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姉妹喧嘩 前編

 あれから一か月。

 少し自由の効かなくなってきた脚部を引きずりながら、ラベルクは薄暗い通路を歩き続ける。

 此処に来るまで、魔物との激戦に次ぐ激戦、エーテル・ギアなしでは、やはりこの距離を走破するのは難しい。

 我ながら、よくここまで補給なしで来れたものである。

 そんな風に自画自賛をしても、進む距離は変わらない。

 だが、こんな所で止まる訳にはいかない、自分の行動には、主と人類の命運がかかっているのだから。

 自身に喝を入れたラベルクは、足の損傷なんて気にしていないかのように、歩みを進める。

 そして、ふらつく足取りの少女へと、二体の魔物が襲い掛かる。

 背中に蛾のような模様の羽をもつ、巨大な人型の魔物、モスマン。

 本来であれば、まき散らされる毒の鱗粉、口から吐き出される粘着性の強い糸、そして鋭利で毒を含んだ爪を警戒しつつ、戦う魔物だ。

 だが、少女は背中に背負っているバスターソードを握り、一気に接近し、モスマン二体を一振りで討伐する。

 その剣筋は、まるで演劇の如く美しく、そして、暴力的なまでに尊敬できる物だった。

 黒いメイド服をなびかせ、着地したラベルクは、乱れた前髪を直すと、バスターソードを背部にマウントし、歩みを進める。


「早く、あの方と合流しなければ」


 ラベルクは、損傷している脚部へ、無理な負荷がかからない様に走り出す。

 そして、次の曲がり角を曲がろうとした瞬間、視覚センサーはブラックアウトした。


 ―――――


「ふぅ、今日の稼ぎは、こんなもんかね?」

「そうじゃな、童も少し疲れた故、今宵は終いしよう」

「せやな、ウチの爆薬も、少なく成ってもうたし、そうしてくれると嬉しいわ」

「皆さん、先ずは回復魔法をかけますので、集まってください」


 修道服を着る少女、ヘレルスの指示で、葵、藤子、クレハの三人は一度集まる。

 ヘレルスは広範囲回復魔法によって、今までの戦いの傷を癒し始める。

 四人はリリィ達を見送った後も、相変わらず二人と出会った付近のダンジョンにて、魔石を集めながら日銭を稼ぐ日々を送っていた。

 そして、ダンジョンに籠ってはや十日。

 いい加減お天道様が恋しく成り、補給も尽きてきたので、一旦ダンジョンの外へ出る事にした。

 回復と魔石の回収を終えた四人は、早速ダンジョンの外へと移動を開始する。


「……そういや、この辺りだったな、あの二人と会ったのって」

「そうじゃな、確かにこの辺りじゃ」


 何となく通りかかった通路にて、葵はリリィ達と出会った場所である事を思い出す。

 このパーティの頭脳ともいえるような存在である藤子も、当時の事をしっかり覚えており、葵の言葉を肯定する。

 良く解らない方法でこのダンジョンへと潜り込んできた二人。

 葵の持つ仁義の精神で、このダンジョンから無償で送り出した事を、四人は不意に思い出した。


「(あれから何度か調べてみたが、彼奴等、一体どうやって此処に入り込んだのじゃ?)」


 あれ以来、藤子は時々、一般的に知られるダンジョンの入り方以外の方法で、ダンジョンに入り込む方法を考えていた。

 だが、その方法はやはり見つからず、今でも調べている最中。

 しかし、その事を気にしているのは、藤子一人、クレハ含む他の面々は全く別の事を考えていた。


「なつかしいな~、まだ一か月かそこら言うのに、もう半年くらい前に感じるわ~」

「あの二人の恋路、上手く行っているのでしょうか?」

「案外うまくやってんじゃね?あいつ等、どう見ても両想いだったしよ」

「せやな」

「そうですね」

「お主らの楽観姿勢は羨ましい限りじゃよ」


 扇子で口元を隠しながら、藤子は三人の楽観的な姿勢に目を細める。

 だが、今は連戦の後、残念ながら小難しい事を考えられる程、エネルギーは残っていない。

 しかし、葵の方はまだ力が有り余っているのか、愛用の金棒を適当に振り回し始めてしまう。


「やれやれ、さっさと戻って、さっき討ち取ったハーピーの肉で一杯やりたいぜ」

「ハーピーか~、タンドリーチキン何て如何や?」

「あ~あれも上手いけど、アタシはやっぱり唐揚げかな~、あれを冷やしたエールでぐい~っと」

「葵はんずるいで、そんな事言ったら否定できひん」

「ハハハっ!やっぱりこの二つは、最高の組み合わせだからな!」


 今日の晩酌のメニューが決まり、葵は大喜びで金棒を振り回し始めてしまう。

 そして、曲がり角に差し掛かったところで、まるで金属同士がぶつかりあったかのような甲高い音がダンジョンに響き渡る。

 その音に続き、葵の耳は、何かが吹き飛んだ音を捉え、自分の握る金棒に手ごたえを覚えていた。

 うっかり通りすがりの魔物でも殴り飛ばしてしまったのかと思い、葵とクレハは、角の先へと視線を移す。


「……え」

「あ、葵はん、あれ」

「おい、如何した?おぬしら……」

「何かあったのです、か……」


 曲がり角の先をじっと見つめ、固まってしまっている葵達を見て、ヘレルスと藤子も興味本位で二人の視線の先を見てみる。

 その結果、二人も完全に硬直してしまった。

 何故ならば、四人の視線の先には、黒いメイド服を着用した少女が倒れてしまっているのだ。

 しかも、ピクリとも動いていない。


「おい、葵、お主」

「え、あ、いや、その」

「葵さん」

「な、何だよ」

「すぐに悔い改め、罪を認めれば、主もきっとお許しくださいますよ」

「お前が言うとマジで怖いから止めろ!!」


 どう考えても、四人の視線の先に倒れる少女は、葵の金棒の餌食と成ってしまっている。

 しかも、彼女はどう見ても人間の少女、魔物ではない。

 現実逃避を始めようとする葵に対し、ヘレルスは祈りの姿勢に成りながら悔い改めろと言うのだから、逃避を許してくれなかった。


「だ、大丈夫や!皆落ち着きぃ!い、今ウチが、た、タイムマシン探したるから!!」

「お主が落ち着かぬか!!」

「そ、そうだ!今朝藤子に占ってもらったけど、アタシの今日の運勢は最高潮、すてきな出会いが待っているって話だったし、それに、ダンジョンで死んだ奴は、人間だろうとそうでなかろうと、魔石以外消滅すんだから、大丈夫、絶対大丈夫だ」


 自分以上に動揺して奇行走るクレハを見て、少し落ち着いた葵は、今朝の藤子の占いを思い出す。

 故郷では陰陽師のような事をしていただけあって、藤子の占いの精度は高い。

 今日の天気から運勢まで、的中率は大体七十パーセントほどだが、結構当たる方である。

 しかも、二人は幼馴染、ここで占いを信じないでいては、それこそ罰当たりである。

 とにかく、葵は少女の生存を確かな物にするべく、口と鼻に手を当て、息をしているかどうかを確認し始める。

 息をしておらず、呼吸の動作も見られない、死んでいなくても、じきに死んでもおかしくない状態だ。


「藤子てめぇぇぇ!!」


 かなり危ない状態と解った葵は、すぐに少女を担ぎ上げ、セーフルームへと運び始める。

 この場でヘレルスに回復魔法をかけさせればいいというのに、完全に動揺してしまっており、全力で走りだす。


「畜生!信じねぇ!信じねぇからな!アタシがこの手で罪の無い奴を殺したなんて!!」

「お主意外とそう言うところ小心者じゃよな」

「つか藤子!何が最高潮の運勢だ!最低の運勢だろうが!!」

「まぁまぁ、葵はん!一旦落ち着き!ウチに良い考えが有るで!!」

「な、何だよ!生き返らせるって言う気か!?」


 クレハの言葉に、胡散臭く、信憑性の全くない、僅かな希望を抱いた葵は、一度立ち止まり、クレハの提案を聞こうとする。

 そこで、クレハの提示した案は、というと。


「生コンクリート~」

「何する気だてめぇ!!?」

「余計に罪が重く成るだけですよ!!」


 クレハの出した案とは、少女をコンクリートに沈めろと言う物だった。

 巨大なバケツと、大量の生コンクリートを何処で用意したのかはさておき、クレハの用意した道具らを蹴り飛ばした葵は、ついでにクレハに一発入れておいた。

 しかし、その事で少し落ち着きを取り戻せたようで、葵は少女を寝かせ、一番この状況を打開できる存在であるヘレルスに頼み込む。


「そ、そうだ、考えてみたらヘレルスがいるじゃねぇか、回復できるか!?」

「え、えっと~いくら私でも、死んだ人を蘇らせるのは、戒律違反と言いますか」

「おい、その言い方じゃと、お主人を生き返らせる方法を知っておるのか?」

「あ、えっと、邪教の方法なので、恐らく偽物かと……成功しても、最悪アンデッドに……」


 落ち着きを取り戻せない三人とは別に、倒れ込む少女を看るクレハは、とあることに気付き始める。

 このダンジョンで死んだ場合、装備品と魔石以外の物は、全て消えてしまう。

 何故消えてしまうのか、それについては様々な議論が交わされているが、とにかく、このダンジョンで死んだ場合は、埋葬もできない、その事は解り切っている。

 だが、葵の手で気を失ってしまっている少女は、何時まで経っても消える事はなく、ただじっとしているだけだ。


「なぁ、お三方、この女の人、何時まで経っても消えんのやけど」

「え」

「確かに、何故消えんのじゃ?」

「もしかして、生きているのですかね?」


 ヘレルスの言葉に半信半疑に成りながらも、四人は少女の顔を眺める。

 まるで人形のように整い、しっかりと張りツヤの有る生き生きとした肌、とても死人のようには見えない。

 いや、それどころか、ヘレルスはとあることに気が付く。


「あれ?この方、アリサさんに似て居ませんか?」

「そ、そうか?」

「でも、言われてみれば、見えん事も無いかな?」

「じゃが、この人形のように不自然に整った顔、確かに似ておる」


 このダンジョンで出会った蒼髪の少女、リリィに面影が有るのだ。

 髪の色を蒼に変えると、確かに似て居なくもない事に、四人は気づく。

 そして、少女の顔を覗き込んでいると、閉じていた瞳は勢いよく開き、急な事に四人は腰を抜かしてしまう。


「おや?」

「のわ!マジで生きて居やがった」

「……ここは、予定のルートと違いますね……貴女方ですか?私をお運びになられたのは」

「え、ええ、ちょっと、紆余曲折有りまして」

「そうでしたか、何故気を失っていたのか、そちらはあえて黙認いたしますが、この付近にある出入り口へ行きたいのですが、ルートは御存じ……ですね」

「お主、随分と元気じゃな、葵の金棒をくらっておいて」

「いえ、滅相もございません、それなりのダメージは負っておりますよ」


 普通に立ち上がり、何事も無かったかのように喋り倒す少女を見て、四人は少し不気味さを覚える。

 事故とはいえ、一トンを超える葵の金棒の直撃を受けてしまったというのに、普通に生きているのは、かなり怖い。

 しかも、額をさすりながら藤子の返答に応えている辺り、直撃したのは顔面である事が伺える。

 だというのに、少女は非の打ち所がない、完璧な立ち居振る舞いを見せながら立ち上がる。


「ま、まぁ無事で何よりだ、それより、大丈夫か?結構強く殴っちまったけど、そのゴメン」

「いえ、気にしておりませんよ、葵さま」

「は?」

「あ、申し遅れました、私はラベルク、妹のリリィ、いえ、アリサがお世話になりました、お話は聞いておりますよ、皆さま」


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