執着中編
昨日に続き連日での体育が行われた3時間目。
昨日と同様グラウンドでの陸上競技となる。
日常的に自主トレーニングをしている俺だ。小学校の体育など余裕でこなせる、はずだったのだが、
「じゃあ今日は二人一組になって準備体操をしましょう」
運動能力とは関係ない所で苦戦する羽目になった……。
二人一組。
これは先生から発せられるボッチにとって死の宣告。
余り者同士で組めるならまだいい。
最悪のケースは一人で余って先生と一緒にやるという公開処刑を受けなければいけないのである……!?
今日は確かクラスの男子が一人風邪で休んでおり、クラスの男子人数が最悪のケースを招く可能性のある奇数になっている。
そうなってしまえばクラスの笑い者確定だ。
なんとしてでもそれだけは避けなければいけない!
こうなれば頼るべき人物はただ一人。
唯一のマイフレンド、砂川林太にッ……!
——俺が一直線に林太の方へと向かっている中、女子の方では。
「いっしょにやろー」
「うんいいよー」
といった感じで着々とペアが形成されていた。
既にペアとなったところは各々のタイミングで準備運動を始め、ペアを作れていないものは友人に声を掛けており、全員が女子のグループのみでの行動を取っていた。
別に女子は女子同士で組まなければいけないというルールはない。
女子は女子で、男子は男子で組むのが自然な流れとなっているため、みんながそうしているだけだ。
しかし一人だけ、その自然な流れに逆らおうとしている人物がいた。
「ヒメちゃん。いっしょにやろう」
水井さんの友人である夢月さん(下の名前は美香、先日隆二君と喧嘩していた子)が一人でいる彼女を気遣って声を掛ける。
普段からクラスの中心にいる水井さんは声を掛けずとも周りの方から掛かってくる。
いつもの彼女ならそれを快く了承するのだが。
「ごめん、私他の人と組むから」
「え、そ、そっか」
まさか断られるとは思わなかった夢月さんは少しばかり動揺する。
それに普段とは様子が違う。
先程から女子の輪に入ろうとせず、ずっと男子のグループを凝視している。
夢月さんの誘いを蹴った彼女は、抵抗も迷いもなく足早に男子グループへと単独で突撃する。
そして、
「翔くん♡」
林太に声を掛ける直前だった俺の肩をトントンと軽く叩く。
「え、水井さん? なんで男子の方に……」
彼女が男子のグループにいる不自然さ。
それは俺だけではなくクラスの男子も女子も感じ取っていたものだ。
証拠に男子のグループに単身で乗り込んだ彼女は周りから注目を集めている。
しかしそれを水井さんは見えていないかのように意に介していない様子だ。
「準備体操、一緒にやりましょう」
いつも通りの声のトーンでそう提案する。
「いや、でも……」
正直なところ乗り気になれる提案ではない。
男子は男子と女子は女子と、という空気感が形成されているこの場で男女ペアのイレギュラーな組み合わせを作れば変に目立ってしまう。
笑い者にされるのも嫌だが、奇異な目で見られるのも嫌だ。
この場は林太と組んで静かにやり過ごしたい。
「女子の方も一人欠席がいてね、誰かは絶対男女ペアにならなきゃいけないの。それなら私たちが1番いいよね?」
本音なのか口実なのかはわからないが、彼女は俺たちがペアを組む合理的理由を示す。
1番いいという言葉はちょっとだけ引っかかるな。
別に男女で仲の良い児童なんて俺たち以外にもいるはずだと思うのだが。
「それに、……もう砂川くんは違う人と組んでいるみたいだよ」
「えっ、——本当だ」
林太の姿を見ると、彼は既に違うクラスの男子とペアを組んで準備体操を始めていた。
…………それなら仕方がないか。
きっと水井さんは周りが困らないよう率先して女子と組まずに俺に声を掛けてくれたのだ。
その優しさを俺の我儘で踏みにじるのは良くないよな。
「じゃあ、一緒にやろっか」
「うんっ」
水井さんは一層嬉しそうな笑顔で頷き、準備体操に取り掛かる。
珍妙な物を見るようなクラスメイトの視線が背中に刺さりながらも、俺は水井さんとの準備運動を行う。
や、やりづらい。
一挙一動をクラスメイトに凝視されながらやる準備体操というのは、心労が溜まると知った。
まあそれ以外にも密着した時でのシャンプーのいい香りとか、柔軟体操時での女の子特有の柔らかさを持った背中とかもいろいろ……。
——って何小学生相手に変なこと考えているんだ俺は!
異性と触れ合うことがなかった人生を送ってきたが故、こういった場面に対する免疫が皆無なのだ。
だからと言って仕方がないことだと割り切って良いことではない。
流石に小学生相手は本当にまずい。
法律とかそれ以前に俺の理性がそれを許さない。
いろいろ気を付けようと俺は決意を固くした。




