楽会開始
お楽しみ会。略して楽会。————造語です。
動物紹介コーナーが始まるよぉ~!
さぁて、今日紹介する動物さんはこちら!
「うぅ……」
おやおやぁ~? 一階多目的ホールの隅で縮こまっていますねぇ。怯えているみたいですねぇ~。
——この子は、ヒト科ヒト属の雄、年齢は12歳。とぉっても食べ盛りで元気なお年頃だね♪
でも、なんだか元気がないみたい?
……それもそのはず、この子はとっても臆病な子なの。
どうやらお楽しみ会という慣れない環境で不安になっているんだろうねぇ~。
そんな時は、刺激しないよう優しく接してあげましょう!
「ほ、ほうらぁ~。こ、怖くないですよぉ~」
「うぅ……」
おや? 誰か、あの子に近づいているね?
じりじりといかにも怪しそうな挙動であの子に近づくのは、同じくヒト科ヒト属の雄、年齢は6歳、糸崎翔くんだねっ!
どうやら糸崎翔くんは怯えているあの子を無理やりお楽しみ会に参加させようとしているみたい!?
なんで彼がそんな酷いことをするのかって? その理由はとっても簡単!
糸崎翔くんの見た目は6歳だけど、中身は28歳のおっさん。しかも、ロクに定職にもつかず、頭も悪くて運動音痴、他のヒト科ヒト属の子たちともうまくコミュニケーションが取ることができないの!
そんな彼は欲望に満ちた薄汚い獣同然っ! 今も臆病なあの子を私利私欲のため利用しようとしているのっ!
つまり、彼は心が荒んだとぉっても悪い子なのっ!
「誰が心の荒んだ悪い子じゃボケェエエエッ!!」
「ひぃいいっ!?」
私のナレーションが聞こえているのかな? 糸崎翔くんはとても怒り狂った様子だねぇ。
大きな鳴き声を上げる糸崎翔くんをもうちょっと観察——。
って、あ、ちょ、ちょっと! な、何勝手に入ってきているんですか! 今収録中で……、ちょっ、警備員さん! は、早くこの人何とか、……って、あああああ!!
——あ、危ない危ない。危うく、意味の分からないナレーションのお姉さんに「心の声」の立ち位置を奪われるところだった……。
こんなところで俺は降板する訳にはいかないからな。
――と立ち位置を何とか取り返したところで、本題に入ろう。
2時間目のペア決め。くじで同じ番号同士の児童が組むという、コミュ障の俺には持ってこいのシステムであった。
しかし喜んだのも束の間。もはや何らかの力が働いているとしか思えないような事象。俺の人生は必ずプラスがあった後にはマイナスがないと気が済まないのだろうか。
言ってしまえば、――ハズレを引いた。
人に対して当たり外れという分別をつけるのは、人としてどうなのかと思うが、まあそういう倫理を問うことは後回しだ。
俺はまず、どうにかしてこの頼りなさそうな6年生とコミュニケーションを取らなければいけない。
そう、なんとしてでも取らなければいけない!
だって教材が欲しいからッ!
――故に俺は、どんなにこの6年生が頼りなくても頑張らなくてはいけない。
頑張ってコミュニケーションをとって、頑張ってコンビネーションを使って、最終的にはこのお楽しみ会で優勝する!
彼には悪いが否が応でも協力してもらおう……!
こちとら利用できるものは何でも利用する性分なのだ!
あくどい笑みを浮かべながら、俺はにじりにじりと彼に歩み寄る。そうすれば、当然彼は更に怯える。
物理的な距離は近づけど、心理的距離はどんどん遠のいている気がする。
う、うぅ~ん。どうも心を開いてくれない……。
頭を抱えることしかできず、困り果てていると。
スッ、と俺の横を通り過ぎ、うずくまった彼を見下ろす6年生の女子児童。
長い髪を後ろで一纏めにし、何処か男勝りな雰囲気を醸し出している彼女。
「キョースケっ!」
憤慨した様子で彼女は彼を呼ぶ。
「あっ、し、ショーコちゃん」
彼もまた、怯えた様子で彼女を呼ぶ。
そして、彼女はゆっくりと彼の頬に触れ。
「なに情けないことしてんのよ、アホキョースケぇ!」
「い、いひゃいいひゃいぃ!」
強くその頬を左右外側に引っ張った。
何だろう、この既視感。いや、むしろデジャブが。
「一年生の前ではしっかりするって約束したでしょっ!」
「ごめんなひゃいごめんなひゃいぃ!!」
うん、やっぱり体感したことあるな。こういうの。
俺の脳裏には姉に暴力を振るわれる、あの情景が浮かんでいた。
痛みでじたばた暴れる彼と、俺には背を見せているため見えないがきっと鬼の形相で憤慨している彼女。と、それを茫然と見る俺。
なんだこりゃ……。
若干状況についていけない俺は置き去りにされる始末。俺、一応当事者なんだけどなぁ。
「あっ、ごめんね。こいつダメダメでさ」
俺の存在に気づいた彼女は彼を代弁して謝罪する。
「は、はぁ」
正直なところ今欲しいのは謝罪じゃなくて説明だ。もしくは状況の改善、諸々の。
しかし、それを瞬時にまだ小学生である彼女に察しろというのはいささか酷な話だ。
「えっとぉ、……何くん?」
「あ、ああ、糸崎です。糸崎翔です」
肉体的には彼女の方が五つ上だ。小学生相手にそんな気遣いは無用かもしれないが、一応敬語を使っておくか。
「そっか糸崎くんか! 名前言えてえらいね!」
彼女は景気よく笑い、俺の頭をぐりぐりと撫でる。
……なめられているのか? これは馬鹿にされているのだろうか?
い、いやでも、小学一年生に対しての対応としてはこれくらいが普通なのか?
あと彼女は優しく撫でているつもりなんだろうけど、結構痛い。掌で脳天をぐりぐりされて結構痛いです。はい。
「あっ、私が名乗ってなかったね。——私は丈塚 祥子。で、こっちのダメダメなのが、田島 恭介」
うなだれる彼、田島くんの耳を彼女、丈塚さんが引っ張って無理やり立たせる。
「い、痛いよショーコちゃん!? み、耳ひっぱらないでぇ!?」
「じゃあシャキッとしなさい!!」
「ひぃい!?」
なんか、田島くんがちょっと可哀そうに思えてきた。
だけど割って入れるような雰囲気でもないため、俺はただその二人のやり取りを傍観者の如く眺めていることしかできない。
完全に田島くんと丈塚さんの空間が構築されており、俺は蚊帳の外といった感じだ。
「2人、幼馴染なんだって」
第三者面で二人のやり取りを茫然と眺めていると、水井さんが俺の横に立ちそう伝える。
確かに、この二人の距離感なら幼馴染というのも納得だ。
——というか、
「なんでそれを水井さんが知ってるの」
「だって、祥子さんが私のペアだから」
「……すごい偶然だな」
「運命? 運命かな?」
「違うと思う」
きっぱりと否定させてもらう。まあ、あり得なくはない確率だし。
六年生と一年生が合計150人くらいで、六年生と一年生でペアを組んだ時、今このような偶然が起きる確率は——……まあ、あり得なくはない確率だ。うん。
い、いや別に計算できなかったわけじゃないよ? パッと出てこなかっただけで、もうちょっと考えれば答え出たし。絶対。
「ほらっ、あんたのせいで糸崎くん困ってるじゃん!」
「だ、だってぇ……」
「だってじゃないっ! 年上なんだからしっかりするの!」
「う、うぅ……」
「……なんか、幼馴染ってより親子な感じしてきた」
本音がポロッと言葉に出てしまう。
「私は2人の関係いい関係だと思うよ」
2人をフォローするように水井さんはその独り言に返答する。でも否定はしないだな。
「とにかく、ちゃんとしなさい! お楽しみ会の時は一人で糸崎くんの面倒見なきゃいけないんだから!」
「ふぇえ、そ、そんなの無理——」
「返事は「無理」じゃなくて「はい」でしょ!」
「うっ、は、はいぃ……」
半ば強引に首を縦に振らされる田島くん。
——意外と、田島くんほど臆病で引っ込み思案な子には丈塚さんくらいの強引さがちょうどいいのかもしれない。でないと田島くんはどんな物事に対しても取り組めなさそうな勢いだ。
かと言ってその強引さは見習えそうにはないけど。
「——じゃ、あたしは行くから、ちゃんと頑張りなさいよ」
「そんなのむ——」
「あ?」
「はい、頑張ります」
田島くんは身の危険を感じてか本音を飲み込んでそう答える。
賢明な判断だ。丈塚さんのようなタイプの人間には変に逆らわない方がいい。丈塚さんのようなタイプである姉貴に逆らいまくって痛い目を見まくっている俺が言うのだから間違いない。
「糸崎くん。頼りなくて臆病でいろいろダメダメな奴だけど、コイツにばんばん頼っていいからね」
「は、はい」
そう言われたら頼りにくいわ!
俺も本音を飲み込み頷く。
「それじゃあね、キョースケ、糸崎くん」
「またあとでね、翔くん」
そう言い残し丈塚さんと水井さんはこの場を離れる。俺はその二人の後姿に手を振る。
できれば行って欲しくなかったな……。
「うぅ……、帰りたい」
——状況が逆戻りになってしまうから。
嵐のように来て嵐のように去って行く丈塚さん。結果的に言えば状況もとい田島くんの心理状態の改善は一切見られず、むしろ彼女の襲来でより後ろ向きになっている気がする。
天災でつけられた爪痕は深そうだ……。
俺は困り果てた末、もはや立ち尽くす以外できなくなった。
……って、ダメだダメだ! 俺には諦められない理由があるのだ!
頭を横にブンブン振って考え直す。
とにかく、お楽しみ会が始まるより先に少しでも田島くんとコミュニケーションを——。
『ピーンポーンパーンポーン』
その刹那、校内放送が流れる。
『これより、お楽しみ会を開始いたします』
総合ポイントが三万を突破しました!
感謝しかありません! 本当にありがとうございます!




