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嵐の前の静けさ 中編

 翌日、バルガの町の外

 昼頃に集合したシルフィとリリィ、そしてウルフスは、約束通り、装備のテストを行う準備を進めていた。

 出来る限り人通りの少ない場所を選び、ストレリチアの性能を活かせる位広い場所を選んだ。

 そして、リリィはシルフィとウルフスにストレリチアのギミックについて、色々と教え始める。


「ストレリチアは、ネオ・アダマントの性質をフル活用して制作したエーテル・ギアです、その性質はプログラムを施している道具であれば、質量の許す限り、変化させることができる代物です」

「……何言っているか解らんが、とりあえず素材そのものが武器の形を記憶してるって事か?」

「まぁそんな所です、ストレリチアには、弓としての姿の他に、連射力重視、威力重視、いずれかのボウガン、そして双剣へと姿を変える事が出来ます」

「へー、それで、如何すれば良いの?」

「とりあえず念じてください、連射重視の場合は、ハンドガンの姿を、威力重視の場合は、ライフルを思い浮かべる形で」

「成程、とりあえず先ずは連射重視で」


 リリィのレクチャー通りに、シルフィはかつて使用していたハンドガンをイメージし、弓の変化を試みる。

 すると、糸は弓に取り込まれるように消失、弓は半分に割れ、腕にはめていた籠手と合わさり、二丁の小型のボウガンの姿を形作る。

 以前使用していたハンドガンよりも、少し大きいのだが、弓よりも取り回しを重視している事が伺える。


「ほう、此奴は便利だな」

「うん、でも、弾はもうないけど、エーテル・ガンと同じ要領で良いの?」

「はい、此方は実弾ではなく、魔力を射出する物です、先にそちらを試しましょう」


 ある程度使い方を教えたリリィは、早速シルフィに試し打ちを行わせる。

 その的として、ウルフスの土魔法で、ピンポン玉サイズからスイカサイズまでの大きさの石を生成する。


「それでは、先ずは素早く連射してください」

「うん」


 リリィに教わった通りに、シルフィはボウガンの引き金を引く。

 すると、流し込まれた魔力は、矢の形状に形成されて撃ちだされ、ウルフスの用意した的を撃ち抜きだす。

 使い勝手としては、できるだけハンドガンに寄せておいたことも在り、それなりに高い命中率を叩きだした。

 それから、通常形式の射撃練習を数分行うと、今度は全方位から迫りくる石を打ち抜く訓練へと移行する。

 此処でも、数発程うち漏らすことは有っても、かなりの命中率になる。

 威力としては低いのだが、グリップ部分についているセレクターで、単発と連射を切り替える機構も有るので、それを有効に活用しつつ、練習を継続した。

 シルフィとしても、二丁拳銃の方式による早打ちも、狙撃と同じ位には肌に合っているようで、すぐに馴染んでいた。

 そして、しばらく訓練し、休憩を挟んだ後、今度は威力重視のボウガンのテストを開始する。

 威力重視の方は、現在シルフィに渡した分のアダマント全てを使用し、形を形成する。

 その為、結構大きな武器と成ってしまっている。


「お、大きいね(重い)」

「はい、徹甲弾発射方式と、魔力弾発射方式の両方をつぎ込んだら、こんな事になってしまって」

「俺の大剣と同じくらいか?」

「長さだけで言えば……」


 威力重視型は、専用の弾頭を撃ちだす徹甲弾発射方式と、エーテルを射出方式の両方を用意されている。

 だがその分、長さだけ言えば、ウルフス愛用の大剣と同じくらいに成ってしまっている。

 徹甲弾は、まだ制作中であるが、発射方法としては、電磁力を使用した兵器、所謂レールガンを元にしている。

 エーテル技術が確立していなかった頃は、割とメジャーな武器だったことも在って、制作には其処までの苦労は無かった。

 電磁力を発生させる機構は、シルフィの魔力で発動させ、更にそこに、シルフィの魔力を込めた徹甲弾を撃ちだす。

 リリィの計算では、普通に魔力弾を撃ち込むよりは、徹甲弾を打ち込む方が、威力と精度が高い計算となっている。


「まぁ、まだ弾丸ができていないので、今回は魔力発射方式しか試しませんけど」

「解った」

「で、的はどんなのが所望だ?」

「あ、飛び切り硬くて大きい物をお願いします」

「了解」


 ウルフスはリリィの要望通り、自身の作れる中で、最も強度の高い岩を生成する。

 大きさも、制作したウルフスの身長よりも大きくなっている。

 試しに、組成等をスキャンしてみたリリィの見立てでは、装甲を追加した重装モデルのエーテル・フレームと同格の質量と強度だった。

 そんな物ぶつけられたらと想像したリリィは、少し恐怖染みた物を抱く。


「それじゃぁ撃つよ」

「あ、はい、ウルフスさんも離れてください」

「おう」


 用意された的に、シルフィは狙いを定めながら、ストレリチアへ魔力を充填する。

 そして、引き金を引き、その強大な反動をその身に受ける。

 鬼人拳法を使用していないという事を差し引いても、シルフィにのしかかった反動はすさまじい物だった。


「ッ!!?」


 それなりの疲労感を覚えただけあって、相応の威力と反動は覚悟していたのだが、予想以上の物だった。

 ストレリチアは大きく跳ね上がり、シルフィは姿勢を維持できずに、尻餅をついてしまう。

 だが、その分威力は絶大、ウルフスの制作した的は、粉々に砕け散ってしまった。


「大丈夫ですか!?」

「う、うん、何とか(これ、強力過ぎない?)」

「大丈夫なのは何よりだが、凄い威力だな、あの岩を吹き飛ばすとは」

「ええ、外で試して正解でした、まさかこれ程とは」


 シルフィの無事を確認し、ストレリチアの性能は、リリィの予想を超えていた事も、十分把握できた。

 とりあえず、性能の試験は完了したので、バルガへと帰る前に、少しの休憩を挟む事に成った。

 ウルフスの焼いたパンを摘まみに、シルフィは、ウルフスとジェニーの事について話しつつ、リリィは、ストレリチアの整備を行う。

 ストレリチアはシルフィの使用できる属性天を使用する前提で制作されている。

 その為、基地での戦闘のように、少ない射撃で、簡単には銃身が融解しないように作られている。

 だが、先ほどの高威力射撃は、リリィの想定以上だったため、何処か異常がないか、メンテナンスの必要がある。


「……そう言えばウルフス、さん、此れ、何か解る?」

「何だ?」


 リリィがメンテナンスを行っている中で、シルフィは首から下げていた石を、ウルフスに見せる。

 リリィでも解らないという事だったが、もしかしたら、里の出身であるウルフスであれば、何か解るかもしれないと考えたのだ。

 そして、ジェニーの遺した石を、ウルフスはまじまじと見つめ、観察する。


「……悪いが、俺にもこいつが何か解らん」

「そ、そうなんだ」

「だが、魔力を感じる、魔石の一種と言えるかもな……いや、まてよ、そういや、族長も似たような物を持っていたな」

「え、族長が?」

「ああ、だからって、何か解るような事でもないが、魔石の一種だとしたら、此奴を生み出す魔物が居る筈だが……」

「でも、こんな魔石を生む魔物何て、聞いた事ないよ」

「ああ、俺も、色々と魔石を見てきたが、こんなのは初めて見た、マサムネの旦那に聞いてみたらどうだ?鉱石なら、俺よりも詳しい筈だ」

「わかった、ありがとう」


 ウルフスから魔石を返してもらうと、メンテナンスを終えたストレリチアも、シルフィの手に戻る。

 その後、三人はバルガへと戻り、マサムネの工房へと赴いた。

 目的は、ストレリチアで使うための徹甲弾を受け取る為だ。

 リリィの世界でも使われているアダマントの合金の配合を、できるだけ再現した物の制作を依頼していた。

 予算の都合で十発分しか用意できなかったが、基地にたどり着ければ、幾らでも量産できる。

 徹甲弾を受け取ったリリィが支払いを終えた事を確認したシルフィは、例の石について、マサムネに訊ねて見る事にした。

 その話が終わるまで、リリィとウルフスは二人で話を始める。


「……あの嬢ちゃんに無理させないためにあれを作ったのか?」

「……はい、本来射撃という物は我々のような存在には、牽制程度の価値しか有りませんが、あの子の技術であれば、もしかしたら、有効な攻撃手段に成り得るかと」

「確かにな、だが、何やったらあんなに体にガタが来る?アイツ、多分全身ピリピリしてるだろうぜ」

「……天、というのをご存じですよね?」

「ああ、ジョニーから聞いた、現存する全ての属性のひな型となった、原初の属性、全ての属性は、その属性の派生となった物だと」

「そうです、その属性を体に巡らせた身体強化を行った結果、あのような具合に成ってしまって」


 現在のシルフィの状態、本人も気づいている事であるが、実はかなりガタが来てしまっている。

 表立った症状は、今の所見られないが、軽く痺れたような痛みが走っている状態だ。

 何故そうなってしまったのか、リリィがウルフスに答えた途端、ウルフスはリリィの頭を軽く殴る。


「何するんですか!?」

「バカかお前ら!?冗談でもそんな事する奴居ねぇぞ!」

「……そんなに危険な事なんですか?」

「当たり前だ、属性纏わせた魔力で身体強化何て、自殺行為も良い所だ、そんな事すれば、纏わせた属性の影響を全身に受けるぞ」

「……」


 ウルフスの言葉で、リリィは常識的な知識を思い出す。

 仮に炎を纏わせた属性を用いた魔力で身体強化を行えば、人体発火と呼べる現象に近い状態と成ってしまう。

 そう、通常であれば、属性を持った魔力で身体強化を行うという事は、その属性で身を焼くという事だ。

 何故そんな当たり前な事を忘れてしまっていたのか、答えはすぐに思いつく。

 ジャック、彼女という異常な存在が、その常識を忘れさせていたのだ。

 属性を纏わせた身体強化技である悪鬼羅刹を使用するには、相応の技術が必要となる。

 技術が相応の物に達しなければ、今のシルフィのように後遺症に苦しむ事に成ってしまう。

 だが、ジャックは持ち前の再生能力で、焼け焦げた細胞を急速に回復させることで、後遺症等を無理矢理消している。

 そのおかげで、後遺症無しで複数回の使用を可能としている。

 だが、シルフィはジャック程の再生能力を持っておらず、本来であれば悪鬼羅刹を使用できる程の技術を持っていない。

 その事に気付いたリリィは、手で口を覆ってしまう。


「(そうだ、本来ならあれは自殺行為だ、なのに)」

「……知らなかった、訳じゃないんだな」

「はい、うかつでした、やはり、ストレリチアを遠距離戦闘用の物に調整して正解でしたよ、あの子の事ですから、きっと、忠告したところで、必要に成れば使用してしまうでしょうから」

「ああ、そんな気は、俺もする」

「こっちも終わったよ~」


 深刻な空気となってしまった中で、シルフィはマサムネとの話を終えて戻って来る。

 重苦しい空気と成ってしまっている事に、少し目を丸くしてしまうが、愛想笑いを浮かべた二人は、すぐに誤魔化す。

 とりあえず、気にする事を止めたシルフィは、マサムネと話した結果を二人に話す。

 結果としては、マサムネにも具体的な所は解らない、との事だった。

 少なくとも、この辺りの魔物からは採取できないような魔石であり、内包している魔力も、相当な物だそうだ。


「……准尉は、一体何処でそのような物を」

「解らない、けど……お母さんなら解るって、言ってたけど」

「そうですか」


 工房を出たリリィ達は、石の話をしながら宿への帰路へと付きだす。

 そして、その道中で、ウルフスは二人に別れの言葉を告げだす。


「今日でお別れですか」

「ああ、何かと準備も終わったしな」

「あの、ウルフスさん」

「何だ?」

「先日はすみませんでした、いきなり切りかかってしまって」

「私も、変な事言って、ゴメンなさい」

「そんな事か、別に良いぜ、俺も悪い事をしたしな……それと、此奴は忠告なんだが」

「何でしょう?」

「エルフィリア、お前、確か妹も探しているんだったな?」

「え?うん」

「……もしかしたら、もう関わらない方が良いかもしれない、それと、族長にも手を出すな、長生きしたければ、な」


 暗い顔をしたウルフスは、忠告を残すと同時に、二人の前から消えてしまう。

 その忠告は、シルフィとしては、半分は了解できるが、もう半分は、聞きかねる物だった。

 族長に手を出すな、リリィには解らない事だったため、シルフィは説明する。

 シルフィの故郷である里の族長は、かなり謎の深い人物なのだ。

 基本的に里を留守にしており、四百年里で生きているシルフィでも、数える程度しか顔を見たことが無いのだ。

 いや、厳密には顔を見たことは無い。

 昔酷い火傷を負ったという事で、普段はフードや仮面で顔を隠している。

 オマケに、留守中は何処で何をしているのか、一切が不明であり、話によっては、人間と戯れている何て噂もある。

 だが、それでも盾突こうと考える者はいない。

 その理由は、彼女の能力だ。

 全ての属性を扱えるだけでなく、彼女の意思一つで、生物の生死をその手に握る事が出来るという事だって可能なのだ。

 その説明を聞いたリリィは、かなり半信半疑といった印象を受ける。

 シルフィの言葉であれば、できる限り信じておきたいのだが、それでも、そう言った能力は聞いた事無いだけあって、信じられない部分が有る。


「……でも、族長にだけは、敵対しない方が良い、此れだけは絶対守らないとね、多分、ジャックでも勝てないと思う」

「ウルフスさんの時もそうでしたが、何故そんな恐ろしい人の事を黙っていたのですか?」

「ゴメン、何か、本当に昔の事忘れてる節が有って、その人の事も、ウルフスさんに言われて、やっと思い出した感じ」

「そうでしたか……(記憶障害か?確かにいじめを受けていたと聞いてはいるが、其処に、信頼できて居た家族の喪失、それがトリガーになって、無意識に記憶を封じ込めているのか?)」


 リリィは、シルフィが記憶に障害を抱えてしまった理由を考える。

 もしも、リリィの考える通り、家族を喪った事が原因だとすれば、支えられるのは、やはり家族だけなのかもしれないと、リリィは考える。

 基地に居た時にも、脳の検査も行ってみた時も、その節があるような結果があった。


「(シルフィ、私は、貴女の正式な家族に成るのはまだ先ですが、それが叶わないというのであれば、いっその事……)」


 等と考えてしまうリリィであったが、浮かんできた考えはすぐに払拭する。

 家族の存在が与える温もりが、どれほどの物なのか、リリィには解らないが、喪失によって開いた穴を少しでも埋める事が出来ればと、リリィは考える。


「あの、シルフィ」

「ん?」

「寂しい時でも、辛い時でも、遠慮せずに私を頼ってください、一時の慰め程度は、できる筈ですから」

「……ありがとう、リリィ、それと、私からも言わせて」

「何でしょう?」

「私は大丈夫だから、悪鬼羅刹も、数秒単位で使えば、其処まで負担はかからないし」

「……はい」


 お互いに笑みを浮かべ合った二人は、宿へと戻る。

 因みに、その夜のリリィは、何時もより大人しかったとか。


「(経路には、湯治の村と言える場所もある、折角だし、其処で体を休ませるか)」


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