表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/343

背負いし業 前編

 民衆の盛大な歓声、そして、大空をはばたく白鳩たちと、舞い散る美しい花びら。

 そんな中を、花婿と花嫁は凱旋する。

 なんとも華々しく、誉れ高く、そして、羨ましいのだろうか。

 凱旋する二人を祝福しながら警備を行っていると、花嫁と偶然目を合わせる。

 そして、何時も向けてくれる眩しいと思える笑みを、此れで最後であるとばかりに向け、手を振ってくれる。

 それが、自分に向けられた物であっても、他の誰かであっても構わなかった。

 彼女が、レリアが幸せで有るのであれば、それでよかった。


 ――――――


「……夢か」


 目を覚ましたロゼは、目から零れ落ちていた雫を拭い、身支度を始める。

 今のロゼの任務は、何時ぞや戦ったエルフ達の里との、話し合いの場を設け、レリアを迎え入れる事となっている。

 ただの里程度の話で、一国の姫であるレリアが来るというのは、少しやりすぎだと思ってしまうロゼであったが、彼女がそうしたいと言うのであれば、ロゼは文句を言う事はできない。

 そんな事を思いながら、ロゼは身なりをいつも以上に綺麗に整える。

 町での一件から、レリアとはよく隠れて逢引をしたりしている。

 騎士であっても、レリアの前では、一人の少女でありたいとも思い、最近まで興味すらわかなかった化粧までしている。

 だが、所詮はただの一介の騎士、本人から付き合おうという指令が有ったとしても、最終的には夢の結果になる。


「(せめて夢で見た日まで、全身全霊でお守りする、それが、私の務めだ、たとえ、この命尽きようとも……)」


 鏡に映る肌着姿の自分の全身を見つめる。

 体の至る所にある紫色の痣。

 鎧の力を使用する度に出て来るものだ。

 それだけならば別に良いのだが、この痣の部分は何時もジンジンと痛む以外の感覚が無い。

 力を使用したのは、前回で二回目、そのせいか、痣の数は増え、元々できて居た物はもっと大きく成っている。

 旅の後、医者に腕の手当てを頼んだのだが、心配されたレリアに、全身の検査もお願いされた際に、彼女もこの痣を見る事に成った。

 医者の見立てによれば、闇属性魔法による呪いの症状に酷似しているとの事だった。

 鎧の影響であると語った時は、レリアはひどく泣きわめいてしまい、別の装備を用意するから、脱いでほしいと頼まれた。

 だが、鎧は力を開放しなくとも、ある程度は身体強化の恩恵を受けられるし、痣の痛みも和らぐ。

 変に別の装備に変えてしまうと、痣の痛みで集中できなくなる。

 リハビリ代わりに別の装備で動き回ったが、おかげで地獄のような痛みを味わう事に成った。

 そして、医者の予想では、後二回程使用すれば、最悪の場合、命の危険性が有るとの事だった。


「(アイツには、エルフ達にはもう関わるなと言われたが、悪いな、私は姫様の護衛役、此方の都合だけで、任務を放棄する訳にはいかない)」


 かつて共に戦う事に成った、ジャックと言う謎の女。

 彼女には、エルフと関われば、また鎧の力を使う事に成るから、関わらない方が良いと言われたが、任務は果たさなければならない。

 護衛すらできなくなる体に成ってしまうまで、辞めるつもりはない。

 そう思いながら、ロゼは一度宿代わりにしている屋敷の外へと向かい、日課の訓練を始め、剣を振り回し始める。

 最近ようやく左腕が治ったので、今はリハビリとして左腕を中心に訓練を進めている。

 治療のおかげなのか、思っていた以上に早く回復しており、苦労は無く生活を送れている。


「生が出ますね」

「アンタか、何の用だ?」

「いえ、朝食の用意が出来たので、お呼びに」

「そうか、有難い」

「いえ、お泊りされている間は、精いっぱいおもてなしさせていただきます」


 訓練中のロゼに話かけてきたのは、蜘蛛と人間のハーフのような姿をした女性のアラクネであった。

 ロゼが宿泊しているのは、町の責任者であるモンドの家。

 その一人娘であるラズカの恋人である彼女に、ロゼの案内や邸内での世話等を頼んでいる。

 初対面の時、魔物と判断したロゼはいきなり斬り掛かったが、特に実害も無い存在だと解った時に、ある程度心を許した。

 それから、お互いリリィ達の知り合いという事も有り、その話題のおかげで、更に心を許す事に成った。

 訓練を終えたロゼは、食事を済ませた後、レリアを迎え入れる為の準備を行い始める。

 一国の姫君が来るという一大イベントのせいか、屋敷の使用人達は、死にもの狂いで清掃を行った。

 その日の夕暮れ、レリアは屋敷に到着し、モンドとの面会を始める。


「この度は、お招きいただきありがとうございます」

「いえ、まさか殿下自ら御足労頂く事に成るとは」

「この国の町が、魔物では無く人の手によって無く成ってしまったのです、内戦紛いの状況を回避するためにも、わたくしが出向いた方が、より効果的かと」

「そうでしたか」

「しかし、どのように彼らと交渉の席を?此処で捕えているエルフに、それを行えるだけの立場が有るとは思えませんが」

「彼はモンスターテイマーでして、即席でテイムした魔物を介して、話を取り次いでくれたのです」


 モンドは、レリアにどうやって交渉の席を設けたのか、その詳細を話し始める。

 モンドの言う通り、ユリアスが即席でテイムした魔物を使用し、使者として里に送り込んだ。

 ユリアスのテイムした魔物は、有効範囲内であれば、テレパシーによって、自分の意思は魔物を介して伝える事が出来る。

 ただし、ユリアスの身分では、数回程断られる事になったが、四回目で運よく族長が出てくれたおかげで、話し合いの席を設けてくれた。

 最初、族長は自ら王都へと赴こうと申し出たが、元々レリアは自ら行こうと考えていたと、ロゼから聞いていたので、その申し出は断った。


「成程、それで、そのユリアスさんはどちらに?是非ともお礼を言いたいのですが」

「あ、既にこちらに」

「え」


 モンドは、隣に座っている一人の少女を紹介する。

 何故いるのかずっと気に成っていたのだが、彼女が、以前この町を襲い、リリィ達の手によって捕らえられたエルフだと、モンドの口から言い渡された。

 確かに、金髪のエルフと言う共通の特徴を持っているのだが、男性だと聞いていたレリアからしてみれば、別人としか思えなかった。

 だが、紹介された少女は起立し、レリアに一礼する。


「初めまして、ご紹介にあずかりました、ユリアスと申します」

「ええええ!?」

「驚くのも無理はないでしょう、このような姿をしていますが、僕はれっきとした男です」

「……え、えっと、その、ごめんなさい、取り乱してしまいました」

「いえ、此方も、僕にこのような趣味が有るのだと、予め伝えておくべきでした」

「は、はぁ、し、しかし、その、この度は、話し合いの手配を、ありがとうございます」

「滅相もございません、僕の同胞が、他の町にまで迷惑をかけ、僕自身も、この町に迷惑をかけてしまいましたから、これ位の事は当然です」


 とても男性とは思えないユリアスに驚きながらも、話し合いは続いた。

 因みに、この話を盗み見ていたアラクネとラズカはと言うと。


「ねぇ、ユリアスの奴、あんなキャラだったっけ?」

「ホント、まるで別人ね」


 この町を襲ってきた時の彼の事を知る二人からしてみれば、一か月ぶりに会ったユリアスの変わりように驚いていた。

 働くように成る前は、女装は嫌がっていた筈なのだが、いつの間にか首輪は外され、女装も四六時中するように成ってしまっている。

 しかも、声も元々高めで、顔も中性的だったこともあって、レリアのように、少女と間違えてしまっても無理はない。


「アンタ、アイツに何したの?」

「ちょっとアリサと言葉攻めしただけよ」

「じゃぁ今夜アンタにやってやるわ」

「お、お手柔らかに……じゃなくて、お姫様が居る中で、出来る訳ないでしょう」

「ちぇ~」


 色々と話していると、いつの間にか話は終わり、レリア達は明日に備えて、今夜は休む事にした。

 翌日、レリア達はシルフィの故郷である里への移動を開始する。

 町の代表として、モンドも同行したのだが、社会勉強のために、ラズカも同行し、その護衛役としてアラクネも来ている。


「ほ、本日はお招きにアズキに、あずかり、ま、誠に申し、ありがとうございます」

「私も、まさかこんな、こんなななななな」

「あ、あんまり緊張しなくてもいいのよ」


 因みにラズカとアラクネは、レリアの意向で、同じ馬車に搭乗している。

 ロゼの方から、アラクネとラズカは、リリィ達とそれなりに親密な仲であると、報告が入っていたので、レリアとしては、できれば仲良くしておきたいという考えだ。

 だが、流石に一国の姫様と同じ馬車に乗る。

 そんなシチュエーションに、ラズカは緊張し、言葉遣いが色々と間違っていたり、アラクネも思考がバグってしまっている。

 レリアとしては、今は無礼講で接してほしい所であるが、立場的に二人はそう言った無礼はできずにいた。


「で、ですが、私のような小娘が、レリア殿下と対等にお話するなどと」

「恐れ多くて、視線も合わせられません」

「(貴女の場合、顔半分の目と必ず合っちゃうんだけど)」


 少し顔を逸らしてしまうアラクネは、顔の半分が蜘蛛化しているせいで、大量にある目のどれかと視線を合わせてしまう。

 そんな三人の様子を見るロゼは、どうにか二人緊張をほぐそうと、色々と思考を巡らせ出す。

 ロゼ自身、それほど人付き合いが得意という訳でもないので、如何したらいいのか、解らずにいるが、イチかバチか面白い話で、場を和ませようと試みる。


「安心しろ、二人共、アリサ達は姫様を全裸にしては、いきなりジャーマンスープレックスを決めているというのに、姫様はお許しに成られている、なんとも寛大な方だ」

「(別の意味で安心できない!!)」

「(何やっているのよあの子達!!?)」

「ロゼ」

「は、はい」

「和ませようとしたのは解るけど、もうちょっと話題と話し方を考えて」

「う」


 ロゼの的外れな言葉に、驚きを隠せないアラクネとラズカであった。

 仕方がないので、此処はレリア自らが場の雰囲気を和ませようと、話題を振りかける。


「ところで、貴女方は、アリサのお知り合いとの事ですが、彼女達とは、どういった経緯でお知り合いに?」

「え、えっと、ちょっと待ってください〈ねぇ、何て話す?〉」

「〈そうね、一先ず、私とあの子が異世界から来たって事は、伏せておきましょう、色々と面倒に成りかねないわ〉」

「(何語だ?)」

「……」


 リリィとの出会いを話すには、ある程度はアラクネとの関係を話す必要が有る。

 だが、リリィとアラクネが異世界の住民であるという事をばらせば、色々と面倒に成りかねない。

 時が来るまでは、黙っている事にした。

 因みに、あれからラズカはアラクネ達の世界の言語を学んでおり、アラクネとリリィが異世界の住民であることも、認知している。

 一先ず、リリィとシルフィとの出会いについては、異世界の事についての事をうまい具合に隠しつつ説明した。


「……そう(聞いた事の無い言語、そして、異質としか思えないジャックとアリサの服装、それに、あの口ぶり、あの二人何か隠しているわね、この国どころか、この世界其の物に関係の有りそうな、何か、大きな秘密が)」


 まだ二十代とはいえ、レリアとて王族の一人。

 政治家として、人の上に立ち、国民を導く立場にあるだけに、人の仕草や表情などから、何を考えているのか、ある程度解る。

 確証の有る事では無くとも、この方法はよく当たる。

 世界云々の話は、大げさかもしれないが、王族としての勘なのか、そんな不安が過ぎってしまう。

 そんなこんなと話し合いつつ、レリア一行はエルフ達の住まう森へと辿り着く。

 ユリアスの手配で、森の住民達はレリア達が来ることを知っている。

 森のエルフ達にも解る様に、目印として白旗を掲げて居れば、遣いの者が案内するとの事だった。


「さて、ガールズトークは此処まで、此処からは戦場ね」


 ―――――


 エルフの里にて、族長はこれから始まる会合に向けて準備を進めていた。

 折角国のトップが来てくれるのだから、彼女なりに身なりを整えていると、彼女の部屋のドアが開かれる。


「何の用ですか?」

「例の人間達がお越しになられました」

「では、会場にお通しください、くれぐれも阻喪の無いように」

「はい、ですが」

「何です?」

「何故人間如きに、このようなもてなしを?」

「今回の件では、我々の方に非が有ります、本来であれば、こちら側から赴く事が礼儀だというのに、向こうから出向いて下さっているのですから、丁重におもてなしするのは当たり前です」

「そうですか、失礼します」


 少し不服そうな口ぶりだった事は目を瞑り、族長は支度を続ける。

 最後の身支度として、仮面で顔を覆った族長は、部屋へと入ってきたエルフを通り過ぎ、すぐに会場となっている部屋へと移動し始める。

 そして、会場の部屋へと到着すると、其処には既にレリア達と、エルフの里の有力者たちがスタンバイしており、族長は少し遅れる形と成ってしまう。

 少し申し訳なさをだしながら、族長は自らの席の前に立ち、謝罪のために一礼すると、挨拶を始める。


「初めまして、レリア殿下、私はルドベキア、この里で長をしている者です、本来であれば、此方が出向かなければならないというのに、本日は遠路はるばるご足労いただきありがとうございます」

「こちらこそ、会談の席を設けていただき、ありがとうございます」

「もったいなきお言葉をありがとうございます、せめて、我々の方からは、できる限りの便宜を図らせていただきます」


 挨拶を終え、ルドベキアが着席すると、会談が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ