痛々行動
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! イタイタし過ぎるだろ俺ェエエエ!!」
早朝に俺はベットの上で昨日の夕方での出来事を振り返り、心的ダメージを受けていた。
昨夜も家に帰ってから三時間は自己嫌悪に陥っており、日課の家庭学習は全く身に入らず、夜はあまり眠れなかった。
それも全て俺のあんな行動(頭ポンポンのこと)やそんな行動(手の甲に口づけのこと)とかあれな失言(「光栄の至りです、姫」のこと)などのその他諸々のせいだ。
昨日の王子ぶっていた自分を張り倒してやりたい!
あの水井さんだし昨日のことを誰かに言いふらすような真似はしないだろうが、やはりドン引きは必至だろう。
あんなことやって許されるのは選ばれしルックスの持ち主だけであって、決して俺みたいな平凡な奴がやって良いものではない。
一般人があんなことをすれば逆に相手の好感度を下げてしまう。
イケメン気取りの行動以上にイタイタしいものなどない。
糸崎翔二度目の人生での最大の黒歴史だ。
もう学校行きたくない。いっそ消え去りたい。
「ちょっと翔! 何朝から叫んでんの!? 早く朝ごはん食べて学校行きなさい!」
しかしそういうわけにはいかない。
小学生にして不登校なんかになれば、二度目の人生失敗コースまっしぐらだ。
母さんが学校に行くように催促をかけるくらいには、登校時間が差し迫っている。
これ以上ベットで悶えていれば、確実に遅刻してしまう。
こうなれば腹を括って登校するしかない。
うじうじしていたってどうにもならないからな。
◆
校門前に着いてしまった。
自宅では覚悟を決めたけど、やはり憂鬱だ。
心労が重なったということで今日は早退しようかな……。
ここまで来たが踏み出すべき足がいうことを聞かず、勝手に踵を返し始める。
俺の足は完全に自宅の方向に歩き始めようとしている。
うん! それなら帰るのは仕方ないな!
だって俺の足が勝手に帰ろうとしているんだ。これはいわば不可抗力。
俺の意思ではどうしようもないことなのだ。
だから仕方ない!
家に帰って全てを忘れることにしよう!
もはや自分の足を別の生命体と認識した馬鹿げた理由で帰宅を試みる。
だが俺は昨日の出来事で自身の心がボロボロになっており、これ以上何かを自分のせいにすれば心が完全に壊れてしまう。
例え上半身と下半身を決別させてでも、俺は何かのせいにする!
そんな意味不明な誓いを立てながらも、意気揚々に帰宅の一歩目を踏み出そうとすると、
「翔くん♡」
「っ!?」
地面に足がつくより先に、校門の方から声を掛けられる。
それにこの声、間違いなく彼女だ。
俺は「ギギギッ」と錆び付いた機械のような駆動音を奏でながら、体を後ろに捻じる。
そこには水井ヒメの姿があった。
昨日と違って名前呼びになっているのと何故か語尾に♡がついているのが気になりはするが、概ね昨日と変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「おはよう、翔くん」
「オ、オハヨウ。キョウハ、イイテンキ、ダネ」
しかし昨日の出来事が合った手前、俺は自然に振る舞えない。機械音声のような片言になっている。
「校門前で会うなんて偶然だね」
「あ、う、うん。そう……だね……?」
玄関の方から歩いてきていたため、到着時間が重なったようにはとても思えない。
もしかして誰か待っていた時に偶然俺とあって声を掛けてきたのだろうか?
それなら辻褄が合うし、きっとそうなのだろう。
「せっかくだし一緒に教室行こっ」
「えっ、う、うん……?」
あれ? 誰かを待っていたというのは違うのか?
なら一体何で——?
不可解な点はあるが今はそれよりも水井さんが昨日と同様に話し掛けてくれている。
それどころか前より距離が近い。話し方的にも、物理的にも。
もしや、ドン引きされていない?
昨日の出来事。俺のイタイタしい行動を抜きにすれば、秘密を共有する友達ができたという彼女にとってはプラスな出来事とも捉えられる。
なるほどそうか! 存外物事はいい方向に転がっていたのかもしれないな!
彼女にとっては念願の友達ができ、俺も初めての女の子友達ができた。
うん! 両者ウィンウィンのいい結果になっていたのだな!
自分のイタイタしい行動をどうやらスルーしてくれていたようで、奇跡的に彼女からの好感度は下がらなかった。
いやぁ、本当に良かったぁー。
昨夜と早朝に抱え込み続けていた重荷に開放され、多少の不可解な点など全く気にならないほどに清々しい気分だ。
今はただドン引きされなかったことを喜ぶとしよう。
俺は軽い身のこなしで水井さんとともに教室へと向かった。




