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命令膝枕

「じゃあ、一つ目の命令ね」

 捕まった者は鬼の命令を4つ聞かなければいけない。水井さんが既存ルールだと言い張った鬼の特権が今使用された。

 俺はシェ●ロンではないため「不老不死」とかそういうのは無理だが、まあ俺にできる限りのことは叶えよう。

 それくらいの事なら聞き届けたっていいだろう。

 

「私と一緒に移動して、ここだと誰かに見つかっちゃいそうだから」

 立ち入り禁止エリアとは言え、フィールド外周に隣接する草むらだ。話声などでここにいることがバレてしまってもおかしくはない。

 移動するのは妥当な判断だ。

「んっ、オッケー」

「じゃあ付いて来て、翔くんを捕まえる前に良い所を見つけたの」

 彼女はそう言って俺の手を引き、森林の奥へ進む。


 野外広場の一つとして存在する森林だ。

 それほどの広さはないため、遭難するようなことはないだろう。

 熊や猪といった野生動物が出るから気を付けるように。という注意事項も看板も立てられていなかったため、そういった心配は無いはず。

 比較的安全な場所ではあるが、一応警戒しておこう。

「あんまり奥にはいかないようにね」

「大丈夫。——ほらっ、もう着いた」

 歩き始めて1分も経っていないというのに、もはや目的の場所に着いた。


 そこは木々がそこら中に生えている森林の中で、直径5メートルほどの円になっている平地となっていた。

 そこには綺麗且つ均等に草が生い茂っており、所々には野花が咲いていた。

 その円を囲うように木々は力強くそびえ立っている。

 森林は木々のせいで木陰ができてしまっていたが、ここだけは日光が眩く地を照らしており、何処か神々しささえ感じる。

手入れをされた満開の花畑に比べれば当然見劣りするが、それでも人の手が加わっていないこの空間には綺麗だと感じさせるほどの魅力があった。

 自然ならではの良さ、と言うのだろうか。


「いい場所だね」

「ふふっ、そうでしょ」

 俺の感想に水井さんは満足気だった。

 そうして彼女は円の中心まで俺の手を引くと、そこに座らせた。

 続いて彼女も俺の横に座る。


 ぽかぽかと暖かな日差しを浴びていると、気持ちが安らぐ。

 本当にいい場所だ。

 ここからならクラスメイトの声も聞こえない。聞こえてくるのは木々の葉擦れだけ。

 別に賑やかな所が嫌いと言うわけではないが、こういった静寂した憩いの場のようなところはとても落ち着けて好ましい。

 自然の心地よさに浸りながら胡坐をかいて座っていると。


「早速2つ目の命令をしていい?」

「命令する相手に許可が必要なのか」

 おかしな申請にクスリッと笑ってしまう。

「それもそうだね。——じゃあ2つ目の命令ね」

 どんな命令が来るのか期待半分不安半分で彼女の答えを待つ。


「膝枕」

 今の状況とは関連性のない2文字が水井さんの口から飛び出した。

「……えっとぉ、水井さんが膝枕をするの?」

「ううん、翔くんが膝枕をするの」

 俺がするのか。

 普通ラブコメ漫画とかだったら立場は逆な気がするのだが……。

 まあこれはラブコメ漫画でもないし、別にいいか。

 

「命令だから聞いてくれるでしょ」

 若干の意地悪さをはらませ彼女は微笑む。

 相手が絶対服従をしてくれているこの状況はさぞかし彼女にとって楽しいことだろう。

 お楽しみいただけているなら何より、と言いたいのだが。

「あー、う、うん、まあ、……うん」

 正直なところ、快く首を縦には振れない。

 だって恥ずかしいんだもの。

 女性免疫皆無の俺に膝枕はちょっとハードルが高いな。

 いやまあ水井さんとは同じベッドで寝た(変な意味ではない)仲であるし、今更恥ずかしがるのもおかしな話だが、……でもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 しかし、命令とあらば仕方ない。

 俺が恥をかなぐり捨てれば十分に叶えられることだ。決して無理難題ではない。

 それに渋々ながらも俺は既に頷いたのだ。今更撤回はできない。

 ……誰にも見られる心配がないというのが唯一の救いだな。


「え、えっと、…………」

 拭いきれない気恥ずかしさを胸に、俺はポリポリと頬を掻く。

 だが水井さんは期待の籠った眼で俺を見ているのだ。……やるほかあるまい。

とりあえず膝枕をするにあたって必要な事前準備をしておこうと、俺は胡坐をかいた姿勢から正座に切り替える。

 半ズボンのジャージを履いているため脛にチクチクと地面に生えた草が刺さり、少しだけくすぐったい。

 それから太ももを軽く手ではたいて、土埃を掃う。

「じゃあ、その、……ど、どうぞ」

 膝枕の礼儀作法など知らないためこれ以上の準備はできない。というか膝枕に礼儀作法とかあるのか?

 膝枕という行為自体が礼儀とかけ離れていることはさておき、俺ができる最大限のおもてなし準備——といっても2つだけだが、——それをこなして俺は水井さんに用意が整ったことを伝える。


「う、うん。…………お邪魔するね」

 命令を出しておきながら少しだけ恥ずかしく思ったのか、水井さんは若干頬を赤らめながら一言断りを入れる。

 そして俺の左に座っている彼女はゆっくりと体を倒して、俺の太ももに頭を乗せる——俗に膝枕をする。と言われる行為だ。

 この場合は膝枕をされると言った方が適切なのかもしれないが、まあ細かいことはいいだろう。

 俺の太ももに水井さんのサラサラした髪と柔らかな頬が接触している。

 短い半ズボンであるため地肌が直接触れ合う。

 ……さっきはこの場所にいると落ち着くなんて言ったが、今この状況に関して言えば前言撤回だ。

 不静脈のように心臓が速く鼓動を打つ。前の人生含め不静脈になったことはないけど。

 とにかくすごくドキドキしている。

 もしかすると肌が接触している彼女にはこの鼓動が伝わっているかもしれないな。

 

「……翔くんの足、固いね」

「え、そうかな?」

 きっと毎日ランニングに勤しんでいるため、それなりに足の筋肉が引き締まってきているのだろう。

 自分ではあまり気づけない変化である。

「うん、私の足と比べると石みたいだよ」

「ははっ、寝心地の悪い枕でごめんよ」

 彼女の過剰表現に俺は冗談めかして謝罪する。


「本当そうだよ。——……ドキドキして全然眠れないもの」

「っ! ……そ、そっか」

 てっきり水井さんのことだから「そんなことないよ」とフォローをくれるものだと思っていたから、変化球であったその言葉に思わず戸惑う。

「ふふっ、翔くんは膝枕失格だね」

「俺の足は膝枕をするためにあるわけじゃないからな」

 彼女はご満悦そうに冗談を言う。

 寝心地は悪くても満足はしてくれているようだ。


 ………。

 ………………。

 少しの間、沈黙が続く。

 俺の寝づらい太ももを堪能しているからなのか、それともこの状況が恥ずかしくてなのか、水井さんは何も喋ろうとしない。

 俺も、と言っていいのかはわからないが、恥ずかしさを拭い切れずにいて言葉が出てこない。

 しかし恥ずかしさと同時に沈黙の気まずさもある。

 状況を打破しようと何かを発現しようと試みる。


「……その、……いい天気だね」

「うん、そうだね」

「……」

「……」


 会話終了。

 そういえば俺コミュ障だったわ。

こんな時に提示すべき話題に困らないようだったらとっくにクラス全員と友達になっている。

 だができる限り会話を続けるよう努力しよう。


「あー、……頭でも撫でようか?」

 手持無沙汰ということもあり、そんな提案をしてみる。

 言った後に思うのもなんだがかなり際どい発言だったな。場合によってはセクハラになりそうだ。

「魅力的な提案だけど、今はいいかな」

「あ、……そう?」

「うん、だってこれ以上ドキドキしたら心臓止まっちゃいそうだもん」

側頭部しか見えないはずなのに、彼女が顔を赤らめているのを感じた。

「そ、そう……なんだ……」


 ——その言葉のせいで俺まで鼓動が速くなってしまった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 砂糖めちゃくちゃ吐いたわ。o( ̄▽ ̄)d
[一言] 本当に小学一年生なのか・・・ 主人公はそもそもですが・・・
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