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姉たる者達 中編

「オウウェッ!!きもっちわる!クソが!死ね!死ね!ロリコンクソ女!!」


 何とか非常手段の通ったジャックへ、カルミアは一方的に攻撃を始める。

 コックピット内で吐き気を覚えながら、とにかく踏みつぶす。

 まるで犬の糞をうっかり踏んでしまったので、その辺でこすり落とそうしている挙動だ。

 もう手で触れる事すら嫌なのか、ひたすらに足で踏みつけ続ける。

 できる事であれば、使用したくない方法であった。

 対ジャックにおける一番の方法。

 それは、可愛い妹を演じる事である。


「アタシに恥かかせやがって!この!腐れロリコンが!!」


 だが、そんな事、カルミアとしては絶対にやりたくない禁断の方法。

 うっ憤を晴らすが如く、とにかくジャックを踏みつぶしまくる。

 踏みつける度に喜ぶジャックは全力で無視して。


 ―――――


「あ、あ奴、一体如何したと言うのじゃ?急にやられ始めたぞ」

「ま、魔力切れかいな?」


 戦いの一部始終を見ていた四人は、急に攻守が一転してしまった事に戸惑っていた。

 お互い一進一退の攻防を繰り広げたというのに、ジャックが突然やられ始めたのだ。

 戸惑わない方がどうかしている。


「皆さん!ご無事ですか!?」

「ら、ラベルクさん!?逃げたのでは!?」

「彼女と、彼女のご友人方へ救援をお呼びいたしましたけど……あれは……」


 戸惑う四人の元に、救援を要請してきたラベルクがたどり着く。

 ラベルクの目に映り込んだのは、一命をとりとめた葵と、一方的にやられるジャックの姿。

 葵達の姿よりも、ラベルクはジャックの状態に目を奪われる。

 状況から見て、恐らくカルミアが非常手段を使用したのだろう。


「な、なぁ、ラベルクはん、あのお姉ちゃん、何か考えが有るんか?なんか、急にやられ出しおったで」

「や、やはり、恐れていた事態が……」

「恐れていた事態じゃと!?どういう事じゃ一体!?」


 弱弱しく座り込んでしまったラベルクを見て、藤子達は余程の緊急事態である事を察する。

 完全に誤算であるというラベルクの表情。

 どう見ても、マズイ事態だ。


「あの方は、幼子を相手に戦う事が出来ないのです!」

「そんなしょうも無い理由でやられ始めのか!?」

「はい……さて、それはそれとして、この先に、彼女の拠点が有りますので、皆さまそちらに」

「は?」


 落ち込んでいた筈のラベルクは、すぐに落ち着きを取り戻し、葵の介護へ移る。

 急な感情の変換に、藤子達はキョトンとしてしまう。

 切り替えの凄まじさに驚きながらも、藤子はツッコミを再開する。


「お、おい!助けぬのか!?」

「ああなったら、無理です」

「お主冷たすぎじゃろ!!」


 ラベルクからしてみれば、ジャックが一方的にやられ始めるのは、十分理解できる状況。

 ロリコンである彼女は、たとえアンドロイドであっても、子供に手出しはできない。

 一応これはカルミアの機体コンセプトではなく、完全に偶然の産物である。

 もしも攻撃を受けてしまったのであれば、彼女の意思で抜け出すのは不可能。

 そして、カルミアを相手に正攻法での救出方法は通用しない。

 ラベルクの冷たすぎる反応に驚きながらも、クレハはジッとジャックの方を見る。

 ジャックは心なしか、カルミアの攻撃に快感すら覚えつつあることに気付いてしまう。


「なぁ、何かあの人、心なしか嬉しそうに見えるで」

「嫌がれよ」

「仕方ありませんよ、あの人、少女に痛めつけられる事に快感を覚えてしまうのです」

「何故そのような変態に応援を頼んだ!?」

「し、しかた無いじゃないですか、今はあの方しか頼れる方が居なかったんですよ……私、言ってしまえば間者のような物ですから」

「……そうか、しかし、どうやって助けるのじゃ?あ奴の仲間であれば、打開できるのか?」


 藤子からしてみれば、あの今の状況で、ジャックを助けに行くという事は、かなり至難の技だ。

 何しろ、肝心の葵は、今も治療中。

 であれば、頼れるのは、ラベルクの呼んだという応援。

 それに期待するしかない所である。

 とりあえず、今できる事をするというのであればという事で、ラベルクはバックパックから一枚の布を取りだす。


「ふ~む、一応此処にカルミア様のパンツが有るのですが」

「そんな物でどうやって助けるのじゃ!?」

「これが落ちた音を彼女が拾えば、あるいは……」

「どんな方法!?第一こんな騒音の中で聞こえるわけ無かろう!!」

「とりあえず、物は試しです」


 一先ず、ラベルクは提案通り、所持しているパンツを地面に落とす。

 本来であれば、地を這う頭文字Gのように現れる筈。

 しかし、ジャックは踏まれ続けたままに成っている。


「変わらんではないか!」

「恐らく、あの快楽を優先していますね、パンツでは、もう目もくれませんか……はぁ、せめて七美様かザラム様であれば……あ」

「な、何じゃ?」

「両耳を塞いで、口を開けた状態を維持してください」

「は?」

「早く!」


 珍しく大声をあげたラベルクに従い、藤子とクレハは言われた通りにする。

 そして、治療の完了した葵とヘレルスにも、同じ状態を取らせる。

 傍から見れば、なんとも間の抜けた状態だが、その理由はすぐに判明する。

 レッドクラウンとジャックの居るポイントは、大爆発を引き起こしたのだ。

 耳を塞いだのは、耳へのダメージの軽減。

 口を開けるのは、内臓へのダメージを軽減させるための処置である。

 絶え間なく繰り出されるミサイルや無誘導爆弾、そしてレールガンやガトリング砲による攻撃。

 まるで怪獣と戦っているかのように、容赦のない飽和攻撃。


「な、何じゃ一体!?」

「空軍の攻撃になります、葵さまは私がお運び致しますので、皆さまも離れてください」

「ちょっと待て!あの変態はよいのか!?」

「ご安心を、どうせ死にはしません」

「何じゃその理由は!?」


 藤子のツッコミを無視しつつ、ラベルクは葵を運んで爆心地から離れだす。

 その際、四本脚の鉄の塊とすれ違う。

 鉄の塊たちは、五人を無視し、レッドクラウンの方へ向かい、攻撃を開始する。

 上空でも、藤子達の見た事の無い物体たちが攻撃を行っており、物凄い爆発が起こり続けている。

 爆心地にて、カルミアはこの飽和攻撃をあざ笑っていた。


「バカな連中、こんなの豆鉄砲にも成らないのに」


 クレハの攻撃に比べれば、たいした事の無い攻撃だ。

 レールガンや無誘導弾、エーテル兵器による物量作戦。

 これではジャックは勿論、レッドクラウンに損傷を与える事すら不可能だ。

 反撃に出ようとした瞬間、緊急の通達が入る。


「何?これからいい所だっていうのに……」


 爆撃を受ける中で、受け取ったメッセージを読むと、カルミアは笑みを浮かべる。

 撤退の命令と一緒に添えてある文章、それを見て笑わずにはいられなかったのだ。


「ク、ククク、良いじゃん!見直しちゃったよ!!」


 カルミアは歓喜し、レッドクラウンの翼を羽ばたかせ、戦線を離脱する。

 その後を追おうとする連邦兵も居たが、彼らの方も、深追いはしない様にしろと言う命令が下り、追跡は却下される。


「やったのかいな?」

「ええ、ですが……もしかしたら、良くない状況かもしれません」

「それはそうと、一人桃源郷から帰ってこんのじゃが……」

「それは……ま、良いでしょう」

「良いのか!?あ奴の扱い、此れで良いのか!?」

「カルミア様のおパンツも、これでただの布切れとなってしまいましたね、やれやれ」


 冷たすぎるラベルクの反応に引き気味になりながら、藤子はツッコミを入れる。

 すると、ラベルクは不要になったカルミアのパンツを、地面に落とす。

 その瞬間、爆心地から再び爆発が引きおこった。


「な、何じゃ!?」

「あ、大尉」


 爆音に驚いた藤子は、ラベルクの視線の先を見る。

 そして、藤子の目に映し出されたのは、ボロボロに成りながらも、カルミアのパンツを堪能し始めているジャックだった。

 後、意識は無さそうだ。


「ギャアアアア!!?」

「落ち着いてください、皆さん神経を張り詰めておりますので、あまり大きな声は……」

「いや!こんなの誰でも驚くじゃろうが!何なのじゃ!?この変態は!!」

「意識は有りませんので、恐らく音に反応して、反射的に来たのでしょう、まぁ、回収する手間は省けましたし、これでよろしいでしょうね」

「こやつ無意識でやっとるのか!?」

「皆さ~ん、この変態の回収もお願いいたしま~す」


 状況についていけない藤子を置いておき、ラベルクはジャックを担ぎ揚げ、回収班へ預けだす。

 同時に、負傷者である葵、クレハ、ヘレルスの三名も、回収班に預けられる。

 だが、回収班もラベルクも、ジャックの扱いだけは、マジでゴミを扱うように雑だった。


「おい!そやつは奴隷か何かなのか!?扱い雑過ぎるじゃろうが!!」

「いえ、将校です」

「将校にしてよい扱いでは無いじゃろうが!」

「まぁ、死にはしませんから」

「だからって奴隷未満の扱いをしてよい道理は無いじゃろうが!!そしてお主らも頷くでない!!」


 ラベルクの言い分に、他の兵士達も頷くというこの異常な光景に藤子は頭を痛めるのであった。


 ―――――


 ジャックとの闘いから退いたカルミア。

 彼女は、一度レッドクラウンの整備を行うべく、適当な所に着陸していた。


「はぁ、此処にも切り傷、ごめんね、無茶ぶりさせちゃって」


 レッドクラウンの表面には、肉眼では解り難い位、小さな切り傷が散見される。

 オーバー・ドライヴと悪鬼羅刹を併用したジャックの刀。

 この攻撃は、レッドクラウンの装甲を確かに傷つけていた。

 一先ずカルミアは、コックピット内に常備されている薬剤を取りだし、傷に塗布する。


「痛いの、痛いの~飛んでけ~……何て、まぁ気休めは必要だよね」


 薬品を吹きつけながら、レッドクラウンを整備するカルミアは、今までに無い位嬉しそうな表情を浮かべる。

 レッドクラウンの整備を行える。

 という事も有るのだが、もう一つ理由は有る。

 先ほどの通達で、追加された新しい任務内容。

 シルフィ・エルフィリアの抹殺。

 それを思い浮かべただけで、カルミアは思わず笑みをこぼしてしまう。


「クク、ククク、アイツを殺せる、スレイヤーを殺す以上に殺り甲斐あるよ」


 だが、ただ殺すだけでは面白くは無い。

 折角なので、もっと面白い方法で、苦しみ、悲しむ方法で殺してやりたい。

 幸い、リリィの方にはこの通達はなされていない。

 此れならば、実に面白い方法で殺す事が出来る。


「さて、こんな物かな?もう痛い所は無いよね?……うん、それじゃ、行こうか」


 修復作業を終えたカルミアは、嬉しそうに胸部のコックピットへ乗り込む。

 機械化している四肢を変形させ、コックピットのコネクターに接続。

 レッドクラウンとカルミアのシステムを同調させ、制御を行う。

 シートにも、着用しているスーツのコネクターを接続し、体を固定、エーテルの供給を開始する。


「ククク、待ってろよ、偽善者エルフ、その顔、絶望に染め上げながらぶっ殺してやる!!」


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