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一年六年

 ——とは意気込んだものの、まだお楽しみ会は始まらない。

 長すぎだろプロローグ! と思われるかもしれないがもう少し待って欲しい。次の時間ではお楽しみ会が始まる。

 だからもうちょっとだけ待っていて欲しい。

 ……って、俺は誰に言い訳してんだ? …………ま、いっか。

 とにかく今は2時間目のことだ。


 2時間目。

 一階多目的ホールに集まった一年生と六年生。

 お楽しみ会のこの時間は、〝ペア組〟の時間だ。

 少し前にも説明したようにこのお楽しみ会は「一年生と六年生」「二年生と五年生」「三年生と四年生」が二人一組のペアを作ることになっている。このお楽しみ会は学年別の児童の交流も目的にしているからな。

 

 そして一年生である俺は、六年生の誰かとペアを組むことになる。

 ……おっと、ここでコミュ障兼ボッチ歴二十八年の俺のことだから、学年の違う児童に対し「ペア組も~」なんて気軽に言えるわけもなく、慌てふためく滑稽な俺の姿を想像もとい願ったみんな。ふっ、残念だったな。


 このペア組はくじ引き制度である!!


 なので、俺が勇気を振り絞って行動する必要はなく、ただくじを引くだけでペアが自動的に、受動的に決まるのだ!

 いやぁホント、くじ引きって素晴らしい! もう日本の全ての制度でくじ引き導入すべきだよねぇ!


 ちなみに、くじ引き制度の説明をしておくと、くじ箱は六年生用と一年生用の二つがあり、くじ番号が一致したものがペアとなる。というものだ。

 実に良い制度である。

 俺の人生、一体どれだけの「自由に組んでいいよ」という言葉(殺害予告)に苦しめられたことか。

 いやぁ、助かるなぁ。本当くじ引き様様だ。もう「くじ引き」と書いて「メシア」と読むべきだよね。


 ちょっと自分でも何言っているかわかんないことを思いつつも、俺はくじ引きの順番を待つ。

 くじ引きの順番は早く列に並んだもの順なので、どうしても早く引きたいわけでもない俺はのんびりと最後尾に佇んでいた。

 するとそこに、


「一緒のペアになれるといいね。翔くん」

 未だペア制度を理解していない少女が並んでくる。

 いや、理解はしているのか。ただ受け入れていないだけで。

「残念ながらそれは無理だよ、水井さん」

「大丈夫、愛の力で何とかなるから」

「愛の力はそんな万能じゃないからね!?」

 アニメや漫画のご都合主義とは違って、愛の力はそんな効力を持たない。

 ……別に愛に詳しいわけでもない俺がこんなことを言っても説得力はないだろうけど。むしろ恋愛とか夫婦愛とかとは程遠い人生を送ってきた身だし。

 

 と、心的自傷行為に及んでいると。

「なぁ! 三人でペアくもうぜ!!」

 ペア制度の理解どころか、「ペア」の意味を理解しているかどうか怪しい奴。つまり俺の友人である林太がやって来た。

 お前はちゃんとお楽しみ会のパンフレットと国語辞書を読んでおけ!

 小学一年生に対しては少々理不尽な苦言を心の中で呈する。


「砂川くん。ペアは二人で組むものなんだよ」

「え、そうなのか?」

 無知な林太に対し、水井さんが諭すように教える。

「うん、そう。好きな人同士、二人一組でね♪」

 突然水井さんは俺の腕に絡みついて「好きな人同士」という言葉を強調して言う。

「勝手にペア制度変えないでくれる?」

「愛の力で何とかする」

「いや無理だから!!」

 水井さんが提唱する「愛の力無敵説」を否定する。「くじ引き無敵説」を提唱している俺とは相いれない一説であるからだ。

 

 ——なんて、三人でじゃれついていると。

「糸崎君の番だよっ」

 くじ箱を持った実里先生に告げられる。

 いつの間にか俺の前方にあった列がなくなっており、くじを引いていないのは俺を含めじゃれついていた三名のみだ。既にペアを作っている組みもあることから、俺たちが出遅れているのがわかる。

 まあでも、そんなに焦る必要もあるまい。

 早く引いたからっていいことがあるわけでもない。

むしろ「残り物には福がある」という言葉があるくらいだ。後から引いた方が良い「者」を引けるかもしれん。

 

 俺は腕に絡みついた水井さんを優しく離し、くじ箱の方へと向かう。

 周りでは着々とペアが組まれていっており、組めていない人数も相対的に減っていっている。

 これなら誰が俺と同じ番号を引いたかすぐにわかりそうだ。

 うんうん。やっぱり後から引いて正解だったな。

 自身の判断に間違いがなかったことを再認識し、俺はくじ箱に手を入れる。

 残り枚数は三枚。

 俺は熟考することもなく、手早く且つ直感でくじを引く。

 

 えっと……、番号は——。

 紙には「9」の数字が書いてある。

 

確か、9って「苦しむ」みたいな意味を含むから縁起がいい数字ではなく4と同じで避けられる数字じゃなかったっけ?

 ……い、いやいや、考えすぎだろ。

 いくら俺の周りではいつも後手に回る出来事ばかり起こるからって、今回もそうなるとは限らない。……はずだ。…………多分。


 なんだか嫌な予感がしながらも、俺は9のくじを持った六年生を探す。

 キョロキョロしている俺の目の前に、偶然にも、運命的ともいえるくらい奇跡的に、ひらりっと舞った俺のではない9の数字が書かれたくじが落ちてくる。

 どうやら、持ち主が落としてしまったようだ。

 地面に落ちたそのくじを拾い、落ちたくじを探しているであろう六年生の児童を探した。


 俺が探している頃にはもうほとんどがペアを組み終わっていた。

 一人になっていて、尚且つくじを手に持っていない人を探せばいいだけ。

 ——なんか、すごいペア組が順調だな。

 いや、別にね。悪いことじゃないんだよ。うん。全く以て悪くないことだ。

 ……だけど、なんかフラグっぽいよね。

 

 俺は拾った方のくじを眉間にしわを寄せながら見つめる。

 9。苦。苦しむ。……熟語だったら、苦悩や苦労。


「……暗示。じゃ、ない…よな……?」



「あ、あの……」



 か細く消え入りそうなほど小さい声。

 小学生故の甲高さはあるが、男子特有の低い声でもある。

 

俺は、その声の主の方を向く。

そこには、小学一年生の俺よりも二回りは大きい少年の姿があった。

 肉体的には圧倒的に彼の方が大きい。

 なのに、何故だろう。

彼は酷く小さく見える。

 猫背だからか、細身だからか、それとも彼が纏う負の雰囲気か。

 いやきっと、それら全てが彼を総合的に小さく見せている。

 

 俺に声を掛けてきたということは、まあ間違いなく彼がこの俺が拾った9と書かれたくじの持ち主なのだろう。

 だが万が一ということもある。一応、確認だけはしとこう。

「これ落としたのって——」

「ひぃっ!?」

 ビクッと彼は体を跳ね上がらせた。

 二回りも背丈の低い俺に声を掛けられ、体全体が反応するほどビビっていた。

 ……。…………。


「ご、ごめんなさい! ぼ、ぼぼぼ、僕はただ、そ、その、くく、くじを落としただけで……」

「え、ええ、だからあってるか確認しようと——」

「ひぃっ!?」

「今の何処にビビる要素があんだよ!!」

 唐突に怖がられたため、半ば反射的に大声を出してしまった。


「ひぃいい!? お、大声出された……! こ、怖い!」

「あ、い、いや、別に怖がらせようと思って大声出したわけじゃ——」

「ひぃっ!? なぐさめられた!?」

「それはいいだろッ!!」

「ひぃいい!? ま、また大声を出された……!」

「え、無限ループなの? 俺が大声出す度この流れをやんなきゃいけないの?」

 

俺は屈みこんで怯える大型犬のような彼を見つめ、愕然とする。

 こ、この人が俺のペアなのか?

 一年生相手にガチビビりしているこの六年生男子が?

 

 ——確かに俺は、くじ引き制度が楽でいいと思った。

 話しかけることが苦な俺にとって、これは比較的良心的な制度である。

 ……だがしかし、それはそれとして、ペア組というのは俺にとって大事なものだった。

 それは偏に優勝賞品のために。

 人を値踏みできるほど偉い人間ではないことはわかっているが、それでもやはり有能な人間と組みたいと思っていた。

 しかし、くじ引き制度になるとそこに俺の願いが介入する余地はない。ただ神に願うのみ。

良心的かつ残酷にくじ引きとは平等なのである。

 

 くじ引きで楽をしたい自分と有能な人と組みたい自分。ジレンマだ。

 二つともとれるほど、俺は運のいい人間ではないということを知っていたはずだ。

 だから、こうなることは予見されていた。くじ番号によって。

 苦しむ未来。苦悩と苦難。その始まりを。


「……」

「うぅ、こ、怖いぃ……」


 ……残り者に、福などない。


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