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温泉ってときどき無性に入りたくなる 後編

 大量の魔物が木々をかき分け、進軍する姿を見て、衛兵と冒険者達は恐怖する。

 自分たちの敵わないような魔物までちらほらみられるのだから、今にも逃げ出したいという気持ちが湧き出て来る。

 前線に加わる勇気のない者は、宿の警護を行わせるために下げさせている。

 前へと出た勇気ある者達であっても、強力な化け物が波のように押し寄せる姿には、流石に怯えてしまっている。


「なんの冗談だよ、こいつは」

「ミノタウロスまでいやがる、もう村を捨てて、逃げた方が良いぞ」


 臆病風に吹かれる騎士と冒険者達であるが、そんな彼らを押しのける存在が居る。

 ランチャーを二門装備したリリィだけは、魔物の大群に恐れる事も無く、冒険者を押しのけて最前列へと佇む。


「おい、もう一人はどうした?」

「彼女は宿の防衛に当たらせました……それから、逃げたければ逃げても構いませんよ、前から食われるか、後ろから食われるか、それだけの違いですから」

「てめぇ、そんな筒でどうにかなると思ってんのか?」

「いえ、これだけではどうにもなりませんが、私は強くならなければなりません、その為にも、此処で逃げる訳にはいきません」


 シルフィを下げさせ、一人前へ出るリリィは、魔物の大群へとランチャーを向ける。

 今回は込めるエーテルの量を向上させ、出力を上げた砲撃を行うべく、ランチャーのリミッターを外す。

 今に至るまでの傍らで、チャージしておいたおかげで、短時間でチャージを完了させると、扇形に広がる魔物達へと砲撃を開始する。


「来やがれ化け物共!」


 リリィの重砲撃を目の当たりにした者達は、その迫力に腰を抜かす。

 地面を焼き、抉る強力なビーム砲の二門同時の照射、それが数秒に渡って続いた。

 砲撃によって、強力な個体のほとんどはビーム砲によって吹き飛ばされ、大きく数を減らす事に成功する。

 代わりに、ランチャーは二門とも砲門を破損し、再度の砲撃は不可能と成ってしまう。


「おいおい、ウソだろ」

「これだけ高火力の魔法を、たった一人で」

「ここからが、本番ですけどね!」

「あ、おい!!」


 使い終えたランチャーを捨て、リリィは単身魔物の群れへと突っ込む。

 ガーベラとエーテル・ガンを持ち、ただ一人、魔物の大群を相手取る。

 全ては、シルフィと共に過ごす日々の為だ。

 今こうして戦っているのも、ナーダに認められる程、強く成る必要がある。

 ヒューリーの死去によって、強化改修に限界が出てきている今、リリィに残されている自己の強化方法は、戦う事だ。

 リリィ達アリサシリーズは、戦闘を重ねるごとに戦闘能力を向上させる事が出来る。

 特に、マザーと接続されている今では、戦闘データを送信する事で、マザーで解析、戦闘データをリリィへとフィードバックさせる。

 それによって、更に戦闘能力を向上させることができるのだ。

 誰にも負けない位、強く成る事で、リリィという存在の有用性を証明すれば、問答無用の廃棄等を避けられる。

 稼働し続けて居れば、何時かはシルフィと共に過ごせる安らかな日々を得られるかもしれない。

 それが、今のリリィの戦う理由と成っている。

 だからこそ、今回の戦闘は非常に有意義だ。

 人口密集地では決して見る事の無いような強力な魔物がウヨウヨいるこの現状、たとえ一人であっても、勝ち残れば、相応の経験値がもらえる。

 大きな町の一つ、簡単に踏みつぶせるような物量であれば、新たな装備であるガーベラだけでなく、アスセナのテストにもなる。

 そして、こういった戦場を経験すれば、多少であってもジャックの事を理解できる気がしている。

 多勢に無勢、四面楚歌、そんな状況になっても、たった一人で孤軍奮闘するジャックと、今のリリィの状況は似ている。

 スレイヤーという存在を殺す為に作られたリリィにとって、多数の相手を倒すというのは、正直な所苦手と言える。

 それを補うために、複数種の射撃兵装を用意されているのだが、今回は確実に自身を磨けるように、接近戦を主眼に置いた戦闘を行っている。


「アイツ、本当にEランクかよ」

「まるでAランク冒険者の実力だ」

「……エルフを連れた青い髪の少女、そうか、アイツが噂に聞く、サイクロプス百匹殺しのアリサか!」

「何!?」

「アイツがか!?」

「特徴が一致している、それに蒼髪なんて、滅多にお目にかかれる髪でもない、それに、あの戦いぶり、あれならサイクロプス数十体を同時に相手しても勝ち残れる」


 奮闘するリリィの姿を見て、騎士と冒険者たちは、闘争心を鼓舞される。

 しかも一部の冒険者が例の噂話を上げた事で、更に勇気を湧き立たせる要因となる。

 噂通り百匹を殺したのは誇張であると考えても、今のリリィの姿を見れば、十体や二十体程度であれば、一人で倒す事が出来る。

 中堅や素人程度の彼らであっても、その事は十分理解できた。

 僅か七名、この戦力では、すぐに踏みつぶされてもおかしくはないが、戦うリリィの姿を見て、居ても立っても居られなくなる。


「俺達も行くぞ、ゴブリンやオーク程度ならどうにかなる筈だ!」

「アイツに続け!」

「先輩として、負けてられるか!!」

「魔物共め、俺の故郷を攻撃した事、後悔させてやる!!」


 戦う事を決意した彼らは、魔物の群れへと突撃する。

 危険は承知であるが、リリィがたった一人で奮闘しているというのに、指を咥えているだけというのは、彼らのプライドが許せなかった。

 牛と人を合わせたような魔物『ミノタウロス』や、巨大な毒蛇の魔物『バジリスク』

 これらのような強力な個体では無く、ゴブリンのような雑兵を相手に、彼らは戦いだす。

 とは言え、相手は大群、僅か数名の規模では、簡単につぶされてしまう。

 そこで、Cランクの冒険者二人を前衛にし、残りは二人の援護を行う事で、負担を極力減らしている。


「アナタ達」

「雑魚は俺達がやる!お前は大物をやれ!!」

「……無理はしないでくださいよ」

「へ、命が惜しくて、冒険者が務まるかよ!!」


 果敢に槍を振るう彼は、最初リリィに食い掛ったCランクの冒険者。

 もはや、その時の事なんて無かったかのように、リリィを認めており、衛兵たちと一緒にゴブリンを討伐している。

 まるで肉の壁を作っていたかのように群れを成している魔物達は、どんどん数を減らしだしている。

 それでも、リリィは油断せず、確実に魔物を殺している。

 後ろには、大勢の市民だけでなく、シルフィまでいるのだ。

 此処で下がる訳にはいかない。


「(失いたくない、もう二度と、私の力不足で失う事に成るのは、もう嫌だ!!)」


 元マスターであるヒューリー、彼の死を、リリィは自身の責任だと思っている。

 力が無かったせいで、少数の部隊に圧倒され、守らなければならないヒューリーを失う事に成ってしまった。

 同じ悲劇を繰り返さないように、強くならなければならない。

 そんな思いで、リリィはミノタウロスの首を刎ね、バジリスクの体内に腕を突っ込み、エーテル・ガンを体内に打ち込む。

 血の雨を降らしながら、リリィは魔物を切り裂き、撃ち抜き、堅実に数を減らしている。

 心もとない援軍たちの協力も影響し、敵を殲滅できて居る。


「後少し」


 次々と魔物達をねじ伏せ、もう少しで全滅させる事が出来る。

 そう思っていた矢先、宿の方から爆発音が響き渡る。


「何だ!?」

「村の方だぞ!」

「……まさか」


 何が起きたのか、リリィは瞬時に思いついてしまう。

 宿には、魔物避けの行える特殊なフィールドを発生させる装置を置いて来た。

 その装置の警護を、シルフィにまかせていたのだが、爆発が起きたという事は、何らかの事故が起きてしまったのだろう。

 しかも最悪な事に、爆発の影響なのか、リリィ達と戦闘を行っていた筈の魔物達は、一目散に村へと向かい出す。


「あ、おい!無視すんな!」

「村に行かせてたまるか!!」

「クソ、一匹たりとも村に行かせるな!!」

「(畜生、此奴ら、やっぱりシルフィを狙っていやがる!!)」


 理由は解らない、だが、何故シルフィに引き寄せられるのか、それはある程度掴んでいる。

 魔物達を引き寄せてしまっているのは、恐らくシルフィの発している脳波。

 脳波は指紋等とお同じで、人それぞれの特色のような物がある。

 何らかの方法を使い、シルフィの発している脳波を魔物達に覚え込ませ、対象へ襲い掛からせる事は可能だ。

 だからこそ、あのフィールドには、脳波を遮断する機能も取り付けておいたのだが、破壊された以上、もはや何の意味も無い。


「やらせるか、あの子にこれ以上、辛い思いをさせやしない!!」


 保険を破壊されたとなれば、もうこんな所でモタモタしていられない。

 何が宿へと向かったのか解らない以上は、今すぐにでも戻らなければ、どうなるのか解らない。

 そう考え、リリィはすぐに戻るべく、スラスターを吹かせるが、とてつもない衝撃に襲われ、真逆の方へと飛ばされてしまう。


「アリサ!」

「おいおい待てよ、何でこんな奴が居やがるんだ!」


 リリィを吹き飛ばしたのは、身長五メートルという巨体を持った人型の魔物『タイラント』

 基本的にダンジョンの奥底で稀に見られる個体で、此処に居る冒険者程度では、図鑑か何かでしかお目にかかれない。

 戦闘能力は極めて高く、全てにおいてサイクロプスを上回るとされている。

 しかも、どういう訳か武装しており、全身を鎧で包み、更には巨大な斧まで所持している。

 通常の状態でも、此処に居る全員で戦っても勝てる見込み何て無いというのに、武装を施されれば絶望的でしかない。

 タイラントを目にした冒険者達は、恐怖に支配され、逃げる事すら忘れてしまう。

 恐怖に駆られる彼らめがけて、タイラントは戦斧による一撃を繰り出そうとした時、突如飛来した閃光に、突き飛ばされる。


「はぁ、はぁ」

「……」


 タイラントを突き飛ばしたのは、先ほどタイラントの斧の一撃を受けた筈のリリィ。

 立ち上がり、戦闘態勢をとったタイラントにめがけて、リリィは怒りの咆哮を放つ。


「邪魔だ、退きやがれ!!」


 何時にも無く迫力の有る雰囲気を発するリリィは、猪突猛進気味にタイラントへと突撃する。

 そして、身にまとっている重装備を物ともしないタイラントは、リリィの素早い動きに対応し、斧による一撃で攻撃を防ぎ止める。

 草木が吹き飛ぶ程の衝撃波を発生させ、鍔迫り合いとなる。

 その結果、体格的に有利なはずのタイラントは、リリィに押され始め、装備している斧は、ガーベラによって溶断され始める。


「ああああああ!!!」


 更に力を込めた事によって、リリィはタイラントの持っていた斧を破壊する。

 そのまま上空へと移動したリリィは、のけ反っているタイラントめがけて、降下しながら斬撃を繰り出す。

 本来、タイラントの皮膚という物は、ちょっとやそっとでは斬れるような強度では無く、分厚い鋼の板のような強度持っている。

 当然その巨体を支える骨や筋肉も、皮膚以上の強度を誇り、再生能力も非常に高い。

 リリィはそれらを完全に無視してタイラントを切り裂いた。

 再生をガーベラで阻害できていた事も大きいが、恐らく、基地に辿り着く前のリリィであれば、こうも上手く行かなかっただろう。


「ウソだろ」

「タイラントを瞬殺しやがった」


 驚きを上げる冒険者たちをしり目に、リリィは急いでシルフィの元へと戻ろうとするが、事は簡単には運ばなかった。

 タイラントを一体片付けたのは良いのだが、別の個体のタイラント達が更にゾロゾロと、リリィの進みたい道を防ぎ止めるようにして出現する。

 しかも、全員もれなく重装備である。


「……良いですよ、次はどいつですか?何て野暮な事聞きません、全員、まとめて地獄に叩き落としてやりますよ!」


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