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ベゴニアの花言葉 中編

 

 ミサイル迎撃完了から数時間後。

 今やアリサシリーズ達の本拠と成っている孤島に、リリィ達は降り立った。

 レッドクラウンの格納庫にて、リリィとカルミアは対面する。

 リリィはウイルスによって、完全にシャットアウトされていたカルミア達のデータを入手。

 おかげで、カルミアや、他の姉妹に関するある程度の事を知る事が出来た。


「(四肢のみを機械化した小型のアリサシリーズ、こんな物、何時の間に)」

「来なよ、カルドに会わせてやる」

「……(いや、そんな事よりも)」


 カルミア達のデータなんて、今はどうだっていい。

 此処に来る前、この少女はシルフィを殺そうとした。

 その事に先ほどから強い憤りを感じていた。


「なぜ、あの時、私を利用したのですか?」

「は?」

「彼女を殺したければ、貴女が直接手を下せばよかった物を」


 ウイルスの影響がなくなり、先ほどシルフィを切り裂いた行動が、カルミアの仕業である事は判明している。

 どうせなら、リリィの機能を停止させた後、上空から狙い撃ちにすればよかった物を。

 わざわざリリィを利用し、シルフィを殺すように仕向けた。

 おかげで、シルフィに重傷を負わせる事となってしまった。


「……あんた等が気に食わなかったの」

「何ですって」

「アンタら二人がイチャコラしてると、どうも虫唾が走って仕方がない、折角だし、アンタら二人そろって絶望してもらおうと思ってね」

「貴様っ」


 通路を移動しながら、カルミアはリリィの質問に答えた。

 その返答に、リリィは憤慨する。

 カルミアと言う少女は、根っからの戦闘型。

 その殺生が無益だろうと有益だろうと、関係なく殺す。

 本当の殺戮マシーン。

 いや、もっと質の悪い存在かもしれない。


「貴女が味方でなければ、このままスクラップにしていましたよ」

「……ホント、アンタらってキモイよね」

「貴女は、人を好きに成った事が無いのですか?」

「……アンタ、それでも戦闘用のアンドロイド?アタシ達は、人間を殺す為の存在、無差別だろうが何だろうが、許されるもクソも無いんだよ、所詮、兵器なんだから愛するもクソも無い、ただの人形、それが真実」


 カルミアの言葉に、リリィは拳を強く握りしめる。

 本当に手が出そうだが、味方の識別コードが、それを許してくれない。

 そして何より、彼女の行動は、ヒューリーの望むアンドロイドとはかけ離れている。

 彼は何が有ろうとも、無差別殺人を行ったり、人を蔑んだりするようなアンドロイドを、作りはしない。


「……貴女は、マスターの望むアンドロイドではない」

「だから何?あんたの言うマスター、ヒューリーだっけ?あんな奴の理想に振り回される何て、アタシはゴメン被るよ」

「では、貴女は誰に作られたのですか?」

「アンタに言う義理は無いよ、それに、アンタのマスターは、もうアイツじゃない、あそこに居る代理人、カルドだよ」


 話している内に、カルミアの目的としていた場所にたどり着く。

 量子コンピュータのマザー。

 初めて目にするリリィは、思わず目を丸めてしまう。

 だが、それに触れる一人に男には、殺意の籠った目を向ける。


「やぁ、初めましてだね、リリィ、僕はカルド、彼の、いや、ヒューリーの代理だよ」

「……私は認めませんけどね」

「ふふ、でも、君は元々、彼の理想を叶えるために作られた、ならば、彼の理想の体現者である僕に、従う義務が有ると思わないかい?」

「いえ、全く」

「……そもそも、君の本来の目的、それも思い出した筈だよ、彼らの下らない命令とは違う、ヒューリーの志した命令、僕たちも、その命令を実行する義務が有る、違うかい?」

「……」


 今までウイルスで消されていたヒューリー本来の命令。

 この世界に救いを。

 ずっと忘れていた本当の任務。

 だが、カルドと言うアンドロイドの言う救いとは、何か別の物のように感じていた。

 それは、送られてきたメッセージからも解る。


「貴方の言う救いは、彼の物と、まるで違う物のように思えます」

「いや、僕の考えは、彼の望みを、より明確に、そして確実に叶える物だよ」

「……大方、我々機械が人間を支配しようなんて事でしょう、古臭いやり方で」

「古臭くとも良いのさ、彼らは所詮自分たちにとって都合が良ければ、誰の支配でも受け入れるよ」

「そうですか、ま、そんな事をしても、三日天下がいい所ですよ」


 カルドのやろうとしている人間の支配。

 それは、マザーを使用したサイバーテロの先にある物。

 インターネットや機械に頼りきりの人類相手であれば、マザーの演算を駆使すれば、容易く制圧できる。

 だが、当然反抗勢力の類は必ず生まれる。

 アリサシリーズや他のアンドロイド達の存在は、その勢力の抑制を目的としている。

 だとしても、結局は打ち破られることに成る。

 カルドがどんな勝算があって、そんな事を言っているのか、知らないが、正直それは不可能だ。


「随分と言うね、君の不安要素は、一体何処から来るんだい?」

「……そもそも、大尉は現存している三人のスレイヤーの中で最弱の存在、そんな彼女に遅れを取っている時点で、勝利は不可能ですよ」

「ふふ、そんな事か、安心すると良い、それ位の対策は、しっかりとしている」

「なら良いのですがね」

「それと、君の部屋のキーは送っておいたよ、今日はもう休むと良い」

「それはどうも」


 そう言い、リリィは自室へと戻って行く。

 リリィを見送ったカルミア達は、改めて話を始める。

 内容としては、カルミアが以前から進言していた事。

 今までラベルクの手によって消されていたデータの復元だ。


「そうだ、カルミア君、君の消されていたデータ、復元できたよ」

「……そ、ありがとう、早速送ってよ」

「解ったよ」


 カルドは、カルミアの望み通り、消されていたデータのファイルを転送。

 受け取ったカルミアは、ファイルを開き、消されていたデータを思い出す。


「(クク、ラベルク、アンタがアタシの記憶を何度か消していたのは知ってる、きっと、アンタの裏切りの証拠か何かだ)」


 そう思い、カルミアはデータを確認する。

 だが、大体の物はラベルクの重すぎるシスコン度合いを判明させた物ばかり。

 正直言って、ゆすりのネタ程度にしかならない。


「……使えない情報しか出てこねぇぇぇ!!」


 ―――――


「……この辺か……ん?」


 自室へと移動するリリィは、到着する寸前で、一人の少女を見つける。

 リリィと同じセミロングの蒼髪をボサボサにし、少しガサツな感じにした少女。

 体格はリリィと同じ位であるが、人相は物凄く悪い。


「お……よう、初めましてだな」

「……」

「あ、おい!無視はねぇだろ!せめて会釈位しろよ!」


 何とも怖い笑みを浮かべた少女の方から話しかけてきたが、リリィは全力で無視し、素通りする。

 だが、少女からしてみれば、色々と話したい事も有るので、無視だけはやめてほしかった。

 なので、すぐに追いかけ、リリィを静止する。


「……何ですか?鬱陶しい、今は誰かと話す気分じゃないんですよ」

「ま、そうだろうな、お前にも伝わっているだろ?更新されたキルリスト」

「ええ」

「よりにもよって、最優先対象がお前の恋人だ、そりゃぁ、へこむよなぁ」

「チッ」

「おわっと」


 横からうるさい少女に向けて、リリィは舌打ちと共にアッパーカットを繰り出す。

 だが、少女は紙一重でかわした。

 リリィの拳は、蒼い炎に覆われており、完全に破壊する気で殴っている。

 仮に少女が避けていなくとも、味方に手を出す事はできないので、寸前で止まっていただろう。

 それでも、拳の周りの炎に炙られたので、ちょっとアゴの心配をする。


「あっぶねぇな~急に何すんだよ……アゴ焼けてねぇよな」

「いい加減にしてください、同型とはいえ、これ以上は許しませんよ」

「なぁに、俺が言いたいのは、安心しろって事だけだ」

「……何をですか?」


 鬱陶しく思うリリィの肩を叩きながら、少女は口をリリィの耳元へ近づける。

 そして、リリィの耳元でささやく。


「シルフィも、ジャックも、ちゃーんと、俺が殺してやるから」

「貴様」

「ま、何にしても、お前は積極的に前線には出されないだろからな、つまり、全部俺達が手柄独占ってこった」

「クズですね」

「ああ、クズに成らねぇと、戦闘型アンドロイドはやってられないからなぁ~」


 そう言った少女は、手を振りながらリリィよりも先に、何処かへと行ってしまう。

 彼女の背中を見ながら、リリィは少女の事をスキャンする。

 彼女の正体は、カルミアと同様に、別の103型をカスタムした個体、その三号機だ。


「(AS-103-03デュラウス、あの二人は、アンタの思っている以上に強敵だぞ)」


 リリィと同じ、103型の三号機、デュラウス。

 この基地に来た際、様々なデータを送られてきた。

 彼女や、他の二機の大雑把なデータ。

 いつの間にか制作されており、既に独自のカスタムも済んでいる。


「(射撃特化のヘリアントス、砲撃型のイベリス、こんなに沢山、何時の間に)」


 ヒューリーの性格から考えても、同型を複数体作るという事は珍しい。

 アリサシリーズのAIは、本人に搭載されている記憶、其処から個性を形成する。

 故に、同じ型のAIを持っていても、過去の経験、作られた目的。

 それらが異なれば、人格と呼べる物は異なる物となる。

 だからと言って、彼はそう易々と量産はしない。


「(此処に来た時、消された部分のファイルを貰ったが、其処に答えが有るのか?)」


 自室に入り込んだリリィは、ファイルを開封し中身の閲覧を開始する。

 記されていたデータ。

 其処には、ヒューリーやラベルクの思い出だけでなく、ジャックとの関りまで出てきた。

 妹の七美も、ちょくちょく顔を出していたようだ。


「(……そうか、彼女の初対面発言は、この義体の私と、という事か)」


 ジャックがこっそりと借りた借家。

 其処に無断で設置された研究所で、現在の義体は整備された。

 他の四機は、搭載予定だったエーテル・ドライブと共に、この基地へと輸送。

 輸送の際、強奪に見せる形で、ヒューリーとリリィは連邦側へと亡命した。


「(……姉さまは、こっちでマザーを管理するために残ったのか……そう言えば、表向きはヘンリーの野郎に指揮権が譲渡されていたんだったな)」


 色々と解っても、結局、何故ヒューリーが五機も作ったのか、良く解らなかった。

 とはいえ、色々と思い出す事は出来た。

 その結果、リリィのメンタルは、限界まで破壊されていく。


「……マスターの抱く夢、それを体現する、大尉と、大尉のご友人と共に、私は、その為に作られた、助け出された、なのに、今は、それを壊そうとしている」


 連邦側の領内で酷使され続け、最終的に捨てられた。

 ブラックマーケットで買い取られたのは、本当に偶然だった。

 それでも、ヒューリーに助けられた事に変わりは無い。

 恩返しをしなければならない立場でありながら、今は、その真逆の事をしようとしている。


「は、はは、ゴミだな、こんなアンドロイド、大尉に破壊されても、きっと、贖罪にすらならない、しかも、私の任務は」


 シルフィの抹殺。

 ジャック、ヒューリー、ラベルク、この三人以上に、自分を救ってくれた存在。

 彼女さえも、今は殺さなければならない立場だ。

 最愛の人を殺す。

 今だけでも、こんなに辛いというのに、自らの手で、シルフィを殺めたら。


「ッ!!(嫌だ、考えたくない!!)」


 あの嫌な感触を再び味合わなければならない。

 いや、そんな生易しい事だけでは済まされない。

 虚ろな表情となり、体温を無くしたシルフィ。

 それを想像しただけで、思考回路が焼き切れそうに成ってしまう。


「シルフィ、貴女のキス、もう、貰えなくなってしまいましたね」


 もう戻ることはできない。

 ジャック達の勝利条件は、マザーの奪取か破壊。

 そのどちらかを達成するには、ジャック達との正面衝突は必至。

 そうなれば、多くの人間を殺す事に成る。


「まだ、貴女は汚れる所まで汚れていない、そんな貴女に、汚れ切った私に触れさせたくない、もう二度と、貴女を、汚したくない」



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