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第二話 雄竜ラヴィとセントラルヴェイン

『ルース、怪我の調子はどう? ちょっと見せてよ』

『あ、ああ、うん、大丈夫だよラヴィ……』


 今、私の傷痕を診てくれているのは、光の蛇だった水の精霊ラヴィで間違いないのだが。

 私は何とも言えない心情のまま彼の薄青の鱗に覆われた身体を前足で押し返す。


『ちょ、ちょっと近すぎませんかね』

『もー押さないでよ、傷が開いたりしたら大変だから、ちょっと我慢してよ』

『むう……』


 どうしてこうなった。私は頭を抱える。

 昨日、ラヴィの力で過去のとあるドラゴンの戦いの記憶を受け継ぎ、低レベルではあるが魔法で身体を強化して汚染シンリンオオカミの群れを退けた。

 そこまでは良かったのだが、なんと精霊のラヴィは契約によって新しい身体に生まれ変わったのだ。

 さらに驚いたことに、彼の新しい身体は水色の鱗の、お腹は私と同じクリーム色、私より一回り小さい可愛げな雄竜ときた。


『契約なんて私知らない……。なんで先に言ってくれなかったの』

『ごめんねルース、力を渡すときに説明するつもりだったんだけど、最初断られちゃったし。それに渡したときはそれどころじゃなかったからね』


 ラヴィは少し申し訳なさそうにしながら、私の右頬から左胸にかけての傷痕を丁寧に確認していく。


『まあ、契約についてはもうしょうがないとして、なんでよりによってドラゴンなのよ』

『精霊が契約した時の新しい身体は、契約者の望むものになるって言われてるからね。僕もどうしようもないんだ。うん、傷は大丈夫だったよ』


 ラヴィは尻尾をぺたりと地面につけたまま困ったように笑って私から離れる。

表情、仕草ひとつとっても、面倒な考え事が私の中に生まれてしまう。あー、もう。蛇の姿のままだったら気にしなくてよかったかもしれないのに!


『その、別に嫌ってわけじゃないけどね! ただ私が他のドラゴンと接したことないし、そもそも群れを作る習性がないからか、変に気になるっていうか』

『そっか! 僕は何ともないけど、ルースもそのうち慣れればいいね』


 思えば、彼も昨日まで精霊だったんだから、私たちのなかでドラゴンらしいドラゴンはいないということになる。

 なんだこのパーティ。ドラゴンっぽいのが二匹、バランスが悪すぎる。


『まあいいか。とりあえず、私は竜気の通り道のヴェインを蘇らせる力があるって話だったけれど、具体的に何をすればいいの?』

『うーん、ヴェインにアクセスする方法はいくつかあるけど、昨日ルースがやったように直接触れるのが一番早いかな』

『やってみる』


 私は小さな円形状に緑が蘇った場所から少し離れて、枯れた木と乾いた土のみが広がる荒れ地で地面に手を着いた。

 しかし、どうやら手を着けただけではダメらしい。薄々そんな気はしていたが。


『昨日は僕がヴェインを可視化させて触れていたから、ルースの中に明確なイメージがあったんだ。今回は閉鎖しているヴェインだから、こう、イメージしないと!』

『説明が雑だなあ。イメージね』


 私は地面に頭を近付けて目を閉じ、昨日見た血管のような脈を想像してみる。

 ヴェイン……どれだろう、何か紐のようなものが揺らめいているイメージが脳裏に薄っすらと浮かんできた。


『おお~!』


 ラヴィの嬉しそうな声に顔を上げてみると、緑の光がヴェインを一瞬浮かび上がらせながら私から波状に広がり、そのエリアでは枯れた大地から次々と小さな新芽が顔を出した。

 その範囲は私の正面に身体二つ、三つ分程度だが、絶対に生命が育まれないと言われた汚染地域(アネクメーネ)に緑が蘇る様子は現実のものとは思えない。


『すごいすごい! ヴェインが流れを取り戻してる!』

『ふう、私にこんな力があったなんてまだ信じられないよ。でも、ちょっと疲れるかも』

『それはそうだよ。ヴェインの再建には相当量のエネルギーが必要になる。……でもね』


 ラヴィはそこで言葉を区切ると、私の一歩前に出て同じように地面に右前足を添えた。

 次の瞬間、彼の左手に小石サイズの青い光球が生成されていく。


『それって、もしかして』

『魔法だよ!』


ラヴィは立ち上がり、遠くの枯れ木に狙いを定めると光球を勢いよく放った。次の瞬間に魔法は木の幹に衝突し、その表面を抉りながら水が爆発四散する。

彼は平気な顔でやってのけたが、このレベルの魔法はそこそこ難度高かったはず。人間と暮らしていく中で魔法は何度も目にする機会があったから分かる。


『僕はヴェインにアクセスして管理していたから、同じくアクセスしてエネルギーを借りて特定の事象を発現させることが出来るわけだ。これが魔法の原理だよ』

『なるほど、私はエネルギーを使ってヴェインを蘇生できるから、つまりアクセスの権限を持ってる、魔法が使えるってことか』

『そういうこと。それに僕よりルースの方が権限レベルが高いから沢山エネルギーを借りられるはずだ』


 魔法が使える生き物はヴェインに干渉できるということか、なんとなく理解したぞ。


『難しい話だけど、ヴェインの管理や蘇生に使う力と借りられる力は実は別物で、例えるならパン二つ分の小麦粉をあげると三つのパンで返してくる、そんなイメージでパワーの総量自体は借りる方が多くなる』

『借りた力でのヴェインの蘇生は出来ないと。だとすると、世界中のヴェインを全部蘇生するなんて、いくら体力と時間があっても無理じゃない?』


 私の問いかけに対してラヴィは大きく頷くと、尻尾を器用に使って地面に五つの円を描く。


『二か月前、主要なヴェイン、つまりセントラルヴェインが原因不明の閉鎖を起こしてから、連鎖するように各地のヴェインも流れが止まった。直接末端から蘇生したっていずれ閉鎖を起こすし、効率が悪すぎて解決する前に世界が滅びちゃう』


 ラヴィは描かれた五つの円どうしを直線で結び、さらにひとつの円を前足で指して話を続ける。


『セントラルヴェインは世界に五つあって、生きているものはここから北東にずっと行ったところのエリアにある風のヴェインのみだ』

『なるほど、逆に残り四つのセントラルヴェインをなんとかすれば、末端のヴェインは自ずと回復してくれるってわけね』

『そういうこと!』


 眩しいくらいに笑うラヴィに、私も少し釣られて頬を緩めながら空へと視線を移す。

 いつの間にか太陽は高くまで登っていて、遠くの空には大きな雨雲が見えた。朝まで快晴だったけど、あれだと今夜には降り出すかもしれないな。


『ラヴィ、そろそろご飯にしようか』

『ん、そうだね! ルース!』


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