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贖罪とケジメ 中編

 クラブとの闘いから数日が経過した。

 里を後にしたレリア達は、一旦レンズの町へと戻り、生存者たちの治療を進めた。

 先ず、参加したメンバーの中では、護衛以外の犠牲は無く、全員少し怪我をした程度だった。

 だが、クラブと戦闘を行った面々の一部は、無事とは言えなかった。

 アラクネは、両腕の骨にヒビが入った程度で済んだが、ウルフスは片腕を失う事となった。

 クラブに食いつかれた部分の腕は、ほとんど壊死と言っていいような状態と成ってしまったため、町に戻った後、すぐに切断された。

 そしてロゼは、広がっていた筈の痣は、少し減り、以前ほど辛い状態では無くなっていた。

 尚、里で唯一の生存者である少女、彼女は丸一日眠りについていたが、熱以外には、ちょっとの擦り傷や打撲で済んでいた。

 起きた瞬間は、人間に捕らわれたと勘違いし、暴れ出してしまったが、ウルフスのおかげで、何とか落ち着きを取り戻してくれた。

 名前はスノウ・ドロップ、ウルフスの見立てでは、大体二百三十歳程度で、エルフ達からしてみれば、まだ子供だ。

 今はモンドの屋敷の一室で療養中である。


 そして現在。

 全員の容態も安定してきたので、レリアは改めて話を聞く事にした。

 モンド邸にて、里に関する事やルドベキアに関する事の話し合いを開始。

 ウルフスの聴取から始まり、クラブ達が町を壊滅させた真意や目的を知る。

 その後、族長であるルドベキアについて、彼の知っている情報の全てを聞き出した。

 今回の一件で、ルドベキアは国際指名手配に値する人物であると認識したレリアは、王都に戻り次第、彼女の捜索を行う事にした。

 ウルフスの話から考えても、クラブの強化と里の壊滅は、彼女の予定に入っていたようにも思える。

 今後、同じような事が起こる前に、元凶であるルドベキアを一日でも早く捕まえなければならないのだ。

 その後で、クラブとの闘いに参加したメンバーだけを集め、他は人払いを頼み、席を外させてもらった。

 ウルフスの聴取終了後、今度はアラクネとラズカの聴取が開始された。

 レリアは、アラクネがリリィと同郷の出である事を知ってから、少し怪しんでおり、詳しく話を聞く事にした。

 物凄い剣幕と圧で問いただされたアラクネは、全て打ち明けた方が良いと判断し、リリィの事について、自身の知っている限りの情報を話した。


「……戦争を行う為に作られたゴーレム、えっと、貴女の世界の言葉で、何でしたっけ?」

「アンドロイドです、彼女は特に特別な個体で、完全に自立して行動できるという、他のアンドロイドでは難しい事を成し遂げています」

「ほう、自分で武器の調達をしたり、女を好きに成るのも、珍しいのか?」

「ええ、武器の調達自体は珍しくないけど、本来アンドロイドは、感情を持たないから、人に好意を寄せたりはしないのだけど……あの子、上手く行ったみたいで何よりだわ」

「そ、そうか」


 アラクネは、自身の事とリリィの事、そして、レリア達が偶然出会っていたというジャックの事についても、自分の解る範囲の事を話した。

 尚、リリィの話題の際、ウルフスと名前の部分で食い違いが出てきてしまったので、本名はアリサでは無く、リリィである事は、周知の事となった。

 それと同時に、アラクネ達が異世界の存在で、今まさに、異世界の戦争をこの世界に持ち込んでしまっている事も、アラクネはレリア達に話した。

 もしも、人払いをせずに話を行い、この事実を喋ってしまっていたら、アラクネは晒上げられていたかもしれない。

 そして、そんな話を聞いたレリアは、すっかり落ち込んでしまう。


「はぁ、彼女達は異世界人で、しかも関係ないこっちを巻き込んでぜっさん戦争中、こっちに持ち込まないで貰いたいわ」

「ごめんなさい、私が謝って済む事ではありませんが」

「ええ、でも、人払いをして正解だったわ、下手をしたら、貴女これから拷問漬けの毎日だったわよ、仮にも異世界人なんだから、情報源としては優秀過ぎるわ」

「そうですね」

「それで、そいつら同士の戦争が終わったらどうなる?今度は私達と戦争か?」


 ロゼの質問に、アラクネは首を横に振る。

 先ず、ナーダはこの世界の住民達と友好関係を築くつもりでいる、という事は、リリィの方から聞いている(善し悪しは置いておき)。

 そして、連邦の方も、できる事であれば、この世界の住民達と友好を結ぶことを考えるかもしれない。

 とはいえ、アラクネが元の世界に居たのは、もう二十年も前の事、路線変更で侵攻してこないとも限らないのだ。

 そうでなくとも、武力で威圧し、不平等条約を強引に結ばないとも限らない。


「(できる事であれば、戦争だけは回避したいわね、リリィ、ジャック、どちらの陣営を相手にしても、私達の世界が勝てる見込みは少ないわ)」


 アラクネの話を聞いたレリアは、リリィ達の世界の技術に畏怖し、戦争になったらどうなるのかを考えてしまう。

 リリィとは、二日程度しか一緒に居なかったが、違和感は有っても、とても人間にしか見えなかった。

 レリア達にとって、ゴーレムとは、自身の力で判断できず、特定の人物にしか従わない、ただのデクの棒でしかない。

 喋る事もできず、誰かに意見する事も出来ない。

 だが、リリィは違う、まるで人間のように振舞い、会話を行う。

 言ってしまえば、人間が人間を作り出すという事を成し遂げている。

 この世界でも、ホムンクルスのような人工生命体を作ろうという試みは有る。

 だが、成功した例はなく、今では人道的な面から、研究の類を禁止にしようと言う意見もある。

 しかし、そんな事もお構いなしで有るかのように、異世界ではリリィのような存在を作れる技術がある。

 しかも、アラクネが事故に遭ったという、物質を遥か遠くまで、瞬間的に、しかも一方的に移動させる技術まである。

 技術面だけで言ってしまえば、完全に後れを取ってしまっている。

 下手をすれば、戦争にすらならないかもしれない。


「……アラクネさん、一つ聞きたいのだけど、あの子、リリィは私と接触する事も、任務の内だと思う?」

「いえ、リリィ達は、基本的にジャックを殺すために制作されているので、殿下との接触は、完全に想定外だった可能性が有ります、ですが、殿下達と仲良くしていれば、ナーダとの友好関係の為、じゃないかしら?」

「そう、でも、あの子、私の正体に気付いていたわ、重要人物の顔を知っていてもおかしくはないとしても……こう言ってはあれだけど、一国の姫が冒険者をやっていると思うかしら?」

「リリィには、特定の人物を認証するシステム……能力が有る筈です、そう考えると、殿下の顔写真さえあれば、特定は可能です、ナーダは長い事この世界に住んでいるので、入手も容易かと」

「……とりあえず、貴女たちの世界に関わる時は、常識を捨てる事にするわ」

「それが妥当ですね」


 アラクネから次々と出て来る常軌を逸した言葉の数々、そのせいで、情報過多に成ったレリアは、もう常識を捨てる事にした。

 一先ず、異世界の件は置いておき、里の唯一の生存者である少女、スノウと、ウルフスの話へと移る。

 ウルフスは、罪に問えることと言えば、盗賊を連行中の騎士団たちを斬殺した事位しか、立証できる物は無い。

 奴隷の刻印で操られていたとしても、罪は罪、裁判の後でしかるべき処罰を行う事に成った。

 生き残った少女の方は、ウルフスの見立てでは、まだ二百三十歳程度、エルフ達からすれば、まだ子供と言える。

 エルフは様々な種族から見ても長寿である為、どういった処罰が適切か度々議論になる。

 人間の感覚では、もう大人なのだから、子供扱いと言うのは、違和感を覚えてしまう事が多い。


「ねぇウルフス、処罰は置いておいて、貴方は、自由になったら、何をしたいの?」

「そうだな、姫様がたの言う冒険者って言うのも悪くないかもしれないが、この腕だけじゃない、歳のせいで、体のあちらこちらにガタが来てる、引退して、辺境でパンでも焼くかね」

「何でパン?」

「元々の家業でね、狩人は副業のつもりで始めたんだ」

「そう……ねぇ、あの生き残った女の子、スノウは貴方が預かってもらっていい?」

「は?」

「あの子も、きっと人間に良い印象を抱いていないだろうし、森の外だって、あの子から見たら知らない世界、子供には厳しい、そうなると、保護者が必要になるから、同族の貴方であれば、あの子も不安も幾らか和らぐだろうし」

「言いたい事は解る、だが……」


 レリアの申し出た提案に、ウルフスは少し顔を歪める。

 人を育てるというのは、とても難しいというのは、クラブを弟子に取った時に身をもって知った。

 クラブの歪みに気付かず育てた結果、彼女は歪みに歪んでしまった。

 またそんな事が起こらないとも限らない以上、子供を預かるというのは、ウルフスにとって、不安事でしかなかった。


「アイツが、弟子のクラブが歪んだのは、俺の教育不足だ、子供を預かる身分じゃない」

「確かに、でも、貴方が人と関わって生きる道を選ぶのなら、きっと、あの子も外の人間と関わる機会が出て来る、そうすれば、きっとわかってくれるわ」

「……そうだと良いんだが、ここには、ユリアスが居るし、そいつに任せたらいい」

「あー、えっと、その、そいつ、働いている場所が場所で、その、子供の面倒を見るには適さないというか、何と言うか……」

「そうだね」

「……どこで働かしてんだよ」


 ウルフスの質問に、アラクネとラズカは目をそらしてしまう。

 だが、二人の反応を見たウルフスは、どんな場所で働いているのか、なんとなく察した。

 しかし、空気を読まずにロゼは打ち明けようとしてしまう。


「ユリアスとか言う奴なら、町の風」

「ウワアアア!!」

「ウワアアア!!」

「ヒデブッ!?」


 流石に姫の前で、そんないかがわしい店の名前を言う訳にはいかないと考えたアラクネとラズカは、ロゼを取り押さえた。

 その後、何故か女子グループで、恋バナが開かれてしまい、しっかりと許可をとったウルフスは、中座して部屋の外へと出た。

 彼の向かっている場所は、生存者の少女、スノウの居る部屋である。

 彼女の容態を見る事も兼ねて、ウルフスは、スノウの居る部屋へと入る。

 看病を行っていたメイドさんと、看病を変わったウルフスは、少女の寝るベッドの横に座り込む。

 事実は知っておいた方が良いと、ロゼの口から両親は死んだという事を伝えられている。

 そのせいか、今の彼女は状況を呑み込む事が出来ず、意気消沈の状態と成ってしまっている。


「……よく生き残ったものだな」

「……ぱ」

「お?」

「ぱ、パ……マ、マ……」

「……悪かった、いや、こんな言葉だけじゃ、済まないよな」


 ウルフスを少し視界に収めたと思うと、スノウは涙を流し始めてしまう。

 この少女にも、両親と言う存在がいた。

 だが、その両親は、クラブの餌食と成ってしまった。

 クラブを歪ませてしまった原因、それは紛れも無くウルフス自身だ。

 ならば、この年端もいかない少女の両親の命を奪った責任は、間接的とはいっても、ウルフスにある。

 その責任を投げ出して、自分だけ優雅に隠居生活何て、ムシが良すぎる。


「……」

「今度こそ、立派に育てて見せる、そんな事言わない、せめて、お前の心の傷が、塞がるまで」


 今のスノウの心情を思ったウルフスは、ケジメを付ける為にも、自身の過ちに対する贖罪の為にも、逃げる訳にはいかなかった。


 ――――――


 その日の夜、ハーフエルフ達の里にて。

 ウルフスが作ったクラブの墓は、徐々にせり上がり、埋められていたクラブは土から這い上がって来る。

 その姿を見ていたルドベキアは、妖しく微笑む。


「やはり、既に弱点を克服するくらいには、成長していたようね、不完全な状態での目覚めだったから、安心したわ」


 クラブの変異、これはまだ途中段階でしかない。

 本来であれば、後二週間は地下牢に眠っていなければならなかった。

 今の状態で、人を捕食するのは、下手をすれば変異途中で死に至る危険性をはらんで居た。

 だが、クラブはこうして生命活動を続けている。

 そのためには、余程強い自我を保つ必要があるのだ。

 恐らく、クラブの中にある報復心等が、その自我を異常なまでに保っていたのだろう、それこそ、ロゼ以上の精神力だ。

 本能のままに動く今であっても、恐らくは、かろうじて自我を保っている状態なのだろう。

 首は落とされてしまったが、みたところでは、再生したのではなく、斬られた頭部を自ら接合したのだろう。


「でも、流石にこれ以上此処に居させるわけにはいかないわね」


 出来れば、目立った事に成る事だけは避けておきたいルドベキアは、クラブの方へとゆっくり歩み寄る。

 足音でルドベキアの存在に気付いたクラブは、容赦なく触手を彼女へと向けて放つ。


「ッ!!」

「あらあら、おてんばね」


 だが、クラブの触手達は、ルドベキアに差し掛かる前に消滅してしまう。

 オマケに、そのほかの触手に至っては、ルドベキアへ放つ前に消滅し、体は石のように動かなくなってしまう。

 完全に無防備状態のクラブに接近したルドベキアは、一緒に何処かへと消えてしまう。


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