魔王からは逃げられないし死にそうなので、最後に女魔法使いに告白してみた。
卑劣な奇襲攻撃──!!
容赦ない三回行動──!!
「クッ……!! 魔王の力がココまで強いとは……!!」
武闘家は既に息絶え、要の回復役である僧侶も石化し、HPが残り6の勇者とMPの尽きた魔法使いが、今にも倒れそうになるも己の武器を杖代わりに、なんとか耐えしのいでいた。
「ブハハハハッッ!! 勇者とやらも大したことないのう!?」
余裕の表情を見せる魔王に、勇者と魔法使いは既に絶望の淵に立たされていた。
「もう……おしまいね」
「……そうだな。ゴメンな、こんな結末で」
「精一杯やったんだから仕方ないわよ……」
魔法使いが精一杯の笑顔で勇者を見た。
「……最後に、一つ……いいかな?」
「なによ改まって……」
「む? ラストバトル特有のイベントか? ならば我は待つぞ」
吹雪を放とうとしていた魔王の動きが止まり、二人の話に耳を傾ける。
「お前と旅してきたこの三年間……とても楽しかった」
「……そうね。私もよ」
「最初はスライムにすら苦戦してたけど、今ではイチコロだな」
「そうね」
「初めてのボス戦……覚えてるか?」
「勿論。あなたが『BGMカッケー!!』って喜んでたわね」
「そうだな。格好良すぎて何もせずに10ループくらい聞いたな」
「フフ、懐かしいわね」
「仲間も増えて、四人になった時は嬉しかったな」
「そうね。あなたと武闘家は、どっちが好みかなんてアホな話をコソコソとしてたわね」
「……バレてたか」
「もちろん。で、あなたはどっち派だったの?」
「……もちろんお前だよ」
「──えっ?」
沈黙が訪れた。ラスボス戦BGMは三週目に突入し、魔王はまだ大人しく二人の話を聞いている。
「俺は最初からお前のことが好きだった」
「う……そ……でしょ?」
「本当さ」
「だって世界を救ったら王様の娘と……」
「あれは王様が勝手に言っている事さ。俺はお前と一緒に居たいんだ……」
「勇者……」
「プロポーズの指輪も買った。どうだ? 中々素敵だろ?」
ポケットから汚れた箱を取り出し、開けて指輪を見せる勇者。
その指輪はコツコツとお金を貯めて──それでも足りないから聖剣エクスガリバーを売って手に入れた物である。武器屋のオヤジが「それを売るなんてとんでもない!」と声を大にしていたが、勇者は無理矢理押しつけたという……。
「嬉しい……! 着けてみてもいい?」
「もちろん……」
指輪はぴったり魔法使いの指にはまり、綺麗な輝きを放っている。
【魔法使いは呪われてしまった!】
「……なんか呪われたんだけど……」
「どうせ外さないから、良いだろ?」
「……ばか」
「うむ、素晴らしいプロポーズだ」
クラッカーを鳴らし祝福する魔王。しかしそろそろ終わらせたくてうずうずしているのであった。
「いつの間に指のサイズ測ったの?」
「ンジャメーナ戦でお前が死んだときだよ」
「……抜け目ないのね」
「ついでにパンツを盗んだのも俺さ」
「変態さんだったのね」
「そうさ」
「…………でも好き」
「俺もだよ」
「このまま何処か遠くに行けたら良いのになぁ……」
「……そうだな」
「Zzzz……」
「魔王が寝てるわね」
「……そうだな」
──ダダダダタ!!
──ダダダダタ!!
【勇者と魔法使いは逃げ出した──!!】
「──てな訳で、今のお母さんとお父さんは、生き延びたのだ」
「うっそだー!?」
眉をひそめて親を疑う息子に、ポンと頭に手を乗せて、父親は笑いかけた。
「エクスガリバーさえ売らなければ勝てたんだけどな」
父親はポツリと、そう漏らした……。