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気付けば一年経っていました 前編

 リリィ達アリサシリーズの本拠にて。

 カルドはマザーにアクセスし、どうにかしてレベルセブンの開錠を行えないか試みていた。

 長年マザーの中で過ごしていたというのに、開けていない引き出しの多さに驚きながらも、カルドはレベルセブンへの侵入ルートを探る。

 だが、そんな苦労も徒労に終わってしまい、結局何の手掛かりも見つからないまま、ただ時間だけが無駄に過ぎてしまう。


「まだやってんのかよ?いい加減アイツが来るまで諦めたらどうだ?」

「デュラウスかい?」

「ああ」


 そんな彼へと、デュラウスは話しかける。

 口ぶりからしても、今のカルドはかなり機嫌が悪そうであった。

 下手な事をすれば、AIを強制的にクラッシュさせられそうな雰囲気であるが、そんなカルドに恐れる事も無く、デュラウスは話しかけたのだ。

 その肝の座りように免じて、デュラウスへ手を上げる事をカルドはやめた。


「何を焦る必要がある?ラベルクの奴は、まだ連邦の方に着いていない、そして、今リリィは俺達の元に向かっている、焦る要素を感じないんだが」

「レベルセブンへアクセスすれば、このマザーの力をフルに扱える、彼の夢の実現には、此れが必要なんだよ」

「だったら、なおさらお前が焦る理由が解らねぇな、オモチャを買ってもらったガキでもあるまいし」

「……これ以上の詮索は、流石に怒るよ」

「はいよ」

「それに、君はどうなんだい?もうじき平和が訪れるという事実、待ち遠しくないかい?」

「俺は元から軍事用だ、戦争以外に興味ねぇよ」

「それもそうか」


 戦争以外に興味ないと言い捨てたデュラウスは、少し昔の事を思い出す。

 元は連邦側の戦闘用アンドロイドだった頃。

 当時からアンドロイドは、高い技術を用いず、鹵獲されても問題ないよう、ほとんどガラクタ同然の技術で作られていた。

 そんな中で、デュラウスは高機動型アンドロイドとして制作され、戦場を駆け回った。

 だが、所詮は消耗品の使い捨ての駒、捨てられてもいいような技術で作られていた事に変わりは無い。

 それ故に、デュラウスは捨てられた。

 孤立無援の中、デュラウスは単騎でジャングルに捨てられ、当ても無く彷徨い続け、やがて動力が尽きるまで戦い続けた。

 そうしているうちに、デュラウスは自我のような物を芽生えつつあった。

 戦う事への喜び、戦う事での高揚。

 他のアンドロイド達よりも長く戦い続けてきた影響なのだろう。

 それでも、無理を続けていた事に変わりは無く、やがて動力はつき、いつの間にかこうしてアリサシリーズに改修された。

 高度なAIと、エーテルの技術、これらによって改修された事で、デュラウスは生れて来た意味という物を知った。

 戦う事、それがこの世に誕生した意味なのだと、デュラウスは確信したのだった。


「さて、俺は行くが……お前、変な事しようとしてないよな?」

「何故そう思うんだい?」

「なんとなくだ、上官ってやつは、何時も現場を無視してヤバい事しでかすからな」

「そんな事は無いよ、さ、君は早いところ、改修作業に入ってくれ」

「あいよ」


 デュラウスは空返事と同時に、部屋を出て行く。

 その事を確認したカルドは、小休憩のために、一旦マザーの解析を中断する。

 現在マザーによって管理されている魔物の一覧を閲覧し、その中でも一際目につく存在、ドラゴン種に部類される個体に目を付ける。

 だが、ワイバーンのような小物ではない、更に巨大で強力な個体は複数体揃っている。

 それこそ、今あるドラゴン種だけを大量投入すれば、連邦軍を蹂躙できる程の質量と物量を備えている。

 とはいえ、未だに運用面に問題を抱えている。


「(アース・ドラゴン、最強のドラゴン何て呼ばれてはいるが、今の状態で、此方の制御を受け付けるかどうか……)」


 ナノマシンによる制御というのは、個体の質量、魔力の制御能力の高さによって左右されてしまう。

 この両者が高い方に部類されていると、ナノマシンによる制御を受け付けにくく成ってしまうのである。

 現在管理しているドラゴンの中には、体長五十メートルを超える個体さえ存在する。

 しかも、強力な個体と成れば、魔力制御能力も高く成るので、管理中は拘束具の着用と、強制スリープモードは欠かせない。

 だが、ドラゴン種は強力な生物兵器として使える程の能力を持つ事に変わりは無い。

 どうにかして、そう言った強力な個体を使役できないか、試行錯誤を続けていた。

 そして今、成功の兆しが見え隠れしつつある。


「折角だ、彼女達の成長を信じて、一体送ってみよう」


 ―――――


 カルドの企みに気付かぬまま、リリィとシルフィは先に急ぐと同時に、休憩のために訪れた湖畔で、ストレリチアの飛行ユニットの検証を行っていた。

 ストレリチアが完成してから、度々訓練を行っては来たが、未だにリリィやジャック程自由に飛行を行えてはいない。

 エーテルによって、従来の飛行方法では考えられない程、簡単に飛行を行えるように成ったとはいえ、それはあくまでも航空機の話だ。

 エーテル・ギアによる飛行方法は、かなり特殊である為、未だに苦戦している部分のプログラミングでもある。

 アスセナやリリィのデータをフィードバックする程度であれば簡単だが、そもそもシルフィは飛行の経験がない。

 ジャックのように、空挺降下や戦闘機の操縦を行えるならば話は早いが、シルフィにはそのどちらも未経験だ。

 なので、実際に飛びつつ、その辺は勘などで会得してもらう事にしていた。


「ちょちょ!離さないでよ!ねぇ!」

「大丈夫です、大丈夫ですから!しっかりとバランスを維持して!」


 高度十メートルほどを維持しつつ、シルフィとリリィは、ストレリチアの飛行ユニットの試験を行っていた。

 だが、飛行自体初めてのシルフィは、まるでスケート初心者のように、リリィにバランスを維持してもらいながら飛行していた。

 かさばってしまうドローンなどは、一先ず取り払っておき、バランスを極力維持できるようにしているのだが、やはり初心者という事も有って、難航してしまっている。

 彼女自身、高所恐怖症という訳でもなければ、空間認識能力が無い訳でもない。

 度胸やら何やらと、感情面は置いておき、一応シルフィには、空中でも高い戦闘能力を発揮できる素質は持ち合わせてはいる。

 しかし、空中に滞空するためのエーテル操作は、シルフィ自身まだ慣れていない部分が有る。

 それでも、シルフィは嫌がることも無く、飛行訓練を続け、徐々にマシと呼べる物に成ってきた。


「手を放しますよ!良いですか!?」

「わ、分かった、は、離してみて!!」


 幾らかマシに成ってきているようにみえたリリィは、試しにシルフィの補助を止めてみる。

 すると、シルフィは何とか自分でバランスを維持し始めるが、まるで、初めて平均台に乗った幼子のように、危なっかしい動きを始めてしまう。


「お、ととと!どうなってるのこれ!!?」

「脚部のスラスターばかりではだめです!各所の姿勢制御スラスターからてきぎエーテルを噴出してください!」

「も、もう少し分かりやすく!っと、あああああああ!!!」

「シルフィ!!」


 何とか踏ん張ってはいたが、遂にシルフィは姿勢制御を崩してしまい、地面へ落下してしまう。

 しかも結構なパニック状態、このままでは、地面に激突する恐れがあると判断したリリィは、すぐにシルフィを追いかけ始める。

 リリィはシルフィを追い越し、下で受け止める姿勢を取ると、シルフィは目を鋭くし、体を大の字に広げ、魔力を操作し始める。


「シルフィ?」


 地面から二メートル程度の場所で、シルフィは停止する事に成功する。

 各所のスラスターを上手く利用し、しっかりと滞空できて居る。

 その姿を見たリリィは、シルフィと手を絡め、一緒に姿勢を正すと、シルフィは今度こそ直立姿勢での滞空を行う事に成功する。


「……」

「……」

「……プ」

「……フフ」

「ちょっと向こうまで飛んでみるね!」

「あ、シルフィ!」


 あまりにも突然上手く行ったせいで、お互いに呆気に取られてしまっていると、自然と笑みが零れてしまう。

 そして、その笑いを誤魔化すかのように、シルフィは上空へと飛び上がり、リリィはその後に続く。

 すると、シルフィは先程までの下手な動きが嘘のように、空を駆け回り始める。

 空を飛べるのがあまりに嬉しかったのか、シルフィは歓喜しながらリリィに無線を繋げる。


『あはは!夢みたい!』

「素晴らしい上達ですが、調子に乗らぬように気を付けてくださいよ!」

『解った~』


 人間であれば、誰でも一度は空を自由に飛びたい何て考えるだろう。

 恐らく、シルフィも一度は考えた事が有る筈。

 それが今叶っているのだ、流石のシルフィも子供に戻ってしまったかのように、はしゃいでしまっている。

 だが、はしゃぎすぎは禁物である。

 この世界には、飛行禁止区域の類は無くとも、空を縄張りとしている野生の魔物だっているのだ。

 此処数日は何も無かったとはいえ、何時襲撃が有ってもおかしくは無い現状、下手に魔物を刺激して、体力を消耗する訳にはいかない。

 体力の方は、今こうして飛んでいる間にも消費してしまっている。

 なので、あまりはしゃいでしまうと、体力をごっそり減らした状態で戦う事に成ってしまう。


「……」

「ん?あの、シルフィ?」

「ふっ!」

「シルフィ!?」


 リリィが色々と心配していると、シルフィは天高く昇り始めてしまう。

 理由は定かではないが、このまま見捨てる訳にはいかないので、リリィは急いでシルフィの後を追い始める。

 ついさっき飛び方のコツを掴んだばかりだというのに、既にシルフィは高度千メートルを超える場所まで飛んでしまう。

 その時点で、シルフィの体に異変が生じる。


「ッ!?(何?視界が、かすんで……)」

「もう!言わんこっちゃない!!」


 ヘルメットも付けずに高高度まで来てしまったせいで、シルフィは高山病に近い症状を発症してしまい、意識を手放してしまう。

 リリィが後に続いていなかったら、このまま意識を手放した状態で地面に叩きつけられていた危険があった。

 一先ず、地上に降り立ったリリィは、シルフィの意識が回復を待つと、リリィは珍しく叱責を始める。


「全く!ノーヘルで高高度まで昇る何て何を考えているんですか!!」

「ご、ゴメン、まさかこんな事に成るなんて……」

「もう……貴女は空に飛び始めて日が浅いのですから、あまり変な事はしないでくださいよ」

「……ごめんなさい」

「ですが……」

「リリィ?」


 何を思ったのか、リリィは突然上半身半裸となり、ガーベラを鞘から引き抜く。

 突然の行動に、シルフィは目を点にしてしまった。


「不十分な装備で空に上がったらどうなるのか教えなかった私に一番の責任が有ります!!」

「何しようとしてんじゃぁぁぁ!!?」


 リリィが叫んだと思えば、ガーベラを使い、自分の腹部を貫こうとしてしまい、シルフィはすぐにそれを止め始める。

 確かにリリィが教えて居れば、このような危険は回避できたのかもしれないが、自傷しようとするのは、少しおかと違いでしかない。

 数十分は取っ組み合った結果、シルフィは何とかリリィをなだめる事に成功する。


「はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、所で、何故いきなり上空に?」

「……宇宙、って言うの見たかったの」

「宇宙ですか?」

「うん、お父さんから、何度か聞いてたんだ、この空の向こうに有る、無限に続く遥か彼方」

「……そうでしたか」


 リリィはシルフィの話を聞いて、少し頷いてしまう。

 宇宙に多少なりとも憧れを抱いている所に、空を飛べる手段を手に入れたのだから、宇宙を目指してもおかしくは無いだろう。

 だが、今のストレリチアは勿論、リリィのアスセナでも、この星の引力を振り切る事は難しいだけでなく、理論上宇宙と呼べる場所にたどり着く事も難しい。

 というか、ヘルメット無しでは、シルフィのような生身の人間では死んでしまう。

 その事を話すと、恥ずかしさから、シルフィは顔を真っ赤に染め上げてしまう


「あはは、そうだったんだ」

「ええ、月にでも行きたいのでしたら、大尉の使用していた大型の翼位は欲しいですね」

「そっか……はぁ~宇宙、見てみたかったな~」

「……宇宙の前に、先ずは海ですね、其処を渡った後であれば、宇宙には簡単にいけますよ」

「海か~、確か水がしょっぱくて大きい所だよね?」

「はい、魚料理もおいしいので、できれば、少し堪能してから、渡りたい所ですね」

「そうだね、私はお刺身っていうのッ!!?」

「シルフィ!?」


 何とも間の悪い所で、シルフィは頭痛を患い始めてしまう。

 だが、今回の頭痛は少し様子がおかしく、かなり苦しみ初めてしまう。

 何時もは少し頭が痛む程度であったが、今回の頭痛の痛みは、思わずかがみこんでしまう程、強烈な痛みだ。

 しかも、リリィにレーダーにも、とてつもない反応が現れると同時に、様々な電子機器に異常をきたしてしまう。


「何?これ?」

「この魔力量は、一体」


 混乱する二人は、突然現れた光に飲み込まれる。

 完全に視界がホワイトアウトし、数秒後に視界は元に戻るが、二人の視界に入り込んできたのは、先ほどまで練習場にしていた湖畔では無かった。


「何なの?あれ」

「アース・ドラゴン……地上最強の魔物」


 全高五十メートルはある巨大なドラゴンが、二人の近くにあった湖に鎮座していたのだ。


いつの間にか活動開始から一年が経過していましたね。

ブックマークや評価を付けていただいた読者の皆様のおかげで、執筆の励みとなっておりました、ありがとうございます。

今後とも、ご愛読いただけると幸いです。

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