菓子交換
3日ほどサボってました。
すいませんm(_ _)m
不幸と思われた時間だったが、クラスメイトの献身によって最高の時間と変貌した遠足での昼食時間を経て、現在はお菓子時間に突入している。
各々が持ち寄ったお菓子を自分で食べたり、はたまた友達と交換したりする時間である。
「あああああッ!? おれのチョコレートがあああッ!?」
少し離れたところから、林太の叫び声が聞こえてくる。
林太は遠足で1人はやらかすであろうあるある展開に直面している真っ最中のようだった。
ま、まあ、彼のことはそっとしておこう……。
俺は俺ですることがあるからな。
「今井君。ちょっといい?」
「糸崎くん? うん、いいけど」
お菓子交換のため集団にいる今井君に声をかける。
やはり一番最初に分けてくれた彼に最初に声をかけるのが妥当であろう。
「はいっ、これ。良かったら貰って」
300円以内で買ったお菓子の一つである個別包装されたクッキーを差し出す。
「え? なんで?」
とぼけている訳ではなく、彼は純粋な疑問で尋ねる。
そのような反応をする理由は、彼の中で弁当を分けたということは感謝されるほどのことでもないからだろう。
外見だけでなく、性格までイケメンか。
もうここまで格好良いと妬みとか一切抱かないな。
「一応、その、弁当分けてくれたお礼って言うか……まあ、そんな感じ。うん」
こんな面と向かってお礼を言いながら物をあげる経験なんて今まで無かったため、中々に小っ恥ずかしい。
ラブレター送る気持ちってこんな感じなのかな。送ったことも貰ったこともないけど。
「いいの? やった、ありがと!」
あげた物は取るに足らないような大した物ではないのだが、彼は貰ったことに純粋に喜んでいた。
こういうところ見ると、やっぱり子供なんだなって思うなぁ。
ちょっとだけ微笑ましい気持ちになっていると、
「あっ! 今井だけズルいぞ! 俺にもくれよ糸崎!」
「あっ、うん。いいよ」
今井くんとよく一緒に遊んでいるクラスメイトの男子にクッキーを求められる。
そういえば彼からも弁当を分けてもらっていたな。
野菜ばかりだった気がするけど……。
「俺も分けたんだからくれよー」
「あ、うん」
「糸崎くんクッキーくばってるの? 私もほしい」
「いいよ」
「カケルぅ、おれにも分けてくれよぉ」
「はいはい、ちゃんと林太にもあげるから」
続々とクッキーを求める児童が増えていき、やがて俺の周りには人だかりができていた。
しまいには弁当を分けていない児童までが無償で配っていると勘違いして寄ってくる次第だ。
まあクッキーはクラスメイトの人数分以上あるので数が不足する心配はない。
もし足りなかったら、貰えない児童が暴徒と化すかもしれない。量の多いやつを買っといてよかったぁ。
次々と差し出される手にクッキーを乗せていき、クッキーの残量が半分を切ったところでクラスメイトたちの怒涛の勢いは収束に向かっていく。
「翔くん♪」
そのタイミングを見計らってか、水井さんが期待を込めた眼差しで両の手を差し出してくる。
「ああ、うん。水井さんにも」
先から同じ作業を繰り返していたため、ほぼ条件反射で彼女の手にクッキーを乗せる。
自分から足を運んでクッキーをねだるなんて、やっぱり水井さんもまだまだ子供なんだな。
俺は彼女がクッキーを貰い喜ぶ姿を想像していたのだが。
「…………」
「……ど、どうかした?」
水井さんは何故か自身の両手に乗ったクッキーを誕生日プレゼントに問題集を貰った子供のような失望の目で見る。
え? ちゃんと皆に配ったのと同じクッキーなんだけど……。
もっと寄越せということか? いやでも水井さんはそんな強欲な人ではないはずだし。
彼女の不満に全く見当が立たない。
「え、……みんなと同じ?」
「うん、そうだよ」
そんな水井さんにだけ皆より小さい物や安い物をあげるなんて意地の悪いことをしたりはしない。
しっかり全員に対して平等に同じものを配っている。
「あっ、もしかしてクッキー苦手だった?」
「そ、そうじゃなくて。——……本当にみんなとおんなじなの?」
信じきれない様子で聞き返される。
「おんなじだよ」
「あげた物も?」
「うん」
「あげるときの気持ちも?」
「気持ち? まあ、うん。同じだよ」
水井さんにもちゃんと分けてくれたクラスメイトと同じように感謝している。
しかしながら、彼女はどこか不満気だった。
何かお礼として不足していたのか?
「…………私の分けた卵焼き、どうだった?」
「え? まあその、美味しかったけど」
何故このタイミングで分けてくれた物の話をするんだ?
小学一年生である水井さんが作ったとは思えないほど洗練された味付けの卵焼きで、これ以上なく美味しかったのは確かだ。
「実は分ける前から翔くんに食べてもらいたいと思ってて、前々から練習してたの。翔くんのお母様にも翔くんの好みの味付けを聞いて甘めにしたの。他にも美味しいって言ってくれるかどうか不安だったり、美味しいって言ってくれたら嬉しいなって思ったりしたの。——みんなと違って、みんなと違って、翔くんのために翔くんのためだけに自分で作ったの」
「へ、へぇ、そ、そうなんだ……」
水井さんが一歩二歩と俺に迫るのに反比例して、俺は後ろに一歩二歩と後退する。
ど、どうして近づいてくるんだ? あとなんでみんなと違ってを二回言ったんだ?
徐々に前進する水井さんと、徐々に後退する俺。
——やがて俺の後ろには一本の木が立ち塞がり、これ以上の後退は不可能となった。
すると彼女はずいっと顔を近づけ、
「……どう思う?」
そう聞かれる。
どう思う、ってどういうことだ?
その話を聞いて俺はその感想を言えばいいのか?
……まあそりゃあ、俺のために作ってくれたというのなら、
「あ、……ありがとう……ございます」
感謝だろうな。
そこまでしてくれて感謝しないほど恩知らずじゃない。
謎の圧力をかけられた状態での感謝だったため言葉がぎこちなくなってはいるが、ちゃんと感謝の気持ちを述べる。
しかしそれでも、彼女の顔は晴れない。
一体どんな反応が正解だったんだ?
水井さんは何かを諦めたように少しだけ溜息を洩らし、近づけた距離を離す。
「はっきりしてないのはあんまり効果がないのかな……」
そして誰にも聞こえない声量で、ポツリと独り言を呟く。
終始、俺の頭上には「?」が浮かんでいた。




