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因果は巡る 中編

 リリィ達が村の付近で戦闘を繰り広げた後の事。

 空軍基地にて、ジャックは部下との訓練に勤しんだ後、個人的に射撃練習場を利用していた。

 彼女は基本的に単独行動であるのだが、場合によっては、分隊規模から小隊規模の兵と行動する事もある。

 加えて当の本人は基本的にハンドガンしか使わない(というか、支給品のライフル等はすぐにぶっ壊す)ため、その歩調を合わせる目的有る。

 基本的にデスクワーク以外はしっかりこなす為、結構な鬼教官ぶりで部下との訓練を行っている。

 ジャックの部下と行う訓練は、それだけではなく、場合によっては組手の相手をすることも在る。

 相手が相手で有る為、互いの訓練に成っているかどうかは別として、根性を叩き直してほしい連中等は、ジャックとの組手を行っている。

 性格は置いておき、それなりに美女であるジャックに、投げ飛ばされるのであれば、何て部下もいるが、それは置いておく。

 そんなこんなで、今日の部下との訓練を終えたジャックは、少佐から許可を取った後で、一人射撃訓練を行っていた。

 スーツでは無く、執務用の服を着用し、片手での射撃を終えると、的の様子を見始める。


「(両手共ワンホール狙える位には回復したかったが、やっぱ鈍ってるな)」


 リリィ達との闘いで腕を無くした事も有って、治療し終える期間、銃を握れなかった事も有って、少し勘が鈍りつつある事を改めて思い知る。

 普段であれば五十メートル先の的を、ワンホールで狙える位の腕は持っている。

 だが、治ったばかりの手では、少し照準に狂いが有る。

 それを確認した後で、ジャックは少佐に来るように言われていたのを思い出し、早速少佐の元へ向かおうとする。


「えっと、持ち込んだのと使ったのは四十発、回収した空薬きょうは……やべ、一個たりねぇ」


 その前に、ちょっとした癖で、使用した薬きょうの数を数え終えたが、紛失した空薬きょうを小一時間探す羽目になった。


 ――――――


「それで遅れたと」

「まぁな、わりぃ」

「まぁいい、君の元居たところは、確かその辺りが厳しかったんだったな、それよりも、君にはしばらくの間、訓練から外れてもらう」

「そうか、じゃぁ手始めに今日までの給金くれ、妹と一緒にカラオケ勝負する約束なんだ」

「誰が休暇だと言った」

「えー今日からずっと夏休み的な言い回しじゃねぇのかよ」

「単純にエーラの助手をやれと言っている」

「少佐、俺ちょっと家に三角定規忘れたから、取りに帰るわ」

「そうか、チハル、貸してやれ」

「はい」


 少し遅れて執務室に来たジャックに、今後のジャックの配属の異動を言い渡した途端、嫌な予感を察したジャックは、すぐに部屋から出ようとする。

 当然何を言い出すのかある程度予想していた少佐は、チハルに用意していた三角定規を渡すように命令すると、チハルは三角定規をジャックに向けて放り投げる。

 投げられた三角定規は、ジャックの顔を掠め、耳をそぎ落としながら壁に突き刺さった。

 チハルの投げた物は、授業で使うような巨大な物、しかも金属でできた特注品である。


「あ、あの」

「何かね?他に忘れた物が有れば言うと良い、何でも貸し出してやる」

「あーえっと、あ、そうだ、何も忘れて無かったわ、はは、ははは、それでは、此れより、任務に有りますので、失礼しまーす」


 金属製で作られた授業用のデカいコンパスや分度器、定規と言った物を構える姿に恐怖したジャックは、冷や汗を流しながら、執務室から逃げるように抜けだす。

 扉をゆっくりと閉めたジャックは、エーラの居る研究所とはまるで違う方へと走り出す。


「フハハハ!悪いな少佐!あんな腐れマッドドッグサイエンティストの助手するくらいなら、このまま抜け出してロリと一緒にロミジュリった方がマシだわボケエルフ!!」


 という暴言を吐きながら、ジャックは外へと向かい出す。

 当然、その事も予測していた少佐は、執務室から監視カメラの映像を確認しつつ、デスクの引き出しにあるボタンを確認する。


「やれやれ、上官にそんな態度を取ったらどうなるか、もう一度教える必要があるな」


 容赦なくポチっと行くと、いつの間にか仕掛けられていたトラップが作動する。

 廊下を走り続けるジャックは、目の前に広がる一直線の廊下が見えた途端、持ち前の跳躍力で、一気に曲がり角まで飛び上がる。

 飛び上がったジャックの真下の床は、以前のようにパカリと開いてしまう。

 しかも今回は、剣山では無く、電流の走っている床である。


「甘いな少佐!このジャック・スレイヤー様に、二度も同じ手が通じるかよ!そして、二手目もお見通しだわ!!」


 空中に逃れているジャックへの対抗策として用意されていたのは、有刺鉄線の付いた太い鉄の棒、それがブランコのようにして、ジャックの顔面へと差し迫って来る。

 だが、その襲撃も予測していたジャックは、空中で体をひねり、ブランコを回避し、両側の壁を蹴り飛ばしながら移動する。

 少佐の罠をかいくぐったジャックは、クールに着地を決めると、両手を上に掲げる。


「三手目、クリア」


 ジャックの予想していた通り、着地地点の天井から、金ダライが落ちてきたので、難なくキャッチする。

 得意げに立ち上がったジャックは、降ってきた金ダライを軽い気もちで弄りだす。


「やれやれ、今時タライとは、ちょっと重いが、この程度だと俺には嫌がらせにしかならないな……」


 タライの中を見ようとしてみるが、布が張り付けて有り、その上に張り紙が貼ってある。

 因みに、貼り紙には『愚か者』と書かれている。


「え」


 マヌケな表情を浮かべてから僅か一秒にも満たない時間の間で、ジャックは執務室の少佐の姿が浮かぶ。

 あざ笑うような笑みを浮かべる少佐が、スイッチを押す姿である。

 そして、ジャックの持っていたタライは爆発、同時に無数のベアリングボールがジャックの顔面に襲い掛かる。

 爆弾で吹き飛ばされたジャックは、背後の落とし穴に落ち、そのまま電流で焼かれる。


「アババババ!!」


 数分後、少佐の率いるアンドロイド兵たちが救助に向かったのだが、何故か其処にはジャックの姿は無かった。

 代わりに、ジャックを模したような安っぽい人形が置かれ、少佐がタライに張っておいたはずの有り紙が張られていた。


「……ジャック、まさか、七美君の電撃を受け続けたせいで耐性が」


 少佐にとって一番の誤算、それは、ジャックの体は、いつの間にか耐電能力を身に着けてしまっていたことだった。

 七美の得意な魔法の属性は、電気系であり、襲い掛かったジャックを撃退するために、痺れさせ続けた結果である。

 その耐性のせいで、ジャックは電流の床を掻い潜ってしまったのである。

 それを見抜けなかった少佐は、急いで捜索隊を展開させ、ジャックの逃亡を阻もうとする。

 だが、既にジャックは施設の外に抜け出しており、今にも基地の塀に向けて走り出していた。


「悪いな少佐、俺はこれから、異世界の猫耳娘と共にランデブーだブアラアァァァ!!?」


 今にも脱出できるという所で、何所からともなく降り注いできたレールガン弾頭に、ジャックの胴体は貫かれてしまう。

 しかも、何故か傷が再生しない。

 そして、ジャックを貫通し、地面へ深々と突き刺さった事で、それなりの音が響き渡り、すぐに少佐とアンドロイド部隊が駆けつけてきた。


「……何が如何してそうなった?」

「俺が聞きたい」

「とりあえず連行しろ、それから警戒態勢を敷け、攻撃の可能性が有る」

「ヤメロォォ!」


 救助されたジャックは、特注の拘束着を着せられた上に、鎖でグルグル巻きにされたまま連行された。

 その際、エーラに鑑定してもらうべく、弾頭も回収され、ジャックと共にエーラの研究施設へと運搬される。


「HA・NA・SE!俺は無実だ!こん畜生がぁぁ!!」

「黙れ、貴様が素直に言う事を聞いていればこんな事には成らないんだ」

「うるせぇ!第一テメェも知ってんだろうが!エーラ共『先進技術研究開発班』の連中が、研究所に『配属』じゃなくて『隔離』されてるって言われてんの!!」

「ああ、しっかり存じている、色々ヤバい研究を行っているせいで、建物倒壊するわ、訳の分からない化け物が町を破壊して回ったり、色々とマズイ事やっているって事位な、始末書を書かされる身にもなってほしい」

「そうだよ!そいつの助手とか、宇宙服着ないで宇宙に放り投げられるような物だろうが!大人しく俺を警戒のチームに入れろ!!」

「大丈夫だ、貴様は幾度となくアイツの助手を務めては、無事に『生還』している、それに、君は必要に成ったら呼ぶ」

「『生還』何て言葉使ってる時点で大丈夫もクソも有るか!!」


 等とほざきまくるジャックを連行した少佐は、エーラの研究所に到着するなり、アンドロイド兵に命じ、ジャックを部屋の中に放り込む。

 その際に、拘束の全てを解いた途端、逃げ出そうとしたジャックであるが、部屋の前に設置されていたトリモチに引っ掛かってしまう。

 更に追加で、スタンバっていたアンドロイド兵の出力強化型テーザーガン一斉射で、阻止された。

 そして、ジャックを研究所にぶち込むと同時に、扉の隔壁が下ろされ、完全にジャックとエーラを閉じ込める事に成功する。

 数秒ほど痺れた後、回復したジャックは仕方なくエーラの手伝いをするために、彼女を探し始める。


「(寝息、アイツの事だ、また徹夜で作業してぶっ倒れてんだろ)」


 等と思いながら部屋の中を見渡していると、エーラを発見する。

 寝ている事には寝ていたのだが、お腹をだしながら床で直に寝ている。

 とても気持ちよさそうだが、相変わらず髪や尻尾のブラッシングを怠っており、シャワーすら浴びていないのか、ちょっと臭う。


「おーい、エーラ、起きろ~」

「んあ、ん~後五分寝かせろ、ナナちゃん」

「(ナナちゃん?こいつ七美の前だとそう呼んでんのか?)」


 しれっと、二人の秘密的な何かを聞いてしまったジャックは、不敵な笑みを浮かべてしまう。

 エーラには何時も酷い目に遭わされているので、少しは仕返し(ふくしゅう)てやろうかと思い、ジャックは少し演技を開始する。

 何時も見聞きしている妹、七美の喋り方や声のトーンを思い出しながら、エーラを起こし、喋りだす。


「オホン、ヤレヤレ、何をしている、こんな所で寝て」

「昨日も夜遅くまで研究しててな~ちょっと服脱ぐの手伝ってくれ」

「仕方ない奴だ、脱がしてやるから大人しくしていろよ、エーラ」

「……なぁ、ナナちゃん」

「ど、どうした?(マズったか?)」

「何時もみたいに、ワンちゃんって、呼んでくれ」

「(何時も犬扱いするなってうるせぇ癖に、七美の前だとこうなのかコイツ)」


 飼い犬が飼い主に甘えて来るかのように、エーラはジャックに甘え始める。

 もしもこのまま目が覚めてしまえば、殺されるか、死んだ方がマシと思えるような実験に付き合わされてもおかしくない状況であるが、そのスリルがまた良きと思ってしまう。

 だが、この時ジャックは思わぬ誤算をしてしまっていた事を思い知ってしまう。

 それは、エーラがジャックに抱き着いた事で、ジャックに染みついている匂いをかぎ取ってしまった事だ。


「……煙草の臭い」

「あ」

「貴様、七美じゃないな」

「(そうだ、七美は煙草を吸わない、煙草の臭いがしたらすぐにばれる!!)」

「……ジャック~」

「あ~……わ、ワンちゃ~ん」

「殺す」


 獲物を狩ろうとしているかのような眼光をぶつけられたジャックは、再び七美の真似で誤魔化そうとするが、それがかえって怒りを増長させてしまう。

 逃げ出そうにも、がっちりとホールドされてしまい、更にエーラはポケットから注射器を取りだし、中身をジャックに注入した。

 何か注射された音を聞いた途端、ジャックは顔を真っ青に染める。

 一応、薬物の耐性はつけているが、エーラが注射するような代物は、物によっては、効いてしまう可能性が有る。


「な、なにを注射した?」

「最近の貴様のネットの検索履歴限定の自白剤」

「社会的に抹殺にかかるな!!」

「あ、自白剤っつても、ナノマシンだから、ヴィルへルミネの奴が注射した奴が抑制する前に、私のPCにその記憶が自動的に送信される」

「ヤメロや!」

「破壊しても七美のスマホとかにも送信されて多重バックアップされるようになってる」

「クソ女がぁぁぁ!!」


 とんでもない事を言い渡されてしまったジャックは、すぐに研究所に有るPC全てを破壊しようと、ハンドガンに手をかけるが、エーラの爆弾発言で、全て無駄だと知る。

 落ち込むジャックを他所に、エーラは送信されてきたジャックの検索履歴を漁りだす。


「えーっと、『妹 好かれ方』『幼女 デート 合法』『姉妹 結婚 子供』……予想通りというか、何というか」

「声に出すな!悪いか!?妹と結婚して!幼女とデートして!一体何が悪い!!?」

「やかましい、とにかく、バルチャーのアップデート手伝え」


 色々と騒ぎ立てるジャックをしり目に、エーラは端末を操作し、部屋の奥の広めの空間に、ボロボロになったバルチャーが出現する。

 リリィとシルフィの猛攻の影響で、あちらこちらが損傷してしまっており、もはや原型をとどめていない。

 改めて見るバルチャーの損傷具合に、ジャックは少し顔を引きつらせる。


「うわ~ボロボロだなぁ~」

「他人事みたいに言うな、お前がぶっ壊したんだろ」

「厳密にはアイツらにぶっ壊された」

「はいはい、分かったから、さっさと手伝え」

「はいよ~」


 損傷したバルチャーに近づくエーラは、ジャックに手伝うように命じると、バルチャーを見つめる。

 損傷部位をじっくりと見て、如何するか予め考えていたプランを行うべく、コンソールを操作する。

 プログラミングを手伝う傍らで、ジャックはエーラに予定を尋ねる。


「で、具体的にどんな感じに仕上げるんだ?」

「えっと、先ずは、オーバー・ドライヴシステムの搭載、ドローンの増設、加速能力の向上は大前提だな」

「成程、まぁ、お姉ちゃんに任せなさい、とびっきりいい物に仕上げてやる」

「後」

「後?」

「ほれ」


 ジャックは、エーラから手渡された企画書に目を通すと、一瞬硬直する。

 血が酸の化け物の如く押し寄せる雑兵、アリサシリーズ複数機、ラスボスっぽい空気醸し出してる大型の兵器、此奴らと連戦したうえで、スレイヤー級の敵をぶちのめせるスペックだ


「ちょっと待たんかい!誰だ!?そんな無茶苦茶な要求出した奴!!」

「少佐」

「どんだけ俺に押し付ける気だあのクソエルフ!」

「因みに、納期は三か月……だったから、あと一か月だな」

「は!?」

「安心しろ、プログラム自体は大体できてるから、お前は私のじっけ……サポートに回っていればいい」

「いま実験台って言いかけただろ!?」

「いいからさっさと仕事進めるぞ」


 この後死ぬ気で仕事した。


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