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計算課題

新連載を始めます。今日の十二時です。

 奇跡的な勝利を掴めた俺ら。

 しかし、勝利の余韻に浸っている暇はない。


 獲得ポイント6ポイントでは優勝なんて程遠い。

 先生から6ポイントの証明として6枚のメダル型の折り紙を貰ってすぐに、俺は田島くんの手を引き次に獲得ポイントの多い課題の場所へと向かう。

 次なる戦の地は、三年二組の教室である!


「ぼ、僕、頭全然良くないのに」

「安心してください。俺も馬鹿です」

「安心できないよぉ……」


 計算問題。それが次なる課題だ。

 三年二組の教室の壁に縦横無尽に貼られた印刷用紙には、計算問題が書かれている。その問題を2分間に解けた問題数がそのままポイントになる。

 一見簡単そうで、ポイントも楽に稼げそうなこの課題だが、——しかしここには、大いなる罠が仕掛けられている。

 

正直、ここを挑戦すべきかどうかは悩みどころであった。

 小1に生まれ変わってからというもの、勉強に勉強を重ねた俺だが、決して地頭が良いわけではない。良かったら前の人生で苦労していない。

基礎的な計算スピードで言えば、俺はこの田島くんにすら劣る可能性がある。それに、問題を間違えれば当然ポイントにはならない。

 スピードと正確さ、それが求められるこの競技。馬鹿(俺)とノロマ(田島くん)のコンビでは0ポイントで終わることもあり得る。

 時間の無駄になる可能性が大いにある。

 しかし時間ならもう十分無駄にしてきた。今更2分やそこら無駄にすることに何の抵抗もない!!

 嫌な方面で前向きになった俺は、何の恐れもない面持ちで課題へと参加する。


 しかし、心持ちでどうにかなることではない。

 ——繰り返すようだが、ここには罠がある。

 俺と田島くんが苦しむことになる、大いなる罠が——。

「制限時間は2分。それじゃあ、……始めッ!」


 参加希望の児童が一斉に教室に貼られた方へと、解答用紙を持って向かう。

 俺も出遅れないよう、明らかに嫌そうな顔をしている田島くんの手を引いて一番近くの問題用紙を見る。

 そこには、


[53829567387637+656738582659237]


「桁多ッ!!」

 驚嘆の叫びがけたたましく俺の口から洩れる。

 いや問題自体は簡単だよ? 足し算だし。

 けど桁が多い! 小学生に出す問題としては多すぎる! 高学年ならまだしもこんなん一、二年生がこんなの解けるわけねえだろ! ゲームバランス考えろや運営!!


 ……いや、俺だって超絶馬鹿だけど足し算くらいわかるよ。そこまで馬鹿じゃないから俺も。

でもこういう時間が差し迫ってる中で問題解くとかそういうの苦手なんだよ! 焦って頭の回転がいつもより悪くなるんだよホント!

 

こういう場面で本来なら頼りになる高学年のペア相手は——。

「えっとえっと、7+7が13で、あっ、ち、ちが、え、えっと、14? あ、あれ、じゅ、15だっけ?」

 この有様だ。

 他の問題に当たろうとも考えたが、どこもかしこもインフレした戦闘力みたいな桁数だ。

 それに簡単な問題を探そうとすればそれだけ時間のロスになる。

 簡単にポイントを稼げそうなこの課題。しかしそこに仕掛けられた罠である落とし穴は相当深かった。

 だってこんなの暗算検定とかで出る奴じゃん! 他の児童も頭を抱えて一向に解けてないし、やっぱ小学生には難しすぎる問題じゃねえか! しかも教師陣が全然問題内容の改善をしねえし! レビューの低いアプリゲームの運営くらい対応が遅い!


 なんて愚痴をしている間に三十秒が過ぎてしまった。

 くっ! せ、せめて一問だけでも……!

 一分半なら一問くらいは解けるはず! 計算ミスで間違えたらゼロポイントだけど……。

 だが今更一ポイントえても優勝の望みは希薄だ。なんせ他ペアに序盤で大きなリードを許している。

 しかし堅実に一ポイントずつ重ねるしか方法はない。一発逆転なんてありはしないのだから。


 俺の人生らしいやり方で行こうと考えるも、それだと優勝は諦めることになる。

 んぅ~!? 一体どうすれば……!

 優勝と計算問題の二つを一つの脳みそで悩む。

 そんな時だった。


「すげぇ~。あいつすらすら問題といてるぞ」

「一年生の子かな?」

 何やら周囲が騒がしくなってきた。なんだかすごい子がいるようだが……。

 時間がないというのはわかっているのだが、つい好奇心に負けてしまい、ちらりと一瞬だけそちらを見た。

 顔だけ拝んだらすぐに問題に戻ろうとしたのだが、その子の顔を見た瞬間俺は思わず固まる。


「この問題は26774926492695が答えで、こっちが75927495629473ですね」

「うん……うん……」

 そこには問題を見た瞬間に答えを導き出し、ペア相手である六年生の彼女にそれを伝えて答案用紙を埋めていっている、水井さんの姿があった。

 ……天才ここに極まりし、だな。

 最近ちょっと(?)あれなところを見せている彼女だけど、そういえば水井さんって天才であられましたね。

 

「しょ、ショーコちゃんのペアも来てたんだね…………。隠れなきゃ」

「なんでですか!?」

 危険生物を見かけた時のような対応を取る田島くん。いやまあ彼にとっては遜色ないものなのかもしれないけど……。

 でも確かに、隠れるとまではいかなくてもあまり無闇な接触はしない方が良さそうだ。

 もうこっちには時間がない。他ペアと交流を深めている時間なんて——。

……いや待てよ。


「……田島さん。……俺ね、どうしても優勝したいんですよ」

「えっ? ちょ、ちょっと前にも同じこと聞いたから知ってるけど……」

 教材が欲しい、というのももちろんある。

 小学一年生の僕のお小遣いじゃ到底手に入りそうにもない教材が、タダでもらえる。そのために頑張るのは、当然のことだ。

 けど、それ以上に大事なもののためにもこうしているつもりなんだ。

 

 前の自分に勝つ。それが俺にとっては大事なモノであり、唯一のプライドである。

「負けたくないんですよ。自分に」

「うん、それも聞いたよ」

 だから俺は逆境でも挑んでいける。

 どんな困難でも立ち向かっていける!

 俺のプライドに賭けて、戦い抜いてみせる!

「あの……、手止まってるけどいいの?」

 そのために! 俺は諦めない!

「時間進んでるけど……」

 男には引けない場面がある! それが今だぁ!!


「え、あ、ちょ、ど、どこ行くの?」

 突如として問題用紙の前から離れ、移動しだす俺に戸惑いを隠せない田島くん。

「大丈夫です。俺がこの課題、最高得点でクリアしてみせます」

「っ!? の、残り一分しかないのに、い、一体どうやって……!」

「ふっ、任せてください」

 キメ顔で向かう俺の先、そこには——。


「水井さん!」

「ん? あっ、翔くん♪」

 嬉しそうに微笑む水井さん。

 そして俺は全プライドを賭して、言い放つ。

 過去の俺よ! 見よ! これが今の俺だ!!


「答え教えてくださぁい!!」


 九十度綺麗に頭を下げて行う他力本願。

 堂々たるカンニングである。


「……僕に言われるの嫌かもしれないけど、——君、情けなくないの」

 その姿を見た田島くんは一人呟くのであった。


ダサッ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 行事編が長すぎて、果たして小学生編自体はどれくらいの長さを想定しているのか
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