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サバイバルホラーでラスボスに追い掛け回されるイベント、怖すぎるよね 前編

ちょっとシリアス入ります

 地獄のリサイタルの翌日。

 シルフィとアリサは出禁をくらい、早急に追い出されてしまったので、さっさと次の町へと赴く事にした。

 昨夜、シルフィが飲んでいた酒の度数は、四十パーセント程の物、そんな物を一瓶一気に飲みほせば、悪酔いするのも当然だ。

 そんな酒のせいで、完全に酔っていたシルフィに、その当時の記憶は無く、アリサから事の顛末を聞いても、とても信じられない、という感じに成ってしまっている。

 因みに、アリサのデータベースには、かろうじてその記録が残されているが、再生しただけで、システム障害を引き起こすので、厳重にプロテクトされている。



 ――次の町への道中――


「あの、シルフィって、何時もあのような歌を歌っているのですか?」

「何度も言うけど、私が人前で歌なんて歌う訳ないよ、まぁ、自信は有るけど」

「あ、そうですか」


 何度がシルフィに、あの歌を何時も歌っているのかと、訪ねるアリサだったが、人前で歌う事は決してないと、頑なに認めず、道中を進んでいた。

 アリサとしては、もう一度歌われるなんて、最悪な事態だけは避けられるので、それはそれでよしとしている。

 しかし、信じられないのは、聞いただけで、謎のシステム障害を引き起こすような歌声だというのに、自信があると断言している事だ、しかも恥ずかしそうに顔を赤らめながら。


「これでも昔、ルシーラちゃんに、よく子守歌とか歌ってあげたこともあるの、そうすると、どんな時でもすぐに寝ちゃうから」

「え」

「でも、家に来た五年後くらいで、聞いてもらえなくなっちゃったんだよね」

「は、はぁ(それ気絶しているだけでは?)」


 シルフィと一緒に暮らしていた頃の妹が、難聴に成っていないか、ちょっと心配に成ったアリサであった。


 ――――


 呑気に雑談を行いながら、道中を進む二人を見つめる、一つの影があった。


「はぁ、はぁ、ようやく見つけたぞ、小娘共」


 周囲の背景に溶けこむような迷彩服装に、尖った耳、そして金色の髪を持った男は、顔を青ざめ、息を荒げながら、二人を追っていた。


 猛毒のイャート。

 シルフィの住まう里の暗殺者の一人、その名の通り、毒物による暗殺を得意としている。

 彼自らが調合した毒は、多少の耐性がある程度では、一切歯が立たず、ほぼ確実に相手を永遠の眠りへといざなう、恐ろしい存在である。


 のだが、既に虫の息と言ってもいいくらいに疲弊し、今にも倒れてしまいそうであった。

 実は彼、シルフィが地獄のリサイタルを開いたあの酒場にて、従業員として潜み、二人を暗殺するべく、毒殺を企てていた。

 しかし、彼はシルフィではなく、アリサに狙いを定めており、自分が調合した中で、最も強烈で、最も苦しんで死ぬことになる毒を、酒と称して出していた。


 というのも、アリサが脱獄したあの日。

 アリサの装備を運んでいたエルフは、彼の息子。

 元々かなりのドラ息子で、更生の為に働きに出ていたというのに、頭を打った衝撃で、また逆戻りしてしまったのだ。

 そのことを思い出したイャートは、歯が全て砕けんばかりの力で歯ぎしりをし、身を潜めている樹木は、その握力によって砕けそうになっていた。

 紛い成りにも暗殺者、こんなことで騒音を出し、気づかれてしまっては元も子もない、それ故に、必死に怒りの炎を抑え込む。


「畜生ぉぉ!!後少し、後少しだったんだ!!あと少しで息子も更生できたんだ、なのに、あいつのせいで、あいつのせいでぇぇぇ!!」


 だが、立ち込める憎悪を抑えられず、身を潜めていた木を、全力の正拳突きによって破壊。

 倒れた木に怒りをぶつけるようにして、何度も踏みつけたり、下段突きを繰り出したりして、まだ元気な生木を破壊していく。

 もう隠密もクソも無い、完全に感情任せに動いてしまっている。

 血の涙でも流していそうな雰囲気を(かも)し出し、先ほどまで元気だった木は、おが屑と言えるほど粉々に成ってしまった。


「俺の愛の鞭に応え、雑用の仕事から始めて、徐々に働くことの尊さを知り始めたというのに、頭打った衝撃で、そのことさえも忘れ去り、またあんなグータラに戻っちまった、地獄から魔界だわ!!こん畜生ぉぉ!!」


 そんな憎しみを抱きながら、飲ませた遅延性の毒で、苦しみもがくアリサの姿を想像し、酔って無防備に成ったシルフィを、ゆっくりと始末する。

 そんな想像をしていた彼の思惑とは裏腹に、アンドロイドのアリサに毒なんて通じる筈も無く、手持ちの毒の全てを使用しても、全く持って死ぬ気配のないアリサに困惑していた。

 どうにかして暗殺できないかと、思考を巡らせている中で、更に予定外の事が起こる。

 普段内気なシルフィが、酔った勢いでリサイタルを開催、その殺人音波に、彼も巻き込まれてしまったのである。

 目が覚めれば、既に夜は明け、二人は移動してしまっている事に気が付き、血相を変えて追いかけ、今に至る。


「はぁ、はぁ、殺すっ!異端児は如何だって良い、あの青髪だけは、絶対あの世に送ってやる!!」


 里で落ちこぼれとして認識されているシルフィではなく、息子の人生を歪め、更には自分の毒使いとしてのプライドさえも傷つけたアリサに狙いをつけ始める。


 問題は、アリサの異常な程の毒耐性、イャートにとって、これは非常に相性が悪い。

 基本的に毒物によって、人知れず暗殺を行う、という戦法を得意としている為、正面からの戦いは苦手でしかない。


 一度冷静になるべく、荒ぶる理性を落ち着かせていき、何とか打開策を検討し始める。

 毒は効かないが、あくまでもその方法が得意と言うだけであり、彼の戦闘方法はそれだけでない、通常の暗殺術も、しっかりと心得ている。

 だが、まだその時ではない、こんな白昼堂々殺しにかかっても、返り討ちにある、それは目に見えている。


「(あいつ、化け物か?)」


 魔物に襲われては、それをほぼ一瞬で葬る、そんなアリサの姿を見て、正面からの戦いは完全に諦めてしまっている。

 基本的な戦闘能力の低いイャートからすれば、正面から挑むのは愚策だ。


 彼に与えられているアリサの情報は、蒼髪の少女であるという事だけ。

 ここまでの戦闘能力を有しているという事は、彼はもちろん、仲間にも知らされていないのだ。

 彼には何人か仲間がいるが、暴れ出したベヒーモスによって、大多数のメンバーが負傷し、今動けるのは、イャート一人だ。

 偵察も含めて、此処まで一人で来たが、あそこまでの戦闘力を持っているというのであれば、仲間の回復を待つのも、一つの手段だ。

 しかし、アリサへの憎悪は捨てきれず、せめて自分の手で殺すべく、隙を伺い続けていく。


――――


「……」

「まさか、町の外で狙ってくるとは」


 あまりに騒がしくしすぎたせいか、二人は完全に後ろでわめくイャートに気づいてしまっていた。

 しかし、二人は気にすることなく進んでいく。

 セーフモードであるアリサは、一般市民と言う認識であるイャートを攻撃することは、許されていない。

 加えて、シルフィは、対人戦の経験はほとんど無く、殺人の経験も無い、今戦っても、勝算は低い。

 アリサとしては、今後の事を考え、人を殺す事に慣れてもらわなければ成らないのだ。


「私が、あの人を殺すの?」

「こうなることは、覚悟の上であった筈です」

「そう、だよね」


 里から抜け出せば、問答無用で処断される。

 それを知ったうえで、里を抜け出したというのであれば、人一人殺す事位、覚悟しているべきだ。

 もしも、情に流され、暗殺者を始末せずに返せば、体力を回復させたのちに、また襲ってくる可能性の方が高い。

 本格的に追跡を撒くのであれば、アリサのおすすめは、追跡者を抹殺する事だ。

 そうでもしなければ、逃げる側の居場所、目的、その他諸々を、相手に知られる可能性がある。

 そして、それらを処理する一番のおすすめは……


「やはり、抹殺した後に、魔物の餌にするか、土に埋めるかですね」


 追跡者の消息さえ完全に断つ、それが最適解だ。

 この世界においても、殺人は御法度、自分たちを追う相手であろうと、殺せば殺人罪に問われる。

 そうならない為にも、死体を処理し、二人が関与したという事実を、伏せておかなければならない。

 そんなアリサの自論を聞かされたシルフィは。


「流石に、それは、ひどいでしょ」


 というものだった。

 里から逃げ出そうものであれば、地の果てまで、追っ手が迫りくる。

 その事実を知るアリサにとって、シルフィの言い放った言葉は、とてつもなく甘い物に思えた。


「そもそも、そのような覚悟も無く、この外で生きるなんて、少々甘く見過ぎですよ、そんな事では、一人で妹様を捜索することも、我々の力になることも、今後出会う大量のボケを裁くことはできませんよ」

「いや、ツッコミは関係ないでしょ」

「いえありますよ、見てきたところ、貴女にはツッコミと弓を取ったら、何も残らないじゃありませんか」

「言いすぎだよね、もう少し位取りえ有るよね」

「フム、後は……」

「え、ちょっと、もしかして本当にないとか言わないよね」

「……」

「無言は止めて!」


 シルフィのツッコミが虚しく響きわたる。

 落ち着きを取り戻したシルフィは、胸に手を当て、かつて父親が言い残した言葉を思い出す。


『奪っていい命なんて、何処の世界にも無い、もちろん、この森に入ってしまった人間たちの命、これも奪っていいとは言えない』


 里の住民達から、捕まえたエルフ以外の人間は、処刑しなければならない事を、知ったばかりのシルフィ自身が思った疑問に対する返答。

 里の住民達が行っていた極端なやり方に、彼女の父は不満をいだいており、内心ではやめるべきであると考えていた。

 しかし、所詮はよそ者、おまけに軽蔑の対象でもある一家の声なんて、誰も聞き入れはしない。

 その上、里を牛耳る者達の頭の固さも相まって、決まりを変えるなんてことは、至難の業だった。

 そして、その後に付け加えられた言葉、それが、今のシルフィの心に、突き刺さる


『だがな、奪わなければ成らない命は有る』


 狩人として、獲物の命を奪い、生きていた。

 自分が、自分たちが生きていくために、多くの獣の命を奪い、その皮を剥ぎ、衣服などに加工し、肉は食らう。

 生きるために、獣たちを狩ってきた。

 生きるために、命を奪わなければならない。

 今回も、それと何ら変わりはないはずなのだ。

 それに、奪っていい命は無い、そんな甘い言葉で、済むような場所に、自分は居ない事を、シルフィは再認識した。


「私がやらないと、だよね、もともと、私の問題なんだから」

「その意気です」


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