疲れてしまうのも、無理はない。
「はぁ、やっと一息つけるよ」
「何所もかしこも、満室でしたから」
「人さらいが如何とか言っていたけど、大丈夫なのかな?」
「まぁ、ギルドの方で、その手のクエストが行われていたので、こちらは捜索の方に専念いたしましょう」
この町では、最近人さらいの被害が出ているらしい。
しかもタイミングの悪いことに、ギルドの方も捜索の為のクエストが発生しており、話を聞きつけた冒険者たちが訪れ、集団で宿を取っている。
そのせいで、何所も満室に成っているというのだ。
二人の居る宿に到着する前、何度か聞かさていたことである。
そちらの方は、先輩冒険者の方々に任せるとして、さっそく、アリサは捜索地点の説明を行う為に、地形情報の共有を行おうとする。
その前に今のシルフィは、アンドロイドのアリサでしか認識できない情報を、共有するための端末を装備していなかったので、装着するように促す。
「ゴーグルか、ヘルメットはお持ちではないでしょうか?」
「え?えっと、それっぽいものが、確か有った筈」
バックパックの中から、軍用のゴーグルを取り出し、装着したのを確認したアリサは、柄の部分に触れると、システム内に侵入し、情報を共有し始める。
その瞬間、シルフィの装着するゴーグルのレンズに、様々な情報が表示される。
「わ、何これ」
「地形データと、落下予測ポイントです」
ゴーグルのレンズに映し出されたのは、アリサの装備が落下したと思われるポイント。
こんなマジックアイテムの存在なんて、聞いたことも無いシルフィにとって、このあり得ない現象に、開いた口がふさがらない状態に成ってしまう。
数秒間驚くと、我に返ったらしく、今度はゴーグルを取ったりつけたりを繰り返し、本当にゴーグルに映し出されている事を認識する。
しかし。
「(なんか、目が悪くなりそう)」
目は狩人にとって、命ともいえる物なので、少し心配になるシルフィだが、最近はそういった事にも配慮がなされており、実はそこまで目に悪影響は無い物である。
「さて、そろそろ説明に入りますが、よろしいでしょうか?」
「え、あ、ウン」
捜索するポイントは、この町の近くにある、山の中腹だ。
問題なのは、アリサの捜索している装備には、鹵獲防止の為に高性能のステルス機能が搭載されているという点、本来であれば、捜索用の端末を用いて探す事に成っている。
しかし、肝心の端末が墜落の際に修復不可能レベルで破損してしまった為、こうして手探りで探す羽目に成ってしまっていた。
一応ここまでたどり着くまでの間に、予測地点はある程度絞り込んではいる。
ただし、落下の位置を簡単に割り出されないように、空中で減速して地面への被害を最小限にする機能もある。
そのせいで、アリサ単体では範囲の絞りこみには限界があり、予測範囲は東京ドーム一つ分近く有るだけでなく、光学迷彩によって、姿さえも消している。
平地であればともかく、それなりに険しい山中での捜索、しかも透明となると、かなり厳しい範囲での捜索だ。
「とりあえず、探す場所はわかったけど、物は何なの?」
「一先ず、箱を探してください、色は灰色よりのホワイト、大きさは私と同じくらいの物です」
「えっと、アリサと同じくらいの箱で、灰色の箱ね」
アリサが伝えた特徴を、シルフィがオウム返しした辺りで、彼女の腹の虫が鳴り響く。
「……食事にいたしましょうか」
「そうだね」
恥ずかしそうに、頬を赤らめながら、アリサの提案にのり、一階にある酒場で、二人は食事を開始する。
もちろん、酒を飲んでも良いが、リサイタルは無しの方向で。
この町の名産品は、豆らしく、豆のスープやサラダなどが、メニューの大半を占めていた。
「(探せば味噌とか有りそうなレパートリーだな)」
そんな事を考えながら、アリサはシルフィの酒盛りに付き合う。
十数分後、シルフィは酒に酔いはじめ、煙管もスパスパ吸うようになってきた。
今回はリサイタルをしたい、とは言いだしていないという救いは有っても、やはり酒癖は悪いらしく、いつも以上にアリサに絡んでいる。
「ねぇ、アリサぁ、そんなにその装備ってぇ、大事なの?」
「ええ、私の任務に最も必要なものですから」
「へぇ、でも、今の私に必要なのは……この胸の塊じゃい!」
そう叫びながら、シルフィはアリサの胸を鷲掴みにする。
今は飲み時でもある為、周りも酒に酔う冒険者や待ち人たちで、あふれ返っている中でいきなりのセクハラ、完全に酔っている。
「私より身長無いのに、何でここだけ私より大きいの!?」
「知りませんよ、まぁ、貴女もそのうち大きくなると思いますよ」
「そのセリフ、何百年も聞き飽きた!ちょっと育ったかな?て、思っても実は筋肉だったし!何時に成ったらルシーラちゃんみたいに、二つの丘が出来上がるの!?」
「妹さんどんだけ大きかったんですか?」
「大きかったよ!それはもう、極上の羽毛布団に包まれてるみたいに、優しい温かさでほっこりするくらいだよ!!同じエルフなのに、何でこんなに包容力に差が生まれるの!?」
「大丈夫ですよ、平たくても、切り刻んで、包みやすくする事位はできますよ」
「誰の胸がまな板じゃぁ!!それに、包みたいのに、何で刻むことになるの!?」
「あれですよ、刻んだうえで、妹さんの包容によって、絶望の固さから、希望の柔らかさで、持ち直してあげるのですよ」
「それ結局ルシーラちゃんが包みこんでるでしょうが!!」
本当に酒が回っているらしく、周りの目も気にすることなく、涙目に成りながら、自分よりも大きなアリサの胸を揉みまくっている。
と言っても、アリサの胸部は精々C程度、平均レベルと言えるかもしれない。
オマケに、カウンター席に座っている二人のやり取りは、酒に酔う一部の町人たちから丸見えであり、酒の肴にされていた。
そんな目を気にすることも無く、揉み続けるが、徐々にその力は弱まっていく
「もう、一割くらいでいいからぁ、頂戴よぉ」
「私の胸なんて貰っても、特に変化ありませんよ」
「ふえぇ~」
「けしからんっ!!」
二人がイチャコラしていると、背後のテーブル席から、老人の声が響き渡る。
店中の客、従業員の耳に入るその声の主は、強かに酔っている客たちを押しのけ、アリサとシルフィの元へと歩み寄る。
見た感じ五十代の老人の男性と言った程であろうか。
杖を突いてはいるが、腰はあまり曲がってはおらず、かなり元気な様子だ、さっきの大声も、その証拠だ
「あの、どちら様でしょうか?」
「ええい、そんな気色の悪い恰好をするな!さっさと離れぬか!」
老人は、携えている杖を振り回し、アリサとシルフィに離れるよう、説教を行い始める。
その様子を見る一部の人間、恐らくこの老人が誰なのか、知っている者達は、半ば呆れた様子で、老人を見ている。
その様子から見て、このようなことは、良くあることらしい
「すみません、この子酒癖が悪くて」
「黙れ!同性同士の付き合いなんぞ、そのような穢れた文化、ワシは絶対に認めん!!」
「わかりましたから、ほら、シルフィ、早く離れてください」
「え~、私アリサと離れたくなぁい」
酔っているせいなのか、珍しく駄々をこねるシルフィを強引に引きはがすと、今度は老人のどうでもいい説教が始まる。
ご老体曰く、女というのは、子供を産み、一家を支える夫に尽くす存在だというのだ。
故に、男同士だろうと、女同士だろうと、同性との付き合いは、決して認めない。
要約すると、そんな感じの内容の事を、ぐちぐちと説法を解くように、垂れ続ける。
アリサからすれば、かなり時代遅れの考えの数々。
昔勤めていた老人ホームの老人たちでも、もっと柔軟な考えを持っていたというのに、目の前の老人は、鋼のごとくガチガチで、カビの生えた考えだ。
うんざりするような内容であるが、昔からの癖なのか、聞くだけ聞いてしまうアリサ
その横で、シルフィは如何でもよさそうな表情を浮かべながら、煙管をスパスパ吹いていた。
ご老体は、シルフィの馬の耳に念仏という態度に腹を立て、携えている杖を、青筋を浮かべながら、周りの迷惑も考えず、杖を振り回す。
「貴様!わしが説教をしているというのに、何だ、その態度は!!」
「ん~?」
ご立腹な老人の目の前に顔を近づけたシルフィは、謝るような素振りを見せたと思ったら。
口の中に貯まっていた紫煙を、老人に向けて、勢いよくぶっかけた。
「どうも、すんませんした」
どう見ても反省していない表情、そして謝った相手に対し、紫煙を吹き付ける
ここまで誠意の無い謝罪は、そうないだろう。
どっかの会長だったら、問答無用で熱された鉄板の上に叩き込みかねない行為だ。
酔っているからと言って、今までの彼女からは、想像もできない行為。
流石のアリサも、この行動には絶句してしまう。
もちろん、こんなことをされれば、誰でもキレてしまうのは明らか。
ただでさえ、高血圧は控えなければならなそうな体に、怒りと言う名のストレスが加えられてしまう。
「キサマァァ!!」
完全にご立腹と成った老人は、手にしている杖を振りかぶり、シルフィに向けて、力いっぱい振り下ろした。
だが、杖がシルフィに命中することは無く、途中で彼女に受け止められてしまう
「この、放せ!」
「はい」
丁度老人が引っ張ったタイミングで、杖を手放したことで、老人は尻餅をついてしまう
その時に、テーブルの角に頭をぶつけなかったのは幸いだった。
老人はぶつけた腰をさすりながら、その老体を持ち上げると、二人の事をにらみつける。
「貴様ら、ワシにこんな事をして、ただで済むと思うなよ!」
そう言い残した老人は、酒場を飛び出して行く。
「ワシは何が有っても認めんぞ!同性同士の付き合いなんぞ!」
と、言い残して
「……何だったのですか?あの人」
「さぁ、族長代理みたいに、うざったい人だったよぉ」
老人が消えたのをいいことに、シルフィはもう一度アリサにくっつきだす。
それと同時に、一連の事を見ていたこの宿の店主が、先ほどの老人について教えてくれた。
彼はあれでも、この町の町長を、代々行っている家の生まれであり、今は息子に仕事を任せ、隠居中らしい。
厄介なことに、彼の家の人々は、基本的に頭が古い。
特に同性同士の付き合いに関しては、かなり否定的であり、宗教的にも法律的にも、同性婚が認められることのある現在であっても、その考えは曲げていない。
しかも、最近に成ってそういったことに、かなり敏感に成っているらしく、自ら町を見回っては、女友達同士が手をつないでいただけで、怒鳴り散らすレベルらしい。
というのも、彼の孫娘が、女友達とそういった関係を築きつつあるというのだ。
早いところ別れるよう話して以来、娘さんは夜遅くまで、家に帰ることは無い事が多くなり、更に数日間帰ってこないことも、最近は多くなっている。
その結果、老人は娘の友人を人さらいと称し、冒険者に働きかけ始めたのだ。
「つまり、ギルドに依頼を出したのは」
「ああ、あの爺さんさ、娘が禁じられている同性愛に目覚めたのは、その友人が魔物だからって理由らしいんだ」
「そんな事が」
「まぁ、悪いことは言わねぇから、せめてこの町から出るまで、イチャコラするのは、控えな」
「そうしたいのですが」
「ふぇ~、もう、誰も私から離れないでよぉ~」
「飲んだらこの通りでして」
更に酒の回ったせいなのか、いつの間にか泣き出してしまったシルフィは、アリサの膝の上で泣き崩れてしまっている。
飲酒の度にこうなられては、この町でイチャイチャしないのは至難の業だ。
そんなアリサの悩みなんて知らず、酔ったシルフィはアリサにすり寄っていく、まるで、迷子に成った子供が、親と無事再開できたように。