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家出

作者: ポン酢

 親父と喧嘩した。

 些細なことだった。テストの点が悪く口論になってしまった。

 俺が悪い。そんなことは分かっていた。勉強しなかった俺が悪い。

 俺は耐えられなくなって家出した。

 家を出るとすでに街灯が付き辺りを照らし残火が輝こうとするようにゆらゆらと西の空を赤く染めていた。

 流石にこの時間になると人の通りもなく誰の気配もしない。


 ザっ


 ふとそんな音がした。

 なんだ?と思って後ろを見てみると鬼のような格好をした人が立っている。顔には赤い鬼の仮面を被り手には一本ずつ刀のようなものを持っている。相当凝ったコスプレだな。

 そんな印象を最初に受けた。

 でもなんでこんな所に鬼の格好を?

 その時刀身がキラっと光ったのが見えた。あれは本気(まじ)の刀だ。

 俺は逃げ出した。


 やばいやばいやばい

 なんだあれ、相当逃げてるのにずっと追ってくる。

 あっちこっち逃げてる間に全く知らないとこに来てしまった。スマホの電池あったっけ。

「なんでっ、俺追われてんだよ」

 俺は叫びながらちゃんと家に帰れるのかと言う不安と追われてる恐怖にはさまれていた。

 そのまま逃げ続けていると世界が消えた(、、、、、、)

 周りの全てが無になるように消えていく。街も車も道路も電柱も、全てが消えていく。地面も消え落ちていく。ただただ落ちていく。深く深く落ちていく。



「うわぁぁぁぁぁあ」

 俺は今空から落ちている。遥か下には陸地が見え風圧で目を開けられないほど俺の体は加速していく。

  まぁ空と言っても地面が消え落ちていっているのでここが空と言うのかも怪しいがそういう事にしておこう。

 こんなことを考えてるうちもただ一刻と地面と激突をいう事実が迫ってくる。ただ俺には何もすることができない。

 地面との距離がどんどん迫り死を覚悟する。

 ズドンと大きな衝撃が体を走る。でもそれは想像以下の衝撃だった。

 恐る恐る目を開けてみると巫女の格好をした女性に空中で抱えられていた。

「君は・・?」

「話は後です。質問も受け付けません。それにまだ驚異が去ったわけではないですよ。上を見てください」

 そう言われ上の方を見てみると小さな点が超高速で落ちてくるのが見え大地が割れたような音をたてながら着地しすぐこっちの方へ動き出していた。

「なんでもありかよ」

 巫女の格好をした人に抱えられながら地面に着地する。しかし驚くことに衝撃はほとんどなかった。

 こっちもこっちでなんでもありか。

 俺を降ろし巫女の人は走り出す。それに続くように俺も走り出す。

 逃げているとやがて軽く舗装された道に合流し森の中に逃げる。ふと後ろを見てみると化け物は何事もなかったように追ってくる。距離はさっきよりも開いているが油断はできない。

 そう思わせるほどに殺気があふれている。


「ここからの行動を言います」

 だいぶ走ったところで巫女さんはそう言った。俺の質問には答えないのにそっちの言うことは聞けってか。

 一瞬そう思うも口には出さない。

 なにせこの人に助けてもらってないと今ごろ死んでるだろうしな。どうこう言える立場じゃない。

「この先にY字路があります。そこを右に曲がってください。右に曲がった後しばらく行くと街があります。普通に行けば南門から入ることになると思うのでそのまま北上し北門を抜けてください。やがて神社が見えてきます。入り口には鳥居があるのでその鳥居を抜けるとあの化け物は追って来なくなります」

「とりまY字路右に行って街を真っ直ぐ抜けて鳥居抜けろってことでおけ?」

「それさえわかってれば大丈夫です」

 よかった合っていたらしい。正直合ってるか不安だったが合っていたら問題はないだろう。

「で、あいつはなんなの?」

「・・・答えられることは我々にもわからないと言うことです。私たちは奴を鬼の化け物と呼んでいます。あれは突然現れるのですよ。出現条件も目的もわかりません。」

 なるほどそういうものなのか。確かに気づいたら後ろにいたって感じだもんな。

「追いつかれたらどうなるんだ?」

「殺されます。それも無惨に」

 何それこわ。

「まぁ生きたければ足を止めないことです」

 巫女は短くそう言った。



 巫女さんに着いていくこと10分(体感)、Y字路が見えてきた。

「では私はここで別れるので」

「はぁ!?」

 ここにきてとんだ爆弾発言かましてきやがった。

「え、なんで一緒じゃダメなんだよ。助けにきたんじゃないの!??」

「私にもやることがあるので。それに付いていくなんて一言も言ってないですよ」

 そ、そんな。俺逃げ切れる自信ないですよ??

「あ、もう一つ言うことがありました。明日の日没までには神社に辿り着いてください」

「たどり着けなかったら?」

「まぁ命の保証はできませんね」

 まじかよ。しかもそれ最後に言う?しかも明日の日没までって結構遠いのでは?

 言い忘れてたら大変なことになってたかもよ?俺。

「では、あなたの無事を祈ってます」

 そう言って巫女さんの姿は見えなくなった。

 まじでいくんかーい。めちゃくちゃな人だな。しかもあいつ迷わずこっち来てるし。えっととりあえず街に行けだったか。

 とりあえずあの人を信用するしかなさそうだ。

「あーもうなんでこんな事に!!」

 何がなんだか分からないがともかく街を目指してみようと思う。



 山を越え谷を越えた先にあった川辺で俺は体を洗った後くつろいでいた。

 水を飲み汗を流し仮眠を取っていると太陽は頭の上とまではいかないがだいぶ時間が経っている。

「急がないとな」 

 幸いなことに日が出てくると鬼の化け物は姿を消した。もしかしたら夜しか襲えないなどの制約でもあるのかもしれない。

 疲れも溜まっていたし正直助かった。しかしここでぐずぐずしている訳にもいかない。なにせ神社までの距離がどれだけあるか分からないのだ。未だに街も見えてこない。

 本当にこっちであってるんだよな。

 そういえばここはどこなんだろうなこれだけ走っても家ひとつないなんてどう考えても異常だ。木々などを見ても禍々しい木の実や多彩な色を含んだ実など見たことのないようなものがたくさんある。

 ここはいったいなんなんだ。ちなみにスマホは圏外だ。

「まぁ行きますか」

 考えても仕方ないか。

 そう自分に言い聞かせるように俺は立ち上がりまた駆け出していった。



 あれからどれくらい走っただろうか。

「やっと見えてきた。どれだけ離れてんだよ。めっちゃ遠いじゃねーか」

 俺の眼下には城壁で囲まれた立派な都市が映っていた。街の真ん中には大きな城も見える。

 でも流石にこんな遠いなんて思ってなかった。

 障壁に近づくとこの壁の大きさと高さの凄さがわかる。これ作るのに何年かかるんだろうな。

 城門には二人の見張りがいたがすんなり通してくれた。もしかしたら俺のような人が他にもいるのかもしれない。

 しかし日がもうすぐ沈みそうだ。間に合うのか?これ。神社の位置は街を見た時に把握しているのでなんとかなりそうだが。

 神社は一番近くの山の頂上にあり長い階段が遠くからもよくわかった。あれを登らないといけないなんて憂鬱な気分になる。

 道は活気に溢れ賑わっており街の至る所からいい匂いが漂っている。一日何も食べてない俺への精神攻撃かに思えてくる。

 俺に効果は抜群だ!端的に死にそう。

 誘惑に抗いつつ人混みの中をスイスイと抜け北門を目指す。城壁は大きいので門もわかりやすい。俺は迷わず門へと向かう。

 途中で一様場所を確認をしていると街全体に響く鐘の音が鳴り響いた。空をみると太陽が沈もうとしている。

 鬼の化け物が姿を現したのもこれくらいだっけ?

「急がないとやばそうだ」


 ザっ


 俺と鬼の化け物の第二ラウンドが始まった。




「・・・・はぁ・・はぁ」

 疲労で足はつりかけ心臓は全身に酸素を送り届けようと鼓動を早め肺はそれに応えるように酸素を確保するため息を荒くさせる。

 大賑わいだった大通りはさっきまでが幻だったかののように静寂が街を覆っていた。

 人々は消えたように姿がなく代わりにナマハゲとは別の化け物達が現れる。

 二足で歩く猫、頭が三つある犬、人の大きさはある蟻、腕が四本ある蛇、空を漂う巨体な金魚、その周りに佇む羽の生えた羊。さらにその上を飛ぶドラゴン。

 世界は怪奇な動物達に覆われていた。

 その怪奇な動物達のそばを駆け抜ける。どうやらこいつらは襲ってこないようだ。

 そう思っていると空を飛んでいる金魚の一匹の口が青く光りだした。それを見た瞬間ナマハゲ以外の怪奇達は一斉に身を隠し始めた。

 やばい。明らかになんか放つやつだ。後ろから来ている鬼の化け物は構わずこっちに向かってくる。

 どんなのがくるかわからないけれど後ろに引けない以上このまま突き進むしかない。どんなものが放たれるのかまったくわからないが少しでも助かる道は前しかない。

「うらぁ」

 その声はガァンと鈍い音と一緒に静かな街に響いた。

 巨大金魚は横から大槌を持った全身鎧の男にぶっ飛ばされてい?。その衝撃で金魚は明後日の方向を向き青い光が放たれるれ遠くから大きな爆発音が聞こえ破壊された建物の破片が宙に浮く。

 あんなの当たってたら終わってたぞ。

「おい坊主、巫女さんには聞いてる。早く行け。ここは俺たちがなんとかしてやるから」

 その全身鎧の男は俺にそう言い残した後次の化け物に突っ込んでいく。後ろからも全身鎧の男達が雄叫びを上げながら他の化け物に突っ込んでいく。

 俺はその全身鎧の人たちに感謝しつつ北門を目指した。



 北門を抜けるとさっきの化け物達は幻だったかのように姿がない。世界にはまた静寂が訪れている。

 長い階段に入る。階段は真っ直ぐじゃなく山の周りを螺旋状にあるためやけに長い。

 ふと後ろを見てみると鬼の化け物の姿はなかった。あれどこいった?

 もしかしたらあいつはここら辺に近づけないのかもしれない。巫女さんがここに来いって言ったものそういうことだったのか。

 街の方を見てみると今でも爆発音が時々聞こえてくる。見方によったらあの人たちに押し付けた感じになるから申し訳ないな。



  やっとここまでやってきた。

  訳のわからないものにいっぱい襲われた。訳の分からないものにもあった。イマイチ掴みどころのない巫女さんに振り回された。あれ...鳥居着いたらどうなるか言われてなくね?..まぁいいか。

  いつまでも走った。足がちぎれる程走った。足の感覚が無くなったのかと思っても走った。逃げ続けた。何度も死にかけた。


  色んな人に助けて貰った。


  この後どうなるのか分からないけれど助けてもらったのだから成し遂げよう。無駄にならないように。

  鳥居が見えてきた。

  でも俺の足鳥居を目の前にしては止まっていた。 俺が階段を上がってるうちに崖を登って来たのかもしれない。

  鳥居の前には鬼の化け物がいた。


 何度見ても恐しい。視界に入れたくない。今すぐ逃げ出したい。

 でも俺は動けずにいた。なぜか逃げちゃいけないような気がした。

「なんだ、鬼ごっこはおしまいか」

 その声は思ったより高く中性的な声だった。

「あ、ああ。なぜか逃げちゃいけないような気がした」

 確かに怖い。今にも逃げ出したい。でも逃げちゃいけない。そう感じた。

「、、、そうか」

 鬼の化け物は少し面食らったのか間を開けてからそういった。

「だが私の使命は変わらない。ここを通すわけにはいかない」

 鬼の化け物はそう強く俺に宣言した。

「いいや。絶対に通させてもらう。じゃないと助けてくれたみんなに顔向けできない」

 いろんな人に助けてもらった。全く俺を知らない人たちが助けてくれた。ここで引き返す選択はない。

 前に駆けながら拳を握る。 もう逃げない。助けてくれる人はいる。でも最後は自分だ。

 俺がやらないとダメだ。逃げてちゃダメなんだ。

「歯ぁ。食いしばれ」


 俺は拳を振り抜いた。


 なんでこいつは追ってきていたのだろう。

 俺は鬼の化け物を殴り飛ばした後そんな事を考えていた。

「なぁ、なんで」

「私の今の使命は終わった。今のもう君を追いかける理由もない」

 俺の問いはその言葉によって遮られた。

 思えばこいつはいつまでも追ってきた。それはそれはずっと追いかけてきた。

 でもある距離から絶対に近づいて来なかった。

 まるで目を背け逃げ続けることができるかのように。

 でもそれにもいつか向き合わないといけないことがある。それが今だったという話だ。

「はやく行くといい。君にはまだやることがあるだろう?今の君なら大丈夫さ」

 確かに俺にはまだ向き合わないといけない相手がいる。

「ありがとう」

 そう言い残して俺は走っていく。その時見えた仮面の奥は少し微笑んでいるように見えた。


 -----


「またやろうな」

 その声は静寂の世界に響いた。


 -----


「やぁ、またあったね」

 階段を登り切るとやはりそこには巫女さんがいた。

 ここまで色んな事があった。今すぐにでも休みたいほど体は疲弊しきっている。

 でも、俺にはまだやるべき事がある。

「そうだね。君は早く戻るべきだ」

 そう言って巫女さんは俺の方に手を差し出した。なんだよ俺の心はお見通しだってか。

 少し困惑しつつその手を掴むと巫女さんは勢いよく話し出した。


「少年。誰だって間違いはある。後悔することだってある。でも、まだやり直せる」


 巫女さんは鳥居の方へ走りながらそう叫ぶ。


「奴に向き合え。受け入れろ。そして何度だって挑戦しろ。そして何度だって失敗しろ。辛い日だってあるさ。挫けそうな日だってあるさ。情けなくて死にたくなるような日だってあるさ」


 鳥居が近づいてくる


「でも、きっと誰かが助けてくれる」


 遂に俺は鳥居を抜けた。その途端意識が薄くなっていく。

 巫女さんは最後の言葉は...

「だからさ、頑張りなよ」

 俺の意識はそこで途切れた。



 目覚めると家から少し離れた公園のベンチにいた。どうやら寝ていたらしい。

 疲労感はあるのであの1日は幻って訳でもないらしい。ふとスマホを見てみると時間そのまま日にち+1って感じだ。

「さて、行きますか」

 もう1回親父と話をしよう。

 この後どうなるか分からないけれど、逃げ続けるのはやめよう。

「向き合え、受け入れろか」

 それはきっと誰にでも難しい事で、単純な事だったんだ。

 気づけば俺は走り出していた。

 何故かは俺にも分からないけれど、何かふっ切れた。

 ちょっとだけ頑張ってみよう。


 そう思えた1日だった。


僕の技量のせいなのですが伝えたいことを全部伝えられたのかは分かりません。

ですが、その一部分でも皆さんに届いたのなら幸いです。

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