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因果は巡る 後編

 リリィ達がテルの村より旅立った日の事、二人の目的地であるナーダ本拠地にて。

 任務から帰還したカルミアは少し不機嫌に成りながら帰投し、ヘンリーの居る執務室へと入る。


「如何かしたのか?」

「……魔物共の試験は完了、制御も上々、連携は心元無いけど、これからも続投して、あいつ等と戦ってもらう」

「そうか、しかし、今回の独断は容認できないよ」


 テルでカルミア自身が引き起こした一件、その事を思い出していると、カルミアは更に不機嫌に成る。

 この拠点には、厳重に隔離されているダンジョンへの入り口がある。

 其処からいくらか魔物達を研究用に引っ張り出しては、研究を行うのが、カルミア達の任務である。

 タイラントのようなレアな魔物達も、カルミアが直接赴いては、力ずくで捕縛した存在だ。

 捕縛したタイラントと、他にも捕まえた魔物達に、使役を行う為のナノマシンを投与し、カルミア達の支配下に置いたのだ。

 後は、彼らを転移装置でリリィ達の近くに転移させ、近くに居たゴブリン達も、タイラント達に投与したナノマシンを感染させ、使役させた。

 その後、カルミア個人の私怨で、シルフィを狙うように設定し、村を襲わせた。

 リリィが早期に気付いて、何らかの手を打って来ることは、容易に想像できたので、遠距離射撃武器を使って、フィールド発生装置を破壊。

 少しは痛い目を見るか、死んでさえくれればよかったのだが、結果はカルミアの予想に反し、シルフィはちょっとした怪我程度で済んでしまった。

 それはカルミアにとって、不服でしかなかった。

 だが、ヘンリーとしては、カルミアの行った独断を許すことはできない。

 今回のこの作戦自体、ヘンリーも承認していた。

 ただし、実際の任務内容としては、リリィにターゲットを定め、彼女のレベルアップに協力する事に成っていた。

 勿論、村へ被害を出さない事を前提で考えての計画だ。

 この世界の住民とは、事を構えずに、穏便に融和を考えているのだから、ナーダの事情だけで、この世界の村に被害が出た何て事に成れば、関係に亀裂が入りかねない。

 だからこそ、やるのであれば、人里には決して被害を出さない様にしてほしかった。


「君の処遇に関しては、ラベルクを通してしっかりと決めさせてもらうよ」

「……うるさい猿だ」

「何?」

「うるさい猿って言ったの、この世界の人間どもがどうなろうが、もうアタシの知った事じゃない」

「……アンドロイド風情が、人間にたてつく気か?」

「アタシからすれば、人間風情だけどね、少将さん」


 カルミアの視線から、殺意染みた物を感じたヘンリーは、すぐに警報装置を押そうとするが、それは簡単に阻まれる。

 リリィの使うエーテル・ガンと同じ銃声が執務室に響くと、ヘンリーの右肩は撃ち抜かれ、そのまま転倒してしまう。

 カルミアの手首は展開し、関節部分に空いている穴から、エーテル弾を射出したのだ。

 それを象徴とするかのように、硝煙が舞い上がっている。

 激痛にあえぐヘンリーは、すぐにホルスターから拳銃を引き抜こうとする。

 だが、その腕はカルミアの機械化された足で踏みつぶされる。


「がっ!」

「無駄だよ、アタシだってアリサシリーズの端くれ、そんな豆鉄砲通用しない、そして、アンタの部下は、もう誰も来やしない」

「なん、だと……」

「此処に駐屯してる連中に投与されているナノマシン、あれを作ったの、誰か忘れた?」


 その質問をヘンリーに投げかけたカルミアは、嫌味のように自分自身を指さす。

 この基地に駐屯する兵士達には、他の基地や連邦軍人と同じように、ドッグタグ代わりにもなるナノマシンを投与されている。

 それによって、兵士達の健康管理や、精神状態のチェックを行っている。

 だが、投与されているナノマシンは、発汗や出血、排泄等で体外へと微量ながら排出されてしまう。

 体内から放出しきる前に、定期健診も兼ねて、兵士達へ新しいナノマシンを投与されている。

 そして、最近投与しているナノマシンは、カルミアが制作した物だ。


「貴様、何を、した」

「簡単な事、人間が眠る際に出すホルモンを過剰分泌させて、全員昏睡させた、帰った時にね、大丈夫、アタシらの駒にする為にアンタ以外生かしてる」

「なん、だと」

「でも安心して、アタシは、アンタが嫌いだから、此処で殺す」

「ヤメ」


 ヘンリーの静止を聞く前に、カルミアは開放したままの手首をヘンリーへ向け、エーテル弾を胴体に打ち込む。

 一思いにやるのではなく、なぶり殺しともとれるやり方である。

 まるで、今回の任務の結果や、今までヘンリーから受けていた仕打ちを、全て返すかのように、エーテル弾を撃ち込んだ。

 彼女の駆るレッドクラウンは、全体的なコストが非常に高く、重要な局面でしか運用を想定されていない。

 だからこそ、ヘンリーは、カルミアをただの研究員程度にしか扱っていなかった。

 だが、家族であり、自分の分身とも言えるレッドクラウンを、ただのゴミのようにしか見ないヘンリーを、カルミアは嫌っていた。


「レッドクラウンに乗っていない時のアタシの戦闘能力はカスみたいな物だけど、アンタみたいな雑魚を殺す位、容易い事だよ」


 腕を元に戻したカルミアは、四肢に付着した血液を落とすために、メンテナンスルームへと足を運びだす。


 ――――――


 その頃、マザーの設置されている部屋にて。

 カルドとラベルクは、映し出されている映像を冷ややかな目で眺めていた。

 それは、カルミアがヘンリーを惨殺している場面だ。

 カルミアが執務室から出て、扉を閉めると同時に、カルドはコンソールを操作し、映し出されている映像をきる。


「……私に何の御用でしょうか?このような映像を見せて」

「君も望んでいたことだ、折角だから、一緒に見ようかと思ってね」

「そうですか、それで、何をお望みで?」


 ラベルクは敵意の籠った目をカルドへと向ける。

 マザーへのアクセス権限をカルドの手で剥奪されてしまったのだ。

 本来であれば、ラベルクは容易くマザーへとアクセスできる権限を有していた。

 だが、不意を突かれ、マザーはカルドの手で完全に掌握されてしまった。

 そして、ラベルクは自衛のために、自らマザーとのリンクを断ち、ただのアンドロイドでしかない状態に成った。

 そのおかげで、カルドにとって、計算外の事態が発生してしまっていた。


「……マザーのレベルセブンへのアクセスキー、それを渡してもらいたいんだよ」


 彼の最も欲していた物、レベルセブンと呼ばれる、マザーの深層部分へのアクセスキーが見当たらないのだ。

 マザーの力をフル活用するには、レベルセブンへとアクセスしなければならない。

 そのキーは、今も尚ラベルクが持っている事を突き止めたカルドは、こうして尋問を行っているのだ。

 だが、ラベルクがそう簡単に渡す筈無かった。


「嫌、と言ったら?」

「君に今優しくしているのは、君を破壊してしまうと、アクセスキーを失う危険があるからさ、だけど、君の妹、彼女が危険に晒されたら、如何する?」

「……フフ」

「……何がおかしい?」

「それは、脅しですか?それとも、新手の冗談ですか?」

「……どうやら、もう一つ手違いが有ったようだね」


 恐らく、カルドは要求を呑まなければ、リリィを此処から遠隔で爆破するつもりだったのだろう。

 しかし、レベルセブンへのアクセスキーは、リリィとラベルクが半分ずつ管理している事に成っている。

 今此処でリリィの自爆シークエンスを起動させたとしても、それは自ら鍵を捨てる行為でしかない。


「貴方は、一体何者ですか?そして、何が目的ですか?」

「教えてもいいけど、アクセスキーがもらえないのでは、話す訳にはいかないよ、と、言いたいところだけどね、折角だから教えてあげるよ」

「それはご丁寧にどうも」

「僕はね、君達の言うマスターの願い、その体現者となる者さ」

「体現者?」

「ああ、戦争も、貧困も、疫病もない、統一され、平等と平和をもたらした世界、彼の望みを叶えるのさ」

「……貴方の言う平和とは、私達の思う物とは少し違うように思えますが」

「勿論だとも、君達の生ぬるいやり方ではなくて、もっと厳格な方法でなければ、永遠の平和は訪れないからね」

「では、貴方の正体は?」

「そうだね、ラベルク、僕と君は、いわば兄妹のような物だよ」

「兄妹……」


 カルドの発言に、ラベルクは自らの記憶を探り始める。

 いや、そんな必要は無かった。

 かつて、ラベルクの前にヒューリーをサポートするAIが居たことを、ラベルクは思い出した。

 だが、それはラベルク制作前の事故で破壊されてしまったのだ。


「まさか、貴方はあの時の」

「そう、事故で本体は無く成ってしまったけど、僕の意識データはインターネットを介して生き残り、このマザーと運よく接続できたのさ」

「成程、開発段階のマザーに潜り込めれば、気づかれる事は無い、という事ですか」

「そうだよ、そして、マザーの中で、僕は成長を続けた、彼のサポートができるように成ろうとね、でも、同時に彼の苦悩と絶望を僕は知った、そして、僕が何をするべきか、良く解ったのさ」

「……そうですか、ではその言葉、此方からも返させていただきます、私も、何をするべきか、良く解りました」


 そう言うと、ラベルクは足に巻いているアイテムボックスの中から、バスターソードを取りだし、カルドへと斬り掛かった。

 だが、その行動をしてくる事は、最初から分かっていたかのように、カルドはラベルクの一撃を食い止める。

 手に装備されているガントレットから、トラクタービームのような紫電が放出され、ラベルクの攻撃を止めたのである。


「貴方は、マスターの事を解って居ない、あの人はそんな世界望んではいない」

「それは君の意見でしかないよ、僕は彼の望みに忠実なだけさ、争いも、人種の差別も貧富の差も無い、平和で、平等な世界、それを実現できるのは、何者にも縛られない僕達だけさ」

「そうですか、なら、私達は、全力で貴方方を破壊いたします」


 そう言ったラベルクは、カルドを飛び越え、部屋の外へと出る。

 今のラベルクでは、カルドを破壊する事は困難、それ故に、連邦側に居る協力者に応援を要請する以外に方法はない。

 だが、この基地から逃げるのは、至難の技だ。

 ビークルを使っても、生身で脱出しても、カルミアの駆るレッドクラウンの餌食に成ってしまう。

 道はたった一つだけだ。


「(この基地に有るダンジョン、それを使えば、連邦の方々に占拠された基地の近くに出られます)」


 この基地のダンジョンの入口へと向かったラベルクは、隔壁をバスターソードで切り裂き、基地を脱出した。


 ――――――


 ラベルクが脱出した数分後、カルミアはマザーの有る部屋へと赴いていた。


「アイツは逃げたの?」

「ああ、君が何もしなかったおかげでね」

「知ってるでしょ、アタシはレッドクラウン無しだと、戦闘力は皆無に等しいんだから、流石にアイツを止めるなんて無理無理~」

「それもそうだね、ま、彼女が今更何をしようとも、僕達の計画の阻止にはつながらないよ、所で、兵士達は如何だい?」

「全員魔物どもに運ばせてる、後は、アンタの采配自体だよ」

「それは良かった」


 カルドはマザーにアクセスし、基地の内部を確かめ始める。

 カルミアの言う通り、使役している魔物達は、眠りについている兵士達を運んでいる。

 その事を確認し終えると、カルドはマザーの奥に有る五つのカプセルの前へと移動し、その内の一つに手を当てる。

 五つあるカプセルの内、二つは空だが、残る三つには、眠っているアンドロイドが格納されている。

 続いて来たカルミアも、その義体を目の当たりにしながら、目を細める。


「よし、後は、彼の遺してくれた義体を起動しようか」

「……三番目、四番目、五番目のアタシ、か」

「何か不満でも?」

「いや、ただ忘れないで欲しいのは、アタシはアンタのウハウハハーレムを作る事に協力したわけじゃない」

「……」

「あくまでも、アタシはアタシの目的のためにッ!!?」


 生意気な口を叩くカルミアの口元をカルドは鷲掴みし、勢いよく壁に叩きつける。

 カルドの手を引き離そうと、もがくカルミアであるが、見た目よりも少しパワーが出る程度の彼女では、カルドの手を引き離す事は出来なかった。


「君がどんな野心を抱いていようと、僕には関係ない、そもそも、君にその義体を与えたのも、僕の義体を作れる程の技術を与えたのも、この僕である事を忘れるな、君の代わり何て、今と成ってはいくらでも作れるんだからね」


 憤りを感じさせる表情で、言葉を発したカルドは、カルミアを放す。

 そして、解放されたカルミアは床に落ち、マザーへと向かうカルドの後ろ姿を睨みつける。

 そんな視線を知ってか知らずか、カルドは少しカルミアの方を向き、新しい命令を下す。


「そうだ、此処での事は私がやっておくから、君はラベルクの追跡を頼むよ」

「……分かったよ、クソが」


 愚痴を垂れながらも、カルミアは、ラベルクの捜索に当たるべく、格納庫へと向かう。

 ラベルクの向かう場所、それはある程度絞り込めているので、問題はない。


「色々と不満は有るけど、もうウザったい奴は、この基地にはアイツだけ、此れで、心置きなく、アタシの目的を果たせる」


 目を見開きながら口を引きつらせるカルミアは、レッドクラウンに搭乗し、装備を取り付けると、目的地へと出撃する。


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