水井秘密
ヒロインとの交流スタート!
窓から差し込む夕焼けに照らされながら読書を嗜む彼女。
まるで1枚の絵画のように、絵になる光景だった。
思わず吸い寄せられてしまいそうになるほどだったが、俺は足を向けるよりも先に視線を逸らす。
い、いけないけない。用もないのに近づくのはよしておこう。
それに、何やら水井さんは真剣そうな顔で本に夢中になっている。
近づいたりしてしまえば読書の妨げになってしまうかもしれない。
そっとしておくとしよう。
——しかし、一体何を読んでいるのだろう?
干渉しない様にとは思うのだが、知的好奇心に駆られ意図せず興味を示す。
あれほど大人びた水井さんが一体どんな本を読んでいるかということに、多少なり気になってしまう。
本の大きさや薄さからして、絵本だろうか?
水井さんはもっと大人っぽい純文学とか読んでいそうなイメージだな。
しかし、忘れてしまいそうになるが彼女だって小学一年生だ。
子供が児童向けの書物を読むことに違和感などあるはずがない。
イメージだけで物を言うのは良くないな。
あまり覗き見るのも悪いと思い、そそくさとその場を離れようと後ろに振り返った時。
「ガシャァンッ!」
や、やばっ……!
右後ろにあったブックトラックの存在に気づかず、体をひねると同時に腰のあたりをぶつけてしまう。
静寂の図書室ではその音は室内全体に響き渡る。
当然痛みはあったが、それよりも留意すべき点があった。
「……っ!? だ、誰かいるの?」
水井さんの存在だった。
読書に夢中だった彼女も、集中の糸はその音によって切られ、音のした方向に視線をやる。
あまりに俊敏な動作に俺は逃げる余裕も隠れる猶予もなく、彼女の視界に捉えられる。
水井さんは俺の存在に気が付くと、俺に気取られぬほどの素早さで持っていた絵本らしきものを背中に隠す。
既に視線もあっているし、今更とんずらすれば余計に不自然だ。
別にそこまで悪いことをしていたわけでもないし、正直に事を伝えて謝ろう。
「ご、ごめん。読書の邪魔しちゃって」
水井さんの読書を邪魔してしまったが、俺と彼女以外は人っ子一人いないためそれ以上の被害があるわけでもない。
強いてあるとすればブックトラックから数冊本が落ちてしまったくらいだ。
平常心を乱したり、大慌てしたりするような事態では決してない。
それは俺だけでなく、彼女も同じはずだ。
——そのはずなのだが、水井さんは酷く動揺していた。
まるで殺人現場を見られてしまった殺人犯のように慌てふためいていた。
しかしわからない。
一体水井さんは何をそんなに動揺しているのだろう。
別に悪いことをしていたわけでも好きな子の縦笛を舐めていたわけでもないのだから、堂々としていればいいはずだ。
だが水井さんはこの状況を「非常にまずい」と判断しているようで、顔からも戸惑いの色が見える。
「どうしよう……。み、見られちゃったかな……」
こちらからはよく聞き取れないが、ボソボソと何か独り言を呟いているようだ。
「な、何か気に障ったらごめん。決して覗くつもりじゃ——」
「う、ううん。糸崎くんは悪くないの。悪いのは読書に夢中になっていた私だから……」
そう弁明する彼女の声は、やはりというか焦っているようだった。
しかしその理由が俺には一切わからない。
何をそんなに動揺しているのか、気にならないほど俺は他人に対して無関心じゃない。
だが詮索しすぎるのは配慮が足りない行為だ。
水井さんが動揺しているということは彼女にとって少なからず知られたくないことなのだろう。
ならば干渉しないであげるのが優しさだ。
知らぬが仏という言葉もあるしな。
さっさと撤退することにしよう。
この気まずい空間の中で本を見て回れるほど図太い神経はしていない。
「じゃあ、その……俺は失礼します」
つい敬語で告げながらも、俺は慎重に後ろ歩きで図書館を後にしようとする。
すると——。
「ま、待って!」
水井さんが少しばかり声を荒げて俺を呼び止める。
唐突に出てきたその言葉は想像以上に大きく、一瞬俺は「ビクッ!」と体をはねさせる。
そうして彼女は戸惑った様子で視線を右往左往させながら、口を開くか否かで悩んでいる様子だ。
呼び止められてしまった以上俺はその場に留まり、次に来る水井さんの言葉を待っていると、
「み、…………見た?」
彼女は俺にそう尋ねた。
「見たって、……何を?」
「いや、その、な、なんて言うか」
何やら言葉を詰まらせている。
だが彼女は確かに尋ねる決断をしているようで、すぐにまた話し出す。
「——わ、私が、よ、読んでいた。……その、ほ、本のこと…………」
本?
本というのはさっきまで水井さんが読んでいた、
「絵本のこと?」
「ッ!?」
図星を突かれたように、彼女は体を跳ね上がらせる。
焦燥と羞恥心が入り混じり、とにかく動揺していることは伝わった。
だが、絵本と動揺がどのように関係するんだ?
いまいち彼女の意図を読み取れない俺は察せられないばかりだ。
「そっか、もう見られちゃったんだ……」
動揺が諦めに変わったようで、彼女は一人そんなことを呟く。
彼女は決心するように一度だけ深く深呼吸をして、動揺でそれていた視線を俺の方に向ける。
その真剣な眼差しに一瞬「ドキッ」とする。
な、何を言われるんだ、一体。
そんな緊張感走る最中、水井さんは告白する。
「——私、…………絵本が好きなの」
…………?




