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友達電話

執筆に行き詰っていたのですが、1日休んだらなんかスッキリしました。

皆様も行き詰まることがあったら焦って追い込むのでは無く、1日休んでみることをオススメします。

急がば回れ、とも言いますから。

楽しかった土日を経て、迎えた月曜日。

学校の授業を終えた俺は自宅のリビングでテレビを見ながらくつろいでいた。

賑やかな休日に比べ、1人で過ごすこの時間は退屈だ。

日は沈みすっかり暗くなっているため、外へ走りに行くわけにも行かない。

この時間帯はあまり俺好みな番組は放送されていないし、大人しく将来に向けて勉強しておくとしよう。

ソファで横になった体を起こして、自分の部屋へと足を向ける。


『プルルル』

家電を通り過ぎた途端、それは着信を受け取る音を奏でる。

母さんは入浴中で、姉貴は自室に籠っており、父さんはまだ帰宅していない。

俺が電話に出る以外選択肢は無いようだ。

セールスだったら秒切りしてやろうと決意してから、受話器を耳元に当てる。


「もしもし糸崎です」

『あ、も、もしもし? そこは、えっと、カケルの、カケルくんのお家か。ですか?』

拙い敬語に、機械音声ではありながらもどこか聞き覚えのある声。

「ここは翔くんのお家で、俺は翔だぞ。林太」

お家の人と勘違いした林太にそうネタばらしをする。

家の電話番号を彼に教えた記憶はないため、きっと学校で配布されている連絡網のプリントから電話番号を知ったのだろう。


『あ、なんだ。カケルだったのか』

電話越しから安堵した林太の声が聞こえてくる。

人懐っこそうな林太でも知らない大人と会話することには緊張するんだな。


「それで、どうしたんだ? こんな時間に」

既に時刻は7時半を回っている。

特に思い当たる節がなかったため、単刀直入に聞いてみる。

『あのさ、今日算数の宿題あるよな?』

「あーうん、明日締切のやつな」

当然俺は配られた当日に済ませておいた。

もしかして写させて欲しいとかそういうことか? だとしてもお互い携帯電話を持っている訳ではないので写真の送信はできないぞ。


『じつはさ、……それ学校にわすれてきたんだよ』

「えっと、そうなんだ……?」

その報告をするために電話をかけてきた訳では無いよな?

それなら1人で取りに行くなり、潔く諦めるなりすればいいのに。

——まさかとは思うが、1人で取りに行くのが怖いなんて言うわけもないだろう。


『そ、その、……か、カケルがどうしてもって言うならいっしょに行ってやってもいいぞ!』

そのまさかだったようだ。

まあ確かに夜中の学校はホラーでは定番の舞台ではあるが、友達に電話をかけて一緒に行こうとお願いするほど怖いものなのか?

というかまず、行ったとしても学校に入ることは出来ないだろう。

ちゃんと戸締りがされているはずだ。

窓ガラスを割って侵入なんて泥棒まがいなことは出来ないし、林太には大人しく宿題を忘れ、実里先生に怒られることに甘んじもらおう。


「悪いけど俺は——」

『すぐ学校前に来いよ! じゃあな!』

ブツッ、と一方的に電話を切られた。

…………。

こんな切られ方をしたら、俺には行くという選択肢以外なくなってしまうじゃないか。


「……仕方ないか」

気は進まないが行くしかない。

友達を夜中の学校前で待ちぼうけにさせる訳にもいかないからな。


——今の俺は小学一年生だ。

真っ暗な夜道を1人で出歩いていい年齢ではない。

母さんに「今から出かける」なんて言えば間違いなく止められる。

となると黙って出ていくしかあるまい。

誰にもバレずにこっそり抜け出して、こっそり帰ってくれば、夜中に家を出たという事実を母さんが知ることは無い。

幸い母さんは風呂に入って、しばらくは出てこないだろう。いつも長風呂だからな。

姉貴はいいとして、父さんも今日は残業になると母さんの携帯電話に連絡が来ていたし、すぐには帰ってこないだろう。


とっとと宿題を回収して、とっとと帰ればいいことだ。

父さんと母さんの言いつけは絶対遵守、なんていうほど俺は良い子でもないしな。

(※良い子のみんなはお父さんとお母さんの言いつけはちゃんと守りましょう。それと夜中に外出するのは危険だから良い子のみんなは真似しないように)

 

 ならば早急に出向こうと、部屋着から外着に着替える。

 この時間帯だと冷え込むだろうから、上着も着ておこうと赤色のパーカーを羽織る。

 家族に家を出ていくことを悟られないよう、抜き足差し足で玄関まで向かい、音を出さないように鍵を上げて外に出る。

 案の定外は真っ暗で、空には月がくっきり映し出されている。

 行きと帰りの時間を合わせても二十分あれば用事は済ませられるはずだ。

 手早く家に帰れるよう駆け足で学校へと向かった。


           ◆


「よ、よう、カケル」

 一足先に学校に着いていた林太は怯えた顔をしていた。

 怯えたというより怖がっていると言った方が適切か。

 声も心なしか震えている。

 何に対してといえばきっと幽霊とか妖怪とかのスピリチュアルな類のものに対してなのだろう。

 怖いもの知らずのガキ大将、みたいなイメージを林太に対して勝手に抱いていたのだが、幻想だったようだ。


「まったく、こんな夜中にあんな一方的な電話で呼び出すなよ……」

 俺は少しだけ怒っていた。

 いくら小学一年生とはいえ非常識が過ぎる。

「そ、それは——ごめん」

 林太は申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。

 彼が反省しているというのはその態度だけで十二分に伝わった。

 なんだかんだ言って物分かりが良いんだよな、林太って。


「……はぁ、今日だけだからな」

 素直に謝ってくれたしここは許してあげるとしよう。

 初回限定だ。金輪際同じことはしない。

 

「じゃあ早めに取ってくるか。お互いここに長居したくないだろうしね」

 林太が幽霊などを怖いように、俺も母さんに夜中の外出がバレて怒られるのが怖い。

「あ、ああ」

 決死の覚悟をしたような目で林太は頷く。

 学校に忍び込むだけだから、そんな戦地に赴くような顔をせずともいいのに。

 林太の振る舞いがオーバーに思えてしょうがない俺は若干呆れながらも、夜中の学校へと足を向ける。


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― 新着の感想 ―
[一言] 夜の学校、そこにはヤンデレの水井さんが笑
[一言] か"わ"い"い"な"ぁ"林太君
[一言] ヒロインは林太
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