中学生に戻った俺は学園一の美少女の自殺する過去を変え未来に戻ったら彼女と結婚していました。
〜椎名小鳥視点〜中学校に戻った俺は学園一の美少女の自殺する過去を変え未来に戻ったら彼女と結婚していました。
短編「中学校に戻った俺は学園一の美少女の自殺する過去を変え未来に戻ったら彼女と結婚していました。」の視点逆バージョンです。前作を先に読んでから読むことをおすすめします。
「し、椎名……さん!! す、好きです! 付き合ってください!」
何回も聞いたセリフ、何回も見た光景。
正直、聞き飽きたし。見飽きた。
目に前にいる男子、名前は確か入江一樹だったはず。
クラスでいじめられていて色々とことりが助けてたんだっけ。
はぁ、なるほど。ことりが優しくしたからチャンスがあるかもって勘違いして告白してきた口ね。
そう思い、改めて入江の顔を見てため息をついた。
頼りなさそうにいじいじしてまさに陰キャって感じ。いじめられて当然ね。
正直、見ていてイライラする。まぁこいつには素のことりで話してもいいか。
どうせ、こいつが言いふらしても誰も信じないだろうし。
「はぁ? ことりのことが好き? ちょっと優しくしてたからって自分にもチャンスがあると思ったの? 気持ち悪い」
だから言ってやった。本心を素の自分を見せた。
ことりは普段可愛らしく振る舞っている。まぁ、ぶりっ子というやつだ。
自分が幼顔で可愛いことも自覚してるし、自分磨きも大好きで髪や肌の手入れやおしゃれも欠かさない。
でも本当のことりは気が強く、口が悪い。
自分でもわかってる。素の自分を見せると周りから嫌われるってだからことりは滅多にこの顔は見せない。
「……え?」
はい。予想通りのリアクション。信じられないって顔してる。
「……椎名……小鳥?」
入江は確かめるように呟く。
いや、いくら信じられないからって名前まで確認する?
まるで死んだ人が生き返ったみたいな。そんな反応をされた。
「……はぁ? あんた頭大丈夫?」
だから思わずこんなことを言ってしまった。
「え? なんだこれ?」
え、なに。自分の制服を見てなんかおろおろしてるんだけど。
本気で病院に行った方がいいんじゃ。
「椎名さーん部活始まるよー」
あまりの挙動不審さに病院に連れて行こうかと声をかけようとしたら部活の先輩声をかけられた。
「はーい!! ことり、今いきまーす!」
ことりはそれに対し、即座に猫を被り甘ったるい声で返事をした笑顔で先輩の元にかけていく。
「ちょっと待ってくれ!」
入江に呼び止められ、立ち止まった。
「何で……俺に優しくしてくれたんだ?」
「別に、ただ。ことりはああゆうのが嫌いなだけ。ことりはあんたのこと嫌いじゃなかったし。困ってる人を助けるのは当然でしょ。そもそもあんたいじいじし過ぎ。だからいじめられるの。もっとシャキとすれば?」
そう吐き捨てるように言い放ち、じゃっと手を振った。
「ごめんねっお待たせしましたっ」
「いいよいいよ。それより何? ことりちゃん告られてたの? 振っちゃった?」
「も〜言わないでよ〜ことり、こういうのちょっと苦手なんだよー」
そう言いながら猫をかぶって部員の女の子と笑いながら部室へと戻って行った。
翌朝、教室に入るとクラスがざわついていた。
「あ、椎名さんじゃーん」
教室に入るや否やクラスのカーストトップのりさがことりに話かけた。
ことりはこいつが嫌いだ。というかこいつもことりを嫌っている。
ことりは男子にはモテていたが、女子には嫌われていた。女の友達は2人しかいない。
「どうしたのりさちゃん? ことりに何かようかな?」
満遍の作り笑顔で返す。
はぁ、朝からしんどいな。さっさと要件を言ってよ。
「これな〜んだ?」
ニヤニヤしながらりさはスマホの画面をこれ見よがしに見せつけた。
スマホに昨日あったことりと入江の告白動画が流れていた。
「ーえ」
うそ、まさか、撮られてた?
その動画には2年半隠してきたことりの素が映っていた。
全身から血の気が引くのを感じる。体が震える。声が出ない。呼吸が乱れる。
顔が真っ青になっているのが自分でも分かる。
バレた。バレた。バレた。バレた。バレた。
「やっぱり。りさのいう通りだったねー? 椎名さんめっちゃぶりっ子だったじゃん」
りさが楽しそうに話しているところで入江が来た。
「あ、入江くんじゃーん。かわいそうに頑張って勇気出して告白したのにあんなひどいこと言われちゃって大丈夫―? ほんと性格悪いよねー?」
「ほんと俺ショックだなぁ〜ことりちゃんのこと好きだったのによぉー俺らのことも裏で悪口言われてるんだろうなぁ〜」
入江は困惑した顔をしていたが、そんなことはどうでもよかった。
「うわ〜ないわ」
「マジかよ」
「性格わるっ」
批判するような目線と悪意ある言葉がことりに降り注いだ。
チャイムがなり、ひとまず席に座る。授業中りさ達は楽しそうな顔でスマホをいじっていた。
たびたびにこちらを見ながらクスクスと笑う姿はことりに何かする気満々だった。
美久だけは大丈夫、たとえクラス中がことりを見捨ててもあの子はことりを見捨てない。
一条美久はこの学校で出来た唯一の友達。彼女は入学当初いじめを受けていた。
当時それを面白くないと思ったことりは美久を助け、それがきっかけで仲良くなった。趣味なども合い休みの日も二人でいろんなところに遊びに行っている。
もう2年の付き合いだ。
それに美久はいじめられている人の辛さをよくわかっている。だから、きっとことりの味方になってくれるはず。
大丈夫と自分に言い聞かせて立ち上がり、弁当を持って美久のところに行った。
緊張で手が震える。心臓の音がうるさい。
「お、お弁当一緒に食べよ?」
できる限りいつも通りの笑顔で言った。声が震えているのが自分でもわかった。
大丈夫、大丈夫、美久なら大丈夫。信じよう。たった一人の友達を。
「……ごめん。椎名さん。もうあなたの居場所はここにはないの……男の子と一緒に食べたら? 人気者でしょ?」
「っ!」
美久はことりを嘲笑いながら吐き捨てながら言った。
その目は私も巻き込まないでよという意志が感じられる。
そんな……美久もことりを見捨てるの? いつも一緒にいたのに……
声が出ない。膝はしきりに震える。ろくに頭が働かない。
「あははは!! 超面白い!! センスあるね!」
「ちょっと男子ぃ〜ひとりぼっちの椎名ちゃんを仲間に入れてあげなよ〜」
「えーぶりっ子はちょっと……」
りさは愉快そうに大声で笑う。それに続き悪意のある笑い声が教室を埋め尽くす。
「ッ!!」
思わず弁当を落として教室を出て走り出した。
「う、う、うぇ……」
溢れる涙を拭いながら屋上を目指す。
屋上の扉はだいぶがたが来ており、無理矢理開けることができるのを知っていたから。
それに誰も来ないし。今はただ一人になりたかった。
屋上の扉を乱暴に開けながら隅っこで体育座りをする。
顔をふせて目を閉じ、涙が止まるのを待った。
あ、そういえば。お弁当箱置いて来ちゃったな。まぁ、もうどうでもいいか。
このまま眠っちゃおうかな?
そしたら夢でしたってことにならないかなぁ。
現実逃避をしていると扉が開く音がした。
だれ? いやもうどうでもいいや。先生でも男子でも好きにして下さいって感じ。
「……弁当、届けにきた」
その声……入江かな? なんか息を切らしながら言ってるし……もういいよ。放っておいてよ。どうせ、弱ってるところをチャンスだと思って優しくしてるだけでしょ?
そういう下心が見え見えなのよ。
さっさとどっか行って欲しかったので入江の言葉は無視した。
だけれども足音はこちらに近づいてくる。
うざい。うざい。うざい。
「……ここ置いとくぞ」
ことりは弁当箱を払った。
「……うざいのよ。何? チャンスだと思った? 弱ったところを付け込んで、今優しくして、あわよくばとか考えてるんでしょ! ほんっと男って気持ち悪いっ!」
ぐちゃぐちゃになった感情を吐き捨てるように叫んだ。
思ったことをそのまま言ってやった。
「どうせ、私のことなんて見捨てる癖にっ」
心より先に言葉が出てしまう。
そうだ。どうせすぐ見捨てるんだ。
なら、最初から構わないでよ!! 優しくしないでよ!! そういうのが一番腹が立つの!!
「見捨てない。今度は」
ことりの言葉を入江は否定した。
「は? 今度は?」
思わず、顔をあげて入江の顔を見る。
「俺は椎名小鳥を見捨てない」
そう言い放った。その言葉は力強くて、じっと力強い瞳でことりを見つめる。
いつものおどおどしたあいつはどこに行ったのかその姿はとても堂々をしており、入江が放つその気迫?にことりは思わず「う」と押されてしまう。
しばらく沈黙が続いた。
ダメだ。いつもと雰囲気が違う入江に調子を狂わせられる。
「……あそ、好きにすれば。どうせ、あんたもことりのことをすぐ見捨てるに決まってる」
だから、ここは折れることにした。
どうせ美久みたいにすぐことりから離れて行く。だから居ないと考えればいいんだ。
だから、期待もしないし。見捨てられたとしても失望もしない。
「そうだな。好きにするよ」
笑った入江はことりの弁当箱を取りに行って再びことりの前に置いた。
別にいらないのにー
ぐぅぅとことりのお腹がなった。
「………………」
「………………ぷっ。ぐっ!?」
とりあえず笑った入江に腹がたったので殴っておいた。
「お、椎名! おはよう!」
それ以降みんながことりを無視する中、入江だけはことりに話かけ続けた。無視しても話しかけ続ける入江に若干うんざりしていた。
ほんと。朝のおはようから常に話かけてくるし、昼休みもずっとついてくるし、部活でも居場所がなくなり、辞めて一人で帰れると思っていたら下校も途中まで無理矢理ついてくる。
「椎名! またな」
それで帰り道で別れる時、入江は絶対にことりにまたなと言う。
何よまたって、また明日もよろしくなーって意味? ほんとムカつく。
次第に妙な噂も流れるようになっていった。援交してるとか、6股してるとか、教師とも関係を持ってるとかそんな噂だ。
くだらない真っ赤な嘘だ。ことりはそんな軽い女じゃないし。というかまだキスもした事もない処女だし。
それだけではない、ことりの教科書がゴミ箱に捨てられていたり、机に落書きなどのいじめが増えてきた。
多分ことりが帰った後にしているのだろう。初めて見た時はそれなりに心にダメージを負った。
まぁ、その後の入江の鬱陶しい絡みでどうでも良くなったけど。
だけどそれは一日だけだった。次の日からは教科書も捨てられてなかったし、落書きなどもされていなかった。
だけど、入江が授業中よく居眠りするようになった。その理由はなんとなくわかってたけど、ことりは何も言わなかった。
どうせ、見捨てられるんだと思っていたから。
そんな日々が続くと今度は入江にもいじめがおこった。
りさ達は孤独になったことりが見たいのにそれを邪魔する入江が気にいらなかったんだろう。
馬鹿なやつ……自分から前のような生活に戻って行くなんて。
でもこれで、入江もことりを見捨てるだろうと確信した。
当たり前だ。みんな平穏な学校生活を送りたいに決まってる。自分が標的にされるのは嫌だ。
美久がそうだったように。
分かっていたことだ。わかりきっていたことだ。だから落ち込んだり、辛いとは思わなかった。
だけどことりの確信は外れてしまった。
あいつは自分がいじめのターゲットにされてもなお、ことりに話かけてきた。
あいつも色々と嫌がらせをされているに違いない。
だけどいつも通りに接して来た。まるで何もなかったかのように。
「椎名って料理できるのか? 好きな料理とかは? 俺は唐揚げが好きかな〜? あ、ちなみに俺はー」
「椎名! 椎名! 見てくれよ!! このスイートポテトめっちゃ美味そうじゃないか? 奢るからさ、今度息抜きに……あ、昨日までの販売だった」
「最近寒くなってきたなー椎名は帰って手洗いうがいしてるか?」
「椎名の髪ってその……き、綺麗だよなっ何か手入れとかしてるのか? 椎名の髪型結構そ、そのぉ……す、すきだーなんて……はは」
入江一樹は椎名小鳥を見捨てなかった。
そして12月22日、終業式まで後1日となった。
「ただいま」
返事なんて来ないのを分かっていながら言った。
家に帰るといつも一人。
誰もいない。ことりだけ。
パパとママは共働きで忙しく、基本は家にはいない。
仕事なんだから仕方ない。だけど、寂しい。
料理を作って、一人で食べて……お風呂の準備をして、洗濯物も全部一人で。
お弁当を作って寝る。
無音で何もない世界。感じるのは孤独感と寂しさだけ。
時間が過ぎるのがとても遅く感じる。
だから、家にいるのは嫌い。
だけどクリスマスだけは違う。
クリスマスはパパとママが帰ってくる日だから。
だから明日は家に帰るとパパとママがいておかえりって言ってくれるの。
それで3人でご飯を作って、食べて、これまであったことを話し合って、笑って、いつの間にか寝ちゃって。
それで当日は私の行きたいところに連れて行ってくれて、遊んでくれて。私を、私だけを見ててくれるの。
時間なんて一瞬で過ぎちゃう。
ことりはこの日が楽しみで生きて来たって言っても過言ではない。
終業式までにご飯の材料を買っておかないとなぁ。
一人ウキウキしながらカレンダーを見ているとスマホが振動した。
スマホの通知を見るとママからだった。
「あ、23日の晩御飯の相談ごとかな? あ、パパからも来た」
口元をにやけさせながらアプリを開くと
急な仕事が入ってクリスマス帰れなくなった。
仕事だ。23日は帰れない。
そう書いてあった。
え……と頭が真っ白になる。
パパとママ……帰って来ないの?
「ま、まぁ、し……しご、仕事だもんねっしょうがないかっ……はは、あはは」
誰もいない家で一人涙を流した。
せめて声だけでもと電話しても繋がらなかった。
「あぁ……声くらい聞きたかったなぁ」
12月23日終業式が終わり、クラスのやつらがぞろぞろと帰って行く。
なんだか色々なことがどうでもよくなった。
どうせ、今日も家に帰っても誰も居ないし。帰っても苦しいだけ、落ち込むだけ。
……屋上でも行こうかな?
そういえば、入江は?
いつもならそろそろことりに話しかけてくるはずなのに。
教室を見渡しても姿が見えない。机に鞄もないし、帰った?
ほんと、肝心な時に居ないとか……
いやいや、何言ってるんだ。これじゃあまるで入江に居てほしいみたいじゃん。
首を振りながら、屋上に向かう。
だけどなんだか、心にぽっかり穴が空いたような感覚がした。
鉛のように重たい足取りで階段を上がって屋上の扉を開くと入江は夕焼け空を見ていた。
別にその姿がかっこよかったわけじゃない。だけど、なぜかことりは入江から目を離せなかった。
ただ黙って入江を見ていた。
「……ん?」
入江がこっちに気づく。
「……やっと、どっかいったと思ったのに……」
取り繕うようにプイとそっぽを向いた。
……あれ? さっきまで確かにあった、心に空いた穴がなくなっている。
「椎名もこの夕焼け空を見に来たのか?」
「…………」
「俺はしばらくここにいるけど、椎名はどうする? 一緒にこの夕焼け空を眺めるか?」
「……帰る」
あいつの顔を見たら、屋上に居る気も失せた。
ドアノブに手をかけ、帰ろうとすることりに入江は声を掛けてきた。
「椎名!! またな! その……よいお年を!! ら、来年もよろしく!」
「…………」
来年……か。
校門を出て帰路を歩く。
さっきまで重かった足取りが嘘みたいに軽くなっていた。
その最中ぶーとスマホが振動し、手に取ってみると
「ママから!?」
嘘!?
え、なんで!?
まさか仕事の予定がなくなったとか!?
ワクワクしながらスマホを開くと
ごめん、仕事が立て込んでて卒業式も行けなくなった
「…………え」
約束だったのに、中学生の入学式が来られなかったから絶対に卒業式は来るって約束したのに?
3年前からの……約束。
ふと橋の途中で足が止まる。
この橋って結構高いのよね。このまま、飛び込んでしまえば、パパもママも少しはわたしの事を見てくれるのかな?
パパもママも誰もことりの事なんて見てくれない。だからこのまま……終わっても。
『椎名! また来年』
!!
飛び込もうとする私を入江の声が止めた。
なんなの……やっとあいつと会わなくて済んだと思ったのに、どうしてあんたは私の近くにいるのよっ!
「なんで……誰も私を見てくれないのに……なんであんただけは私の中にいるのよっ!」
結局、涙を拭いながら家に帰った。
生きる気力がなくなったことりは冬休み中、何回も死が頭をよぎった。
だから、駅、橋、横断歩道、様々な飛び降たら死にそうな所まで足を運んだ。でもそのたびに、入江の声が入江の顔が浮かんで来て、自殺する気が起きなかった。
年明けの学校初日、登校していると入江から声をかけられた。
「……はよ」
返事を返すと入江はとても驚いたような顔をしていた。
その顔は間抜けで少し面白かった。
そして卒業式の日
結局、パパもママも卒業式には来なかった。他人の親を見て心の底から羨ましいと思いながら卒業式を終え教室に居た。
最後の挨拶も終え、クラスの人たちはしゃべったりしている。
そんな中、入江はそそくさと教室を出ていった。
急いでその後を追い
「待って」
呼び止められた入江は動揺しながら当たりをキョロキョロと見渡す。
「あんたしかないでしょ」
そんな様子を見て呆れたように言った。
「そ、そうだよな。すまん。それで俺に何か用か?」
「……最後だから言っておこうと思って」
そう、最後だから。これだけは言いたくて。
「……今までありがとう」
微笑みながら言った。
そしたら入江は泣きそうになりながらお、おうと答えた。
全く馬鹿ね……こんなんで泣きそうになってるんじゃないわよ。
「さようなら」
最後の別れの挨拶をして振り抜き、歩き始めた。
うん。入江と卒業できたし、最後にお礼も言ったし。もういいや。
私は屋上へと向かった。
自殺するために。
カツカツと階段を登る音が校内に鳴り響く。
入江は地元の高校に進学するようでことりは親の薦めた高校に合格してた。
この町ではない。遠いところにある高校だ。
だから、ことりはパパが用意してくれたマンションで一人暮らしを始める。
知らない町でたった一人で。
合格してもパパとママからおめでとうとかそんな連絡は来なかった。既読すらつかない。
屋上につき、手すりを乗り越える。
高い。このまま落ちたら本当に死んじゃうんだろうなぁ。
まぁ、いいや。この先、生きていたって良いことなんて一つもないし。
生きたいとも思えない。
これからのことを思うと暗い気持ちになる。
(もう思い残すことはないし。このまま楽にさせて)
気付いて
(これで終わりにしたいから、声をかけないで)
気付いて
(ことりのこと気にかけないで)
気付いて
(ことりのことを見つけないで)
私を見つけて
「……何してるんだよ」
あぁ……やっぱりあんたは椎名小鳥を見つけるのね。
振り返ると肩を上下に揺らし息を切らしている入江がことりを見ていた。
いつだってことりのことを見つけてくれるその瞳が嫌い。
「そんなところにいると危ないぞ」
いつだってことりに優しく話しかけてくれるその声が嫌い。
「……本当は、冬休み中自殺しようとした。だけど、その度あんたの顔が、あんたの声が、浮かんできて……死ねなかった」
「何度も、何度も何度も何度もまたなって言葉が……私の耳に残って消えなかった」
「だったらどうして、お前は今飛び降りようとしてるんだよ」
そうやって優しく差し伸べてくれるその手が嫌い。
「……この先、生きていてもいいことなんて一つもないし。家に居ても、どこに居てもことりは一人ぼっち、誰もことりのことを見てくれない。パパもママも誰も。だからことりが生きていく理由もない。もう、楽になりたい。それにもうあんたとも……」
「落ちようとしたって無駄だ。お前は死なねぇよ。俺が死なせねぇ」
そうやって、普段頼りないくせにこういう時だけかっこ良くなるところが嫌い。
「……わからない。なんであんたはこんなに優しいの? ことりの体目当て? 援交してるとか言われてるもんね? あれ嘘だからことりは普通に処女だし。見返りがなくて残念でした。……だからもう放っておいてよ」
あなたの温かいその優しさが嫌い。
「……見返りならとうの昔に貰ってる。俺も死んでもいいやって思ったんだけどさ。あの時の後悔がそれを邪魔をするんだよ」
暖かくて、優しい眼差しが私を見つめる。
その顔、嫌い。何だか安心するから、甘えてしまいたくなるから。
「……意味わかんない」
そう言いながら、入江をどんと押した。
「っ!」
思わず尻もちしたのを確認して「じゃあね」と言いながら振り返り前を向いた。
落ちたと思った身体は宙ぶらりんになっている。どうやら入江がことりの腕を掴んだようだ。
「早く……俺の腕を掴めっ」
「もう、はなしてよ」
はなさないとあんたまで一緒に落ちちゃうわよ。
「お前は……お前だけは俺が死んでも守ってやる」
入江がそう言った瞬間、ことりの体を庇うように抱きしめ、一緒に落ちていった。
強烈な痛みが身体中に走る。
朧げな視界に映ったのは波紋のように広がっていく血だった。
目を覚ますと目の前には白い天井があった。薬品の匂いがする。耳を澄ますとぴぴという機械音が聞こえる
「「ことり!!」」
「……え?」
目を覚ました瞬間、パパとママが泣きながらことりに抱きついてきた。
「ごめんっ、ごめんねぇ!! ことり!!」
「うぅ。すまなかった! 一人にして!! すまなかった!」
パパとママが同時に喋るものだからどう答えたら良いのか分からなかった。
だけど、ああ……久しぶりに声を聞いたなぁ。
1ヶ月後
「一樹、邪魔するわよ」
退院したことりは一樹の病室を訪れていた。
一樹は落ちた衝撃で眠ってしまった。
命の別状はないとのことだがいつ目が覚めるのかはわからないという。
「ことりにはそんな資格なんてないのかもしれないけど、頑張って支えるから。ずっと、ずっと待ってるから。だから一樹の側に居させてください」
ベッドで眠ってる一樹に言った。
返事なんかない。だけど、ずっと支える。一樹が私にそうしてくれたように。今度はことりが支える番だ。
一樹のご両親に何度も頭を下げて身の回りのお世話をする許可を得て毎日お見舞いに行った。
「あ、そうだ。桜が綺麗なところを見つけたの。パパとママとお花見して楽しかった。来年連れていってあげる」
「さて、今日もマッサージするわよ。よいしょ。ずっと寝てばっかだと体が硬くなっちゃうらしいから定期的にほぐしておかないと」
「そういえば一樹が言ってたスイートポテトこの前見たわよ。結構美味しそうだったわ。今度食べに行きましょうよ。息抜きに」
「……あ、一樹雪が降ってきたわよ。通りで寒いと思ったわ。ホワイトクリスマスね」
「髪伸びてきたし。そろそろ切りに行こうかなーばっさり短くして髪型を変えるか、そのまま伸ばすか……あ、そういえば一樹ってことりの髪型好きって言ってたっけ……今の髪型を維持でいいか」
お見舞いを続けて1年が経ち、私は高校2年生になった。
あの飛び降りから1年、一樹が眠ってから1年経っても目覚める気配が一向にない。だけどことりは一樹の回復を信じ続けた。
「そういえばまた告白されたわ。君の笑顔が好きだーとかなんとか言ってた。ばっさり断ったけど」
告白か……そういえば、アンタからもされたっけ。なんか懐かしい。あの時はバッサリと断ったけど。
今は……
…………………
「予行練習でもしておこうかしら」
2人しかいない病室でおほんとわざとらしく咳払いをする。
なんだか、顔が熱い、胸がドキドキする。
「あなたの優しい瞳が好き。あなたの優しい声が好き。差し伸べてくれるあなたの手が好き。いざとなったら頼りになるところも好き。あなたの温かい優しさが好き。……あなたの全部が大好きです」
……一人でなにを言ってるんだろう。言い終わって急に冷静さを取り戻した。
返事なんて来るはずないのに
「しい……な?」
「っ!!」
目の前には安心したような顔をした入江一樹がいた。
「一樹!! 一樹!! め、目がっ!う、うううううう!」
ことりは思わず子供のように泣きながら一樹に抱きついた。
そしたら一樹の容態を確認するため先生が慌てて駆けつけて来た。
あの時、またすぐ眠ってしまったが、数日後一樹は完全に目を覚ましたらしい。
あの日以降、面会謝絶の状態になってしまってお見舞いに行けなくなった。
その理由はおかしな言動をするようになったからだ。
また過去に戻ってきたのか!? とか俺の輝かしい未来がー!とか俺の結婚生活は!? とかよくわからないことを叫んでいたらしい。
精神科のカウンセラーをつけて家族以外との面談は禁止されていた。
その後心体ともに安定した一樹は退院し、実家に帰り1週間過ごしていた。
そして今日は一樹が一人暮らしをするマンションに来る日だ。
飛び降りの件で地元で有名になってしまったことりと一樹は当初行くはずだった高校を変更し、地元から離れた高校に行くことになった。
高校についてはまぁことりがつきっきりで勉強を教えればついて来られるだろう。
そこそこレベルは高いがあいつ地頭は悪くなかったはずだし。
ことりはパパとママと一軒家で暮らしており一樹が住むマンションの隣だ。
だからことりはご両親の代わりにお世話をさせていただくということで一樹のマンションの合鍵をゲットした。
今は合鍵を使って部屋に入り、あいつの好きな唐揚げを作りながら、一樹の帰りを待っている。
パチパチと揚がる唐揚げを見つめながらあることを考えていた。
結婚て……あいつそういう願望があったんだ。
……ふぅん。ま、まぁ、ことりは優しいから。その願望、少し叶えてあげようかな? ちょうどエプロンもつけてるし。
そんなことを思っているとガチャっと鍵が開く音がする。
「ボロアパートからだいぶまともになったな……ってあれ? なんであかりがついてるんだ?」
困惑している一樹の声がする。
もっと困惑させてやるかと気合いを入れた。
一樹がガチャっと扉を開けた瞬間、ことりはとびきりの笑顔で言ってやった。
「お帰りなさい。あなた」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
「面白かった」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
また、この短編もご好評いただけましたので後日談として主人公(27歳)と椎名小鳥(16歳)のイチャイチャ話を投稿しました!!
是非お読みください!!
https://ncode.syosetu.com/n8007he/
こちらは主人公視点になります!
https://ncode.syosetu.com/n3492he/