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他者嫌悪

「ハァ……」

「あ、あの、糸崎くん……?」

「ハァア……」

「……その、僕は当たり前のことだと思うんだけど…………」

「…………まあ、俺もわかってるんですけどね。——でも、なんというか、せっかく手に入れたオモチャを取り上げられてしまうような悲しさはありますよ」

「そ、そうなんだ」

「まあ、そのオモチャは盗んだオモチャなんだから取り上げられて当然なんですがね」

「そ、そっか……」

「…………ハァ」


 俺は落ち込んでいた。

 再び戻ってきた一階ホールの隅に、あの時の田島くん同様膝を抱えていた。

 因果応報というか自業自得というか、こうなって当然なんだけど、優勝の鍵を握れたと思った矢先にこれだったからなぁ。正直堪える。

 

 ——いやね。確かに俺はズルをしましたよ。ええしましたとも。それは認めます。

 本来なら二人で問題を解くところを、他のペアから答えを教えてもらいポイントを得ようとしましたよ。はい。

 もう間違いなく俺が悪いですよ。裁判したって一審で俺の敗訴ですよ。

 だから計算課題でポイント得られないのは、まあ当然のことなんですよ。当たり前のことなんですよ。

 けど、けどさ。


「何も持ちポイントの6点まで奪うことなくないですか!!」

「ひっ! お、大声出さないでよぉ」

「だってオモチャ盗んで、持っているオモチャまで取り上げられたら怒りたくもなるでしょ!!」

「え、えぇ……」

 若干引き気味に僕を見る田島くん。


 いや田島くんがドン引くのはわかるんだよ。逆ギレも甚だしいことは重々承知だ。

 けど怒りたくもなるじゃないか。

 こんな絶体絶命の俺らからさらに奪おうとするなんて、悪逆非道もいい所だ!


「——で、でもさ。ルールには「ズルをした場合持ち点を0にされる」って書いてあるよ」

「くっ! なんて酷いルールだッ……!」

「ひどいのはルールじゃなくて糸崎くんのやり方だよ」

 悔しがる俺に田島くんは正論で殴る。

 いやだから俺が間違っているのはわかってるんだよ。不正したのは俺の方だし、悪は間違いなく俺にあり、正義はあちらにある。


 けどいくらルールと言えど、死体蹴りみたいな真似教師ができるか普通!? いや教師だからこそ厳しく児童にルールを教える義務があるのだろうけど、こんな事されたら中身俺じゃなきゃ号泣だぞ!? 小1にこの仕打ちはかなりエグイ!


「…………ハァ」

 またしても溜息を吐いてしまう。

 いかんな。あんまり溜息吐きすぎると幸せが逃げちまう。


「……うっし! 気持ち切り替えていきましょう!」

 自身の頬を叩き、喝を入れ、無理矢理前向きになる。

「……」

「ほらっ、田島さんも黙ってないで次の課題に向かいますよ」

「…………い、糸崎くんは、……さ」

「……?」

 勇気と声を振り絞った田島くんの言葉に、俺は耳を傾ける。

 内気な彼が自ら言葉を発しようとしているんだし、人として無下にはできない。


「その……さ…………」

 照れくさそうに、彼は少し頬を赤らめている。

「はい」

 つまる言葉に催促を掛けず、彼が言うのを待つ。

 ——相も変わらぬおどおどした様子で、言葉を発するのに戸惑っている彼が口を開く。


「その、……すごい、よね。……本当に、僕なんかとは違って」


「……ッ」

 尊敬とも羨望とも捉えられる言葉。

 抽象的で漠然とし過ぎている言葉だが、それが俺を褒めている言葉だというのだけはしっかりと伝わって来た。


「僕は一人じゃ行動することもできないけど、糸崎くんは年上の僕を引っ張って行動することができるでしょ」

「……」

「僕はずっと後ろ向きでしかあれないけど、糸崎くんはどんなにできないことでも諦めずに前向きになれるよね」

「……」

「だ、だから、それがすごく、……その、すごくてね。……な、なんていうか、僕とは違うなーって思うんだよ」

「……っ」

「それで、思うんだ。……君を近くで見ているとさ」

 いつもしたばかり見ている田島くんがしっかり俺を見て、自身の言葉を告げる。

 

 

「やっぱり僕は、…………君みたいにはなれないなって」



「…………」

 これはきっと、彼なりの精一杯の褒め言葉だ。

 拙い語彙に途切れ途切れの言葉だが、一生懸命俺に伝えようとしたのがしっかり伝わって来た。


 ——田島くんが、一体どんな心境でその言葉を言おうと思ったのかはわからない。

 本人でしか決してわからないことだ。

 でもきっと、俺に少しでもいい気持になってくれたら、という思いが籠っていることだけは伝わったよ。


 ……けど、けどな、田島くん。




 俺はその言葉を聞いて、すごく苛ついたよ。




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