更衣室
前後に1つずつリュックを背負いながら、トコトコと更衣室に向かう。
教室で長い時間残ってたからか、廊下には誰もいなかった。窓の外からは微かに下校中の生徒の笑い声と運動部の怒鳴り声が聞こえてくる。
「っしょ」
更衣室に入って直ぐにリュックを地面に下ろした。
薄暗い更衣室はあまり人気がなく、トイレで着替える子の方が多い。だが私と花は不人気ゆえの静けさを気に入り、愛用している。ここには沢山のロッカーとベンチが一つだけ、申し訳程度に壁際に置かれていた。
そのベンチに腰掛け、ロッカーについてある番号を見つめながら花を待っていたら、更衣室の扉がバンッ!と開いた。
そこから女の子が1人、片手にコーラとお茶、もう片手を膝に置いて肩で息をしながら現れた。
「お、お待たせ!はいコーラ!150円ねっ!」
「............ん」
そう答えながら、近づいてきた花の手に小銭を押し込んだ。空気が止まる。
あ、反応間違えたかも。
「へぇ〜。冷たいじゃん。リュック持たせたこと怒った?私も飲み物買ってきたんだからいいじゃん。椎菜ファンが見たら幻滅だろうなぁ」
声がワントーン低くなった。素の花だ。怒ってるのか?だが声から怒りは感じない。
「そっちこそ、わがまま毒舌見られたらやばいんじゃん?」
いつからか、気を許したと思っていた友達の感情も読むようになっていた。
「.....お互い様だねっ♡」
語尾にハートがついているのは気のせいかもしれないが、花は甘い声で答えながらポンと私の背中を叩いた。
やはり、今日は機嫌がよさそうだ。
それから私たちはダラダラと着替えながら授業の愚痴や問題について語り、花はバトン部、私は卓球部へと向かった。