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集いし姉たち 後編

 リリィ達の訪れた港町の浜辺。

 大型の商船や漁船、軍艦。

 様々な船が立ち並ぶが、一部は観光客向けに、海水浴場としても利用されている。

 リリィ達の近くでも、民間人が数十組程訪れていた。

 そんな中で、殺し合いが勃発する。


「おい!シルフィ!何ボーっとしてやがる!お前も、少しは手ぇ貸せや!!」

「で、でも」


 ジャックとリリィの二人。

 よりにもよって、観光名所で第三ラウンドが始まってしまっていた。

 ラベルクと藤子は、この殺し合いに一般人が巻き込まれない様、避難誘導を行いだす。

 だが、ジャックとしては、民間人の多く居る町の近くで、本気を出す訳にも行かず、少し押され気味だった。

 そして、肝心のシルフィはというと。


「コイツを押さえないと、一般人にも犠牲が出かねないんだぞ!お前も手伝え!」

「……」


 ジャックの戦いを傍観するのみで、参戦できずにいる。

 仮にも、シルフィはリリィを愛している身。

 故に、リリィに刃を向けるような覚悟は、シルフィには無かった。

 そんな彼女の心情を知ってか、リリィはジャックを退け、シルフィへと一直線に進む。


「クソ、そっち行ったぞ!」

「ッ!」

「チ、アイツには無理か……動きさえ止められればいい!拘束しろ!!」

「わ、わかった」


 ジャックの言葉に従い、怯えながらもシルフィはリリィを相手にし始める。

 ストレリチアは、ガントレットに変え、リリィを相手に体術による応戦も始める。

 何時も近くで見て来たリリィの剣術。

 それが今や、自分へと向けられている。


「(リリィ、如何しちゃったの?)」


 その事実で動揺はするが、傷付けるのではなく、拘束しろという命令。

 それが唯一の救いとなり、何とかリリィの拘束に成功。


「ジャック!」

「よし!そのまま維持してろ!!」


 シルフィが拘束を維持できなくなる前に、ジャックはウイルスバスターを投与するために接近する。

 だが、そう単純には運ばなかった。


「させるかよ!!」

「ブベラ!!」

「ジャック!?」


 突如として、空中からレッドクラウンが急降下。

 ジャックは踏みつぶされ、ワクチンも潰されてしまう。

 そして、突然現れたレッドクラウンの存在に気を取られたシルフィは、リリィの拘束を疎かにしてしまう。


「あ!」


 拘束から抜け出したリリィは、シルフィへ向けて容赦なく斬撃を繰り出す。

 使用した技は『炎討ち』

 技の型のパターンを記憶していたシルフィは、瞬時に両腕で防御。

 蒼白く燃えるガーベラの一撃は、ストレリチアの装甲を破り、腕に浅い切り傷を作る。


「あっつ~」

「じっとしてる暇あんの!?」

「ッ!?その声、危な!!」


 焼かれ、斬られた腕の痛みに悶える中、シルフィの耳に聞き覚えのある声が入る。

 だが、思い出した瞬間、リリィの追撃に見舞われる。


「カルミアちゃん!何で!?」

「何で?そりゃ、アンタの死にざま見に来たに決まってんでしょ!!」

「そんな」


 カルミアの言葉に動揺しながらも、シルフィはリリィの攻撃を回避し続ける。

 そんなシルフィの様子を、カルミアはコックピットの中から眺める。

 愉悦に浸り、シルフィが苦しむ様子をあざ笑う。


「ク、クク、良いよ、良いよその表情、あ~、いい気味」

「カルミア様!!」

「ん?」


 シルフィの苦しむ様を、高みの見物していたカルミアへ、ラベルクは不意打ちを行う。

 モニターに映るのは、新調したバスターソードを携えたラベルク。

 だが、レッドクラウンは、葵やジャックでさえ傷つけられない装甲を持つ。

 彼女の義体出力で、対物用のバスターソードを使用したとしても、焼け石に水だ。


「何?今更」

「早くあの子を元に戻しなさい!あんな奴の軍門に下って、一体何になるというのですか!?」

「……ウザ」


 カルミアは、ラベルクを引き離し、一撃を入れる。

 バスターソードを使い、寸前で受け止めるが、超重量の攻撃によって、バスターソードは破損。

 丸腰となったラベルクへと、レッドクラウンの尻尾は襲い来る。

 無造作に斬られ、そして腹部を刺される。


「アンタも、初めて会った時から気に食わなかった、死んでよ、このまま」


 カルミアは尻尾を操り、ラベルクを口元に移動させる。

 そして、チャージしていた口内のビーム砲の照準を、ラベルクへと向ける。

 赤い閃光を発し、ラベルクに向けて射出しようとした時。


「申し訳ございませんが、まだ死ねないんですよ!!」


 そう言ったラベルクは、エーテル・ガンをレッドクラウンの口内に向けて撃ちこむ。

 直接口内に撃ちこめばあるいは。

 そんな淡い希望は有ったが、直撃する前に、光弾は一瞬にして蒸発してしまう。


「だから無駄だって……あ、ちょっと黙ってろ!!」

「ッ!?」


 無駄な抵抗を続けるラベルクへ、トドメを刺そうとするカルミアだったが、リリィ達の方が佳境に入った事に気付く。

 じっくりと観戦するべく、尻尾でラベルクを地面へ固定。

 潰しているジャックも、しっかりと捕縛しておく。


「クク、そうだ、行け、行け!!」


 シルフィは先ほどから傍線一方の状態。

 対して、リリィは戦意の無いシルフィへと容赦なく攻撃を続ける。

 シルフィは、リリィの容赦ない攻撃を何とか受け止めていたが、遂に追い込まれてしまう。


「ククク、アイツに撃ちこんだウイルスで、まさかこんなイベントに巡り合える何て」


 正に嬉しい誤算。

 裏切り物であるリリィに投与したウイルス。

 此れは主に、カルミア達にとって都合の悪い記憶を消去し、大雑把ながら強制的に指令を実行させる物だ。

 今まではフリーな状態だったが、シルフィの抹殺という追加指令。

 このコマンドを送り、今のリリィはシルフィを殺す為の殺戮マシーンに変えた。


「アンタらの作った希望の刀とかいう奴で、絶望しやがれ!!」


 基地で会った時からずっと盗聴してきた。

 監視も兼任していたとはいえ、毎度毎度、物に当たる位不快な思いをしてきた。

 そんな二人が、今殺し合っている。

 最高の気分だ。


「リリィ、もう止めてよ!!」

「……」


 何とか説得を試みようとするシルフィであるが、リリィは聞く耳を持たない。

 以前のように、ただひたすらに無表情を貫く。

 哀れみも、同情も無い。

 ただ目的のために、刀を振るう、冷酷な殺戮マシーン。


「(このままだと)」


 仮にも、愛した存在であるリリィ。

 頭では、今のリリィは敵に成っていると解っていても、どうしても手を出せない。

 ジャックの物と酷似する剣術を前に、シルフィは防御行為を続ける。

 それも、もう限界を迎え、防御に使用していた腕は弾かれる。


「しま!」


 防御を崩したリリィは、間髪入れずにシルフィへ向けて、ガーベラを振り下ろす。

 首を斬られないよう、シルフィは寸前で刀の軌道を変える。

 弾かれたガーベラは、シルフィの右半身を深々と切り裂く。

 蒼い炎で焼かれ、斬られた痛みが、シルフィを襲う。


「り、リィ」


 右肩の骨は断たれ、胸部、腹部へと、斜めに刃が通る。

 切断こそされずとも、リリィの視点からだと、傷口から後ろの背景が見える程。

 シルフィの身体は、裂かれてしまった。


 ―――――


「……あれ、私……ッ!!?」


 意識を取り戻したリリィは、最初に自らの手を視界に収める。

 戦っていた覚えも無いというのに、ガーベラを握る意味は解らなかった。

 だが、伝わる感じは、とても嫌な物。

 恐る恐る、視線を上へと向けたリリィは絶句する。


「あ、ああ」

「ゴフッ」


 視線の先に居たのは、口から血を吐き出すシルフィ。

 しかも、右肩から腹部にかけて、切り裂かれ、大量の血を吹き出している。

 吐き出された血は、リリィの顔にかかり、ガーベラから伝わる血は、リリィの手を濡らす。


「リ、リィ、戻った、の?」

「……あ、ああ」

「よか、た」


 何とか声を発したシルフィであったが、今のリリィには、聞こえていなかった。

 むしろ、激しく動揺してしまい、ガーベラを手放し、シルフィから離れる。

 出血により、立っている力を維持できなくなったシルフィは、そのまま倒れてしまう。

 そのシルフィを見て、リリィは絶望する。


「イヤ、イヤアアアアア!!」


 今のシルフィは、もう生き返る事は無い。

 以前よりも傷を治せるように成っても、突き刺したのはガーベラ。

 再生阻害は、対象を選ばない。

 それ故に、今のシルフィは、もう助かる可能性は低い。

 今すぐにでも治療を行おうにも、そうするだけの思考は、今のリリィに無い。


「ごめんなさい!ごめんなさい!シルフィ!私は、私は一体何を!!?」

「クク、クハハハ!!何その顔!?傑作何だけど!!」

「……」


 絶望するリリィの耳に、カルミアの笑い声が耳に入る。

 振り向き、レッドクラウンの姿を視界に収めたリリィは、殺意全開で睨みつける。

 感覚としては、ハッキングに近い印象を受けた。

 考えられるのは、目の前の未確認機が首謀者という事。

 背中らから伸びる尻尾が、姉のラベルクを潰している所から見て、それは間違いない。


「貴様か?」

「は?」

「貴様が、シルフィを!!」

「まぁねぇ」

「ッ!?殺す!!」


 カルミアの返答で、完全にキレたリリィは、レッドクラウンへと突き進む。

 だが、リリィの義体はレッドクラウンを間合いに入れる前に停止。

 全身痺れるような感じを覚え、完全に体の自由を奪われてしまう。


「ッ!?な、何、が」

「ばーか、味方識別信号が解んないの?」

「な(コイツ、味方機なのか、だが、そんなデータ何処にも)」

「アンタは知らなくて良い事、さて、今回のメインイベント、クソエルフの最期と行くか!」

「き、貴様!!」

「まかり間違って復活されないように、塵も残さず消してやる」


 カルミアは、レッドクラウンの口内ビーム砲をシルフィへと向ける。

 リリィは、何とかシルフィを救出しようとするが、義体は言う事を聞かない。

 カルミアを攻撃しようにも、識別信号で攻撃行動を行えない。

 直接シルフィを助けに行こうとしても、その行為自体を受け付けない。


「畜生、動け、動けよぉぉ!!」

「是非ともこの手で殺したかった、くたばれ、シルフィ・エルフィリア!!」

「や、ヤメロオオオ!!」


 リリィの悲痛な叫びも虚しく、口内ビーム砲は発射される。

 一撃で山を吹き飛ばす威力のビーム砲は、シルフィへと直進。

 だが、着弾の雰囲気は何時もと違った。


「ッ!?なんだ!?」


 着弾したビームは、拡散し、一部は霧散する。

 煙は晴れ、異変を引き起こした犯人が現れた。


「ふぅ~、浜辺じゃなかったら危なかったぜ」

「な、何であのロリコンが!?」


 犯人は、レッドクラウンに踏みつぶされていた筈のジャック。

 彼女はシルフィの腹部から引き抜いたガーベラを使い、レッドクラウンのビームを防いだ。

 いる筈の無い存在に驚いたカルミアは、自らの足元を見る。

 其処には、穴が開いており、ジャックの姿は無かった。


「あ、アイツ(砂浜を掘り進んであのクソエルフの元に移動しただと!!?)」


 舌打ちをしたカルミアは、もう一度砲撃を行う為に、口内へエネルギーを集中させる。

 相手はジャック、どうせ反撃は来ない。

 ラベルクが尻尾で足止めされている事を確認し、余裕をもってジャックとシルフィへ砲撃を開始。


「……またか、何だよいい所で!!」

「これは、一体」


 だが、発射される寸前で、本拠地から連絡が届き、攻撃は中断される。

 そのメッセージは、カルミアとリリィ、双方に送られ、二人は内容に目を通す。

 反応は、お互いに異なる物。

 カルミアは、不満ながらも、渋々と了承。

 リリィも了承を選ぶ。

 いや、選ぶしかなかった。

 今のマスターからの命令なのだから。


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