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水井宿泊

 アニメや漫画の世界でよく朝目覚めると隣で女の子が寝ているというシーンが存在する。

 お決まりやテンプレと言ってもいい程に使い古されたシーンである。

 それでも今なおそのシーンは様々な作品で使われ続けている。

何故ならそこには確かに浪漫があるからだ。

そう男の浪漫があるのだ。

 朝起きて隣に女の子が無防備に寝ている。

 男にとってそれ以上に至福な出来事が、果たしてこの世にあるだろうか。

 そんなものない。そして現実ではあり得もしない。


 あくまでフィクションの話。空想でしか実現できない話だ。

 あり得ないから浪漫なのだ。

 それは周知の事実で、俺だってそのことは理解している。


 ——なのだが、実際に起きてしまったことは認めざるを得ない。

 今この状況、水井さんが来訪してから翌日の早朝のこと。


 俺の隣に水井さんが寝ている。


 目を擦って確認しても、一度視線を外してからもう一回見ても、確かにそこにはパジャマ姿の水井さんがいる。

 フィクションが現実に起こった瞬間だ。


 ここでは喜び勇んだり、混乱するのが、まあ妥当な反応なのかもしれないが、俺は存外冷静であった。

 今までの水井さんの行為(付き纏い等々)に比べれば可愛いものだ。

 実際寝姿の彼女は可愛いし……。

 おっとそういう可愛いという意味じゃない。大事ではないという意味だ。

 

とにかく、俺はこの程度で狼狽える男ではないということだ。

で、でででも、あんまり女の子と同じベッドで横になるというのは、その、なんて言うか、よくないから、と、とりあえずベッドから降りよう。

そう思い、ベッドを降りようと水井さんの上を横切るため、彼女の上に一瞬ではあるが覆いかぶさる時。


「翔、そろそろ起きて——」

 傍から見れば俺が水井さんの上に跨っているような図になっている瞬間のことだった。

 見計らったような最悪のタイミングで母さんが部屋に入る。

 しかもこんな時に限って母さんがノックを忘れていた。


「……あんた、小学生の内で流石にそういうことは——」

「違う誤解だッ!!」

 表情を引きつらせる母さんに対して俺は全力で否定する。

 

 ……まあ、こういう展開もお決まりだよね。



               ◆



 午前七時。

 家族全員と水井さんが起床し、食卓に並ぶ朝食を囲んでいた。

「……翔。……水井ちゃんを襲うようなことしちゃダメよ」

「ぶほっ!」

 母さんの非難に俺は呑んでいたお茶を噴き出しそうになる。

 よりによって水井さんが目の前にいる状況でそれを言うのかよ、母さん。


「いやだから違うから! あれは水井さんが俺のベッドに入ってきて——」

「そういうのへんたいふしんしゃ、って言うんだろ」

「ぐっ!?」

 姉貴の指摘は間違っている。

俺はただベッドに寝ていただけであって、変態でも不審者でもその合体形態でもない。


 確かに、理由は定かでなくとも実際水井さんは俺の隣で寝ていたことは確かだ。

 もちろん俺が移動したのではなく、寝ぼけていての行動なのかもしれないが自発的に水井さんが俺のベッドに入って来たのは間違いない。

 

だが第三者から見れば、俺に非があるようにしか見えない。

これだけの状況証拠を揃えられたら反論できない。

 俺の証言だけでは信憑性に欠ける。

 

「女の子に興味がある年頃だからって、やって良いことと悪いことがあるんだぞ」

「ち、違うんだって、父さん!」

 父さんまでもが俺の敵に回ってしまった。

 悪いことをした子供に対して正しい判断ではあるのだが、少しは長男坊の俺の話も聞いて欲しかった。

 もはや俺の話を聞いてくれる人間はいないと肩を落としていると。


「私は別に、翔くんになら何をされても……」

「「「「はぁ!?」」」」

 頬を赤らめた水井さんの衝撃的な一言に糸崎家一同愕然とする。


 糸崎家の賑やかな朝食風景であった。



                  ◆



「翔くん、何してるの?」

 午後一時半。

 昼飯を済ませ母さんの食器洗いを手伝っていた水井さんがその任を終え、俺の自室へと入って来た。

「勉強だよ」

 と言っても中学生の勉強だけど。


友達が遊びに来ているからって遊びだけにかまけているわけにはいかない。

 覚えが良い子供の頃にたくさん勉強のことを頭に入れとかなくてはならない。

 将来地に足付いた職に就くには勉強ができることは大前提だ。

 勉強無くして定職はあり得ず。

一度目の人生で学んだ教訓だ。


「へぇ、真面目なんだね」

「いやぁ、それほどでも」

 素直に褒められれば素直に嬉しい。

しかし友達が部屋に訪ねて来たのなら、1人で勉強しているというのも申し訳ないな。

あくまで俺は彼女が母さんの手伝いをして手持ち無沙汰になっていたから、勉強に手をつけたのだ。

俺が手持ち無沙汰になるのはいいが、客人であるところの水井さんが手持ち無沙汰になってしまうのはよくない。

鉛筆を置いてテキストを閉じようとする。


「あっ、ここ」

「ん?」

水井さんが閉じるよりも先に1つの問題を指さす。

中一で習う一次方程式の問題だ。

俺が既に解いた問題だが、それが一体どうしたと言うんだろう。


「ここの計算間違ってるよ。ここはX=3だよ」

「えっ?」

問題を見直してみる。

ほ、本当に間違っている。

「な、なんでわかったの?」

単純な計算ミスといえど、簡単に解ける問題ではない。

「問題の解き方が書いてたし」

 この教材は解き方と問題の2つが見開き1ページに左半分と右半分で掲載されているものだ。

確かに問題を知らなくてもこのページを見れば一次方程式の解き方を理解できる。

だが彼女がページを見た時間は10秒もない。

そんな短時間で読み取りから理解そして俺によって解かれた問題と自身が解いた問題の答えを参照することが、果たしてできるのか?

「解き方見れば、大体答えわかるから」

「……」

唖然としてしまった。

地頭の良さ。ナチュラルボーンの天才。


本当、つくづく羨ましい。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 幾らなんでもこの家族の反応と水井の高IQっぷりはおかしいし無理があるだろ... 小1に対する反応じゃないし(微笑ましく思いながらも軽く注意する位が普通) 水井に至ってはいよいよ転生者…
[一言] 女の子に興味がある年頃って主人公は中1かな???じゃないと家族の反応がw 流石にこれで小1は無理がないか?w
2021/09/28 20:23 (´・ω・`)
[一言] 隣で女の子が寝ているW 分かる。 分かるぞW 其のロマンは分かるW
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