夜中学校
正門には侵入者防止の門扉が設置されているため、俺らは外塀をよじ登り校内の敷地に侵入する。
「さて、こっからどうしたものか」
ここまではいいが、それ以降が問題だな。
敷地には入れたものの学校内にはそう易々と入れはしない。
厳重に戸締りがされているはずだ。
一階のトイレの窓とか戸締りの見逃しがありそうなところを重点的に探してみるとするか。
そう思い立って小学校を一周しようとすると、
「とりあえず入ろうぜ」
林太はまさかの堂々と玄関からの侵入を試みる。
どれだけおっちょこちょいな見回り担当の先生でも正面玄関の鍵をかけ忘れるなんて凡ミスをするはずはない。
「いやいくらなんでもそこは——」
開いているはずがない。と言いかけた時、林太によって力を加えられた扉はいとも簡単に開いてしまった。
……マジか。
何故最も閉めるべき正面玄関が開いているのだ……。
どんな侵入者でもまさか正面から堂々と入ることはないとか、相手が罠だと疑って入ってこないとか、そういうアレなのか?
正面玄関を解放するということには侵入者への対策の一環なのか?
そんな馬鹿げたことあるはずない。
なら単純におっちょこちょいな教師の凡ミスか。
しかしそんな7月にやってくるサンタクロースよりおっちょこちょいな真似をする人がいるのかな。
見回りにおいての最重要目的は正面玄関の戸締りと言えよう。
だが事実として玄関は開いているし、そういうミスをすることもあるということなのだろうか。
ともかくこちらとしては侵入口を探す手間が省けて得をした。
今回ばかりはおっちょこちょいな教師に感謝だ。
「それじゃあ行くか」
「え、あ、うん」
林太は頷くが、決して動こうとしない。
「えっとぉ……、林太?」
普通なら玄関を開けて俺よりも玄関の近くにいる林太が先に学校に入るのが自然な流れなのだが、彼は微動だにしない。
不動明王が如くピクリともしない。
「し、仕方ないからカケルに先頭をゆずってやるよ!」
「……」
頼んでもいないのに譲られた。
恐怖で慄いている彼はどうしても先陣を切りたくはないらしい。
「わかったよ。先に行けばいいんだろ」
恐怖に震える林太を追い越して俺は学校へと無断で侵入する。
不法侵入だとしても土足で侵入する訳には行かないよな。
俺が小学生でなければ犯罪になる行為だが、それをやるからと言って校則を破っていいという訳では無いのだ。
ちゃんと上靴に履き替えてから、校内へ足を踏み入れる。
林太も俺の後ろにピッタリひっつきながら、俺の行動を真似て学校に侵入する。
当然ながら校内は薄暗い。
窓から差し込む外灯の光や月明かりのおかげで真っ暗とまではいかないが、蛍光灯に照らされないこの空間はやはり暗かった。
——忘れた場所は我らがクラスの1年3組のはずだ。
1階の多目的ホールの更に奥にある教室だ。
玄関から入って階段を上がる必要は無い位置にあるなら、わざわざ電気をつける必要も無いか。
多少薄暗くともその程度の距離なら問題ない。
チャチャッと宿題を回収してチャチャッと帰るだけだ。
電気のスイッチを探す手間を省いて、まっすぐ教室へと向かう。
「な、なあ、電気つけようぜ」
俺の右肩にがっしり両手で掴まった林太が、背後からそうお願いされる。
小刻みに震える手から彼の恐怖が伝わってくる。
「別にいいでしょ。すぐ終わるんだから」
怖いのなら尚更寄り道せず、早く済ませれば良かろうに。
昔から幽霊とか妖怪とか普通の人が怖がりそうなものをあまり怖がらなかった。
強がりとか虚勢を張っているとかそういうわけではない。
非科学的なものは信じられない主義なのだ。
不審者とか野生動物とか夜中に外出したことが母さんにバレるとか、身の危険に直結するものに対しての恐怖ならわからなくはないのだけど、実在するかどうかもわからない不明瞭な存在に怖がるという心理を、俺はあまり理解できない。
だから林太の恐怖が伝わってくることはあっても、俺に伝染することはない。
悪いが恐怖で体が竦んだ林太のスローペースに合わせるほど余裕がない。
精神的な余裕はあるが時間的な余裕がない。
少し強引にはなるが彼のお願いを却下し、教室へ足を踏み入れる。
「ほらっ、着いたぞ。早く宿題回収して帰ろう」
「う、うん」
教室に着くや否や林太に催促をかけ、彼はそれに従い自身の席に足早で向かう。
何を怯えているのか彼は恐る恐る机の中を覗く。
そんなにビクビクしなくても机の中に幽霊がいるわけないだろう。現実にいるかどうかも分からないのに。
「あった?」
覗き込む彼に声をかけると、林太は天敵を見かけた猫のように飛び退く。
「ッ!? きゅ、きゅうに話しかけるなよ!」
「え、ご、ごめん」
何故か俺が怒られた……。
急に以外は話しかけられないんだから仕方ないだろ。
話しかける前にカウントダウンでもしろって言うのか? そっちの方が怖いわ。
「それであったの?」
「——うん、あった」
林太の手には宿題プリントが握られていた。
これで早々に帰れそうだ。
教室の時計を見ると7時45分。これなら誰にも気づかれずに家に戻ることができそうだ。
完全犯罪成立だな。
やっていることが不法侵入なだけあって冗談ではなく本当にそうだ。
――まっ、このまま見つからなければの話だけど。
少しだけ不穏なことを心の中で呟いてから廊下に出る。
「よしっ、か、帰るか」
再び林太は俺の右肩に手を置いて出発の合図をかける。
俺の肩に手を置かないと進めないのか? アクセルじゃあるまいし。
その指示のもと俺ことイトサキカケルゴーは前進する。
玄関へ向かおうと廊下を歩いていると、
「コツンッ」
足音。
それと廊下の奥には人影が――。




