姉たる者達 後編
カルミアとレッドクラウンを退けた後。
連行されたジャックは、バルチャーを強制的に脱がされ、尋問部屋へとぶち込まれた。
その後、スーツを拘束モードにし、更にその上から拘束具を装着された状態で、座り込まされる。
だが、そんな中であっても、ジャックは幸せそうによだれを垂らしながら寝ている。
相変わらずの肝の座りように呆れる少佐は、バケツの中の水をぶつけ、たたき起こす。
「起きろ!ロリコン!!」
「ブヘラ!」
目を覚ましたジャックは、鬼の形相と成っている少佐を見つける。
そして、その横には、申し訳なさそうにしているラベルクと、如何でもよさそうにしているエーラも一緒に居る。
「そうか、全ては夢だったのか、俺の、いや、全ロリコン達の夢、幼女の足ふきマットに成るというあの夢は」
「お前どんだけ上級者何だよ!凄いな!あんな機械の化け物相手でも興奮できんのかよ!?」
「そう言うな、というか、あれは現実だったのか、これは、運命だよ、俺の望みを、骨の髄まで叶えてくれるなんて、よし、生まれ変わったら幼女用のパンツに転生しよう」
「どんな願望!?どんだけロリコン極めれば気が済むんだよ!?」
「うっせぇな、スライムや剣だけじゃ飽き足らず、温泉やら自販機にやら転生してんだ、幼女用のパンツに転生しても、不思議じゃねぇよ」
相変わらずの気持ちの悪さに、青筋を立てた少佐はタオルと水を用意。
ジャックの顔をタオルで覆い、其処に水を流し込んだ。
呼吸器官の全てに水を行きわたらせ、窒息を促す拷問。
当然、窒息如きで死ぬようなジャックではない。
だが、火責めに意味は無く、電気も最近耐性が付いてしまった。
痛みに至っても、決して屈しない様に訓練されている。
責めるのであれば、もうこの水責めしかなかった。
「オボボボ、ボ、ボ、ボボ!!」
「黙れ!鼻毛全部引き抜かれたいのか!?」
「うるせぇなぁ、というか、そんなに攻めなくても、普通に話すぜ、俺とラベルクの関係なんて」
「たく、まぁいい、聞かせてもらおうか?一体何時から、どうやって、こんな事に成ったのか」
ラベルクは、言ってしまえばストレンジャーズにとって、最も油断ならない相手。
そんな存在と、何時知り合いになり、そして協力関係に成ったのか。
かなり重要な事なので、少佐はかなり気を張り詰めた感じに顔を近づける。
「顔近い」
「早く話せ」
遡る事二十年前。
夏と冬の祭典の時、オタクたちの憩いの場所たるマーケットであり、戦場。
そこで、二人は出会った。
「おい、何ちょっと良い話風に成っているんだ?」
「まぁ、まぁ、ちゃんと聞いてくれって」
お互いがお互い、どんな存在で有るのか知らず出会った二人。
趣味や好きな作品が被りに被り、共にマーケットを回り、果ては、居酒屋で盃を交わした。
そして、飲んだ帰り、酔った勢いで彼の家へと赴き、出会った。
ラベルクと、現在とは違う義体を使用していたリリィと。
「ちょっと待たんかいぃぃぃ!!」
「何だ?」
「何だじゃねぇよ!どんな経緯だよ!」
「いやぁ、アイツとは意気投合しちゃってね~、時々一緒にプラモ作ったり、妹と一緒にアニメ鑑賞会したり、色々とね~」
「七美君もか!?」
「そうそう、エーテル・ギアやらドライヴやら、そいつからの提供だしな」
「君もか!?エーラ!何!?知らないの私だけか!?」
次から次へと、ラベルク達と関係を持っていた人物が明らかに成って行き、少佐は困惑してしまう。
そんな少佐はさておき、ジャックは話を続ける。
オタク同士としての交流から、和解したジャックとヒューリー。
アリサシリーズの最新型を作るべく、二人は互いの技術を提供し合い、完成したのが五機の103型。
そして、その五機のバックアップを行う演算処理装置であるマザー。
これらを完成させた。
「私の可愛い五人の妹達、この世界へ逃れる際に、マスターとリリィは、何とか連れ出せたのですが、他の姉妹達まで連れ出す余裕がなく、何と不甲斐ない」
「いやいや、アンタのせいじゃない、全てはあの二人しか亡命をほう助できなかった俺の責任だ」
「貴様か!貴様が亡命を助けたのか!?」
「ああ、この前借りた倉庫も、実は地下にアリサシリーズ用の研究所作る為の偽装なんだよ」
「ちょっと待て!借家に何勝手なことしてんだ!」
「うるせぇな、証拠隠滅のために、地下は敵諸共隠滅したよ、あ、コレクションは俺の家の地下に作った倉庫に有る」
「お前ん家も借家だろうが!!」
少佐のツッコミは置いておき、ジャックはリリィ達について、詳細に話す。
本来、リリィ達はナーダを倒す為に、ジャックの支援機として制作された事など。
三人の描いていた予定としては、この基地にてリリィと合流。
その後、ラベルクの手引きによって、ナーダの本拠を制圧。
こういった流れだったのだが、三人にとって予想外の事態が引きおこる。
「まぁ、借家云々は置いておいて、リリィの奴とは、この基地で交流する予定だったんだけどね、何か、色々と弊害がね~、特にあのエルフが」
「ああ、シルフィ・エルフィリア、准尉の子息だったな」
そう、シルフィ・エルフィリアというイレギュラーだ。
彼女の介入によって、シナリオは大きく加筆、修正される事となった。
だが、予定外の事態はさらに続く。
四機のアリサシリーズの内、一機の謀反。
そして、カルドとか言うアンドロイドの登場。
もうシナリオは、修正不可能の事態にまで陥ってしまった。
それはそうと、シルフィの名前を出した瞬間、ラベルクは気分を害してしまう。
「そうです、全部あの女のせいです、なので、最優先事項は、そのエルフの抹殺ですね」
「阿保んだら、なんでそうなる」
「当然じゃないですか、人の妹寝取っておいて、生きている資格があるとお思いですか?」
「いや、気持ちは解るよ、でも、リリィの奴も、自立する良い機会だ、お前に結構甘えてただろ?羨ましい……つか、この拘束早く解いてくれよ!」
ラベルクからしてみれば、シルフィは愛妹のリリィを盗った極悪人である。
しかし、結構古い知り合いであるジャックから見て、シルフィの与える影響は良い物だ。
ラベルクの影響で、甘やかされていたリリィは、既に備わっていた筈の人間性は欠如。
戦闘能力にも大きく影響し、アンドロイドらしさが強く出てしまっていた。
それでも、シルフィと出逢った影響はいい物だった。
その筈なのだが、ラベルクからしてみれば、悪い影響でしかなかった。
「良い訳有りませんよ!あの子には、もっと甘えて欲しかった!何なら、お食事もお風呂も、お着替えも、全て私が面倒を見てあげますよ!ずっと私の赤ちゃんで居て欲しかった!」
「ジャック、コイツ、こんなキャラだったのか?」
「家事に特化したプログラム施したら、変なエラー出して、ただの赤ちゃんプレイマニアに成ったみたいでな」
「ヒューリーとお前は大丈夫だったのか?」
「……危うく赤ちゃん服着されそうになった」
「ドンマイだ」
床でジタバタと暴れるラベルクを見て、少佐は少し引き気味に成る。
今のラベルクからは、今まで少佐達が見て来たラベルクとは、全く印象が異なる。
ジャックも、プライベートで付き合う事に成ってから、初めて知ったラベルクの一面だ。
「はぁ、それはそれとして、おか……ラベルク、いい加減落ち着け」
「おい、今お母さんって言いかけただろ」
拘束を解いてもらい。
色々と説明するジャックは、暴れるラベルクを止めようとし、ボロを出してしまう。
少佐のツッコミのせいで、空気はかなり気まずく成り、ジャックも少し恥ずかしそうに弁明を始める。
「いや、違うからね、あれよ、学校の先生とか、間違えてお母さんって言っちゃう事有るだろ?あれだよ、あれ……ちょ、止めてくんない?その目、おいの間違いって事にしてくれよ」
「大尉」
「何だよ」
「この際、大尉でも、私は構いませんよ」
「黙れガラクタクソ女」
ベビー服やらガラガラやら、完全に赤ちゃんプレイ用のセットを両手に装備するラベルクに、一発入れる。
それはそれで、ジャックはラベルクを拘束し、耳元でささやく。
「考えてみろラベルク、リリィとアイツがくっ付けば、結果的に、シルフィはお前の妹に成るぞ、酒池肉林だな、お・ね・え・ちゃ・ん」
「ッ!!?」
ジャックの言葉で、ラベルクは一気に表情と考えを変えた。
その後、ジャックの拘束は完全に解かれ、尋問部屋の中で、簡易的なブリーフィングを開始する。
「とにかく、問題はあの二人が今どこに居るかだ」
「ええ、このままでは、あの二人はカルドの手に渡ってしまいます」
「だが如何する?カルミアとか言う奴が、あっさり撤退したのも気に成る、せめて何処に居たのかとか、多少の痕跡さえ知る事が出来れば、何とかなる」
煙草を吹かせるジャックと、ラベルク、そして少佐は、如何にして二人を見つけるか考えだす。
追跡しようにも、衛星も監視カメラ云々も無いこの異世界。
持ち込んでいるテクノロジーは、全て頼り無い。
だが、そんな中で、エーラは手を上げる。
「ああ、あの二人の居場所なら、ある程度は絞れてるぞ」
「は?」
「以前、ジャックの腹ぶち抜いたレールガンの弾頭が有っただろ?」
「ああ、結局攻撃なのかどうかも解らんかったから、現在も警戒を進めている件か」
「そうだ、あれ、ついさっき解ったんだが、此処から結構離れた村からの流れ弾だ」
「は?」
「込められていたエーテルの属性から考えて、あの二人って事は間違いない」
「おい待て、俺は流れ弾に脱走を阻止されたのか?どんな確率?隕石に直撃するくらいの確率だよな」
「ギャグ補正だろうな」
「少佐~、頼むからツッコミ放棄しないでくれ、アンタが居なくなったら、もう収拾付かねぇよ」
ジャックの如何でも良い意見は置いておき、三人は話を進める。
シルフィの長距離狙撃武器であるレールガン。
その弾頭の解析を、バルチャーのアップデートの片手間に行っていたエーラは、発射地点の特定も済ませていた。
其処から、更にラベルクが提示してくれた本拠地のポイント。
そして、数日程前に起きた地震の震源地を照らし合わせる。
エーラは端末を使って解析を行った結果、二人の行方は明らかになる。
「発射されたポイントが此処、そして、アンタの言う本拠が此処、予測ルートはこうで……ここが以前起きた地震の震源地、この地震があの二人の影響だと仮定すれば、奴らは既に本拠のすぐ近くだな」
エーラの解析の結果、既に二人は本拠地のすぐ近くに居る事を判明させた。
それを聞いたジャックとラベルクは、顔を青ざめてしまう。
「おいぃ!如何すんだよ!このままだと何もかも台無しだぞ!」
「仕方ありません、少佐、センエツながら、揚陸艇を一機お貸しください、エーテル・フライトを搭載した機体であれば、まだ追いつくかもしれません」
「構わない、だが、お前たちにいきなり会っても、信じてもらえるかどうか……」
「それは……そうです、先ほど回収した四名の内一名を同行させましょう、ある程度は気を許してくれるかもしれません」
「それだ!俺は揚陸艇の用意をしてくる!お前は誰か適当に連れてこい!!」
「了解!」
ジャックは部屋を飛び出し、チナツを連れ、収容しかかっている揚陸艇の一機を、何とか使用できるよう工面。
ラベルクは、葵のパーティを迎えに行き、偶然最初に会った藤子を連れて、ヘリポートへ移動。
藤子を揚陸艇の機内に叩きこみ、その事を確認したジャックは離陸する。
揚陸艇と言っても、海を移動するものではなく、兵員や物資等を空中輸送する物。
推力には、エーテル・ギアにも使用されているブースターを装備されている。
高い輸送能力と汎用性のおかげで、ローター式のヘリに代用される物となりつつある。
「さて、機内食も無し、サービスも最悪!エコノミークラス未満のフライトをお楽しみください!機長のジャックでした!」
「ちょっと待てい!わらわは何故連れてこられたのじゃ!?」
「移動中にご説明いたしますので、悪しからず」
「悪しかるわ!ボケが!!」
「おーい、シートベルト付けろ、此れからめいっぱい飛ばすぞ!」
そう言うと、ジャックは揚陸艇をフルスロットルで動かす。
通常であれば、この揚陸艇は、エーテルを大量に詰め込んだバッテリーで稼働する。
現在はジャックから直接エーテル供給を受け、飛んでいる。
そのおかげで、ジャックからの供給を受け続ける限り、延々と飛んでいられる状態。
しかも、出力の方も、搭載されている四機のブースターの限界ギリギリまで出せる。
結果、揚陸艇は異常なレベルのスピードを叩きだす。
そのせいで、機内はとてつもない揺れとGに襲われてしまう。
「ギャァァ!!」
「はいはい、シートベルトしましょうね~」
「おい、あんま喋ると、舌噛むぜ」
「お主らは何故そんなに落ち着いていられる!?」
「慣れてますから!」
「鍛えてますから!」
「答えになっとらぁぁん!!」




