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酒は飲んでも飲まれるな

 派閥争いの後、チャラ男たちや、その他関係者たちと一緒に、散らかしてしまったギルドの片づけ等々を終え、両陣営共に和解を果たした。

 その後、チェックインしておいた宿、その一階にある酒場で、ギルドで行おうとしていた話を行っていた。

 その前に、アリサは先の大戦(口論)の感想を述べていた。


「しかし、あれは凄まじい戦いでした、私の記録でも、一・二を争うものでしたよ」

「アリサの人生が平和そうで何よりだよ、何だったの?あの論争」

「作者が酒で出来上がる、プラス深夜のテンションで書いたらしくて、本人も何故あのように成ったのか、解らないらしいです」

「執筆中に酒飲むな!」


 等とツッコムシルフィであったが、もうこれ以上気にしていては、キリが無い上に、自分まであんなバカみたいな頭に成ってしまうのでは?という不安が募る。

 これ以上は、もう口にしない方が良いと判断し、早いところ本題に入り始めると、注文していた料理や酒が運ばれてくる。

 それを皮切りに、酒場の隅で奏でられる演奏をBGMにして、少女二入は、今後の方針という本題へと入っていく。


 アリサとしては、さっさと装備を回収し、本来の任務へと戻らなければならない。

 だが、生まれた経緯も、目的も、未だに闇の中であるシルフィを、このまま捨て置くわけにいかない。


 ここに来るまで、シルフィの口より告げられた話の全てを、本当だと仮定した場合、彼女の親が連邦出身で有るという事、対立しているナーダが存在する事も、彼女は知らないことになる。

 それ故に、自身が持っている武器や装備に関しても、知らない事の方が多いようだ。


 加えて、シルフィは生まれも育ちも、この異世界であり、森からは本当に出た事が無い。

 何処までが嘘であるか解らない以上、敵か味方かもわからない、こんな状態では、さすがに用が済んだらポイ捨てとはいかない。

 厄介なことに、内蔵されているうそ発見器には、全く反応が無い、何かしらの細工やバグが起きていなければ、シルフィの言葉は全て真実という事だ。


 一方で,シルフィとしては、これ以上アリサに迷惑をかけないように、早いところ妹を見つけるか、自立したいところであった。

 森から抜け出した者は処断され、さらし首になる。

 という事を踏まえて考えると、シルフィの妹、ルシーラは生きている可能性が高い。

 少なくとも、さらし首に成っていないので、里の暗殺者の毒牙にかかったという事は、考えにくい。

 しかし、逃げるのであれば、追跡できない位遠い場所に行っている筈だ。

 そうなると、見つけるのは至難の業、しかもこの国に居るかも分からないし、魔物に殺されているかもしれないし、事故に遭ってしまっている可能性もある。

 そう考えると、やはり、一人で生きていくための知識や能力は必須だ。

 アリサの助けを受けずに、生きていけるように成れば、何とかなるかもしれない。

 だが、それでは、(方法はどうあれ)せっかく外に出してくれたアリサに、何の酬いも無しに分かれるのは、心苦しい。


 アリサからすれば、謎でしかないシルフィの存在を、野放しにする訳にはいかず。

 シルフィからすれば、何かしらのお礼を行い、アリサの邪魔に成らないように、早く別れたい。

 目的は一切一致していない。


 料理を食べつつ、一緒に対策を考えていき、食事を終えた辺りで、一服をしながら、お互いの考えと目的を纏めていく。


 アリサは早いところ、装備を回収し、任務に戻りたい。

 この望みをかなえるべく、シルフィは一歩引き、アリサの装備の捜索を優先することを提案した。

 その後、アリサの任務も手伝い、それらが終わった後、お互いに別れ、シルフィは一人で妹を捜索する、という事に成った。


「本当に良いのですか?一人で」

「良いよ、これ以上迷惑とか、かけられないから」

「(まぁ、戦力には成りそうだし、彼女の本当の目的を知る為にも、同行は許可した方が良いか……というか、この飲み物なんだ?)」


 動向を許可し、話が落ち着くと、シルフィはバックパックの中から、一本の枝のような物を取り出し、それをアリサに見せる。


「これ、良い?」

「……かまいませんよ」


 シルフィが取り出したのは煙管。

 喫煙の許可を取ったシルフィは、店員から灰皿を借り、煙草に火をつけようと、バックパックから火種を取り出そうとする。


「あれ?火、入れてなかったっけ?」


 どうやら、火を忘れてしまったらしい、此処に来るまでの間、焚火の火は、全てアリサがつけていたので、気が付かなかった。

 そんなシルフィを見かね、アリサはエーテルガンを取り出し、シルフィはアリサの意図を察し、煙管の先端を、銃口にかざす。

 アリサが引き金を引くと、煙管の先端部分から、徐々に煙が立ち上がり、煙草に火が付いた事を確認する。

 アリサのエーテルガンは、出力を絞れば、ライターのように扱う事ができる、何時もそうして火を起こしていたので、シルフィも、そのことを知っていた。


 一服をしつつ、友好を深めるという建前の元、アリサはシルフィのあら捜しをするために、雑談を始めた。

 元・介護用だったという事もあって、老人ホームの方々の話し相手として、さんざん長話に付き合ってきたかいがあり、語彙や会話のレパートリーは豊富だった。

 そんな中で、昼間の一件についての話題が再び蒸し返され、その話で盛り上がりが出始めた時、シルフィの口から、とあることが言い放たれる


「それにしても、アリサって、クールなイメージだったけど、意外と熱くなることもあるんだね」

「え?」


 考えてもみれば、アリサ自身、何故あのように熱くなってしまったのか、良くわかっていなかった。

 まるで、アンドロイドで有る筈なのに、感情があるような反応、改めて考えてみると、かなりおかしい。


 かつて、アリサのマスターを含めた一部の技術者は、互いに競いあうように、感情モジュールと呼ばれる、アンドロイドに感情を付与させるプログラムを構築してきた。

 そして、感性したモジュールは、一部の第三世代型アンドロイドに搭載されていた。


 感情モジュール搭載型は、本当に感情がある様に振る舞い、人間に限りなく近いアンドロイドとして、一時期脚光を浴びていた。

 モジュールを完成させた一部技術者は、賞を授与するなど、好待遇を受けていた。

 だが、第四世代型以降は、そのモジュールの搭載、および関連する技術の開発は禁止になった。


 理由としては、世論からの反発、非人道的な技術だという意見が大半を占めていた。

 更にはモジュールを搭載するアンドロイドに対する、反対のデモと称したテロ活動、それらの理由から、その法案が可決した。


「(私には搭載されなかったが、マスターが組み込んだ?いや、そんなデータは無いし、マスターが完成させる前に、法案が可決されたから、そんなことはあり得ないか)」


 恐らく、多くの人間と触れ合った事によって、蓄え続けたデータが作用し、こうした方が人間のように見えると判断したのだろうと、自己完結しておく。

 それと同時に、モジュールの搭載が禁止に成った理由を思い出す。


「(まぁ、モジュール搭載の影響で、休みを求める奴らが出てきたからというのが、大半の理由らしいけど)」


 搭載が禁止された本当の理由を思い出すが、今と成ってはどうでもいい事、アリサは直ぐに演算を中止し、シルフィとの会話に専念する。


 酒を次々とあおったシルフィは、強かに酔い始め、徐々に口も軽くなり、何時もの内気な雰囲気は無くなっていく、というか過度にアリサに絡み始めている。

 酒が回っているとはいえ、人の目を気にしていないような言動も見え隠れしている。

 普通であれば、此れから見知らぬ土地で暮らさなければならないのであれば、不安になるものではあるが、今のシルフィには、あまり不安を感じられず、むしろ楽しさが見て取れる。

 今まで、異端児として疎外され、友人と言える存在も無く、接することができるのは、親と妹だけであったシルフィにとって、こうして話せる相手は、とても貴重なのだ。


「(初めての友達、いや、ちょっと気が早いか、今までそんなの、居なかったから、よくわからないけど、外で暮らすなら、それくらい必要だよね)」


 酒を飲み干し、そばに置いてあった酒瓶の中身を、器に注ぎ込んでいると、酒場の隅で歌っていた人が、客の中で、ゲスト出演をしてみないか?と言う提案がなされた。


 単純に飲みに来た住人だけでなく、旅の商人や、冒険者たちまで利用しているので、かなりの人数が集まっている。

 酒が回っているとはいえ、流石にそんな大勢で、のど自慢をしようと言う人間は、あまりいなかった。

 だが、そんな中で、完全に酔いの回ったシルフィは、大きく手を上げ、煙管の始末を行うと、酒瓶片手に、踊り子たちの元へと歩いていく。


「(あれ?あんな酒頼んだか?)」


 シルフィの手に握られているのは、頼んだ覚えのない酒、試しにコップの底に残っていた酒を一口含み、アルコールの度数を計測する。

 アリサの行動に気付く事無く、前に出たシルフィを見た客や、今まで演奏していた人たちは、期待の眼差しを向けていた。

 エルフと言えば、誰もが可憐な音楽を奏で、セイレーンのごとく美しい声で、人々を魅了する、それらが彼らの既成概念なのだ。

 当然エルフであるシルフィにも、そのような期待があった。


 前に出たシルフィは、これから一緒に行動してくれる、アリサへの感謝の念と、これからお世話になる、森の外の世界への敬意の為に、自分の十八番を歌う事にした。

 演奏が行われ、シルフィは彼らから向けられる期待に応えるべく、気合を入れて自慢の喉を鳴らす。




 ――その日、酒場は地獄と化した。


 シルフィの喉より発せられた歌声は、彼らの予想の斜め上に行くほど、酷い物。

 どっかのガキ大将のように、デスボイス成らぬ、テロボイスとも形容できるレベルだ。

 酒の回っていた吞兵衛たちは嘔吐し、単純に食事を摂っていた人たちは、泡を吹いて倒れる。

 他にも、頭痛・目まい・けいれん・システムエラー、様々な症状を訴える者が後を絶たない。


 地獄のリサイタルは、シルフィの手に握られている酒が無くなり、酔いつぶれるまで続いた。

 シルフィが倒れこんだことで、歌は止むが、彼女の歌を聞いた人々は、店の中も外も問わず、気を失っていた。

 アリサも、謎のシステムエラーが引きおこり、再起動に四時間程費やした。


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