行事当日
ワクチン接種の副反応でしばらく寝込んでいて投稿できませんでした。
お久しぶりです。
土日が過ぎ、迎えた月曜日。
相も変わらぬクラスメイトの面々が教室に集い、会話に花咲かせている。満開と言っていいほど咲いているな。まあ無理もない。
なんたって今日はお楽しみ会当日。
聞こえてくるクラスメイトの雑談は専らそのことについてだ。
待ちに待った、とまではいかなくても、クラスメイト全員それなりに期待している行事である。
校内に犬が入っただけで大騒ぎするようなイベントごとが大好きな小学生だ。行事と名のつくもおのであれば気分が高まって当然というもの。
ワクワクと胸躍らせ、黙ってはいられないといった様子だ。
そんな活発化するクラスメイトを自分の席で傍から眺める俺。
目をキラキラと輝かせているクラスメイトとは明らかなテンションの低さが伺える俺こと糸崎翔だが、俺は別にこのお楽しみ会が嫌というわけではない。
ただクラスメイトのように子供になれないだけだ。
年甲斐もなくはしゃげるような歳でもないしなぁ……。あっ、精神年齢での歳ね。
なんだかいまいちやる気が出ないというか、活力が漲ってこない。
今現在も慌ただしくお楽しみ会の用意に追われている先生方がいるためあまり大きな声では言えないが、この行事は所詮子供騙しに過ぎないのだ。
もう既に分かり言っていることかもしれないが今一度言わせて欲しい。この行事はあくまで児童に楽しんでもらうための子供騙しの行事なのだ。
当然ながら、子供騙しでは大人を騙せない。
見た目は子供、頭脳は大人(バカの疑惑有)であるこの俺を騙せるほど、この行事は工夫に凝った仕様ではないのだ。
それに、今はこの行事よりも気がかりなことがあるし……。
「翔くん♡」
少しだけボッーとしていた俺の顔を覗き込み、水井さんがいつもの調子で話しかけてきた。
突然視界に現れたこともあって俺は「うおっ」と小さく驚きの声を漏らす。
「どうしたの? 体調でも悪い?」
「あっ、いや、別にそういうわけじゃないよ」
活気に満ちた教室内で一人辛気臭い顔をしていたのだから、体調がすぐれないと勘違いされてもおかしくはない。
「まあ、なんて言うか。ちょっとした悩み事があるだけだから気にしないで」
「翔くんがそう言うならいいけど……、辛くなったら私に相談してね」
「いや、そんな大事ではないから。ホント」
悩み事、なんて不安要素の塊みたいな単語を使ってしまったせいで余計に水井さんを心配させてしまった。実際は少し気がかりとかそういうレベルの悩みなので、他人に吐露するような内容でもない。
しかも気がかりになっていることは水井さんにとって何ら関係性のない無関係なことだ。そんなことを話しても彼女は困惑するだけだ。
今は胸の内に潜めておくべきだろう。
「それならいいんだけど……」
心配が拭いきれないといった様子で、彼女は眉毛をハの字にする。
うっ、な、なんか、暗い空気になってしまった。明るい話題に変えないと。
「えっと、……お楽しみ会楽しみだね」
こんな言葉しか発することができない自分のコミュ力に嫌気がさす。
もはや無難を通り越してつまらない。またダジャレっぽくなっているのがつまらなさに拍車をかけている。
「うん、そうだね」
それだと言うのに、水井さんは笑顔で返事をする。
本当にいい子だなぁ。まあ若干難ありなところもあるけど……。
「一緒にペア組もうね♪」
「そのボケはもう林太がやったよ」
マジメな水井さんのことだからプリントに目は通しているはずなのだが、わかった上でのボケなのだろうか、はたまた本気で言っているのだろうか。彼女のことを考えると後者の説が濃厚だ。
「じゃあ勝負しよっか。負けた方が勝った方の言うことを一億個聞く」
「桁がインフレし過ぎだろ! 言うこと全部聞く前に寿命迎えちゃうよ!」
「じゃあ寿命を迎えるまで言うこと聞くでもいいよ」
「それ妥協案として成立してないよね!?」
「えぇ~、これでもダメなの?」
彼女は不満気にそう声を漏らす。
ちょっと待って。なんで俺が我儘言っているみたいな空気になってるの? 我儘言っているのは君の方だからね水井さん。
というか、たかがお楽しみ会で人生を左右しかねない一世一代の勝負なんてしないから。もっとぬるい感じで遊ぶべき行事でしょ。
「純粋に行事を楽しむって方針じゃダメなの?」
「ダメ、ってわけじゃないけど。できれば翔くんに言うことを聞かせる口実が欲しい」
「俺はあげたくないなぁ……」
俺の人権を侵害しかねない口実が誰かの手に渡るのは普通に嫌だ。
「逆に私が翔くんの言うことを聞くっていうのもアリかな」
「ナシだよ」
他人の人権を侵害しかねない口実を自分が得るのも普通に嫌だ。
……いや、そんな口実得ても人権侵害になるような命令なんてしないけどね。俺の人生は堅実と健全をモットーにしているのだから。そこらへん誤解がないようにお願いしたい。
ってか水井さん、自分が勝負に負けても得するように考えていたのか。末恐ろしいな。
「——とにかく、勝負はしないから」
お楽しみ会に乗り気ではないといったが、趣旨に外れるような勝負事をしようと思うほどこの行事を嫌っていない。
行事の名前通りこれは楽しむことを目的にしているものだ。この行事において勝敗はあくまで追加オプションのようなものでしかない。
童心に帰って遊ぶのもまた一興かと、俺は考え直す。
「そっか、残念」
水井さんは存外潔く諦めた。
彼女だって純粋にお楽しみ会に参加したいという気持ちがあったのだろう。
「なら違う手を考えるしかないかな」
ボソッと彼女は独り言を呟く。
諦めた……よね?
「はい。みんな席について~」
そうこう話していると朝のホームルームの時間だ。
実里先生の呼びかけと同時に児童が次々と席に着く。水井さんも「またあとでね」と俺に告げてから、自身の席に戻って行った。
三十秒とかからず児童全員が各々の席に着き、話が聞く体勢を整ったことを確認した先生が口を開く。
「今日はお楽しみ会を行いますっ」




